ロイヤルブラッド

フジーニー

文字の大きさ
上 下
28 / 51
第二章

第27話 アクアドーム

しおりを挟む
___話は10年後に戻り、車内。イバラはヒマレに10年前の出来事を一通り説明していた。


    「そして、事故起こして眠った後、起きたら家のベッドにいたんだ。僕もアグも、うちの王宮の医務室のベッドにね」


    「ってことは、お父さん達、助けに来てくれたのね」


    ヒマレは、ハッピーエンドの映画の結末を聞くかのような表情をしている。


    「うん。 でもね、後日こっぴどく叱られたよ。僕もアグも、それぞれの父親にね。それから、車のタイヤを今みたいな水タイヤに変えられて、子どもの血法能力と運転技術じゃ乗れないようにされたのさ」


    「そりゃそうよね、親は心配だもの。えってか、水タイヤって何。気になりすぎる」


    「あぁそっか、タイヤはまだ見てなかったね。降りた時に見てみてね。それでね、その時僕は父さんにこう言われたんだ……。情けない、年上なのに助けられて。お前が弱いからだ。もっと強くなって、今度はお前がアグネロを守ってやれ。ってね」


    「へぇー、なるほど」


    イバラとヒマレが話し始めて30分、アグネロは全く起きない。


   「それでとりあえず、いつかまたあの花火が見えたらすぐに助けに行ってやる!って思ったんだよ。それから、10年……やっと借りが返せたかな」


   「まあよくもそんな、いつ起こるか分からない事に、10年も神経尖らせていられたわね。凄いと思う」


   ヒマレは、イバラはやっぱり、しっかり者で決して癖のある変な奴ではなかったと感じ、疑ってしまった事を後悔した。


    「まあ神経尖らせすぎてただの花火大会に何度も行ったけどね。てかえっ!僕って凄い?その言葉、愛だよね?」


    「ちゃうわい!」


   ヒマレは後悔した事を後悔した。


    「ヒマレちゃん、質問いいかい」


    「なに?」


    「ヒマレちゃんは、ロイヤルブラッドって言ってたけど、何の属性?」


    イバラは、一番気になっていた事をヒマレに尋ねた。


    「んー、私もアグネロに会うまでは自分がロイヤルだなんて知らなかった。私の属性?能力?治癒みたいだよ」


    「治癒!?それは驚いた。治癒は魔法で練れないことも無いけど、治癒魔法を使うとその術者は命を削るらしいんだ、だから治癒魔法使いは他の魔法使いに比べてかなり少ないと言われているのさ」


    予想外な答えに、イバラは心底驚いた。


    「でも、どうしてこの力が血法だとアグネロは分かったんだろ。アグネロの怪我に触れた時に、初めて治癒の力が作動したの」


    「まあ単純に考えて、そんな特別な力は魔法か血法しかないし、治癒は魔法ではほぼ有り得ないから血法だということでしょう。特に、自分の力に気付けなかったのなら、沢山努力して身につける魔法ではなく、潜在的な血法だと結びつけたんだね」


    「なるほどー」


    ヒマレは胸のどこかに引っかがっていた、アグネロが何故自分の力をロイヤルと断定させたのかという疑問が、ハラリと消え去りスッキリした。



    「この車に乗っているのが、3人ともロイヤルだなんて、なんだか変な感じだね。僕らも見た目は普通の若者なのにね」


   「そうね、まぁまだ私は自分の力をコントロールできないけどね」


    そう言って、ヒマレは舌をペロっとだした。可愛い。


    「よーし、そろそろだよ。今日は夜だから暗くてあまり分からないけどね」


    「え、どれどれ!」


   10年前の話に出てきた、アクアドームを見たくて仕方ないヒマレは身を乗り出し、前方を眺めた。そして遠くの方に見つけたそれは、とてつもないインパクトであった。まるでおもちゃのアクアドームをそのまま大きくしたような見た目で、海の中に煌めく街があるようで、車はどんどん水の壁へと近づいて行く。


    「わー、とても綺麗ね。幻想的ー!」


    キラキラに煌めく水郷街を見て、ヒマレの瞳もキラキラに光輝いていた。


    「さて、今からスピード出すから、しっかり掴まっててね」


    「え…スピード?トンネルが見当たらないけど、トンネルって確か1つしかなかったわよね?」


    「トンネル?それなら、この反対側だよ?それじゃ、いくよ」


    「まさか」


    「そう!  その、ま・さ・か」


    イバラはアクセルペダルをベタ踏みし、車はスピード全開で走り出す。そして、水の壁へと迷うことなく一直線。


    「うぎゃー!   ぶつかるー!   死ぬー!」


    泣き叫ぶヒマレの横では、スヤスヤとお眠りするアグネロ。彼に耳は無いのか。


   ヒマレの叫びなんてお構いなく、車は壁へと猛スピードのまま突っ込んでいき、ゴボゴボゴボ……とうねりを鳴らしながら、水の壁の中へと侵入した。そして、車は通常の速度に戻り、水の壁の中を平然と走っていた。


    「あれ、生きてる……なに、どーゆーことよ」


    一瞬だけ死を覚悟したヒマレは、水中で車が普通に走行している現実が受け入れられないでいた。


     「あっはっはっは!   ヒマレちゃん叫びすぎ」


     イバラは、ヒマレの必死の形相が可笑しくてたまらなかった。


     「どうなってるのこれ!  流されるか潰れるかするかと思ったわよ!」


    ヒマレは怒っている。そう、とても怒っている。


    「ごめんごめん。これは僕の力だよ。車の表面に、微量の水をコーティングしてあるんだ。だから周りから、どんな水圧で押されようが、水流が来ようが、全て跳ね返して無効化したのさ」


    「次元が違うわね、ロイヤルブラッドってのは」


    「ヒマレちゃんもでしょ」


    瞳孔が開きっぱなしで話すヒマレに対して、爽やかに微笑むイバラであった。それでも、アグネロは起きない。


    そして、更に数秒走ったところで壁を抜け、水郷街の中へと出てきたのであった。ヒマレの目線の先には、とても綺麗な世界が広がっていた。まず、目に飛び込んで来たのは、やはり王宮。街の真ん中にそびえ立ち、今走っているところは砂浜のようである。


    「とても、綺麗な街ね」


    「そうかい?ありがとう。そんなに褒めてくれるなんて、やっぱり」


    「愛じゃないし、そのくだり飽きた」


    ヒマレの一言が、イバラの胸にグサリと突き刺さった。そして、車は砂浜を抜けるとお洒落な住宅街へと入っていった。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

転生獣医師、テイマースキルが覚醒したので戦わずしてモンスターを仲間にして世界平和を目指します

burazu
ファンタジー
子供の頃より動物が好きで動物に好かれる性質を持つ獣医師西田浩司は過労がたたり命を落とし異世界で新たにボールト王国クッキ領主の嫡男ニック・テリナンとして性を受ける。 ボールト王国は近隣諸国との緊張状態、そしてモンスターの脅威にさらされるがニックはテイマースキルが覚醒しモンスターの凶暴性を打ち消し難を逃れる。 モンスターの凶暴性を打ち消せるスキルを活かしつつ近隣諸国との緊張を緩和する為にニックはモンスターと人間両方の仲間と共に奮闘する。 この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも連載しています。

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

処理中です...