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114話 シュンの母親

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「最近、シェイド公と仲が悪いみたいじゃない。どうかしたの?」

 どうもなにも別に最初から仲良くした覚えはない。

「別に。そりが合わないだけで心配されるほどじゃないよ」

 絶望的にそりが合わない、ただそれだけ。
 というか、母親がなぜそんな情報を知っているのだろうか?やはり上流貴族のネットワークはかなり広いのか?

「シュンの言葉も信じてあげたいのだけれど、では本屋の子がどうとか……」

 的確に要点を付いてくるので、じりじりと逃げ場が追いやられている。
 しかも、どうやらかなりの所まで知っているかもしれない。

「僕の恋路まで口出しすることはないだろ!」

「へぇ、恋路かぁ……」

 しまった。
 母親は父親と違い、激しく怒鳴ったり感情的になったりはしない。
 だが、その話し方はまるでこちらの感情を揺さぶり、ミスを引き出すようなものだった。

 作戦なのか生まれつきのものなのかは分からない。
 ただ、この空気にまんまとのまれてしまったことは確かだった。

「邪魔するつもりはないし、シュンにだって好きな人の一人や二人くらいできるわよ。でもね、相手が必ずしもシュンが好きかどうかは分からないのよ」

 ユナを疑ってはいけない。
 なのに、なぜ、こんなにも心が揺れているのだろうか。

「もし、そのが好きだったのがシュンではなくて、シュンの称号じゃないって言いきれるかしら?」

 まさか、僕を上流貴族の地位にとどまらせようとしているのだろうか。
 そのためにユナまで引き合いに出しているようなら、確実に僕の恋路に邪魔をしている。

「そんなことあるはずがない」

 きっと、僕は試されているのだ。
 僕がユナを信用しなければ、ユナから信用してもらえないような気がした。

「でも、そう思うならやっぱり上流貴族を受け継ぐしかないわ」

 もしかしたら、最初からこちらが狙いだったのかもしれない。
 ユナがシェイドに奪われないのはどうしてか。

 それは、奇しくも僕が『上流貴族』だったからである。

 そうでなければ、権力差を前にしてシェイドに立ち向かおうだなんて無理な話だったのだ。

「……最高に皮肉じゃないか」

 ユナを守るためだったらどんなものでも捨てていいと思った。
 でも、実際はユナを守るためには「僕の意思」を捨てなければならなかった。

 自分は、もしかしたら傲慢だったのかもしれない。
 本当は、シェイドや妹を殺したあいつと変わらなかったのかもしれない。

「本当に、何かを捨てるなんておかしい話だよな……」

 今まで、何かを捨てて守れたものがあったのだろうか。
 そんなもの、一つもなかったじゃないか。

「僕は、きっと、分かってたんだ。大切なものは……」

__________自分の手で掴み取らなければならないって。
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