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朝の職場
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リリィの職場は、ウォーキンシティの中でも三本の指には入る大きなビルの中にある。
エレベーターに乗り、112階に向かう。
リリィにとって満員のエレベーターが朝の一番のストレスだった。
(高いところに作ればいいってもんでもないわよ。まったく)
112階のフロアに行くには、60階で乗り継ぎをしなければいけないからだ。
(地下鉄でもこんな乗り継ぎないわよ)
ため息をつき、112階のフロアへ。
「朝から、ため息?辛気臭いわね」
リリィは驚いて顔を上げた。
「おはようございます」
すかさず笑顔を作る。
「おはよう」
高いヒールを履き慣らし、コツコツと音をたてて、リリィの横を背の高い女性が通り過ぎた。
彼女が通った後、ほのかに花のような香りがした。
(相変わらず、美人ね。メリッサさんは)
メリッサはリリィの職場の先輩であり、この会社に入社した頃から一番お世話になっている人だった。
美人でもなく、スタイルにも恵まれていないリリィにとってメリッサは仕事だけではなく、女性としても尊敬をしていた。
リリィは席に着くと、横にいたメリッサにつぶやいた。
「あのエレベーターどうにかならないんですかね?」
「あんたここに入社してから、そればっかりね」
「地下鉄よりもひどい混み方してますよ」
「それよりも、コーヒー入れてくれない?」
(軽く流されたわ)
「はい。ミルクはいります?」
「今日はいらないわ。全然寝てなくてブラックが飲みたいの」
(夜遊びかな?美人は忙しいわね)
「了解しました」
リリィは席を立ち、廊下にある給湯室へ向かった。
コーヒーメーカーのスイッチを押し、お湯が沸くのを待った。
「よう。また先輩のパシリか?」
リリィはむっとして廊下を見つめた。
「パシリじゃなくて、これは敬意よ」
「何が敬意だ。じゃあ俺にも敬意を払ってコーヒー入れろ」
彼は、リリィの同期であるライル。
リリィは単なる事務員だが、ライルはバリバリの営業マンだった。
(誰があんたになんか)
リリィはふとライルの手に視線を落とした。薬指にある指輪が光った。
「ねえ」
「なんだ?」
「結婚生活うまくいってるの?」
ライルはにぃっと笑った。
「あー。やっぱり答えなくていいわ。のろけ話聞かされそうだし」
「俺は毎日幸せだぜ?お前と違って孤独じゃないからな」
「誰が孤独よ」
ライルは目を見開いた。
「え、お前彼氏できたのか?」
リリィはコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注いだ。
「独りでも十分ってこと」
「お前、そんなんじゃ死ぬまで独りだぞ」
リリィはきょとんとした顔をライルに向けた。
「私は、構わないわよ?」
ライルは、ため息をついた。
「全く。あ、コーヒーありが」
「はあ?何言ってんのよ。これは、先輩と私の分」
リリィはライルに背を向けて、給湯室を出た。
「お前、そんなんだからモテねえんだぞ」
「余計なお世話よ」
エレベーターに乗り、112階に向かう。
リリィにとって満員のエレベーターが朝の一番のストレスだった。
(高いところに作ればいいってもんでもないわよ。まったく)
112階のフロアに行くには、60階で乗り継ぎをしなければいけないからだ。
(地下鉄でもこんな乗り継ぎないわよ)
ため息をつき、112階のフロアへ。
「朝から、ため息?辛気臭いわね」
リリィは驚いて顔を上げた。
「おはようございます」
すかさず笑顔を作る。
「おはよう」
高いヒールを履き慣らし、コツコツと音をたてて、リリィの横を背の高い女性が通り過ぎた。
彼女が通った後、ほのかに花のような香りがした。
(相変わらず、美人ね。メリッサさんは)
メリッサはリリィの職場の先輩であり、この会社に入社した頃から一番お世話になっている人だった。
美人でもなく、スタイルにも恵まれていないリリィにとってメリッサは仕事だけではなく、女性としても尊敬をしていた。
リリィは席に着くと、横にいたメリッサにつぶやいた。
「あのエレベーターどうにかならないんですかね?」
「あんたここに入社してから、そればっかりね」
「地下鉄よりもひどい混み方してますよ」
「それよりも、コーヒー入れてくれない?」
(軽く流されたわ)
「はい。ミルクはいります?」
「今日はいらないわ。全然寝てなくてブラックが飲みたいの」
(夜遊びかな?美人は忙しいわね)
「了解しました」
リリィは席を立ち、廊下にある給湯室へ向かった。
コーヒーメーカーのスイッチを押し、お湯が沸くのを待った。
「よう。また先輩のパシリか?」
リリィはむっとして廊下を見つめた。
「パシリじゃなくて、これは敬意よ」
「何が敬意だ。じゃあ俺にも敬意を払ってコーヒー入れろ」
彼は、リリィの同期であるライル。
リリィは単なる事務員だが、ライルはバリバリの営業マンだった。
(誰があんたになんか)
リリィはふとライルの手に視線を落とした。薬指にある指輪が光った。
「ねえ」
「なんだ?」
「結婚生活うまくいってるの?」
ライルはにぃっと笑った。
「あー。やっぱり答えなくていいわ。のろけ話聞かされそうだし」
「俺は毎日幸せだぜ?お前と違って孤独じゃないからな」
「誰が孤独よ」
ライルは目を見開いた。
「え、お前彼氏できたのか?」
リリィはコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注いだ。
「独りでも十分ってこと」
「お前、そんなんじゃ死ぬまで独りだぞ」
リリィはきょとんとした顔をライルに向けた。
「私は、構わないわよ?」
ライルは、ため息をついた。
「全く。あ、コーヒーありが」
「はあ?何言ってんのよ。これは、先輩と私の分」
リリィはライルに背を向けて、給湯室を出た。
「お前、そんなんだからモテねえんだぞ」
「余計なお世話よ」
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