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20日目①

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.。*゚+.*.。 20日目  ゚+..。*゚+

「今日は私からお願いがあるの。レオナード、もちろん聞いてくれるわよね」
「こんな威圧的にお願いされるのは産まれて初めてだが、君からだと想定の範囲としか思えないのが怖いな。で、お願いとは何だ?」
「悪いけど、今日から当分の間、病で倒れて頂けないかしら?」
「質問を質問で返すのは失礼だが………君は、自分の意志で病になることができるのか?」
「本気になれば、ね。で、できる?できない?」
「君には契約以上のことをして貰っていて感謝している。だが、できない」
「………そう。父上が今日、領地から一時帰宅する、と言っても?」
「………………あと、30分もあれば、ご要望通り、寝込むことができそうだ」
「良かったわ。当分、それを維持してね」



 臆面もなくそう言いきった私は、レオナードに向けてにっこりと笑みを浮かべた。.........でも内心は、ふぅやれやれと、ほっと安堵の息を吐く。

 本当に良かった。レオナードがぐだぐだと面倒くさいことをのたまったなら、私は、強制的に彼を寝台から起き上がれないようにするところだった。

 言っておくけれど、この暴君と思われても仕方がない諸々の発言は、全てレオナードを思ってのこと。

 なにせ、あの父上が帰宅するのだ。レオナードには、仮病でもガチの病でも、自室に籠ってもらわないといけない。運が悪ければ、命を落とす事態になるかもしれないから。

 そして良い感じに顔色を悪くし始めたレオナードを視界に納めた私は、おもむろに席を立った。

「じゃあ、そういうわけで、私、帰るわね。早朝にお邪魔しちゃってごめんなさい。あなたはゆっくりと、二度寝するなり、何なり好きにしてて」

 そう、実は今の時刻は日の出をちょっとだけ過ぎた頃。超が付くほど早朝だったりもする。

 そんな時間に訪問するなんて無礼極まる行為だけれど、私は、塩を撒かれることなく東屋に通されるという手厚い歓迎を受けてしまった。

 しかも寝ぼけ眼のレオナードが登場すると思いきや、彼は普段通りぱりっとした服装、かつ、さっぱりとした表情で現れたのだ。

 ..................これもまた公爵家と、いんちき男爵家の違いなのだろうか。 

 と、そんなどうでも良いことに意識を飛ばしていたら、いつの間にかレオナードは私のすぐ横に移動していた。

「…………ミリア嬢、君は大丈夫なのか?」
「え、何が?」

 主語の無い問い掛けに、瞬きを何度も繰り返してしまう。

 そんな私に、レオナードは気を悪くするどころか更に顔色を悪くして、再び問い掛けた。

「お父上と君は………その………上手くいってないと聞いていたから。少々、いやはっきり言って、かなり私は心配だ」
「え?あ、ああ、そうね」

 レオナードの危機を回避することに気を取られていて、自分のメンタルというか、気構えをすることをすっかり忘れていた。

 けれどレオナードには違う意味で伝わってしまったのだろう。彼は、ずいっと前のめりになりながら、どうなんだと迫ってくる。............か、顔が近い。ものっすごく近い。

「ま、何とかなるわ。っていうか、何とかするわ」

 若干身を引きつつ、くるりと視線をレオナードに向けて笑ってみる。

 けれど、レオナードは安心するどころか、とても複雑な表情をしてしまった。しかも私では約に立たないのかと、的外れ、かつ、面倒くさいことを言い出す始末。

 ここは彼の胸倉を掴んで『黙って大人しく部屋で引き込もっておけっ』と怒鳴れば良いのだろうか。.........いや、今回は、ここはもう少し詳しく説明をする方を選ぶことにしよう。

「それに言ってなかったけれど、父上が屋敷に居るのはたった2、3日のこと。言い換えるなら、その短い期間、耐え忍べば良いだけよ。心配しないで。レオナード」

 そう口にすれば、本当に大したことではないような気がしてきた。

 それに良く良く考えてたら、昨日、母様は父上が帰宅する一報を受け取った際に、私にいの一番にレオナードとの婚約は内緒にしてあげると言ってくれた。兄2人については、まぁ、何とか黙らせることができる。多分、きっと。

 そう考えたら、本当に本当に何とかなるような気がしてきた。

 という訳で、絶賛悲痛な表情を浮かべる彼の袖を掴んで、キッパリ、はっきり、すっぱりこう言った。

「そんな顔しないで、レオナード。私、絶対に負けたりしないからっ。それに、こんな些末なことで移住をおじゃんにするなんて、愚の骨頂よっ」
 
 意気込んでそう言えば、何故かレオナードは言葉にできない程、複雑怪奇な顔をしてしまった。
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