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24日目①

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.。*゚+.*.。 24日目  ゚+..。*゚+

「おはよう、ミリア嬢。早速で悪いが、君にお願いがある」
「おはようレオナード。早速だけど、無理よ」
「……相も変わらず、内容も聞かずして断るんだな君は」
「人聞きの悪いことを言わないで。私は学習能力があるの。過去の経験上、あなたからのお願いはロクなもんじゃないというのを学んだ上で、即断るようにしているの。で、一応聞くけど、お願いって何?」
「彼女………アイリーンに会って欲しい」
「はぁぁぁっ!?無理に決まっているでしょっ」



 なりふり構わず叫んだ私の声は、レオナードを通り越して澄み切った青空に吸い込まれていった。

 
 そんな私とレオナードはロフィ家の門前にいる。正確な表現をさせてもらうならば、屋敷の敷地内に一歩踏み入れた途端、レオナードに待ったをかけられてしまったのだ。

 その時、既に私は嫌な予感がした。そして、ぎこちない笑みを浮かべたレオナードを見て、その予感は確信へと近づいていき、最終的に朝の挨拶もそこそこに、あり得ないお願いをされてしまったという訳だ。

 …………本当にあり得ないお願いだ。

 もちろん今までレオナードからは、あり得ないというか、無茶なお願いをされてきた。そして、抵抗空しく私はその全てを叶えてきた。とても不本意だったけれど。

 けれど、今回のお願いは規模が違う。どれくらいかと言えば、我が家の狭小屋敷と、ロフィ家の大豪邸くらいの規模くらいに。いや多分それ以上だ。こんな無茶ぶり、理由を聞くまでもない。どんな理由があっても、今回は絶対に何が何でも言うことを聞くわけにはいかないのだ。

「寝言は寝てから言ってちょうだい。っていうか、わたくし自ら、あなたのことを、寝かしつけてあげましょう  か?もちろん永久的にね。どう?レオナード」
「断る」

 きっぱりと言い切ったレオナードはちらりと視線を横に移動させた。私もちらっとそこに目をやれば、予想通りアルバードがそこに居た。なるほどね。本日もレオナードは姑息な手段を使う気か。

 一度ならず二度までも、あ、いや今回で三回目か。それに気付いた途端、私は怒りを通り越してあきれ果ててしまった。とても残念だけれど、やっぱり私達は言葉では分かり合えない関係なのだ。なら、分かり合う為には、やはりこれしかない。 

「………わかったわ、レオナード」

 そう言って私は、にっこりと微笑みながら、拳をぐっと突き上げた。

「あなたとアルバード、二人まとめて相手するわ」

 瞬間、レオナードはぐっと唇を噛み締めた。けれど、やめておくんだと、妙に上から目線で私にそんなことを言いう。

 おいおい、ちょい待て。お前の立ち位置、いつからそこになったんだ?

 そんな言葉を飲み込んで、私は鼻で笑い飛ばす。わかっている。レオナードはともかく、アルバードに勝てるなんて思ってもいない。けれど、負け戦とわかっていても、今日に限っては、私は引くことができないのだ。

「私に勝ち目何てこれっぽちもないことくらい、わかっているわっ。でも、例えこの身が朽ち果てようとも、爪痕くらいは残して見せるわ。さあ、かかってきなさいっ」

 手のひらをレオナードに向けて、ちょいちょいと煽るように指先を動かせば、レオナードは吐き捨てるようにこう言った。

「馬鹿を言うなっ」

 瞬間、私はプツンっと切れた。

「何が馬鹿なの!?馬鹿はあなたでしょ!?レオナード」

 だんっと足を踏み鳴らしてそう叫び返せば、レオナードはうっと言葉に詰まった。そりゃそうだろう。そもそも、馬鹿なことを言い出したのは、他ならぬ彼なのだから。

 そんなお馬鹿なレオナードに向かって私は憤然と腕を組みながら睨みつければ、彼は唇を噛み締めて項垂れる。けれどそれは僅かな間で、すぐにこちらを探るような口調で、こう問いかけた。

「…………そんなにアイリーンに会いたくないのか?」
「愚問よ、レオナード。倫理上の問題から、私はアイリーンさんに会うことは絶対に、できないわ」
「会いたくない、ではなく、会えないということか?」
「まどろっこしいわね。どちらも同じことでしょ?」
「いや、違う。大いに違う。だが、確かにここでは些細な問題だったな。.........よし、わかった」
「は?」

 的を得ない質問に苛立ちながらも義理堅く答えてみれば、レオナードは勝手に結論を出してしまった。そして、どういうことかと問い詰めようと思ったけれど、それよりも早く彼が口を開いてしまった。

「ミリア嬢。私は女性に刃を向ける気はない。ましてや怪我人の君に、乱暴な態度を取るなど、死んだ方がましだ。────アルバード、絶対に手を出すなよ」
「そう。わかってくれて嬉しいわ。なら………………きゃっ、な、何するのよっ。レオナード」

 てっきりレオナード自身の主張を引っ込めると思いきや、彼は物凄い速さで、間合いを詰めてくる。そしてあっと思った時には、私は彼に横抱きにされてしまっていた。蹴りを入れる間もなかった。

「降ろしてよっ。レオナード!」
「断る。そして、私は今回のことは、絶対に譲れない。なので、こうさせていただいた」

 あっさりとそう言い捨てたレオナードは、私を抱いたまま、てくてくと歩き出す。私が渾身の力で暴れているのに、その腕はびくともしない。そしてあろうことか、こんなことまで言い放った。

「ミリア嬢、どうあっても私の腕からは逃れることはできない。傷に響くから、大人しくしてくれ」と。

 はっきり言って気を遣うところはそこではない。

 でも、落ち着いた低いその声は、子供のあやすような口調に似ているけれど、ほんの少し違うもの。何だか耳元でその声を聴いた瞬間、私はきゅっと心臓を掴まれたかのように動けなくなってしまった。

 そして気付けば、あっという間に馬車に押し込まれてしまっていたのだった。
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