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1日目②

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 私の一喝で、レオナードはテーブルに置いた両手を組み、真剣な眼差しで語り出した。

「実は、私には他に好きな人がいる」
「はぁー」
「ただ、残念なことに、彼女は君より身分の低い平民の人間なんだ」
「………へぇー」

 いきなりカミングアウトから始まったこの話に、どう受け止めて良いのかわからず、おざなりな相槌しか打てない。

 あと、好きな人と口にした途端、ちょっと頬を染めたレオナードに『乙女かよっ』と、内心ツッコミを入れてみる。

 けれど、レオナードは気にも留めない様子で、淡々と言葉を紡いでいく。

「今回、君とお見合いをしたのは、彼女を護るためだったんだ。私がこの歳になっても婚約者を決めることもしなければ、お見合いすら断り続けるのは、彼女への一途な想いからくるものなんだが、まぁどうしたって、この貴族社会では怒りの矛先は平民の彼女に向けられてしまう。だから、1回でもお見合いをしておけば、当分は平穏な日々が過ごせると思った。それに………」

 一気に言い切ったレオナードだったが、突然ここで組んだ両手に額を付けて、深い溜息を付きながら、口を開いた。

「本当にあり得ないことなのだが、私が平民の女性に恋をしていることすら疑い始められてしまったんだ………はっきり言うと、何故か男色家という噂までが立ち始めてしまった」
「それはまた………ご愁傷様ですわ。むぐ………あーこの、トリュフ最高!」

 ありきたりな同情を示す言葉を吐いた私だったけれど、実はさっきから、テーブルに並べられているお菓子を頬張っていたりする。

 言っておくけれど、話がつまらないわけではない。ただ目の前のお菓子が本当に美味しそうで、純粋に食べたいだけだ。

 そんな私をレオナードはじろりと睨む。けれど、私が【あ゛ぁ?】と睨み返せば、すぐさま視線をずらして続きを語り出した。

「………私も色々重責やらなにやらで追い詰められている。だから正直、家柄だけに惹かれる貴族令嬢を遠ざける手段として、男色家という誤解を受けたままでいるのも良いとすら思っていた。貴族連中の中で隠れ男色家は以外と多い。噂を聞きつけて、貞操の危機を迎えそうになったとしても、私は剣にはそこそこ自身があるから、正直、その辺は心配していない。だが、やはり、好きな人に誤解をされ、嫌われたくはないだろう?」
「まぁ、そうね」
「そう、そうなんだ。だから、君とお見合いをした」
「………………は?」

 思わず間の抜けた声を出してしまった。最後のレオナードの言葉の意味がわからない。なんだかよく分からない無駄話を聞かされたと思ったら、突然、だからという接続詞の後、結果だけを述べられてしまった。

 ぶっちゃけ前半の話はどうでも良かった。私が聞きたかったのは、接続詞と結論の間で端折られた部分だ。

「で、なんでお見合い相手を私にしたのですか?」
 
 長い話の後、結局最初と同じ質問を繰り返す羽目になり、苛立ちが募る。今度は要点だけ話せと目で訴えれば、レオナードはぶるりと身を震わせて口を開いた。

「………頼む、睨まないでくれ。続きを話しても良いか?ああ、ありがとう。お見合い相手として君を選んだのは、簡単に言えば私より家柄が遥かに格下で、断ったところで、幻想の花見たさの好奇心でお見合いをしたのかという理由で、済まされると思った。………すまないが、その手にしているフォークを私に向けないでくれ。そう、じっとしていてくれ。で、だな」

 そこでレオナードは一旦言葉を止め、瞠目した。そして小声で祈りの言葉を紡いでいる。絶対にこの後、爆弾級の何かが投下されること間違いない。

 ごくりと唾を飲んだ私に、レオナードは意を決したように顔を上げ、口を開いた。

「君が満面の笑みで私からの断りを承諾した瞬間、閃いたんだ」
「………何を、ですか?」

 恐る恐る問うた私に、レオナードはにやりと笑みを浮かべた。

「君と僕が偽装婚約をすれば良いと思い付いた。幸い君は私には興味が無いようだし、その気のない君を私の婚約者に仕立て上げれば、全ての問題が解決する」
「はぁあああああああああああああああああああああああ!!!」

 気合い全開で素っ頓狂な声を上げれば、辺りの木々から一斉に鳥が羽ばたいた。そして次の瞬間、私はテーブルを飛び越え、公爵家のご長男さまの胸元を締めあげていた。

「絞め殺されるか、殴り殺されるか、斬り殺されるか、今すぐ選んでっ」
「全部、断るっ」

 むき出しの感情のまま叫べば、相手からも同じテンションで返って来た。そして、約束が違うと付け加えられれば、ぐっと言葉に詰まったのは、私の方だった。

 確かに、怒らないという前提で聞き始めたのだ。ちっと舌打ちだけして、一先ず締め上げている両手を離して、スカートの裾を直す。

 それからテーブルに着席した私は、お茶を飲みお菓子も2つ程口の中に放り込む。ちなみに、もしゃもしゃと咀嚼している間、レオナードは小さく震えていた。
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