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私と司令官さまのすれ違い
★一難去ってまた一難※司令官さま目線
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───審判開始がら数時間後。
すっかり暗くなってしまったけれど、無事、窃盗団の審判を終えた自分は、アジェーレとケイティの3人……つまり、いつものメンバーで、この任務が終了したささやかな祝杯を上げることにした。
「かんぱーい!!」
「おっうー」
「ご苦労だった」
それぞれが乾杯の音頭を口にして、グラスに入った酒を一気に飲み干す。
ここは先日と同じ会議室という名のサロン。そして、テーブルには乗り切れない程の酒とつまみが並べられている。………つまり、本日も、深酒に付き合わされるのであろうか。
うんざりとした気持ちを露骨に表してみたけれど、二人の視界にはまったく入ってないようで、好き勝手なことを口にする。
「それにしても、やるって言ってから2週間足らずで任務完了とは、さすが黒鷹の騎士さまね。マーカスに無理矢理アジトを吐かせて、たった4時間で壊滅に追い込んで。しかも、引き連れて行った部下はたった4人。これぞ愛の力ってやつかしら?ま、一方通行だけどねぇ」
「…………………」
「ま、つまりは、やればできる子だったてわけね。あとはシンシアちゃんを口説くだけね。…ぷっ。そっちのほうが大変そうだけれど」
「…………………」
アジェーレとケイティの言葉は、褒められているのかけなされているのかわからない。思わず表情が険しくなる。
けれど、そんな自分を無視してアジェーレは、グラスに酒を足しながら口を開く。
「で、結局、ティガリオはどうなったの?」
「ああ。余罪がかなりあるからな、今日一日では裁ききることはことは不可能だ。一先ず王都へ連行。そして、徹底的に余罪を追及して、あとは捕虜として当分は王都にとどまってもらうだろうな。幸運にも、ディガリオは官僚の息子だ。王都でも、それはそれは丁寧にお迎えしてもらえるだろう」
「あら、じゃあ外交的にも使えるカードになるってわけね。おじさま、ウハウハね。今なら新しいドレス買って貰えるかもっ。さっそく手紙書かなくっちゃ」
ちゃっかりとしたアジェーレの言葉に、呆れた目を向ける。
そして、良く言えばおねだり、悪く言えば恐喝の手紙を受け取った元帥は、少々不憫だと思う。
ただ、ドレスの件について、自分はこの話は聞かなかったことにしようと心に決める。
そんなきゃっきゃとはしゃぐアジェーレと、微妙な顔つきになった自分を無視して、ケイティが口を開く。
「あと、マーカスとジェーンはどうなったの?」
「あの二人も余罪はあるけれど、すべて些細なものだ。未来ある若者の首をそう簡単に跳ねたりはしない。まぁあの2人も共謀者ではあるから、王都近辺で、1年ほどしっかり懲役して放免ってとこだろう」
そこですかさずアジェーレが口をはさんだ。
「ふぅーん。で、マーカスがここへ戻ってくるのと入れ違いに、あんたは任期を終えて、シアちゃんと一緒に王都へ戻る。あわよくば、シアちゃんを婚約者として、ってことね」
「悪いか?」
逆ギレ半分、開き直り半分といった感情でじろりと二人を睨めば、大変、ぬるぬるとした笑みを向けられてしまった。
「まぁ頑張って。あと1年以上あるんだし。せめて、年内にイケメンくそ馬鹿ジジイって言われない関係になれば、見込みがあるんじゃない?」
「…………なっ」
何で、彼女から投げつけられた暴言をこの二人が知っているんだ。動揺が隠せない。
「あら?この話、施設で知らない人はいないわよ」
なんでもないことのように、さらりと言ったケイティの言葉に、この施設の通信網を一度見直さなければならないと、眉間を揉む。
「でもさぁ、こっちの任務は完了したけれど、シンシアちゃんがマーカスから貢いだお金って戻ってくるのかしら?」
「確か聞いた話だと、一年間ずっと貢いでいたんでしょ?結構な金額になるんじゃない?」
ひぃ、ふぅ、みぃと指を折りながら、これまで彼女がマーカスに貢いだ金額を計算し始めたケイティに妙にイラつきを覚え、自分は尖った口調でそれを遮った。
「シアが望むなら、詐欺罪として訴えることもできるが、それは本人の意思がなければどうにもらなんな。まぁ、返して欲しいと言えば私の私財から渡せばいい」
「…………本音が駄々洩れねぇ」
ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべるアジェーレを無視して、再びグラスに口を付ける。
けれど、アジェーレの口は止まらなかった。
「他の男から何にも受け取って欲しくないって、素直に言えば良いのに。っていうか、あんた、独占欲強すぎ。束縛も限度を超えると嫌われるわよ」
「…………」
これはなかなか手厳しい。特に後半が。
思わずグラスを持ったまま硬直した自分に、ケイティが取りなすようにこんなことを言った。
「まぁ、私達がいるから安心して、ね?」
「そうそう。あんたとシアちゃんがバージンロードを歩くまで、ちゃんと応援しているからっ」
「ちょっと、待て」
思わぬ展開にグラスを滑り落しそうになる。
「アジェーレ、お前、任務が終わったんだから、王都に帰れ」
「あーらぁ、ごめんあそばせぇー」
そんな言葉と同時にアジェーレは、せせら笑いにも似た奇妙な笑みを唇の端に浮かべた。
「あんたのお嫁さん候補が見つかったけど、そのお嫁さん候補があんたにつれないって、おじさまに伝えたら、そりゃ喜んで、任務期間を延長してくれたわ」
「…………なっ」
「つまり、今の任務は、あんたが無事シアちゃんと結婚できるまで応援するってこと」
華麗なウィンクでこの会話を締めくくったアジェーレとは反対に、自分は頭を抱えたくなった。
……最悪だ。本当に最悪だ。
残りの赴任期間を全て彼女を口説く為に、この短時間で任務を完了したというのに。なぜ、小姑よろしくこの女が居座るのだろうか。
アジェーレとの付き合いは長い。そして、血縁関係がある身内でもある。ただでさえ、身内が施設内にいるだけで居心地が悪いというのに。
しかもアジェーレは、なかなかの性格の持ち主だ。口では応援していると言いながらも、面白おかしく自分と彼女の動向を観察しているのだ。
絶対に、何が何でもこれを王都へ強制送還させなければ。そんなことを考え始めた突端、扉の向こうから控えめなノックの音がした。
入室を許可すれば、警備兵の一人がとても困窮した表情でいる。
「───………司令官殿、少々宜しいでしょうか?」
「どうした?」
「シンシアさんなんですが……その……」
歯切れの悪い部下の言葉に嫌な予感がする。
視界の端に映るアジェーレとケイティも、訝しげに眉を寄せている。
「シンシアがどうしたんだ?早く、言え」
そう部下に急かしながらも、心の中は言葉にならない焦燥で、ぎりぎりと軋みまわっている。
彼女は審判が始まってすぐ、部下に指示を出して離席させた。
政治がらみの生臭い話は、彼女に聞かせるべきではないと思ったのもあったが、何より今にも倒れそうな程、顔色が悪かったから。
だから自室に戻って、ゆっくり食事を取るなり、睡眠をとるなりして、とにかく身体を休めて欲しかったのだが。
ま、まさか、彼女の身に何かあったのだろうか……。
ぞわりと背中から怖気が走った途端、部下はとても言いにくそうに口を開いた。
「そろそろお食事をお運びしようと思ったのですが……どうもシンシアさん、鍵を閉めないまま、寝ておりまして……窓も開けっ放しのようで、風が入り込んだ際に、扉が開いてしまったんです。で、今はそのような状態で……でも、あの、一応、生存確認の為、警備兵の一人が中を確認したところ、ベッドにダイブした状態で寝ております。このままでは風邪を引いてしまうか───」
「あの馬鹿っ。なんて無防備なことをしてくれるんだっ」
気付けば自分はそう叫んで、椅子を蹴倒していた。
「伝令だ」
「はっ」
「いいかっ、絶対に誰もシンシアの部屋に入るなっ」
「はっ」
「もし、シンシアの寝顔を見た奴は、懲罰房行きだっ」
「はぁ!?」
最後の命令に部下が、目を剥いて素っ頓狂な声を上げた瞬間、アジェーレとケイティが弾かれたように笑いだす。
「あははっはははっははっはっ、あんたそれ、職権乱用よ」
「あはっははははっ、そんなしょうもない命令下さないで、さっさとシンシアちゃんのところ行きなさいよ」
使えるものを使って、何が悪い。それに、言われなくてもそうする。
そう言い返そうと思ったが、自分はもう部屋を飛び出し彼女の元へと駆け出した。
まったく、一難去ってまた一難。どうしてこう彼女は、無自覚に自分を翻弄してくれるのだろう。
窃盗団は壊滅に追い込んだ。けれど、まだ残党がいるかもしれない。そして、ここに報復に来るかもしれないというのに。
いつもこうだ。ちょっと優勢になったと思ったら、いつの間にか形勢逆転。こちらの心配や都合など無視して、彼女はいつも自分を全力疾走させるのだ。
そして、絶対に敵わないと思いながらも、悔しさより愛しさが募ってしまう。───………本当に恋とは恐ろしいものだ。
そんなことを思いながら、自分は、なりふり構わずで宿舎の彼女の元へ向かった。
すっかり暗くなってしまったけれど、無事、窃盗団の審判を終えた自分は、アジェーレとケイティの3人……つまり、いつものメンバーで、この任務が終了したささやかな祝杯を上げることにした。
「かんぱーい!!」
「おっうー」
「ご苦労だった」
それぞれが乾杯の音頭を口にして、グラスに入った酒を一気に飲み干す。
ここは先日と同じ会議室という名のサロン。そして、テーブルには乗り切れない程の酒とつまみが並べられている。………つまり、本日も、深酒に付き合わされるのであろうか。
うんざりとした気持ちを露骨に表してみたけれど、二人の視界にはまったく入ってないようで、好き勝手なことを口にする。
「それにしても、やるって言ってから2週間足らずで任務完了とは、さすが黒鷹の騎士さまね。マーカスに無理矢理アジトを吐かせて、たった4時間で壊滅に追い込んで。しかも、引き連れて行った部下はたった4人。これぞ愛の力ってやつかしら?ま、一方通行だけどねぇ」
「…………………」
「ま、つまりは、やればできる子だったてわけね。あとはシンシアちゃんを口説くだけね。…ぷっ。そっちのほうが大変そうだけれど」
「…………………」
アジェーレとケイティの言葉は、褒められているのかけなされているのかわからない。思わず表情が険しくなる。
けれど、そんな自分を無視してアジェーレは、グラスに酒を足しながら口を開く。
「で、結局、ティガリオはどうなったの?」
「ああ。余罪がかなりあるからな、今日一日では裁ききることはことは不可能だ。一先ず王都へ連行。そして、徹底的に余罪を追及して、あとは捕虜として当分は王都にとどまってもらうだろうな。幸運にも、ディガリオは官僚の息子だ。王都でも、それはそれは丁寧にお迎えしてもらえるだろう」
「あら、じゃあ外交的にも使えるカードになるってわけね。おじさま、ウハウハね。今なら新しいドレス買って貰えるかもっ。さっそく手紙書かなくっちゃ」
ちゃっかりとしたアジェーレの言葉に、呆れた目を向ける。
そして、良く言えばおねだり、悪く言えば恐喝の手紙を受け取った元帥は、少々不憫だと思う。
ただ、ドレスの件について、自分はこの話は聞かなかったことにしようと心に決める。
そんなきゃっきゃとはしゃぐアジェーレと、微妙な顔つきになった自分を無視して、ケイティが口を開く。
「あと、マーカスとジェーンはどうなったの?」
「あの二人も余罪はあるけれど、すべて些細なものだ。未来ある若者の首をそう簡単に跳ねたりはしない。まぁあの2人も共謀者ではあるから、王都近辺で、1年ほどしっかり懲役して放免ってとこだろう」
そこですかさずアジェーレが口をはさんだ。
「ふぅーん。で、マーカスがここへ戻ってくるのと入れ違いに、あんたは任期を終えて、シアちゃんと一緒に王都へ戻る。あわよくば、シアちゃんを婚約者として、ってことね」
「悪いか?」
逆ギレ半分、開き直り半分といった感情でじろりと二人を睨めば、大変、ぬるぬるとした笑みを向けられてしまった。
「まぁ頑張って。あと1年以上あるんだし。せめて、年内にイケメンくそ馬鹿ジジイって言われない関係になれば、見込みがあるんじゃない?」
「…………なっ」
何で、彼女から投げつけられた暴言をこの二人が知っているんだ。動揺が隠せない。
「あら?この話、施設で知らない人はいないわよ」
なんでもないことのように、さらりと言ったケイティの言葉に、この施設の通信網を一度見直さなければならないと、眉間を揉む。
「でもさぁ、こっちの任務は完了したけれど、シンシアちゃんがマーカスから貢いだお金って戻ってくるのかしら?」
「確か聞いた話だと、一年間ずっと貢いでいたんでしょ?結構な金額になるんじゃない?」
ひぃ、ふぅ、みぃと指を折りながら、これまで彼女がマーカスに貢いだ金額を計算し始めたケイティに妙にイラつきを覚え、自分は尖った口調でそれを遮った。
「シアが望むなら、詐欺罪として訴えることもできるが、それは本人の意思がなければどうにもらなんな。まぁ、返して欲しいと言えば私の私財から渡せばいい」
「…………本音が駄々洩れねぇ」
ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべるアジェーレを無視して、再びグラスに口を付ける。
けれど、アジェーレの口は止まらなかった。
「他の男から何にも受け取って欲しくないって、素直に言えば良いのに。っていうか、あんた、独占欲強すぎ。束縛も限度を超えると嫌われるわよ」
「…………」
これはなかなか手厳しい。特に後半が。
思わずグラスを持ったまま硬直した自分に、ケイティが取りなすようにこんなことを言った。
「まぁ、私達がいるから安心して、ね?」
「そうそう。あんたとシアちゃんがバージンロードを歩くまで、ちゃんと応援しているからっ」
「ちょっと、待て」
思わぬ展開にグラスを滑り落しそうになる。
「アジェーレ、お前、任務が終わったんだから、王都に帰れ」
「あーらぁ、ごめんあそばせぇー」
そんな言葉と同時にアジェーレは、せせら笑いにも似た奇妙な笑みを唇の端に浮かべた。
「あんたのお嫁さん候補が見つかったけど、そのお嫁さん候補があんたにつれないって、おじさまに伝えたら、そりゃ喜んで、任務期間を延長してくれたわ」
「…………なっ」
「つまり、今の任務は、あんたが無事シアちゃんと結婚できるまで応援するってこと」
華麗なウィンクでこの会話を締めくくったアジェーレとは反対に、自分は頭を抱えたくなった。
……最悪だ。本当に最悪だ。
残りの赴任期間を全て彼女を口説く為に、この短時間で任務を完了したというのに。なぜ、小姑よろしくこの女が居座るのだろうか。
アジェーレとの付き合いは長い。そして、血縁関係がある身内でもある。ただでさえ、身内が施設内にいるだけで居心地が悪いというのに。
しかもアジェーレは、なかなかの性格の持ち主だ。口では応援していると言いながらも、面白おかしく自分と彼女の動向を観察しているのだ。
絶対に、何が何でもこれを王都へ強制送還させなければ。そんなことを考え始めた突端、扉の向こうから控えめなノックの音がした。
入室を許可すれば、警備兵の一人がとても困窮した表情でいる。
「───………司令官殿、少々宜しいでしょうか?」
「どうした?」
「シンシアさんなんですが……その……」
歯切れの悪い部下の言葉に嫌な予感がする。
視界の端に映るアジェーレとケイティも、訝しげに眉を寄せている。
「シンシアがどうしたんだ?早く、言え」
そう部下に急かしながらも、心の中は言葉にならない焦燥で、ぎりぎりと軋みまわっている。
彼女は審判が始まってすぐ、部下に指示を出して離席させた。
政治がらみの生臭い話は、彼女に聞かせるべきではないと思ったのもあったが、何より今にも倒れそうな程、顔色が悪かったから。
だから自室に戻って、ゆっくり食事を取るなり、睡眠をとるなりして、とにかく身体を休めて欲しかったのだが。
ま、まさか、彼女の身に何かあったのだろうか……。
ぞわりと背中から怖気が走った途端、部下はとても言いにくそうに口を開いた。
「そろそろお食事をお運びしようと思ったのですが……どうもシンシアさん、鍵を閉めないまま、寝ておりまして……窓も開けっ放しのようで、風が入り込んだ際に、扉が開いてしまったんです。で、今はそのような状態で……でも、あの、一応、生存確認の為、警備兵の一人が中を確認したところ、ベッドにダイブした状態で寝ております。このままでは風邪を引いてしまうか───」
「あの馬鹿っ。なんて無防備なことをしてくれるんだっ」
気付けば自分はそう叫んで、椅子を蹴倒していた。
「伝令だ」
「はっ」
「いいかっ、絶対に誰もシンシアの部屋に入るなっ」
「はっ」
「もし、シンシアの寝顔を見た奴は、懲罰房行きだっ」
「はぁ!?」
最後の命令に部下が、目を剥いて素っ頓狂な声を上げた瞬間、アジェーレとケイティが弾かれたように笑いだす。
「あははっはははっははっはっ、あんたそれ、職権乱用よ」
「あはっははははっ、そんなしょうもない命令下さないで、さっさとシンシアちゃんのところ行きなさいよ」
使えるものを使って、何が悪い。それに、言われなくてもそうする。
そう言い返そうと思ったが、自分はもう部屋を飛び出し彼女の元へと駆け出した。
まったく、一難去ってまた一難。どうしてこう彼女は、無自覚に自分を翻弄してくれるのだろう。
窃盗団は壊滅に追い込んだ。けれど、まだ残党がいるかもしれない。そして、ここに報復に来るかもしれないというのに。
いつもこうだ。ちょっと優勢になったと思ったら、いつの間にか形勢逆転。こちらの心配や都合など無視して、彼女はいつも自分を全力疾走させるのだ。
そして、絶対に敵わないと思いながらも、悔しさより愛しさが募ってしまう。───………本当に恋とは恐ろしいものだ。
そんなことを思いながら、自分は、なりふり構わずで宿舎の彼女の元へ向かった。
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