ロイヤルブラッド

フジーニー

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第二章

第35話 奇行種

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    一方アグネロとヒマレは、王宮の外へと飛び出していた。


    「ねぇ、アグネロ!本当にこれで良いの!?ねぇってば!」


    早歩きで進むアグネロに、必死に話しかけるヒマレだった。


    「おう、もう後戻りは出来ねえ」


    「まだ、間に合うよ。謝りに行こうよ!」


    ヒマレがそう言うと、アグネロは立ち止まり、ヒマレの両肩をガッシリ掴んで口を開いた。


     「謝って許してもらえたって、キリナの気持ちはスッキリしねーだろ!あいつまだ16なのに、親に決められた奴と結婚させられそうになってんだぞ!もう5年も、この街から出させても貰えなくて、あいつに自由なんてねぇんだ!自由が無い奴の気持ち、ヒマレなら痛い程分かんだろ!!」



    鬼の形相で訴えるアグネロの言葉に、ヒマレは胸を打たれた。


   「そんな事があったのね……でも、なんか理由がある感じだった……。キリナちゃんの為だって言ってたし。とりあえず、あんたは落ち着きなさい。冷静にならないと何も良い方向へは進まないわ」


    「そうだな、悪ぃ言い過ぎた。でも理由があるったって、そんなこたぁ、キリナには関係ねーだろ。全部あの親父が勝手にやったことだ」


    少し冷静さを取り戻したアグネロは、落ち着いて話し出した。


    「それであんた、キリナちゃんに会ったって言ってたけど、キリナちゃんは今どこにいるのよ」


    「あっ、そうだ。銀行で会ってから、オアシスでチサキと会うって言ってたけど、一緒じゃないってことはまだオアシスに居るかもな!」


    「そうだったの? 私達もオアシスに居たけど会わなかったわね。すれ違ったら、イバラが気付くと思うし、私達が出た後に来たのかもね。とりあえずオアシスに向かいましょ、私も話聞きたいしさ」


    「おう、そうだな。オアシスへ向かおう」


    そうして2人は、オアシスへと歩みを進めた。


    「ねぇ、アグネロ。ところであんた勝算はあるの?イバラは水の血法を使うのよね、普通に戦って勝ち目はないと思うのだけど」


    アグネロの後ろを歩くヒマレは、そう問いかけた。


    「やってみねーと、分かんねぇよ。でも、必ずしも炎が水より弱いと俺は思ってねぇ、策は考えてある」


    「そうなのね。万が一負けたら、私も路頭に迷うことになるし、勝ってはほしいけど、どっちが傷付くのも辛いなぁ」


    ヒマレがそう言うと、アグネロはクルッと振り返って、両手を頭の後ろに組んだ。


    「心配すんなって、どっちかが死ぬ訳じゃねんだし、俺は負けねーから」


    先程の鬼の形相とは違い、にんまりと笑顔を見せたアグネロだった。


    すると、遠くの方からそれはそれは大きなボリュームで誰かを呼ぶ声が聞こえた。


    「ネロちゃーーん!」


    キリナだ。キリナが、アグネロを呼んでいた。距離にして50m程先だ。


    それまで、ヒマレの方を向いてたアグネロは、また前を向いてキリナを見つけると、つられて叫んだ。


    「おーい! キリナー!」


    アグネロは大きく両腕を振った。すると、キリナが全速力で向かってくるではないか。あっという間に距離を詰めたキリナは右腕を真横に挙げ、振りかぶった。


    「こんにゃろー!」


    「がふぁっ」


    アグネロに、思いっきりのラリアットをかまし、アグネロは地面へひれ伏せた。


    「よーし、いっちょ上がりー」


    目の前の光景を見たヒマレは目が点になっていた。


    「なにすんだー!キリナー!」


   アグネロは、ひょこっと立ち上がり、キリナに文句を垂れた。その頭には大きなタンコブが出来ていた。


    「オアシスに行ったけど、誰も居なくてつまんなかったから憂さ晴らしなのだ!」


     「あのー、キリナちゃん?」


    アグネロをポコポコ殴るキリナに、苦笑いのヒマレが話しかけた。すると、殴る手を止め、ヒマレの顔を見つめた。


    「き、綺麗な人……。私はキリナです、よろしくお願いします」


    ヒマレの美貌に目がハートになったキリナは、ヨダレを垂らしながら挨拶をした。


   「あ、ありがとう。私はヒマレよ。アグネロから少し話聞かせてもらいました、勝手にごめんね。何か出来ることがあれば、力になりたいなぁなんて思うんだけど、もっと詳しく聞かせてもらえたりするかな?」


    「はい、もちろんです!あそこのレストランに入りましょう!」


    「そ、そうね」


    キリナの奇行により、若干苦笑いのヒマレと何故かラリアットを食らったアグネロと奇行種の3人は近くのレストランへと入っていった。
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