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私と司令官さまの攻防戦

お仕事の合間の女子会

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拝啓 お母様

お元気でしょうか?いえ、お元気でしょうね。
お母様が病床に居るなんて世界が滅んでもあり得ないですから。

さて、この度は、私の職場に沢山の苗を売りつけてくれてありがとうございました。

経費で購入するので私の懐は痛みませんが、きっとお母様は大口注文でウハウハ状態でしょう。

そろばん片手に満面の笑みを浮かべるお母様の姿が目に浮かびます。

ただね………お母様、一言だけ言わせてください。

大量の苗を一気に納品するのは、やめてくださいっ。

しかも、注文してから何故2日後に納品するのでしょうか?

薬草園はまず、土を慣らさないといけないので1週間後に納品して欲しいと司令官さまは言ったと聞いております。

なのに、あなたは鬼畜ですか!?

おかげで私は、徹夜で薬草園の土と戯れる羽目になりそうです。

どうか、このまま私が土に還らぬよう見守っていてください。

あなたの娘、シンシアより。

敬具




 …………なんていう、手紙をスコップ片手に心の中で綴ってみた。もちろん、母親に届くことはないし、届けるつもりもないけれど。

 ただ、そんな愚痴めいたことを言いたい私の気持は、ちょっとはわかってほしい。

 なにせ、今現在、私は医務室に併設されている薬草園で雑草と格闘中。しかも、本日中にこの薬草園を整えて、新しい苗を迎える準備をしないといけないというミッションをこなしているのだから。

 唯一の救いは、司令官さまと顔を合わせなくて良いことだけ。

 でも、司令官さま昨日、風邪っぽかったけど、大丈夫かなぁ。顔が赤かったし。

 後で時間を見つけて薬膳茶を運んだほうが良いかな。あ、駄目だ、この薬草園、今は雑草しかない。なら、仕方がない。自然治癒で頑張ってもらおう………などと、つらつら考えながら手を動かしていたら───。

「シンシアちゃん、ちょっと休憩しよー」

 隣の医務室から顔を覗かせたケイティ先生に私は立ち上がって頷く。

 ただ、エプロンを外しながら、まだまだ新しい苗を迎えることはできない薬草園を見てため息を付く。これは長丁場になりそうだ。っていうか、今日、徹夜かなぁ。

 そんなふうなことを考えて、一瞬、休憩を断ろうと思ったけれど、やっぱり、こまめな小休止は必要だと判断して、私は、医務室へと足を向けた。


「おっつぅー、シアちゃん」

 医務室に足を踏み入れた途端、ケイティ先生に負けず劣らずの緩い挨拶をしてくれたのは、この施設で働く貴重な女子枠の20代半ばのアジェーレさん。

 ケイティ先生と同様に大変、美人さん。焦げ茶色の波打つ髪に、切れ目のスミレ色の瞳にふっくらとした唇。もちろん、おっぱいも、ぼよんぼよんでございます。

 ちなみに何のお仕事をしているかは不明。というか、今日が初対面。

 でも、アジェーレさんは私のことは知ってくれていたようで、初対面なのに、いきなり距離感ゼロでシアと呼んでくれる、とっても気さくなお方だったりする。

 ちなみに、二人はずっとここでお喋りしているわけではない。ちゃんとお手伝いを申し出てくれたのだ。……ただ、ドン引きする程、不器用というかガサツだった。

 肥料の調合は、さすがに無理だと判断した私は、雑草抜きをお願いした。のだけれどもケイティ先生は、3本引っこ抜いたあと、突然姿を消し、『これぶっ掛けて良い?』と劇薬を手にして戻って来た。薬瓶に描かれているドヤ顔を決めるドクロマークが死ぬ程怖かった。

 そして、アジェーレさんもなかなかの豪快な人で、アルコール度数マックスレベルのお酒を片手に『これかけて、火を付けたら早いんじゃないの?』と、真顔て提案する始末。

 ええ、もちろん、お二人には手出し無用とお伝えして、即刻、退場願ったのは言うまでもない。……ただ、ある意味、良いものを見させてもらった。

 今後、この薬草園はマイ薬草園と思って、私が世話を引き受けよう。司令官さまには、先生でも世話できると豪語してしまったので、こっそり朝と夕方にするけれど。

 そんな姑息なことを考えられる自分は、ちょっぴり大人になったなぁと痛感してみる。

「はーい。これ飲んでね」

 医務室のテーブルに腰掛ければ、すぐさまケイティ先生が私の前にホットショコラを置いてくれる。とっても嬉しい。しかも、マシュマロまで添えてくれる。先生、大好きです。

 でも、図々しくマシュマロを、ホットショコラに入れる私ではあるが、左右に巨乳のべっぴんさんに挟まれた私の胸は、とても謙虚で慎ましい。ちょっぴり切ない。

 そして、妙に塩味の聞いたホットショコラを飲んでいると、アジェーレさんはテーブルに肘を付き、私を覗き込んだ。

「シアちゃん、頑張るねぇ」
「いえ、これもお仕事です」

 カップから口を離してそう応えれば、アジェーレさんは『やだっ健気っ』と頭をいい子いい子してくれる。嬉しいけれど、なんだか小動物扱いされてるなぁと心の隅で思ってみたりする。

 穏やかな昼下がりに、女子3人でお茶を飲む光景は、さながら女子会だと思っていたけれど、なんかちょっと違う。

 そんな少々複雑な心境の私を無視して、アジェーレさんは再び口を開いた。

「っていうか、シンシアちゃん、いくつ?」
「16歳です」
「うわぁ、若っ。だから肌すべすべなんだ。良いなぁ」
「…………はぁ、どうもありがとうございます」
「で、司令官さまとは、もうエッチした?」
「はぁ!?」
「ねえねえ、司令官さまは、お上手だった?あっちの方は大きかった?」
「はぁいいいいいいいっ!?」

 思わずホットショコラが入ったカップが手から滑り落ちる。ちなみにケイティ先生がナイスキャッチをしてくれて、間一髪でセーフとなる。

 でも、私は、ケイティ先生にお礼を言う前に、一先ずこれだけはアジェーレさんに言わなければならないっ。

「な、な、な、なんてこと聞くんですかっ」

 真っ赤になって叫んだ私に、アジェーレさんは切れ目をくるりと丸くする。 
 
「だって、付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってませんっ」

 バンッとテーブルにに両手を叩きつけて再び叫んだ私に、アジェーレさんは大きく仰け反った。

「ええー嘘っ。もう、この施設中、その話題で持ちきりよ?」
「即刻、それはデマカセという回覧板をまわしてくださいっ」
「えーやだぁー。だって面白いもん」
「………………」

 面白いって、何!?

 思わずアジェーレさんをジト目で睨んでしまう。

 ちなみにケイティ先生は、このやり取りの間中、ずっと腹を抱えて笑っていらっしゃる。ったく、何が面白いのだろう。こっちは何一つ面白くない。
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