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case3.大学生特有の
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「あのぉ、すいませぇん。ここってぇ、鬱を吸い取って?くれる?って、マジですかぁ?」
「マジなわけないだろ(笑)」
「怒られんぞこれ(笑)」
「分かってるって(笑)一応だよ一応。聞いてみるだけだって。で、どうなんすかぁ?」
「はぁ。」
馬鹿餓鬼が三匹釣れた。見た目には十代後半から二十代前半、恐らく大学生か専門学校生。
稀にここの噂話を聞きつけて、頭の悪そうな奴らが冷やかしに来る。冷やかしだけならまだいいが、動画を撮ったりSNSに上げようとする糞野郎も中にはいる。なんとか法律を盾にして止めさせている。
まぁ結局は吸い出してやってカモにするのだが。
「本当なんすかぁ?教えてくださいよぉ。」
しつこいが、否定するのも面倒くさい。本当ではあるしな。
「まぁ、本当ですが。」
ブフッ
三人ともに失笑された。
「え?マジって言っちゃってるよ、この人(笑)」
「目がマジだわ、やべぇ、やべぇとこに来ちゃったかも(笑)」
「あーおもろい、録音しとけば良かったわ(笑)」
「確かに(笑)」
イライラ
「当院内での写真撮影やSNSへの投稿はお控えください。肖像権の侵害や事実無根の投稿により名誉が棄損されたと判断される場合には、然るべき法的措置を取らせていただきます。」
「ホーテキソチだって、初めて言われた(笑)」
「こっち客なのになぁ(笑)評価する権利くらいあるだろ。」
「まぁまぁ、やばそうだし、怒らせんとこ(笑)」
イライライラ
何がこんなに苛つくかって、ヒソヒソ声で話してやがること。俺に面と向かって言ってくるんじゃなく、形だけ俺に聞こえないように、でも聞こえても構わない感じで話し合ってるのが、実に小賢しい。
「それで?憂鬱気分の吸い出しは、最低三十分のカウンセリングとセットですから、安くても八千円かかりますが?どうするんです?」
不機嫌さを隠さずに伝える。
「は?八千円?ぼったくりだろ、インチキのくせに。 」
「おかしいよな、何でそんな金払わなきゃいけねぇんだよ。」
「でもオモロそうだから、良いよ?ジャン負け一人で。」
「えぇ?マジ?」
「マジマジ大マジ。」
「俺は別に良いけどさぁ。」
「よっしゃ、じゃあ行くぞ、ジャァーン、ケェーン、ポン。」
「あいこでしょ。」
「しょ。しょ。」
さっさとしろ。
「あぁー!くそっ、俺かよぉ!」
一番嫌がってた奴が負けたようだ。
「っしゃあ!あっぶねー。ほらほら、行って行って(笑)」
「あぁー、本気で嫌だわー。八千円、マジドブに捨ててるし。パチンコで溶かした方が百倍マシ。」
「さっさとしろよ(笑)バレんように動画撮ってきてな(笑)」
撮らせるわけねぇだろボケ。
「では、こちらにどうぞー。」
青志田季人。
二十歳男性。大学生二年生。聞いたことのない大学で、偏差値はまぁ低そう。文系か理系かの区別も無く、必修の単位だけは落とさないようにしているが、その他講義には何のやる気も見せない。進学もギリギリ、教授に泣きついて滑り込み。週三のバイトで稼いだあぶく銭はパチンコと飲み、服とアクセサリーのショッピングで消えていく。
悩みは、特に無し。
「あの、鬱か何か抜いてくれるみたいですけど、どうやるんですか?痛かったりします?」
「いえ、痛くはないです。」
「本当ですか?いや、どうなんだろうなぁ。」
一対一だと急にしおらしくなった。
弱いんだな、何もかも。
「じゃあ抜きますね。準備しますから。」
「え、もうですか?何するんですか?あ、その水晶何ですか?やっぱりスピリチュアルな感じ?」
無視。
「じゃあ目を閉じてください。」
「いやでも、」
「目を閉じて。」
青志田は不服そうに目を閉じる。
「自分が今何に悩んでるかを考えてください。ぼんやりとで構いません。何となく不安に思うこと、心配になることを、ぽつ、ぽつと頭に思い浮かべてください。」
「…」
スッ
スウウウウウ
お?
スウウウウウウウウウウ
そこそこの靄が出てくる。
何だ、悩みが無いと口では言っておきながら、一丁前にあるんじゃないか。
自覚のできない悩み。若い。可愛いもんだ。
大学生活、何かが身についている実感も無しに怠惰に過ぎていく。まだ若いから。時間があるから。やりたいことが見つかってないから。若者特権の言い訳を掲げて、目の前の快楽だけを貪る。将来どうするかという必然の命題はずっと他人事。いつかの自分がきっと未来を切り拓くと想いを託して。
結局全部自分なのにな。
五分後。
それなりの大きさにまとまった靄は、もう出なくなった。
「はい、もういいですよ。目を開けて。」
「あれ?何だ、これ?何か頭が変な感じ、スースーする…んん?その机の上の、きったないボール、何ですか?」
「気にしないでください。それより、気分はどうですか?変わりました?」
「…言われてみれば、こう、頭と胸に突っかかった何か、何かは分かんないですけど、それが、取れたような感じが、しなくも、ない?それに、視界がはっきりしてる、ような?」
「そうですか、それは良かったです。また何かありましたらどうぞ。」
会計八千円。
「おい、どうなんだよ。鬱とかどうとか、何だったんだよ。んで、何されたんだよ。」
「よく分かんね…目を閉じてたら、何か、気分がスッキリしたって感じ。」
「何だよそれ?八千円払ったんだろ?んで、ただのインチキだったんだろ?なぁ?」
「うーん、うん?インチキ、なのか?うん…まぁ、もういいだろ、行こうぜ。」
「あっおい、待てよ。」
「いいよもう、つまんねー」
『青志田季人』
『二十代前半』
『大学生特有の現状・将来への不安』
時間というのは全く有限で公平らしい。
一生懸命勉強しても、バイトに勤しんでも、一日中家から出ずスマホを弄っていても、時間の流れ方は皆同じ。限られたリソースの中でいかに自分を成長させるか、可能性を伸ばすか。
「ちゃんと考えねぇと、こんなになっちゃうぞー。」
もう見えない三つの背に向かって呟く。
高遠カウンセリングは今日も営業中。
「マジなわけないだろ(笑)」
「怒られんぞこれ(笑)」
「分かってるって(笑)一応だよ一応。聞いてみるだけだって。で、どうなんすかぁ?」
「はぁ。」
馬鹿餓鬼が三匹釣れた。見た目には十代後半から二十代前半、恐らく大学生か専門学校生。
稀にここの噂話を聞きつけて、頭の悪そうな奴らが冷やかしに来る。冷やかしだけならまだいいが、動画を撮ったりSNSに上げようとする糞野郎も中にはいる。なんとか法律を盾にして止めさせている。
まぁ結局は吸い出してやってカモにするのだが。
「本当なんすかぁ?教えてくださいよぉ。」
しつこいが、否定するのも面倒くさい。本当ではあるしな。
「まぁ、本当ですが。」
ブフッ
三人ともに失笑された。
「え?マジって言っちゃってるよ、この人(笑)」
「目がマジだわ、やべぇ、やべぇとこに来ちゃったかも(笑)」
「あーおもろい、録音しとけば良かったわ(笑)」
「確かに(笑)」
イライラ
「当院内での写真撮影やSNSへの投稿はお控えください。肖像権の侵害や事実無根の投稿により名誉が棄損されたと判断される場合には、然るべき法的措置を取らせていただきます。」
「ホーテキソチだって、初めて言われた(笑)」
「こっち客なのになぁ(笑)評価する権利くらいあるだろ。」
「まぁまぁ、やばそうだし、怒らせんとこ(笑)」
イライライラ
何がこんなに苛つくかって、ヒソヒソ声で話してやがること。俺に面と向かって言ってくるんじゃなく、形だけ俺に聞こえないように、でも聞こえても構わない感じで話し合ってるのが、実に小賢しい。
「それで?憂鬱気分の吸い出しは、最低三十分のカウンセリングとセットですから、安くても八千円かかりますが?どうするんです?」
不機嫌さを隠さずに伝える。
「は?八千円?ぼったくりだろ、インチキのくせに。 」
「おかしいよな、何でそんな金払わなきゃいけねぇんだよ。」
「でもオモロそうだから、良いよ?ジャン負け一人で。」
「えぇ?マジ?」
「マジマジ大マジ。」
「俺は別に良いけどさぁ。」
「よっしゃ、じゃあ行くぞ、ジャァーン、ケェーン、ポン。」
「あいこでしょ。」
「しょ。しょ。」
さっさとしろ。
「あぁー!くそっ、俺かよぉ!」
一番嫌がってた奴が負けたようだ。
「っしゃあ!あっぶねー。ほらほら、行って行って(笑)」
「あぁー、本気で嫌だわー。八千円、マジドブに捨ててるし。パチンコで溶かした方が百倍マシ。」
「さっさとしろよ(笑)バレんように動画撮ってきてな(笑)」
撮らせるわけねぇだろボケ。
「では、こちらにどうぞー。」
青志田季人。
二十歳男性。大学生二年生。聞いたことのない大学で、偏差値はまぁ低そう。文系か理系かの区別も無く、必修の単位だけは落とさないようにしているが、その他講義には何のやる気も見せない。進学もギリギリ、教授に泣きついて滑り込み。週三のバイトで稼いだあぶく銭はパチンコと飲み、服とアクセサリーのショッピングで消えていく。
悩みは、特に無し。
「あの、鬱か何か抜いてくれるみたいですけど、どうやるんですか?痛かったりします?」
「いえ、痛くはないです。」
「本当ですか?いや、どうなんだろうなぁ。」
一対一だと急にしおらしくなった。
弱いんだな、何もかも。
「じゃあ抜きますね。準備しますから。」
「え、もうですか?何するんですか?あ、その水晶何ですか?やっぱりスピリチュアルな感じ?」
無視。
「じゃあ目を閉じてください。」
「いやでも、」
「目を閉じて。」
青志田は不服そうに目を閉じる。
「自分が今何に悩んでるかを考えてください。ぼんやりとで構いません。何となく不安に思うこと、心配になることを、ぽつ、ぽつと頭に思い浮かべてください。」
「…」
スッ
スウウウウウ
お?
スウウウウウウウウウウ
そこそこの靄が出てくる。
何だ、悩みが無いと口では言っておきながら、一丁前にあるんじゃないか。
自覚のできない悩み。若い。可愛いもんだ。
大学生活、何かが身についている実感も無しに怠惰に過ぎていく。まだ若いから。時間があるから。やりたいことが見つかってないから。若者特権の言い訳を掲げて、目の前の快楽だけを貪る。将来どうするかという必然の命題はずっと他人事。いつかの自分がきっと未来を切り拓くと想いを託して。
結局全部自分なのにな。
五分後。
それなりの大きさにまとまった靄は、もう出なくなった。
「はい、もういいですよ。目を開けて。」
「あれ?何だ、これ?何か頭が変な感じ、スースーする…んん?その机の上の、きったないボール、何ですか?」
「気にしないでください。それより、気分はどうですか?変わりました?」
「…言われてみれば、こう、頭と胸に突っかかった何か、何かは分かんないですけど、それが、取れたような感じが、しなくも、ない?それに、視界がはっきりしてる、ような?」
「そうですか、それは良かったです。また何かありましたらどうぞ。」
会計八千円。
「おい、どうなんだよ。鬱とかどうとか、何だったんだよ。んで、何されたんだよ。」
「よく分かんね…目を閉じてたら、何か、気分がスッキリしたって感じ。」
「何だよそれ?八千円払ったんだろ?んで、ただのインチキだったんだろ?なぁ?」
「うーん、うん?インチキ、なのか?うん…まぁ、もういいだろ、行こうぜ。」
「あっおい、待てよ。」
「いいよもう、つまんねー」
『青志田季人』
『二十代前半』
『大学生特有の現状・将来への不安』
時間というのは全く有限で公平らしい。
一生懸命勉強しても、バイトに勤しんでも、一日中家から出ずスマホを弄っていても、時間の流れ方は皆同じ。限られたリソースの中でいかに自分を成長させるか、可能性を伸ばすか。
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