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5日目③
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東屋で二人そろって天を仰ぐ絵図は、誰がどう見てもシュールな光景だろう。見上げた先にいる天使の彫刻たちも、微笑を湛えてはいるが、少々きまり悪そうだ。
などと、そんなどうでも良いことを考えながらぼんやり東屋の天井画を見つめていた私だったけれど、レオナードに大事なことを伝え忘れていたことを思い出し、慌てて口を開いた。
「あっ自分の名誉の為に言っておくけど、私、せっかくの夜会を台無しにする気はなかったわ。だからシェナンドの顔は一切殴っていないわ。ま、まぁ…………あばらは、どうなっていたか知らないけど……」
自己弁護をしたつもりだったけれど、きっとレオナードからしたら、偽装婚約者が想像以上に危険人物だ、ぐらいにしか思っていないのかもしれない。最初は強気な口調で話していた私だったけれど、だんだん語尾が弱々しいものに変わっていった。
けれど、顔を元の位置に戻したレオナードは、予想外のことを口にした。
「ミリア嬢、何を言っているんだ?女性に不貞行為をしようとしたんだ。それぐらいされても当然だろう。あばらの一本や二本で済むなど、生ぬるい」
「………………」
てっきり、荒くれもの呼ばわりされると思いきや、シェナンドの行為は自業自得と頷くレオナードに心底驚いてしまった。これは想定外で、用意していた嫌味も暴言も使えず、瞬きを繰り返すことしかできない。
「で、君は本当に何もされていないんだな?」
今までで一番強い口調、且つ、ずいっと前のめりで問われてしまい、不覚にも思わずたじろいでしまう。けれど、レオナードはしつこく問うてくる。
「ええ、何もないわ」
「なら、良かった」
何とか答えを返せば、レオナードはほっと肩の力を抜いて笑みを浮かべた。…………彼は時々、不意打ちでこういう飾らない表情を私に見せる。
はっきり言って、急に女性扱いされたり、気を許した表情を見せられるのは少々苦手だ。そんな訳で、こほんと咳ばらいをして、私は本題である夜会の出席の有無について結論を伝えることにした。
「…………まぁそういう訳だから、今回の夜会は悪けど一緒に参加できないわ」
「なぜだ?今回は私と一緒に参加するのだから、君が危害を与えられることはないだろう?」
「ええっと、そういうことじゃなくて………」
「では、どういうことなのだ?」
意味が分からないと眉間に皺を寄せたレオナードに、察しが悪い奴ヤツだと舌打ちしたくなる。
「あのね、私と一緒にいたら、あなただって白い目で見られるでしょ。最悪、あなたに悪い噂が立つし、そうなればあなたの名を落とすことになるかもしれないわよ?」
ったくなんでそんなこともわからないのかと舌打ち交じりにそう言えば、レオナードは逆にそんなことかと鼻で笑った。
「男色家の噂が立ち始めている俺に、何を恐れることがあるんだ?それに、来月にはもう、私は社交界にはいない。アイリーンを連れて、異国で新生活を始めているだろう」
…………なるほど。
そんなふうに言われてしまえば、私が夜会に出席できない理由は、彼にとって何も問題ないことであった。と、そこで私はそもそもの理由を聞いていないことに気付き、私はダイレクトにレオナードに問うてみた。
「で、話を最初に戻すけれど、何でまた夜会になんか参加するの?」
瞬間、彼は苦悶の表情を浮かべ、眉間をもみながら口を開いた。
「実はな、断ったはずの縁談………相手はチェフ家の令嬢なんだが、それがどういう訳が消えていなかったんだ」
「そりゃまぁ、お気の毒さまね」
「ああ。本当に気の毒な話だ。だから、君と一緒に夜会に出席したい」
「…………は?」
本日も接続詞の後の大事な部分を端折ってくれた。だからの後、ちゃんと説明をして貰わなくては私も、首をどちらに振って良いのか判断がつかない。
などと、そんなどうでも良いことを考えながらぼんやり東屋の天井画を見つめていた私だったけれど、レオナードに大事なことを伝え忘れていたことを思い出し、慌てて口を開いた。
「あっ自分の名誉の為に言っておくけど、私、せっかくの夜会を台無しにする気はなかったわ。だからシェナンドの顔は一切殴っていないわ。ま、まぁ…………あばらは、どうなっていたか知らないけど……」
自己弁護をしたつもりだったけれど、きっとレオナードからしたら、偽装婚約者が想像以上に危険人物だ、ぐらいにしか思っていないのかもしれない。最初は強気な口調で話していた私だったけれど、だんだん語尾が弱々しいものに変わっていった。
けれど、顔を元の位置に戻したレオナードは、予想外のことを口にした。
「ミリア嬢、何を言っているんだ?女性に不貞行為をしようとしたんだ。それぐらいされても当然だろう。あばらの一本や二本で済むなど、生ぬるい」
「………………」
てっきり、荒くれもの呼ばわりされると思いきや、シェナンドの行為は自業自得と頷くレオナードに心底驚いてしまった。これは想定外で、用意していた嫌味も暴言も使えず、瞬きを繰り返すことしかできない。
「で、君は本当に何もされていないんだな?」
今までで一番強い口調、且つ、ずいっと前のめりで問われてしまい、不覚にも思わずたじろいでしまう。けれど、レオナードはしつこく問うてくる。
「ええ、何もないわ」
「なら、良かった」
何とか答えを返せば、レオナードはほっと肩の力を抜いて笑みを浮かべた。…………彼は時々、不意打ちでこういう飾らない表情を私に見せる。
はっきり言って、急に女性扱いされたり、気を許した表情を見せられるのは少々苦手だ。そんな訳で、こほんと咳ばらいをして、私は本題である夜会の出席の有無について結論を伝えることにした。
「…………まぁそういう訳だから、今回の夜会は悪けど一緒に参加できないわ」
「なぜだ?今回は私と一緒に参加するのだから、君が危害を与えられることはないだろう?」
「ええっと、そういうことじゃなくて………」
「では、どういうことなのだ?」
意味が分からないと眉間に皺を寄せたレオナードに、察しが悪い奴ヤツだと舌打ちしたくなる。
「あのね、私と一緒にいたら、あなただって白い目で見られるでしょ。最悪、あなたに悪い噂が立つし、そうなればあなたの名を落とすことになるかもしれないわよ?」
ったくなんでそんなこともわからないのかと舌打ち交じりにそう言えば、レオナードは逆にそんなことかと鼻で笑った。
「男色家の噂が立ち始めている俺に、何を恐れることがあるんだ?それに、来月にはもう、私は社交界にはいない。アイリーンを連れて、異国で新生活を始めているだろう」
…………なるほど。
そんなふうに言われてしまえば、私が夜会に出席できない理由は、彼にとって何も問題ないことであった。と、そこで私はそもそもの理由を聞いていないことに気付き、私はダイレクトにレオナードに問うてみた。
「で、話を最初に戻すけれど、何でまた夜会になんか参加するの?」
瞬間、彼は苦悶の表情を浮かべ、眉間をもみながら口を開いた。
「実はな、断ったはずの縁談………相手はチェフ家の令嬢なんだが、それがどういう訳が消えていなかったんだ」
「そりゃまぁ、お気の毒さまね」
「ああ。本当に気の毒な話だ。だから、君と一緒に夜会に出席したい」
「…………は?」
本日も接続詞の後の大事な部分を端折ってくれた。だからの後、ちゃんと説明をして貰わなくては私も、首をどちらに振って良いのか判断がつかない。
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