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16日目③

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 ちなみに彼の手にある二つの宝石は、昨日のドレスの指し色に使われていたので、どちらも限りなく透明な黄色。

 リーフ模様の一部に宝石がはめ込まれている銀細工の髪留めと、親指の爪ぐらいの大きな宝石が付いたネックレス。

 そんな二つの宝石を交互に見て、私は髪飾りを手に取る。そして、レオナードが何か言う前に私は素早く口を開いた。

「一つで良いわ。もう一つは貴方が持っていて」

 ネックレスはリボンを通すタイプのもの。言い換えればリボンさえ外せばどんなものにも、加工できる。例えば、タイピンとかに。

 その意図がわかったかどうかは微妙だけれど、レオナードはあっさりと承諾してくれた。

 拒まれなかったことに、ほっとしたと同時に、互いに同じ色の宝石を手にして、何だか心が浮きだってしまう。

「ふふっ、お揃いね。私、大切にするわ」

 手にした髪飾りは、落ち着いたデザインなので、普段でも使うことができる。だから、お守りとして海を渡った先でも持っていこう。

 そんな思わず零れてしまった胸の内を聞かれた途端、レオナードは困った笑みを浮かべた。

「………………君は無自覚にそういうことを言うから困る」
「え、なぁに?聞こえなかったわ」
「………………いや別に」

 聞き取れなかった言葉が若干気になるけれど、それよりも私は既に木苺パイに釘付けだった。
 
「ミリア嬢、私が取り分けよう」

 少々前のめりになりながらそれを見つめていた私に気づいたレオナードは、ケーキナイフを手にすると、流れるような手付きでパイを取り分けてくれた。

「さ、食べたまえ。口に合うなら、私の分もどうぞ」

 迷うことなく一番大きなものを私の皿に移してくれるところ。かつ、自分のパイも躊躇せずに差し出そうとするところは、やはり育ちが良いなと感心してしまう。でも…………。

「嫌よ。今日は一緒に食べたいの」

 この芸術品と言っても過言ではないパイは、きっとシェフティエが昨日の労いを込めて作ってくれたもの。なら、今日に限っては、二人で食すべきだ。

「………………ったく、翻弄してくれる」

 再びレオナードがぽつりと呟いたけれど、私の元までは届かない。でも、フォークを手にした私には、それは取るに足らないことだった。

 そんなことんながあったけれど、私達はやっと木苺パイにありつけることができた。パイは見た目もさることながら、その味は極上と言っていい程の出来栄えだった。

 


 その後、私達は明日の傾向と対策の為に、図書室に移動した。…………そう明日は、とうとう、レオナードの弟、デリックとの対面する日だったりもする。

 でも会議の為だけなら図書室に移動しなくてもいいのでは?という疑問を持つ人もいるかもしれない。

 …………では、なぜ図書室を選んだかお答えしよう。

 それは図書室にある、恋愛小説を読み漁るためだ。なにせレオナードの弟、デリックの前で、いちゃいちゃらぶらぶの婚約者を演じないといけない。けれど、どう演じて良いのかさっぱりわからないもので。
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