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16日目②
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「…………いしゃりょう?」
唐突に飛び出したレオナードの言葉の意味がわからずオウム返しに問うてしまう。けれど、彼はむっとする様子もなく、そうだど大きく頷く。いや本当に何言ってるのか全然意味がわからない。
「………………ごめんなさい、レオナード。一生懸命考えてみたんだけれど、今までの会話から慰謝料という言葉がどうして産まれてきたのか理解できないわ」
観念して、両手を挙げて降参の意を示す。そうすれば、レオナードは組んでいた腕を解いて、指先を私に向けた。
「なら説明しよう。ミリア様、ここを見たまえ。君は怪我をしている」
ここと示された箇所を追ってみたら、確かに肘の辺りに小さな擦り傷があった。
多分、昨日の夜会でシェナンドに茂みに連れ込まれた際に負ったものだろう。…………でも、傷と言っても本当に小さいもの。レオナードに指摘されるまで気付かなかったくらいに。
でも、レオナードが昨日の夜会のあの一件を気にしていることは十分に伝わった。
「怪我って、大袈裟ね、レオナード。こんなのすぐに治るわ。気にしないで」
くすくすと笑って同意を求めても、彼は首を横に振るだけだ。不機嫌さは消えてくれたのは有難いけれど、擦り傷を負わせた責任は取りたいらしい。と、そこで私は一つの疑問が産まれた。
「ねえレオナード。もし仮にこれを怪我だと認定するなら、私はあなたではなく、チェフ家に請求すべきじゃないの?………………まぁする気はないけれど」
こんな傷で慰謝料なんか請求する気もないし、されたほうも困ってしまうだろう。傷薬を渡されて帰れと言われるのがオチだ。いやいや、それ以前にチェフ家になんか二度と行きなくなんかない。
という至極真っ当な疑問を口にしてもレオナードは首を横に振る。もしかして彼は昨日の一件で筋肉痛になり、首を縦に振れないだけなのだろうか。そんな心配さえしてしまう。
でも、その心配は無用のようで、彼は今日もまた可笑しな持論を展開し始めた。
「いいや、違う。君は私に請求すべきだ。なぜなら私は君の雇用主である。そして君は昨日、契約に基づいて夜会に出席した。その結果、君は負傷してしまったのだ。これは勤務中において被った負傷であり、言い換えるなら労働災害である。だから、慰謝料は私が支払う義務がある」
きっぱりと言い切ったレオナードは、どうだと言わんばかりに目力で私に訴えてくる。どうしよう、2センチ程度の切り傷がとんでもない話に変換されていく。
「と、いうわけで、これは君が受け取るべきものだ」
私の混乱をよそに、レオナードは、さあ受け取れと言わんばかりに、ずいっと宝石を突きだしてきた。思わず身を引いてしまう。
とんでもない持論に、無理矢理のこじ付け。でも、レオナードの目は真剣だった。なんていうか責任感というよりは、感情が先行しているような不思議なもの。
これはではもう、要らないとは口にできない。でも、そんな理由では受け取りたくはない。
「あのね、レオナード。やっぱり慰謝料は受け取れないわ。ただ………………」
「ただ?」
「昨日の記念ってことなら、私、受け取りたいわ。でも、そんな図々しいこと言って良いのかしら?」
おずおずと上目遣いレオナードに見つめれば、彼は晴れやかな笑みを浮かべて大きく頷いてくれた。
「ああ、もちろんだとも。さ、受け取りたまえ」
レオナードはにっこりと笑ってそう言って更に私の方へと宝石を伸ばした。
唐突に飛び出したレオナードの言葉の意味がわからずオウム返しに問うてしまう。けれど、彼はむっとする様子もなく、そうだど大きく頷く。いや本当に何言ってるのか全然意味がわからない。
「………………ごめんなさい、レオナード。一生懸命考えてみたんだけれど、今までの会話から慰謝料という言葉がどうして産まれてきたのか理解できないわ」
観念して、両手を挙げて降参の意を示す。そうすれば、レオナードは組んでいた腕を解いて、指先を私に向けた。
「なら説明しよう。ミリア様、ここを見たまえ。君は怪我をしている」
ここと示された箇所を追ってみたら、確かに肘の辺りに小さな擦り傷があった。
多分、昨日の夜会でシェナンドに茂みに連れ込まれた際に負ったものだろう。…………でも、傷と言っても本当に小さいもの。レオナードに指摘されるまで気付かなかったくらいに。
でも、レオナードが昨日の夜会のあの一件を気にしていることは十分に伝わった。
「怪我って、大袈裟ね、レオナード。こんなのすぐに治るわ。気にしないで」
くすくすと笑って同意を求めても、彼は首を横に振るだけだ。不機嫌さは消えてくれたのは有難いけれど、擦り傷を負わせた責任は取りたいらしい。と、そこで私は一つの疑問が産まれた。
「ねえレオナード。もし仮にこれを怪我だと認定するなら、私はあなたではなく、チェフ家に請求すべきじゃないの?………………まぁする気はないけれど」
こんな傷で慰謝料なんか請求する気もないし、されたほうも困ってしまうだろう。傷薬を渡されて帰れと言われるのがオチだ。いやいや、それ以前にチェフ家になんか二度と行きなくなんかない。
という至極真っ当な疑問を口にしてもレオナードは首を横に振る。もしかして彼は昨日の一件で筋肉痛になり、首を縦に振れないだけなのだろうか。そんな心配さえしてしまう。
でも、その心配は無用のようで、彼は今日もまた可笑しな持論を展開し始めた。
「いいや、違う。君は私に請求すべきだ。なぜなら私は君の雇用主である。そして君は昨日、契約に基づいて夜会に出席した。その結果、君は負傷してしまったのだ。これは勤務中において被った負傷であり、言い換えるなら労働災害である。だから、慰謝料は私が支払う義務がある」
きっぱりと言い切ったレオナードは、どうだと言わんばかりに目力で私に訴えてくる。どうしよう、2センチ程度の切り傷がとんでもない話に変換されていく。
「と、いうわけで、これは君が受け取るべきものだ」
私の混乱をよそに、レオナードは、さあ受け取れと言わんばかりに、ずいっと宝石を突きだしてきた。思わず身を引いてしまう。
とんでもない持論に、無理矢理のこじ付け。でも、レオナードの目は真剣だった。なんていうか責任感というよりは、感情が先行しているような不思議なもの。
これはではもう、要らないとは口にできない。でも、そんな理由では受け取りたくはない。
「あのね、レオナード。やっぱり慰謝料は受け取れないわ。ただ………………」
「ただ?」
「昨日の記念ってことなら、私、受け取りたいわ。でも、そんな図々しいこと言って良いのかしら?」
おずおずと上目遣いレオナードに見つめれば、彼は晴れやかな笑みを浮かべて大きく頷いてくれた。
「ああ、もちろんだとも。さ、受け取りたまえ」
レオナードはにっこりと笑ってそう言って更に私の方へと宝石を伸ばした。
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