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13日目①

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.。*゚+.*.。 13日目  ゚+..。*゚+

「私達、契約事項について今一度見直すべきだと思うの」
「それは構わないが、夜会には出席してもらう」
「ええ。それは心底嫌だし、願わくば当日会場が火事になれば良いって本気で思っているけど、出席するわよ」
「………そうか。ただ、見直すっていう程のことか?」
「レオナード、気付いていないの?」
「何をだ?」
「当初の契約がことごとく守られていないってことに。唯一守られているのは【一切、私に淫らな要求をしたいってこと】だけよ」
「それは、どうリアクションすれば良いのか難しいな」
「難しいわけないでしょ!?守られなかった契約について、もう少し反省しなさいっ」


 


 ダンッっと、勢いに任せてテーブルを叩きつければ、風圧のせいでレオナードの前髪がふわりと揺れた。

 ボールルームの窓から差し込む陽の光を浴びて、舞い上がった髪がキラキラと輝いてとても綺麗…………だなんて思ったけれど、目の前のにいるレオナードが本気で悩む仕草を目にして、口にするのはやめた。

 それにしても、なぜレオナードは私の提案にすぐに頷いてくれないのだろう。…………まさか、スウィーツと有り余る権力にものを言わせて、まだまだ私に無理難題を吹っ掛ける気なのだろうか。

 冗談じゃない。今日は絶対に、この契約についてきちんと見直してもらわないといけない。絶対に。

「レオナード、一先ずあなたが肌身離さず持ち歩いている契約書を出してちょうだい」

 そう言ってテーブルを挟んで対面にいる彼に手を伸ばせば、彼はとても自然な流れで後ろに身を引いた。

「落ち着いてくれ、ミリア嬢。まず、目の前のスウィーツを片付けることに専念した方が良い」
「はぁ?ちょっと、何言っているの?」
「本日の菓子は、氷菓子だ。これを味わうのは時間との勝負だ。良いのか、ミリア嬢?溶けた氷菓子など、単なる味の付いた水だぞ?君はそんなものを口にして満足できるような人間なのか?」
「………………それもそうね」

 これぞ正にぐうの音も出ない。

 契約見直しより、スウィーツへとあっさり傾いてしまった私の心の天秤に自嘲しつつも、レオナードから差し出されたスプーンを受け取り、早速目の前のガラス容器に盛られた氷菓子に手を伸ばした。

 ちなみに氷菓子は、3種類。濃厚な甘さのミルク味に、爽やかな柑橘系、そしてビターなチョコレート味。非の打ち所がないラインナップときたものだ。レオナード宅のお抱えシェフ、いや、言いたくは無いけれどシェフティエの本気度が伺える一品だ。

「どうだミリア嬢、本日の新作スウィーツは?」
「最高よ、レオナード」
「それは良かった。ミリア嬢、良かったら私の分も食べたまえ」
「良いの?うれしいわ。じゃ、遠慮なく」 

 レオナードの笑みが伝染したのか私もにこりと笑みを浮かべて、彼の分のスウィーツを受け取り、再び氷菓子を口に含んだ。

 けれど頭の中は、これを完食した後のことでいっぱいだった。

 というのも、ダンスのステップをマスターした私は昨日は上機嫌で帰宅することができた。そして、その勢いのまま、親友のナナリーに手紙を書いたのだ。準備はとても順調に進んでいる、と。

 でも、その手紙のせいなのか、はたまた、そのおかげなのかわからないけれど、私は 気付いてしまったのだ。

 まず、渡航の際のチケットはもともと、この契約の報奨金で入手する予定のものだったと。なのに、昨日の一件で、レオナードから贈られることになってしまった。それでは、契約金を貰い過ぎてしまう計算になる。

 そしてそこから、今までのことを思い出してみれば、契約事項に書かれている約束事がことごとく守られていないということに気付いてしまったのだ。

 いや、一つ一つ、そうせざるを得ない理由があった。そして、私はその都度説明を聞いて、了承している。だから今までの事を責めるつもりはない。でも、これから先は、きっちり契約通りに遂行させてもらう所存なのだ。

 そんなことを考えながら、私は黙々と氷菓子を口に含む。…………大変美味しい。それに、口の中がさっぱりとする温かいプアール茶を添えるところが憎らしい。

 そしてそのお茶を口に含んだ途端、レオナードから呆れた一言が飛んできた。

「ところでミリア嬢、契約を見直す必要など本当にあるのか?」

 ………………今日はダンスの仕上げをする予定だったけれど、その前に、このとぼけたお坊ちゃまを少々説教しなければならないようだ。
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