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【現在】恋人!?、やっぱり助手編

31.黒は女を綺麗に見せるそうです

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拝啓、天国のお父さん、お母さんへ

ご無沙汰しております、天国ライフはいかがでしょうか?

さてこの度、翠は大人の世界を覗いてしまいました。
私的にはがっつり覗いたつもりでしたが、どうやら
ちょびっとしか覗いていないそうです。

え?誰にそんなこと聞いたって??

そんな事言えないです。個人情報とかあるので、実名は
言えません。ごめんなさい。

さて大人の世界を覗いた感想は、一言で言うとものすごく
眩しいものでした。
もう、サングラス必須の目が痛くなるような世界でした。

ちなみに私は今、諸般の事情でサングラスのない世界にいます。
サンバイザーも、もちろん無い世界です。

と、まぁその辺を説明すると、長くなるので……
またの機会にします。

それでは、また。

翠より

*・゜゚・*:.。..。.:*・゜・*:.。. .。.:*・゜゚・**・゜゚・*:.。..。.:*・゜


 ………両親宛てに心の中で綴った手紙は、即刻その場で消去した。

 天国への宛先も知らないし、もし仮に知っていたとしてもこんな手紙出せるわけがない。ただ、あまりに衝撃的なことだったので、誰かに聞いて欲しかっただけ。それぐらい衝撃的な一夜だったのだ。

 ぶっちゃけ私は甘かった。夜会へ行くために取引したのは良いけれど、まさか、あんな夜を過ごすなんて思ってもみなかった。

 デュアの長い指があんな動きをするなんて知らなかったし、キスする場所は唇以外にもあるってことも知った。

 それにしても、初めてのことでガッチガチのいっぱいいっぱいで、途中からは上手く息すらできない私だったのに、デュアは恐ろしいくらい余裕綽々としていた。

 経験の差?と聞いたら、愛情の差と返されてしまった。いや、技量の差だろう。

 どうでも良いのか良くないのかわからないけれど、デュアは始終服を着たままだった。私だけ、あられもない恰好なのはズルいと訴えたけれど、デュアは【服を脱いだら理性を無くすけど良いか?】と聞いてきた。まったく大人と言う生き物は、息するように姑息なことを吐いてくれるものだ。

 でも約束通り、一線は超えていない。そう……あれだけのことをしながら超えていないのだ。もう超えたことにして良いじゃん?って思うのだけれど、やっぱりそうはいかないのだろう。

 別の意味で一線を超えるのが怖いと思ってしまったけれど、口に出すことはしない。余計なことは口にしない───そう、私も少し大人になったのだ。

 ちなみに一晩明けて、デュアは上機嫌だった。それはそれは上機嫌だった。どれぐらい上機嫌だったかというと、ロゼ爺が引くほど。そして、翌日も翌々日もご機嫌で、私は数日ロゼ爺の、ほっほっという笑い声を聞くことがでず、ちょっと寂しかった。

 とまぁ、あの夜のことはこれくらいにして、身を挺して(?)もぎ取った夜会の参加資格ですが、私が悶えている間にデュアはしっかり段取りを整えていてくれました。




 ────それから数日後。
 
 デュアと一緒に朝食を食べた後、そろそろ夜会のことを聞いても良いかな?と、そわそわしていたら────。

「夜会の当日、お前は、ライ隊長の侍女として参加しろ」

 と、デュアが淡々とそう言ってくれた。

「やったー!」 

 すぐさまバンザイをした私に、デュアは何とも言えない変な顔をした。

「侍女だぞ?わかっているのか?もちろん当日の服装は侍女のお仕着せだぞ」
「うん!」

 ドレスなんかより、よっぽど良い。ああいう無駄にかさばる服は、聖女時代に嫌と言うほど着てもうこりごりだ。

 それに侍女って夜会の間、ずっと身のまわりの世話をする人の事。つまりずっとライ隊長の傍にいられるのだ。

 ちらりと遠目で見るのではなく、がっつり見れるのだから願ったり叶ったりだ。でも、デュアは私の反応はイマイチ納得できないようだった。

「……そうか。てっきり俺は、ドレスが着たいものだと思っていた」
「あれは良いよ。動きにくいし、興味ない。着るのも脱ぐのもめんどくさい」
「………そうか」

 そっけなく答えた私に、すぐさまデュアは、ものすごく微妙な顔つきになった。
 
 そして【着飾るのをめんどくさいって言うなんて】とブツブツ文句を言いだした。経験上デュアのぶつくさは長くなるので、慌てて遮るように口を開いた。っていうか、今すぐ確認したいことがあったのだ。

「ね、デュア。侍女のお仕着せって、まさかのメイド服?」

 目を輝かせて問うた私に、デュアはもっと複雑な顔をした。

「……いや、一応、控えめなドレスを用意するつもりだ………ってお前、まさかメイド服着たいのか!?」
「うん、着たい!!」

 再びバンザイをした私に、デュアは呆れ果てた溜息をこぼした。

 そんな視線など今はどうでも良い。だって、まさかここでメイド服を着れるなんて思ってもみなかったから。ぶっちゃけ嬉しい。しかも、本物のメイド服なのだ。

 でも、飛び上がらんばかりに喜ぶ私を見て、デュアは微妙な顔をした。

「労働者の服着て、なにが楽しいんだ?」

 お答えしよう、デュア。メイド服は、女の子のロマンだからであります。



 そして舞踏会当日。朝からそわそわ。そわそわし過ぎて、ちょっと疲れて、お昼寝をして、窓から夕陽が差し込むころ、やっとお待ちかねの夜会の衣装と言う名のメイド服が届いたのだ。


 でも………張り切って、メイド服に袖を通したのはいいけれど、すぐに後悔した。
 メイド服、動きづらい。まず、裾がバサバサと広がりすぎだし、あと、襟が詰まりすぎて、喉元が窮屈。

 でもやってみたかったことがある。そして、丁度、扉を叩く音がした。

「ミドリ、着替え終わったか?入るぞ」
「うん。どうぞー」

 スカートの裾をちょっと持ち上げて、デュアの入室を待つ。そして扉が開いたと同時にこう言った。

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

 膝を折って、デュアをお迎えしたけれど、当の本人は扉を開けたまま固まってしまった。多分、私の行動に理解ができなかったのだろう。

 そしてしばらく私の行動を理解しようと、自問自答してくれたけれど、やっぱり分からなかったらしい。

「……お前、何言ってるんだ?」
「あ、いいの別に忘れてっ」

 真顔で質問されると、死ぬほど恥ずかしい。どうやらこの台詞がわかるのは、日本だけだったようだ。

 翻訳ネックレスがあるおかげで、普段、デュアとの会話に何不自由してない分、こんなときにちょっとだけ、文化の違いというか壁があるのを感じてしまう。

 そんなことを考えながら下を向いてイジイジしていたら、不意にデュアに肩をたたかれた。

「そこ、座れ」
「へ?」

 間抜けな返事をした後、デュアが顎で示したのは鏡台だった。首を捻りながらも、言われた通り、黙って鏡台の前に着席する。そして何故かデュアは私の背後に立った。

「メイドは、髪を結うのが規則だからな」

 そう言ってデュアは櫛を手に持つと、私の髪を梳き始めた。意外なことにデュアは手馴れた様子で私の髪を結い上げていく。

 そこで一つ疑問が産まれてしまった。

「ねえ、デュア。一つ聞いても良い?」
「ん?なんだ」
「別の女性ひとにも、こうやって髪を結ったりしたことあるの?」
「……黙秘だ」

 こういうとき、デュアは私の知らない大人の一面を見せる。私とデュアは12歳離れている。だからデュアが過去に恋人がいたことも当たり前だと思うし、ぶっちゃけ童貞だったらそれはそれで引く。

 矛盾してるのはわかっているけれど、一言で言うなら複雑な心境になるってしまうのは、乙女心ということで勘弁して欲しい。

 と、そんなことを考えながら、ぼんやり鏡を見ていたら、あっという間に私の髪は綺麗に纏められていた。

「できたぞ」 
「おお!」

 いつもと違う自分に、思わず感嘆の声が出てしまう。黒いメイド服と、デュア美容師のお陰で今日の私は大人っぽい。

 ちょっと前のめりになりながら右に左にと体の向きを変えていたら、鏡越しにデュアがくすりと笑った。

「随分、見違えるな」

 鏡越しにデュアは、眩しそうに少し目を細めてこちらを見ている。逆光でもないのに、どうしたのだろう。
 
「お?」

 はて、と首を倒した私に、デュアはぷっと吹いた。

「お前、口開かなきゃ、もっと良いんだけどな」

 デュアの言ってることが良くわからない。ただ、軽くディスられたことは間違いない。あからさまにムッとした私に、デュアは私と同じように前のめりになって鏡を覗き込む。

「髪を結って、黒い服着て、別人みたいだって言いたかったんだ」
「へ!?」
「綺麗だな」
「○!※□◇#△!」

 言葉だけならまだしも、デュアは私の腰に手を回し、顎をすくいとる。

「口紅を付ける前で良かった」

 顎をすくいとられたまま、親指で唇を刷くようになぞられる。そしてそのまま唇が重なる。

「なぁ知ってるか?」
「ふぇ?」
「黒は女を美しく見せるんだぞ」
「??」
「つまり、こうなったのは、お前のせいだ」
「なんですと!?」

 ニヤニヤと意地悪く笑みを浮かべるデュアが憎たらしい。なんで私の責任になるのだろう。デュアは、本当に本当に汚い大人だ。

 これ以上良いようにされるのは、なんとなく癪に障るので、デュアの腕から逃れようともがくが、余計に締め付けられる。

「暴れるな。大人しくしろ、髪が乱れる」
「じゃ、その腕を外してっ」

 首を捻ってデュアを睨むが、彼は鼻で笑って、こう言った。

「ご主人様の命令を聞けないのか」
「!?」

 えっとね、デュア。それ、使い方が違うよ。
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