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第一章
第9話 ごめんより、ありがとう
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___話は戻って、タクシー車内。ヒマレの話を真剣に聞くアグネロは、心を打たれた表情をしている。事情を知り、自分の愚かさを深く反省している様子だ。
「辛いな、大変な想いしてんだな。そりゃ一滴も上げられないよ。何も知らないのに、図々しくごめん」
「いやっ、私の方こそタクシーまで乗せてもらって、せっかく買ってくれたご飯まで無駄にして、本当に最低よ。ごめんなさい」
2人とも、互いの気持ちを汲み取り、心からの謝罪を口にした。床に散らかったケチャカツ丼は、ヒマレが拾って、器に戻した。
「じゃあ、お互い様ってことで謝るの終わりにしよう。俺はごめんより、ありがとうが好きだ。ヒマレ、ブドウありがとう!んで、初めて会った俺に、過去のこととか話してくれてありがとう!」
「そんな、私の方こそありがとうだよ。聞いてくれて、少し軽くなったし、また色々と頑張るね」
お互いに、にんまりと笑った。
「俺はさ、ワインの造り方は分からないから、手伝えないけど、事情はよく分かった。命の恩人だし、これも何かの縁だから、俺が楽にしてやるぜ」
アグネロは笑顔で親指を突き立て、ヒマレにグーサインを出した。
「本当にありがとう。でも、ワインさえ造っていれば、危害を加えてくる事も無いし、そんなに気にしないで」
ヒマレも笑顔で返した。しかしアグネロはその笑顔が無理につくられているものだと、すぐに感じ取った。
イルミと創政慈員の消息や、ファイ・バロンドームについて、もっと知りたい気持ちがあったが、ヒマレが辛い過去を思い出さないようにと、アグネロはそれ以上は聞かなかった。
そして、そうしている内にタクシーは美里町へと到着した。
「到着だよー、代金は2500ベルだよ」
「2500ベルね、レッドカードで一括決済で」
アグネロはそう言うと、ポケットから赤いカードを出して、運転手に渡した。
「おっ、凄いな坊主! レッドカードなんて持ってんのか、おらぁ初めて生で見たわ」
運転手はカードを機械に通し決済を済ませた。機械からレシートが発行され、カードとレシートをアグネロに返した。
レッドカードとは、クレジットカードのようなもので、限度額によって、色分けされている。運転手の様子から、レッドが1番最高限度であることが察せるだろう。
「じゃありがとうな、運転手さん」
そうして、出会って喧嘩して仲直りした2人はタクシーから降りて、美里町の土を踏んだ。
___美里町。
そこには、生気の感じられない雰囲気、寂れた空気、淀んだ世界が広がっていた。2年前の活気があった頃とは、別の町のように感じる。その中でワインを作ってるであろう工場の音だけが微かに響いていた。
「なんか暗いな、ここには人の元気が感じられない。ヒマレの故郷だから悪く言いたくないけど、ここには住みたくないなぁ」
「そうね、みんな毎日生きるのに必死なのよ。私はここに住んでるけど、故郷ではないんだ。ここの人達は本当に温かくて、それに惹かれて数年前からここに住んでるの。私は今から工場に向かうけど、アグネロはそこの宿にでも泊まって」
ヒマレは50m程先にある小さな宿を指さしてそう言った。
「え、今からまだワイン造らなきゃなのか!?」
「そうよ、明日が上納日だから、今夜は大詰めなの」
「そっか、大変だな。何も力になれなくてごめん」
「あー、謝ったー!ごめんよりありがとうが好きなんでしょ?そんなに謝らなくて良いから、道端に倒れてた誰かさんはゆっくり休んでくださいね」
ヒマレは、天使のような笑顔でアグネロをおちょくった。
本当に天使、マジ天使。
「そうだな、ありがとうだ。それじゃ、無理せず頑張ってな」
「うん、ありがとう。ばいばい」
働かなければ、殺されてしまう者。道で死にかけていた者。偶然出会った2人は、互いに背を向け、それぞれの行き先へと歩いて行った。
「辛いな、大変な想いしてんだな。そりゃ一滴も上げられないよ。何も知らないのに、図々しくごめん」
「いやっ、私の方こそタクシーまで乗せてもらって、せっかく買ってくれたご飯まで無駄にして、本当に最低よ。ごめんなさい」
2人とも、互いの気持ちを汲み取り、心からの謝罪を口にした。床に散らかったケチャカツ丼は、ヒマレが拾って、器に戻した。
「じゃあ、お互い様ってことで謝るの終わりにしよう。俺はごめんより、ありがとうが好きだ。ヒマレ、ブドウありがとう!んで、初めて会った俺に、過去のこととか話してくれてありがとう!」
「そんな、私の方こそありがとうだよ。聞いてくれて、少し軽くなったし、また色々と頑張るね」
お互いに、にんまりと笑った。
「俺はさ、ワインの造り方は分からないから、手伝えないけど、事情はよく分かった。命の恩人だし、これも何かの縁だから、俺が楽にしてやるぜ」
アグネロは笑顔で親指を突き立て、ヒマレにグーサインを出した。
「本当にありがとう。でも、ワインさえ造っていれば、危害を加えてくる事も無いし、そんなに気にしないで」
ヒマレも笑顔で返した。しかしアグネロはその笑顔が無理につくられているものだと、すぐに感じ取った。
イルミと創政慈員の消息や、ファイ・バロンドームについて、もっと知りたい気持ちがあったが、ヒマレが辛い過去を思い出さないようにと、アグネロはそれ以上は聞かなかった。
そして、そうしている内にタクシーは美里町へと到着した。
「到着だよー、代金は2500ベルだよ」
「2500ベルね、レッドカードで一括決済で」
アグネロはそう言うと、ポケットから赤いカードを出して、運転手に渡した。
「おっ、凄いな坊主! レッドカードなんて持ってんのか、おらぁ初めて生で見たわ」
運転手はカードを機械に通し決済を済ませた。機械からレシートが発行され、カードとレシートをアグネロに返した。
レッドカードとは、クレジットカードのようなもので、限度額によって、色分けされている。運転手の様子から、レッドが1番最高限度であることが察せるだろう。
「じゃありがとうな、運転手さん」
そうして、出会って喧嘩して仲直りした2人はタクシーから降りて、美里町の土を踏んだ。
___美里町。
そこには、生気の感じられない雰囲気、寂れた空気、淀んだ世界が広がっていた。2年前の活気があった頃とは、別の町のように感じる。その中でワインを作ってるであろう工場の音だけが微かに響いていた。
「なんか暗いな、ここには人の元気が感じられない。ヒマレの故郷だから悪く言いたくないけど、ここには住みたくないなぁ」
「そうね、みんな毎日生きるのに必死なのよ。私はここに住んでるけど、故郷ではないんだ。ここの人達は本当に温かくて、それに惹かれて数年前からここに住んでるの。私は今から工場に向かうけど、アグネロはそこの宿にでも泊まって」
ヒマレは50m程先にある小さな宿を指さしてそう言った。
「え、今からまだワイン造らなきゃなのか!?」
「そうよ、明日が上納日だから、今夜は大詰めなの」
「そっか、大変だな。何も力になれなくてごめん」
「あー、謝ったー!ごめんよりありがとうが好きなんでしょ?そんなに謝らなくて良いから、道端に倒れてた誰かさんはゆっくり休んでくださいね」
ヒマレは、天使のような笑顔でアグネロをおちょくった。
本当に天使、マジ天使。
「そうだな、ありがとうだ。それじゃ、無理せず頑張ってな」
「うん、ありがとう。ばいばい」
働かなければ、殺されてしまう者。道で死にかけていた者。偶然出会った2人は、互いに背を向け、それぞれの行き先へと歩いて行った。
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