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6日目①
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.。*゚+.*.。 6日目 ゚+..。*゚+
「君に聞きたいことがある」
「やぶからぼうどうしたの?ま、どうぞ」
「この前街に行った時、何をしていた?」
「ご命令通り、買い物しましたよ」
「嘘つけっ!ドレス屋からも宝石屋からも請求書が回ってこなかったぞ」
「そりゃあそうでしょう。だってそんなとこ行ってないし。買ったのは、文具よ」
「はぁ!?」
まったくもって意味がわからないと言いたげに、レオナードは目を剥いて叫んだ。でも、私だって彼がそんなリアクションをするのか分からない。
さてさて今日も晴天に恵まれたので、私達は庭の東屋にいる。余談だけれど、昨日の東屋とは違う東屋だ。反対の位置にあるから、西屋?いや、そんな言葉無いか。っていうか、自分でいうのも何だけれど、つまらないことを言ってしまった。
「おい、ミリア嬢。無視をするなっ」
そして、目の前の男は西屋の件よりもっとくだらないことをのたまっている。
チラリとテーブルを見れば、今日のスウィーツはセミドライフルーツをチョコレートにディップしたもの。しかもご丁寧に、ひとつひとつピンが刺さっている。コレで、目の前のお坊ちゃんを刺して良いということだろうか。
「あなたお忘れになっているかもしれないけど、好きなものを買って良いと言ったわよ。ご自身の発言にはもう少し責任を持って下さい」
そう言いながら菓子を一つ摘まんで口に入れ、剥き出しになったピンをレオナードに向かってクルクル回してみる。
凝縮したフルーツの酸味と甘みが、チョコレートと抜群に相性良い。くぅっと思わず顔が綻ぶ私とは対照的に、レオナードの顔色は紙のように白い。
「いや、そこは覚えている。ミリア嬢…………頭ごなしに怒りをぶつけて申し訳なかった。更に申し訳ないが、そのピンを私に向けるのはどうかやめて欲しい。…………あ、指でへし折っ、失礼、なんでもない。ところで、何故、文具など購入したのか教えて欲しい」
思わず、手にしていた二つ目のチョコを落としそうになってしまった。
「何故って、そんなの必要だからに決まっているでしょ?」
「………………不憫だな」
こてんと小首を倒してそう返した私に、レオナードは急に目頭を押さえて天を仰いだ。
「っむぐ───………って、はぁ?何言ってるのレオナード、あなた大丈夫?」
一先ず手にしていた菓子を口の中に収納した私は、間の抜けた声の後、本気で彼の奇行に不安を覚えた。
けれど、レオナードは更に私の不安を掻き立てるように、懐から契約書とペンを取り出すと、一番下に書いてある今回の報奨金を二重線で消したのだ。
「ちょっと、レオナードっ。あなた何てことするの!?」
今迄の人生で一番悲痛な叫び声を上げた私に、レオナードはなぜか慈愛の表情を浮かべ、静かに首を左右に振った。
「ミリア嬢、皆まで言うな」
「は?」
「ホーレンス家が文具すら買えない財政難だとは存じ上げなかった」
「はぁ!?」
「そうとは知らず、私はこんな少額な報奨金で君を雇おうなどとは………」
そこまで言ってレオナードは、契約書の二重線で消した数字の上に、その倍の数字を記入した。そこで、私は彼の奇行は、どうやら勘違いから来るものだと気付いた。
でも、それを説明する必要は、あるのだろうか。
そう思った途端、新緑の間を吹いてくる快い風に誘われ、私は空を見上げる。今日は雲一つない晴天だ。
「レオナード、人生最後に見上げる空が青色で良かったわね」
そんな心の声が零れてしまった瞬間、レオナードから表情が消えた。
「君に聞きたいことがある」
「やぶからぼうどうしたの?ま、どうぞ」
「この前街に行った時、何をしていた?」
「ご命令通り、買い物しましたよ」
「嘘つけっ!ドレス屋からも宝石屋からも請求書が回ってこなかったぞ」
「そりゃあそうでしょう。だってそんなとこ行ってないし。買ったのは、文具よ」
「はぁ!?」
まったくもって意味がわからないと言いたげに、レオナードは目を剥いて叫んだ。でも、私だって彼がそんなリアクションをするのか分からない。
さてさて今日も晴天に恵まれたので、私達は庭の東屋にいる。余談だけれど、昨日の東屋とは違う東屋だ。反対の位置にあるから、西屋?いや、そんな言葉無いか。っていうか、自分でいうのも何だけれど、つまらないことを言ってしまった。
「おい、ミリア嬢。無視をするなっ」
そして、目の前の男は西屋の件よりもっとくだらないことをのたまっている。
チラリとテーブルを見れば、今日のスウィーツはセミドライフルーツをチョコレートにディップしたもの。しかもご丁寧に、ひとつひとつピンが刺さっている。コレで、目の前のお坊ちゃんを刺して良いということだろうか。
「あなたお忘れになっているかもしれないけど、好きなものを買って良いと言ったわよ。ご自身の発言にはもう少し責任を持って下さい」
そう言いながら菓子を一つ摘まんで口に入れ、剥き出しになったピンをレオナードに向かってクルクル回してみる。
凝縮したフルーツの酸味と甘みが、チョコレートと抜群に相性良い。くぅっと思わず顔が綻ぶ私とは対照的に、レオナードの顔色は紙のように白い。
「いや、そこは覚えている。ミリア嬢…………頭ごなしに怒りをぶつけて申し訳なかった。更に申し訳ないが、そのピンを私に向けるのはどうかやめて欲しい。…………あ、指でへし折っ、失礼、なんでもない。ところで、何故、文具など購入したのか教えて欲しい」
思わず、手にしていた二つ目のチョコを落としそうになってしまった。
「何故って、そんなの必要だからに決まっているでしょ?」
「………………不憫だな」
こてんと小首を倒してそう返した私に、レオナードは急に目頭を押さえて天を仰いだ。
「っむぐ───………って、はぁ?何言ってるのレオナード、あなた大丈夫?」
一先ず手にしていた菓子を口の中に収納した私は、間の抜けた声の後、本気で彼の奇行に不安を覚えた。
けれど、レオナードは更に私の不安を掻き立てるように、懐から契約書とペンを取り出すと、一番下に書いてある今回の報奨金を二重線で消したのだ。
「ちょっと、レオナードっ。あなた何てことするの!?」
今迄の人生で一番悲痛な叫び声を上げた私に、レオナードはなぜか慈愛の表情を浮かべ、静かに首を左右に振った。
「ミリア嬢、皆まで言うな」
「は?」
「ホーレンス家が文具すら買えない財政難だとは存じ上げなかった」
「はぁ!?」
「そうとは知らず、私はこんな少額な報奨金で君を雇おうなどとは………」
そこまで言ってレオナードは、契約書の二重線で消した数字の上に、その倍の数字を記入した。そこで、私は彼の奇行は、どうやら勘違いから来るものだと気付いた。
でも、それを説明する必要は、あるのだろうか。
そう思った途端、新緑の間を吹いてくる快い風に誘われ、私は空を見上げる。今日は雲一つない晴天だ。
「レオナード、人生最後に見上げる空が青色で良かったわね」
そんな心の声が零れてしまった瞬間、レオナードから表情が消えた。
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