5 / 114
1日目②
しおりを挟む
私の一喝で、レオナードはテーブルに置いた両手を組み、真剣な眼差しで語り出した。
「実は、私には他に好きな人がいる」
「はぁー」
「ただ、残念なことに、彼女は君より身分の低い平民の人間なんだ」
「………へぇー」
いきなりカミングアウトから始まったこの話に、どう受け止めて良いのかわからず、おざなりな相槌しか打てない。
あと、好きな人と口にした途端、ちょっと頬を染めたレオナードに『乙女かよっ』と、内心ツッコミを入れてみる。
けれど、レオナードは気にも留めない様子で、淡々と言葉を紡いでいく。
「今回、君とお見合いをしたのは、彼女を護るためだったんだ。私がこの歳になっても婚約者を決めることもしなければ、お見合いすら断り続けるのは、彼女への一途な想いからくるものなんだが、まぁどうしたって、この貴族社会では怒りの矛先は平民の彼女に向けられてしまう。だから、1回でもお見合いをしておけば、当分は平穏な日々が過ごせると思った。それに………」
一気に言い切ったレオナードだったが、突然ここで組んだ両手に額を付けて、深い溜息を付きながら、口を開いた。
「本当にあり得ないことなのだが、私が平民の女性に恋をしていることすら疑い始められてしまったんだ………はっきり言うと、何故か男色家という噂までが立ち始めてしまった」
「それはまた………ご愁傷様ですわ。むぐ………あーこの、トリュフ最高!」
ありきたりな同情を示す言葉を吐いた私だったけれど、実はさっきから、テーブルに並べられているお菓子を頬張っていたりする。
言っておくけれど、話がつまらないわけではない。ただ目の前のお菓子が本当に美味しそうで、純粋に食べたいだけだ。
そんな私をレオナードはじろりと睨む。けれど、私が【あ゛ぁ?】と睨み返せば、すぐさま視線をずらして続きを語り出した。
「………私も色々重責やらなにやらで追い詰められている。だから正直、家柄だけに惹かれる貴族令嬢を遠ざける手段として、男色家という誤解を受けたままでいるのも良いとすら思っていた。貴族連中の中で隠れ男色家は以外と多い。噂を聞きつけて、貞操の危機を迎えそうになったとしても、私は剣にはそこそこ自身があるから、正直、その辺は心配していない。だが、やはり、好きな人に誤解をされ、嫌われたくはないだろう?」
「まぁ、そうね」
「そう、そうなんだ。だから、君とお見合いをした」
「………………は?」
思わず間の抜けた声を出してしまった。最後のレオナードの言葉の意味がわからない。なんだかよく分からない無駄話を聞かされたと思ったら、突然、だからという接続詞の後、結果だけを述べられてしまった。
ぶっちゃけ前半の話はどうでも良かった。私が聞きたかったのは、接続詞と結論の間で端折られた部分だ。
「で、なんでお見合い相手を私にしたのですか?」
長い話の後、結局最初と同じ質問を繰り返す羽目になり、苛立ちが募る。今度は要点だけ話せと目で訴えれば、レオナードはぶるりと身を震わせて口を開いた。
「………頼む、睨まないでくれ。続きを話しても良いか?ああ、ありがとう。お見合い相手として君を選んだのは、簡単に言えば私より家柄が遥かに格下で、断ったところで、幻想の花見たさの好奇心でお見合いをしたのかという理由で、済まされると思った。………すまないが、その手にしているフォークを私に向けないでくれ。そう、じっとしていてくれ。で、だな」
そこでレオナードは一旦言葉を止め、瞠目した。そして小声で祈りの言葉を紡いでいる。絶対にこの後、爆弾級の何かが投下されること間違いない。
ごくりと唾を飲んだ私に、レオナードは意を決したように顔を上げ、口を開いた。
「君が満面の笑みで私からの断りを承諾した瞬間、閃いたんだ」
「………何を、ですか?」
恐る恐る問うた私に、レオナードはにやりと笑みを浮かべた。
「君と僕が偽装婚約をすれば良いと思い付いた。幸い君は私には興味が無いようだし、その気のない君を私の婚約者に仕立て上げれば、全ての問題が解決する」
「はぁあああああああああああああああああああああああ!!!」
気合い全開で素っ頓狂な声を上げれば、辺りの木々から一斉に鳥が羽ばたいた。そして次の瞬間、私はテーブルを飛び越え、公爵家のご長男さまの胸元を締めあげていた。
「絞め殺されるか、殴り殺されるか、斬り殺されるか、今すぐ選んでっ」
「全部、断るっ」
むき出しの感情のまま叫べば、相手からも同じテンションで返って来た。そして、約束が違うと付け加えられれば、ぐっと言葉に詰まったのは、私の方だった。
確かに、怒らないという前提で聞き始めたのだ。ちっと舌打ちだけして、一先ず締め上げている両手を離して、スカートの裾を直す。
それからテーブルに着席した私は、お茶を飲みお菓子も2つ程口の中に放り込む。ちなみに、もしゃもしゃと咀嚼している間、レオナードは小さく震えていた。
「実は、私には他に好きな人がいる」
「はぁー」
「ただ、残念なことに、彼女は君より身分の低い平民の人間なんだ」
「………へぇー」
いきなりカミングアウトから始まったこの話に、どう受け止めて良いのかわからず、おざなりな相槌しか打てない。
あと、好きな人と口にした途端、ちょっと頬を染めたレオナードに『乙女かよっ』と、内心ツッコミを入れてみる。
けれど、レオナードは気にも留めない様子で、淡々と言葉を紡いでいく。
「今回、君とお見合いをしたのは、彼女を護るためだったんだ。私がこの歳になっても婚約者を決めることもしなければ、お見合いすら断り続けるのは、彼女への一途な想いからくるものなんだが、まぁどうしたって、この貴族社会では怒りの矛先は平民の彼女に向けられてしまう。だから、1回でもお見合いをしておけば、当分は平穏な日々が過ごせると思った。それに………」
一気に言い切ったレオナードだったが、突然ここで組んだ両手に額を付けて、深い溜息を付きながら、口を開いた。
「本当にあり得ないことなのだが、私が平民の女性に恋をしていることすら疑い始められてしまったんだ………はっきり言うと、何故か男色家という噂までが立ち始めてしまった」
「それはまた………ご愁傷様ですわ。むぐ………あーこの、トリュフ最高!」
ありきたりな同情を示す言葉を吐いた私だったけれど、実はさっきから、テーブルに並べられているお菓子を頬張っていたりする。
言っておくけれど、話がつまらないわけではない。ただ目の前のお菓子が本当に美味しそうで、純粋に食べたいだけだ。
そんな私をレオナードはじろりと睨む。けれど、私が【あ゛ぁ?】と睨み返せば、すぐさま視線をずらして続きを語り出した。
「………私も色々重責やらなにやらで追い詰められている。だから正直、家柄だけに惹かれる貴族令嬢を遠ざける手段として、男色家という誤解を受けたままでいるのも良いとすら思っていた。貴族連中の中で隠れ男色家は以外と多い。噂を聞きつけて、貞操の危機を迎えそうになったとしても、私は剣にはそこそこ自身があるから、正直、その辺は心配していない。だが、やはり、好きな人に誤解をされ、嫌われたくはないだろう?」
「まぁ、そうね」
「そう、そうなんだ。だから、君とお見合いをした」
「………………は?」
思わず間の抜けた声を出してしまった。最後のレオナードの言葉の意味がわからない。なんだかよく分からない無駄話を聞かされたと思ったら、突然、だからという接続詞の後、結果だけを述べられてしまった。
ぶっちゃけ前半の話はどうでも良かった。私が聞きたかったのは、接続詞と結論の間で端折られた部分だ。
「で、なんでお見合い相手を私にしたのですか?」
長い話の後、結局最初と同じ質問を繰り返す羽目になり、苛立ちが募る。今度は要点だけ話せと目で訴えれば、レオナードはぶるりと身を震わせて口を開いた。
「………頼む、睨まないでくれ。続きを話しても良いか?ああ、ありがとう。お見合い相手として君を選んだのは、簡単に言えば私より家柄が遥かに格下で、断ったところで、幻想の花見たさの好奇心でお見合いをしたのかという理由で、済まされると思った。………すまないが、その手にしているフォークを私に向けないでくれ。そう、じっとしていてくれ。で、だな」
そこでレオナードは一旦言葉を止め、瞠目した。そして小声で祈りの言葉を紡いでいる。絶対にこの後、爆弾級の何かが投下されること間違いない。
ごくりと唾を飲んだ私に、レオナードは意を決したように顔を上げ、口を開いた。
「君が満面の笑みで私からの断りを承諾した瞬間、閃いたんだ」
「………何を、ですか?」
恐る恐る問うた私に、レオナードはにやりと笑みを浮かべた。
「君と僕が偽装婚約をすれば良いと思い付いた。幸い君は私には興味が無いようだし、その気のない君を私の婚約者に仕立て上げれば、全ての問題が解決する」
「はぁあああああああああああああああああああああああ!!!」
気合い全開で素っ頓狂な声を上げれば、辺りの木々から一斉に鳥が羽ばたいた。そして次の瞬間、私はテーブルを飛び越え、公爵家のご長男さまの胸元を締めあげていた。
「絞め殺されるか、殴り殺されるか、斬り殺されるか、今すぐ選んでっ」
「全部、断るっ」
むき出しの感情のまま叫べば、相手からも同じテンションで返って来た。そして、約束が違うと付け加えられれば、ぐっと言葉に詰まったのは、私の方だった。
確かに、怒らないという前提で聞き始めたのだ。ちっと舌打ちだけして、一先ず締め上げている両手を離して、スカートの裾を直す。
それからテーブルに着席した私は、お茶を飲みお菓子も2つ程口の中に放り込む。ちなみに、もしゃもしゃと咀嚼している間、レオナードは小さく震えていた。
0
お気に入りに追加
961
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
売られて嫁いだ伯爵様には、犬と狼の時間がある
碧井夢夏
恋愛
■集英社少女・女性コミックマンガ原作賞・最終候補作品■
没落貴族の一人娘として生まれ、お金を得る手段として育てられた子爵令嬢アイリーン・クライトン。
アイリーンは公爵家の姫君、クリスティーナの身代わりとして死神伯と恐れられたユリシーズ・オルブライト伯爵に嫁ぐ役目を言い渡される。両親は皇帝にアイリーンを売ったのだった。
アイリーンはユリシーズとは別の部屋を与えられて暮らし始めたが、ある日の夜に自分を訪ねてきたユリシーズには、獣の耳と尻尾がついていて……。
男嫌いで人間不信、動物好きのアイリーンが、人狼の夫に出会ってご主人様な妻になっていく夫婦愛のお話。愛し合っているのに三角関係な二人の危機回避ファンタジーです。
※表紙画像はMidjourneyで生成しました。
※タイトルの「犬と狼の時間」はフランスの古い言葉で犬と狼の見分けがつかなくなる黄昏時を指しますが、このお話においては夫の昼と夜のことになります。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
帝国最強(最凶)の(ヤンデレ)魔導師は私の父さまです
波月玲音
恋愛
私はディアナ・アウローラ・グンダハール。オストマルク帝国の北方を守るバーベンベルク辺境伯家の末っ子です。
母さまは女辺境伯、父さまは帝国魔導師団長。三人の兄がいて、愛情いっぱいに伸び伸び育ってるんだけど。その愛情が、ちょっと問題な人たちがいてね、、、。
いや、うれしいんだけどね、重いなんて言ってないよ。母さまだって頑張ってるんだから、私だって頑張る、、、?愛情って頑張って受けるものだっけ?
これは愛する父親がヤンデレ最凶魔導師と知ってしまった娘が、(はた迷惑な)溺愛を受けながら、それでも頑張って勉強したり恋愛したりするお話、の予定。
ヤンデレの解釈がこれで合ってるのか疑問ですが、、、。R15は保険です。
本人が主役を張る前に、大人たちが動き出してしまいましたが、一部の兄も暴走気味ですが、主役はあくまでディー、の予定です。ただ、アルとエレオノーレにも色々言いたいことがあるようなので、ひと段落ごとに、番外編を入れたいと思ってます。
7月29日、章名を『本編に関係ありません』、で投稿した番外編ですが、多少関係してくるかも、と思い、番外編に変更しました。紛らわしくて申し訳ありません。
お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……
木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。
恋人を作ろう!と。
そして、お金を恵んでもらおう!と。
ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。
捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?
聞けば、王子にも事情があるみたい!
それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!
まさかの狙いは私だった⁉︎
ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。
※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる