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case13.お一人様様
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「私、このままでいいのかって、やっぱり不安になるんです。職場では馬鹿にされてて辛いですし、結婚もしたいし、子供も欲しいんです。でも私を分かってくれる、というか慰めてくれる人、受け入れてくれる人になかなか巡り合えず…時間だけが経っていって、辛いことばっかりで、もうどうしたらいいか…」
ぐすっ、ぐす
そう言うと涙を流し始めた。
「あぁ、大変ですよねぇ。」
泣かれても困るって。俺は何もしてやれないからさぁ。てかいい大人が人前でめそめそ泣くなよなぁ、みっともない。
堂元茜。
三十七歳女性。横浜の食品会社勤務。マーケティング部。未婚。恋人無し。
悩みは、直近の人生設計。都内の大学を卒業してからは、仕事一筋で頑張ってきたらしい。で、そうしているうちに婚期逃しちゃったと。お悔やみ申す。
「女性の社会進出って結局まだまだなんですよ。部署でも私以外に正社員の女性はいませんし。派遣やアルバイトで三人いるくらいで。だからそのためにも私が頑張っていかないとって思うんです。」
随分勝手に重い物を背負ってるんですねぇ、尊敬しますぅ、とは言えない。
だが人間関係に恵まれず、度々衝突が起こり、そのせいで昇進もなかなかできていないということ。
「そんなにじゃないですけど、どちらかと言えば、結構言いたいことを言っちゃう方で、私。仕事だったらきちんと自分の意見を言った方がいいじゃないですか。その方が話し合いも有意義になりますし。皆んなが黙っている時も積極的に発言して、良くないところとか指摘しているんですけど、なぜか他の人が厄介事みたいに思うみたいで。何なんでしょうね。手間がかかって面倒なのは分かりますけど、でも直すところは直さないと、会社として良い方向に行くないじゃないですか。まぁ嫌われ役といいますか、それになっちゃってるのかもしれません。そのせいか、派遣やアルバイトでもできるような仕事ばっかり押し付けらてるんです。我慢して全部こなしてますが、本来私がやるべきじゃないのに。怠慢ですよ、彼女らの。」
「なるほど、そうなんですねぇ。」
自分で嫌われ役って言う奴なんて大体ロクでもなさそうだわ。
他に人間関係で言えば一昨年、部署に新卒が入ってきて教育係になった。それで一年間ほぼ付きっきりで色々教えてあげたのに、すぐに鬱病になって休職して、休職明けに部署異動していったそう。
「本当によく分かんないんですよ、最近の子って。会社は家でも学校でも無いんだから、気に入らないことなんて沢山あって当然なのに。いつもヘラヘラしてて、話聞いてるかどうか分からない感じでしたし。メモも取ってはいましたけど、ちゃんと書いてたか怪しいです。それで、マニュアルに書いてないことは聞かれたらちゃんと答えてあげましたし、毎月面談なんかもしてあげてたんです。私に出来ることは全部やりました。それで一人で仕事やるようになったんですけど、まぁ上手くいってないって感じで。いつまでも私がお守りするわけにもいきませんから放っておいたんですけど、そしたら鬱病って言って突然来なくなっちゃって。その前に周りに言えばいいのに。引き継いだはずの仕事が戻ってきて、本当迷惑でしたから。無駄に仕事増やされて、こっちが鬱になりましたよ。それで半年間一度も来なくて、やっと来たと思ったら総務に行っちゃって。私の努力は何だったのって、コケにされた気分でしたよ。」
胃がいてぇ~。キリキリするぅ~。俺もそんなんだったからぁ~。周りに仕事どっさり押し付けて休んでましたからぁ~。しかもそのまま辞めたしぃ~。残された側ドンマイですぅ~。
そうして仕事にかかりきりになっているうちにプライベートを犠牲にしてしまい、恋人も作れなかったそう。ちなみに恋人は中学校以来出来てないとのこと。
「マッチングアプリとかは使いたくないんです。あんなのって、若い人達が出会い目的で使うか、パパ活で使うとかばっかりじゃないですか。結婚相談所に登録して、それで毎月色んな人に会ってはいるんですけど、どうもパートナーとしてはイマイチな感じで…こっちも譲歩してるんですけどねぇ。」
知らんなぁ、結婚相談所なんて。マッチングアプリのオフライン版なだけで実質は変わらなさそうだが。
「ちなみに、何歳くらいの方とお会いになるんです?」
気になるので聞いてみた。
「年上でいいんですけど、上過ぎるのも嫌ですから、四十代前半ですね。そこから二十代後半くらいまでの人を紹介してもらうようにしてます。」
二十代入れてるんかい。無理だろ。いや無理とは言えないけど、キッツイだろ。まぁでも一応、検索範囲に入れるだけ入れた方がお得か。俺だったらどうだろう。二十にもならない、高校卒業したてくらいの子と付き合うか…?
ぞぞぞっ
身の毛がよだつ。あり得ない。向こうも絶対嫌だろうし、こちらとしても無い。犯罪臭プンプン、それこそパパ活に見られる。二十代後半でもちょっと気が引けるレベル。二十七、八からかな。そこから三十五、六くらいまでだろうな、うん。気後れしないのはこの辺り。だからあなたはちょっと、ゴメンナサイ。
まぁ前も言った通り、結婚願望なんて毛ほども無いのだが。
そんなこんなで仕事でもプライベートでも煮え切らない毎日に憂鬱になってしまうということで。
「じゃあ、今日も抜いていかれます?」
「はい、お願いします。」
右手を水晶、左手を自由に。
スゥゥゥウウウウウ
誰も言わないのかもしれんけど、やっぱりあんたも悪いところあるよ、何かしら。気が強いのも結構。社会進出も大変結構。だけど話してみた感じ、周りを見れないところがあると思う。仕事だって言わぬが華の時もあるんだわ。優先順位的に気にしなくていいことなんて山程ある。それにいちいちケチつけるなんてなぁ。否定しかしてこなかったんじゃないのか、どうせ。アレは駄目コレは駄目って言うだけ言っておいて、じゃあどう改善したらいいですかって聞いたら、それは私が考えることじゃありませんって言ってるんだろうな。だから厄介にも思われるし、避けられる。周りも大きな仕事も任せる気がしなくなる。それで馬鹿にされてるって被害者意識だけ醸造されていく。自分の意地の悪さからくる悪循環が発生してないか、省みるといい。
とすると男運無いのも自分のせいな気がするな。自分のフィルターを抜けてくれるのを待つだけの感じだ。忘れんな、相手にもフィルターはあるんだぞ。それを理解してやる、そして自分を変える勇気が無いと、フィルター同士が合致するはずもない。ガン待ちができるのはよっぽどの金持ちか美男美女の芸能人だけよ。あんたどれも無いだろうが。他人の温もりが欲しいんなら、まず自分の温かさを取り戻すことからだ。
俺は関係無いがな。
スゥ…
「どうです?楽になりました?」
「えぇ、えぇ、元気が出てきましたよ。どうしようもないですけれど、挫けたりしません。まだまだ頑張っていきますから。」
ここで挫折した方が後が楽そうだけどな。俺がそのタイミング奪っちゃってるのかも。
「はい、頑張ってください。またどうぞ。」
『堂元茜』
『三十代後半女性』
『独り善がりの人生観からくる周囲とのズレ』
「やっぱり一人の方が楽だなぁ。周囲に合わせなくていいし、自分の金は全部自分で使えるし。」
実際、会社員時代とは心の持ちようが大分違う。以前は誰かの何があるから、これはいつまでに終わらせて、こっちはそれまでにやって、それでこっちは…と、自分以外の要素に振り回され続けていた。今は、自分の力一つで十分な金を稼ぎ、調子が悪ければ仕事なんてほっぽって休んで、食事を楽しんだり植物を愛でたりなんかする。どれも会社員時代にはあり得なかったことだ。
「でも、孤独死だけは怖いよなぁ。死んで数か月経って、腐って見つかるのは…嫌だなぁ。そういう独居老人向けのサービス、入ってみようかな?」
ちょっと調べてみたりして。
一人の味わいを噛み締めると共に、逆らうことのできない時の流れに慄く今日という日だった。
ぐすっ、ぐす
そう言うと涙を流し始めた。
「あぁ、大変ですよねぇ。」
泣かれても困るって。俺は何もしてやれないからさぁ。てかいい大人が人前でめそめそ泣くなよなぁ、みっともない。
堂元茜。
三十七歳女性。横浜の食品会社勤務。マーケティング部。未婚。恋人無し。
悩みは、直近の人生設計。都内の大学を卒業してからは、仕事一筋で頑張ってきたらしい。で、そうしているうちに婚期逃しちゃったと。お悔やみ申す。
「女性の社会進出って結局まだまだなんですよ。部署でも私以外に正社員の女性はいませんし。派遣やアルバイトで三人いるくらいで。だからそのためにも私が頑張っていかないとって思うんです。」
随分勝手に重い物を背負ってるんですねぇ、尊敬しますぅ、とは言えない。
だが人間関係に恵まれず、度々衝突が起こり、そのせいで昇進もなかなかできていないということ。
「そんなにじゃないですけど、どちらかと言えば、結構言いたいことを言っちゃう方で、私。仕事だったらきちんと自分の意見を言った方がいいじゃないですか。その方が話し合いも有意義になりますし。皆んなが黙っている時も積極的に発言して、良くないところとか指摘しているんですけど、なぜか他の人が厄介事みたいに思うみたいで。何なんでしょうね。手間がかかって面倒なのは分かりますけど、でも直すところは直さないと、会社として良い方向に行くないじゃないですか。まぁ嫌われ役といいますか、それになっちゃってるのかもしれません。そのせいか、派遣やアルバイトでもできるような仕事ばっかり押し付けらてるんです。我慢して全部こなしてますが、本来私がやるべきじゃないのに。怠慢ですよ、彼女らの。」
「なるほど、そうなんですねぇ。」
自分で嫌われ役って言う奴なんて大体ロクでもなさそうだわ。
他に人間関係で言えば一昨年、部署に新卒が入ってきて教育係になった。それで一年間ほぼ付きっきりで色々教えてあげたのに、すぐに鬱病になって休職して、休職明けに部署異動していったそう。
「本当によく分かんないんですよ、最近の子って。会社は家でも学校でも無いんだから、気に入らないことなんて沢山あって当然なのに。いつもヘラヘラしてて、話聞いてるかどうか分からない感じでしたし。メモも取ってはいましたけど、ちゃんと書いてたか怪しいです。それで、マニュアルに書いてないことは聞かれたらちゃんと答えてあげましたし、毎月面談なんかもしてあげてたんです。私に出来ることは全部やりました。それで一人で仕事やるようになったんですけど、まぁ上手くいってないって感じで。いつまでも私がお守りするわけにもいきませんから放っておいたんですけど、そしたら鬱病って言って突然来なくなっちゃって。その前に周りに言えばいいのに。引き継いだはずの仕事が戻ってきて、本当迷惑でしたから。無駄に仕事増やされて、こっちが鬱になりましたよ。それで半年間一度も来なくて、やっと来たと思ったら総務に行っちゃって。私の努力は何だったのって、コケにされた気分でしたよ。」
胃がいてぇ~。キリキリするぅ~。俺もそんなんだったからぁ~。周りに仕事どっさり押し付けて休んでましたからぁ~。しかもそのまま辞めたしぃ~。残された側ドンマイですぅ~。
そうして仕事にかかりきりになっているうちにプライベートを犠牲にしてしまい、恋人も作れなかったそう。ちなみに恋人は中学校以来出来てないとのこと。
「マッチングアプリとかは使いたくないんです。あんなのって、若い人達が出会い目的で使うか、パパ活で使うとかばっかりじゃないですか。結婚相談所に登録して、それで毎月色んな人に会ってはいるんですけど、どうもパートナーとしてはイマイチな感じで…こっちも譲歩してるんですけどねぇ。」
知らんなぁ、結婚相談所なんて。マッチングアプリのオフライン版なだけで実質は変わらなさそうだが。
「ちなみに、何歳くらいの方とお会いになるんです?」
気になるので聞いてみた。
「年上でいいんですけど、上過ぎるのも嫌ですから、四十代前半ですね。そこから二十代後半くらいまでの人を紹介してもらうようにしてます。」
二十代入れてるんかい。無理だろ。いや無理とは言えないけど、キッツイだろ。まぁでも一応、検索範囲に入れるだけ入れた方がお得か。俺だったらどうだろう。二十にもならない、高校卒業したてくらいの子と付き合うか…?
ぞぞぞっ
身の毛がよだつ。あり得ない。向こうも絶対嫌だろうし、こちらとしても無い。犯罪臭プンプン、それこそパパ活に見られる。二十代後半でもちょっと気が引けるレベル。二十七、八からかな。そこから三十五、六くらいまでだろうな、うん。気後れしないのはこの辺り。だからあなたはちょっと、ゴメンナサイ。
まぁ前も言った通り、結婚願望なんて毛ほども無いのだが。
そんなこんなで仕事でもプライベートでも煮え切らない毎日に憂鬱になってしまうということで。
「じゃあ、今日も抜いていかれます?」
「はい、お願いします。」
右手を水晶、左手を自由に。
スゥゥゥウウウウウ
誰も言わないのかもしれんけど、やっぱりあんたも悪いところあるよ、何かしら。気が強いのも結構。社会進出も大変結構。だけど話してみた感じ、周りを見れないところがあると思う。仕事だって言わぬが華の時もあるんだわ。優先順位的に気にしなくていいことなんて山程ある。それにいちいちケチつけるなんてなぁ。否定しかしてこなかったんじゃないのか、どうせ。アレは駄目コレは駄目って言うだけ言っておいて、じゃあどう改善したらいいですかって聞いたら、それは私が考えることじゃありませんって言ってるんだろうな。だから厄介にも思われるし、避けられる。周りも大きな仕事も任せる気がしなくなる。それで馬鹿にされてるって被害者意識だけ醸造されていく。自分の意地の悪さからくる悪循環が発生してないか、省みるといい。
とすると男運無いのも自分のせいな気がするな。自分のフィルターを抜けてくれるのを待つだけの感じだ。忘れんな、相手にもフィルターはあるんだぞ。それを理解してやる、そして自分を変える勇気が無いと、フィルター同士が合致するはずもない。ガン待ちができるのはよっぽどの金持ちか美男美女の芸能人だけよ。あんたどれも無いだろうが。他人の温もりが欲しいんなら、まず自分の温かさを取り戻すことからだ。
俺は関係無いがな。
スゥ…
「どうです?楽になりました?」
「えぇ、えぇ、元気が出てきましたよ。どうしようもないですけれど、挫けたりしません。まだまだ頑張っていきますから。」
ここで挫折した方が後が楽そうだけどな。俺がそのタイミング奪っちゃってるのかも。
「はい、頑張ってください。またどうぞ。」
『堂元茜』
『三十代後半女性』
『独り善がりの人生観からくる周囲とのズレ』
「やっぱり一人の方が楽だなぁ。周囲に合わせなくていいし、自分の金は全部自分で使えるし。」
実際、会社員時代とは心の持ちようが大分違う。以前は誰かの何があるから、これはいつまでに終わらせて、こっちはそれまでにやって、それでこっちは…と、自分以外の要素に振り回され続けていた。今は、自分の力一つで十分な金を稼ぎ、調子が悪ければ仕事なんてほっぽって休んで、食事を楽しんだり植物を愛でたりなんかする。どれも会社員時代にはあり得なかったことだ。
「でも、孤独死だけは怖いよなぁ。死んで数か月経って、腐って見つかるのは…嫌だなぁ。そういう独居老人向けのサービス、入ってみようかな?」
ちょっと調べてみたりして。
一人の味わいを噛み締めると共に、逆らうことのできない時の流れに慄く今日という日だった。
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