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17日目⑥
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デリックの発言は色んな意味で口にしてはいけないことだった。未だに駆け落ちを実行に移せないレオナードに対しても、婚約者の前で過去の恋慕を匂わすような発言をすることも。
まぁ、雇われ婚約者である私の立場としたら、関係ないことだけれど。でも、やっぱり何だかんだと一緒に過ごしてきた彼に対してそんなことを言うデリックに対して腹が立つ。
ここは軽く小突いて頭を冷まさせようと決心し、絡ませているレオナードの腕をそっと解こうとした。けれど、今回もレオナードの方が一歩早く怒りを前面に出してしまった。
「いい加減にしろっ」
瞬間、そこら辺にいた鳥が一斉に羽ばたいた。
耳を劈くレオナードの怒声はそれ程までに大きなもので、不覚にも私は身を竦ませてしまった。そしてその途端、ぐいっとものすごい力で身体が引っ張られる。
驚いて見上げれば、レオナードが私の腕を絡ませたまま、デリックの胸倉を掴んでいた。
「もう一度、言ってみろ。お前でも容赦はしないぞっ」
ぎりぎりと歯ぎしりせんばかりに呻くレオナードは、シェナンドをに見せた怒りの表情より、遥かに恐ろしいものだった。
その眼光の鋭さに思わず息を呑む。…………でも、それは一瞬のこと。すぐに私は、冷静さを取り戻した。だって、レオナードに引っ張られた腕がものすごく痛かったから。
弟の厚顔無恥な物言いに対してのお怒りはごもっともだ。ただ、腕組んだままやることじゃなくね?
っていうか、暴走したら止めてほしいと言ったのはこの私。それなのに、なにが悲しくて止める立場に回らないといけないのだろうか。ったくこの馬鹿兄弟、いい加減にしろ。
そんな思いがふつふつと湧き上がる。もう、いっそこの馬鹿兄弟の脳天に拳を埋め込んで喧嘩両成敗といこうか。…………いや、駄目だ。私は雇われ婚約者。契約書に記された報奨金が、ちょっと待ったと私を引き留める。
となると、この場を治めるためには、昨日読み漁った恋愛小説から引用するしかないのか。ああもう、全く骨が折れることだ。ということを心の中でぶつくさ呟きながら嘆息する。
けれどすぐに、私は息を整えると、普段めったに使わない表情筋を動かすことにした。
「あら、レオナードったら、そんな顔をしないで。私、困っちゃうわ」
自分でも鳥肌が立つほど甘ったれた声を出してしまった。けれど、効果は抜群で、険悪だった空気が一気に微妙なものになる。
そしてこの機を逃したらもう後はないという、変な強迫観念にかられ、私はレオナードの腕から自分の腕を抜き、そのまま彼の唇に自分の人差し指を押し当てた。
「レオナード、私が居るのにそんな怖い声を出すの?」
目力だけで『お前も演じろ』と必死で訴える。そうすればレオナードもそれに気付いたようで、気持ちを切り替えるように軽く頭を振った後、爽やかな笑みを浮かべた。
「ははっ、私としたことが、すまなかった。怖がらせてしまったか?ミリア」
「ええ、とっても怖かったわ。でも、あなたの違う一面が見れてちょっとだけ嬉しかったわ。…………でも、しょっちゅうは嫌よ。優しいあなたでいて。ね?」
「ああ、もちろんだ。ミリア。さ、もう怖いことは言わないから、笑ってくれ」
「うふふっ。約束よ」
何だこの茶番。自分で演じているけれど、うすら寒い。でも、共演しているレオナードはノリノリだ。そして、ちらりとデリックを見れば、彼は気まずい表情を浮かべていた。
まぁ、雇われ婚約者である私の立場としたら、関係ないことだけれど。でも、やっぱり何だかんだと一緒に過ごしてきた彼に対してそんなことを言うデリックに対して腹が立つ。
ここは軽く小突いて頭を冷まさせようと決心し、絡ませているレオナードの腕をそっと解こうとした。けれど、今回もレオナードの方が一歩早く怒りを前面に出してしまった。
「いい加減にしろっ」
瞬間、そこら辺にいた鳥が一斉に羽ばたいた。
耳を劈くレオナードの怒声はそれ程までに大きなもので、不覚にも私は身を竦ませてしまった。そしてその途端、ぐいっとものすごい力で身体が引っ張られる。
驚いて見上げれば、レオナードが私の腕を絡ませたまま、デリックの胸倉を掴んでいた。
「もう一度、言ってみろ。お前でも容赦はしないぞっ」
ぎりぎりと歯ぎしりせんばかりに呻くレオナードは、シェナンドをに見せた怒りの表情より、遥かに恐ろしいものだった。
その眼光の鋭さに思わず息を呑む。…………でも、それは一瞬のこと。すぐに私は、冷静さを取り戻した。だって、レオナードに引っ張られた腕がものすごく痛かったから。
弟の厚顔無恥な物言いに対してのお怒りはごもっともだ。ただ、腕組んだままやることじゃなくね?
っていうか、暴走したら止めてほしいと言ったのはこの私。それなのに、なにが悲しくて止める立場に回らないといけないのだろうか。ったくこの馬鹿兄弟、いい加減にしろ。
そんな思いがふつふつと湧き上がる。もう、いっそこの馬鹿兄弟の脳天に拳を埋め込んで喧嘩両成敗といこうか。…………いや、駄目だ。私は雇われ婚約者。契約書に記された報奨金が、ちょっと待ったと私を引き留める。
となると、この場を治めるためには、昨日読み漁った恋愛小説から引用するしかないのか。ああもう、全く骨が折れることだ。ということを心の中でぶつくさ呟きながら嘆息する。
けれどすぐに、私は息を整えると、普段めったに使わない表情筋を動かすことにした。
「あら、レオナードったら、そんな顔をしないで。私、困っちゃうわ」
自分でも鳥肌が立つほど甘ったれた声を出してしまった。けれど、効果は抜群で、険悪だった空気が一気に微妙なものになる。
そしてこの機を逃したらもう後はないという、変な強迫観念にかられ、私はレオナードの腕から自分の腕を抜き、そのまま彼の唇に自分の人差し指を押し当てた。
「レオナード、私が居るのにそんな怖い声を出すの?」
目力だけで『お前も演じろ』と必死で訴える。そうすればレオナードもそれに気付いたようで、気持ちを切り替えるように軽く頭を振った後、爽やかな笑みを浮かべた。
「ははっ、私としたことが、すまなかった。怖がらせてしまったか?ミリア」
「ええ、とっても怖かったわ。でも、あなたの違う一面が見れてちょっとだけ嬉しかったわ。…………でも、しょっちゅうは嫌よ。優しいあなたでいて。ね?」
「ああ、もちろんだ。ミリア。さ、もう怖いことは言わないから、笑ってくれ」
「うふふっ。約束よ」
何だこの茶番。自分で演じているけれど、うすら寒い。でも、共演しているレオナードはノリノリだ。そして、ちらりとデリックを見れば、彼は気まずい表情を浮かべていた。
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