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8日目①
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.。*゚+.*.。 8日目 ゚+..。*゚+
「ねぇ、どうして男は女を従わせようとするのかしら?」
「昨日の件なら謝罪は済んだし、君も納得した上で、我が家のスウィーツを完食してくれたと思ったのだが………」
「ねぇ、どうして男は男というだけで優位に立ってると思うのかしら?」
「言い方が悪かったなら、これも謝る。済まなかった」
「ねぇ、どうして男は自分が間違ってることを指摘されても認めないのかしら?」
「いや私は充分反省したし、君に対してこれ以上、失礼なことをするつもりはない」
「は?私、父上の話をしているんだけど」
「.....................」
あんぐりと口を開いたまま私を見つめるレオナードに、私は呆れた口調を隠さず問い掛けた。
「あなた人の話聞いていたの?レオナード」
「………一語一句聞き逃さず答えた結果がこれだ」
「あら、そ」
頬杖を付いて軽く睨めば、レオナードはぶるりと身を震わせた。明らかに次に来る私の嫌味を恐れての行動なのだろう。でも、今日は彼に向かって毒を吐く元気はない。溜息を付くだけでも億劫だったりもする。
そう、今日の私はアンニュイなのだ。
アンニュイ………ちょっと気だるく神秘的なイメージを持つ言葉。なんというかミステリアスな大人の女が浮かべる表情なのだが、実際にそうなってみると、ただただ憂鬱なだけ。
そして今日の天気もアンニュイ。しとしとと降る雨は、中途半端で物憂げな気持ちを助長する。というわけで、私達は庭の東屋でもなくサンルームでもない陰鬱な図書室でティータイム中なのだ。これもまたアンニュイ。あっ、もちろん扉は既に施錠済みだ。
ちなみに今日のスウィーツは2種類の焼き菓子。レモンのパウンドケーキとドライフルーツのビスコッティ。定番のお菓子ながら、パウンドケーキの表面はチョコでコーティングされていて、ビスコッティにはエスプレッソが添えてある、小技のきいた一品。
でも今日はスウィーツを前にしても、テンションがいつもより上がらない。
ちらりとテーブルの上に綺麗に並べられた菓子を見つめて、私はさっきよりも深いため息を付く。そうすれば、さすがにレオナードも私の異変に気付いたようだ。
「ミリア嬢、今日は一体どうしたんだ?」
恐々と問いかけるレオナードに、私は無言でポケットから一通の手紙を取り出し、彼の前に滑らせた。
「これ読んでみて」
「え!?いや、さすがに女性の手紙を読むなど失礼だ───」
「本人が良いって言ってるんだから、四の五の言わずに早く読んで」
「………はい」
ちょっと腑に落ちない顔をしたレオナードだったが、口答えしたところで、自分には何の得にもならないことを学習したのだろう。一言私に断りを入れた後、黙々と手紙を読み始めた。
実はこれ、父上が私宛に書いた手紙。そして私をこんなにも憂鬱にさせる元凶だったりもする。
さて、これを読んだ後、レオナードはどんなリアクションを取るのだろう。仮に一文字でも父上の言葉に共感をみせたら、彼は二度とこの部屋から出ることができない旨を伝えたほうが良いだろうか。
………まぁ、いっか。面倒くさい。これもまたアンニュイだからということにしておこう。
そんなことを考えながら、私はティーカップを傾けた。
「ねぇ、どうして男は女を従わせようとするのかしら?」
「昨日の件なら謝罪は済んだし、君も納得した上で、我が家のスウィーツを完食してくれたと思ったのだが………」
「ねぇ、どうして男は男というだけで優位に立ってると思うのかしら?」
「言い方が悪かったなら、これも謝る。済まなかった」
「ねぇ、どうして男は自分が間違ってることを指摘されても認めないのかしら?」
「いや私は充分反省したし、君に対してこれ以上、失礼なことをするつもりはない」
「は?私、父上の話をしているんだけど」
「.....................」
あんぐりと口を開いたまま私を見つめるレオナードに、私は呆れた口調を隠さず問い掛けた。
「あなた人の話聞いていたの?レオナード」
「………一語一句聞き逃さず答えた結果がこれだ」
「あら、そ」
頬杖を付いて軽く睨めば、レオナードはぶるりと身を震わせた。明らかに次に来る私の嫌味を恐れての行動なのだろう。でも、今日は彼に向かって毒を吐く元気はない。溜息を付くだけでも億劫だったりもする。
そう、今日の私はアンニュイなのだ。
アンニュイ………ちょっと気だるく神秘的なイメージを持つ言葉。なんというかミステリアスな大人の女が浮かべる表情なのだが、実際にそうなってみると、ただただ憂鬱なだけ。
そして今日の天気もアンニュイ。しとしとと降る雨は、中途半端で物憂げな気持ちを助長する。というわけで、私達は庭の東屋でもなくサンルームでもない陰鬱な図書室でティータイム中なのだ。これもまたアンニュイ。あっ、もちろん扉は既に施錠済みだ。
ちなみに今日のスウィーツは2種類の焼き菓子。レモンのパウンドケーキとドライフルーツのビスコッティ。定番のお菓子ながら、パウンドケーキの表面はチョコでコーティングされていて、ビスコッティにはエスプレッソが添えてある、小技のきいた一品。
でも今日はスウィーツを前にしても、テンションがいつもより上がらない。
ちらりとテーブルの上に綺麗に並べられた菓子を見つめて、私はさっきよりも深いため息を付く。そうすれば、さすがにレオナードも私の異変に気付いたようだ。
「ミリア嬢、今日は一体どうしたんだ?」
恐々と問いかけるレオナードに、私は無言でポケットから一通の手紙を取り出し、彼の前に滑らせた。
「これ読んでみて」
「え!?いや、さすがに女性の手紙を読むなど失礼だ───」
「本人が良いって言ってるんだから、四の五の言わずに早く読んで」
「………はい」
ちょっと腑に落ちない顔をしたレオナードだったが、口答えしたところで、自分には何の得にもならないことを学習したのだろう。一言私に断りを入れた後、黙々と手紙を読み始めた。
実はこれ、父上が私宛に書いた手紙。そして私をこんなにも憂鬱にさせる元凶だったりもする。
さて、これを読んだ後、レオナードはどんなリアクションを取るのだろう。仮に一文字でも父上の言葉に共感をみせたら、彼は二度とこの部屋から出ることができない旨を伝えたほうが良いだろうか。
………まぁ、いっか。面倒くさい。これもまたアンニュイだからということにしておこう。
そんなことを考えながら、私はティーカップを傾けた。
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