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【現在】居候、ときどき助手編

19.衝撃の事実です②

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 これからデュアが語るのは、これまでの関係を壊してしまうかもしれない深刻なことなのだろう。私を抱くデュアの腕に力がこもる。そしてデュアは、一度ぐっと何かを噛みしめてから静かに口を開いた。

「これを持つ者は────」
「ちょっと待った!」

 どうしよう、めっちゃ緊張してきた。思わず遮ってしまった私に、デュアがあからさまにむっとする。

「お前……ここで、ストップかけるなんていい度胸じゃねぇか」

 ジト目で睨まれて、私はつぃーっと視線を避けながら口を開いた。

「いや、なんとなく、ちゃんと向かい合って聞いたほうが良いかなって思って……」
「俺はこのままでも、かまない」
「私が落ち着いて聞いてられないのっ!!」
 
 だってね、やっぱり密着されたまま聞くっていうのはチョット心臓が厳しいのだ。
 
 デュアの承諾を得ずに、さらりと逃げ出した私と、無言で私を捕まえようと腕を伸ばすデュア。そんなところに、タイミング良くロゼ爺が濡れタオルとお茶のセットを持って入室してくれた。……だけど、私達を見て一言。

「すぐ退散したほうがよろしいでしょうか?」
「ロゼフ、そうしてもらえるとありがたい。……あ、いや。お茶を入れてからにてくれ」
「……かしこまりました」

 ロゼ爺、ついでに何か食べ物もお願いします。


 さて、ロゼ爺が煎れてくれたお茶をテーブルで挟みながら、私達は着席した。お茶を飲んで一息。私はそれに、柔らかいプティングも一皿ペロリと完食。
 そして、デュアがティーカップを置いたのが仕切り直しの合図となった。

「これを持つ者は、王の代弁者と言われていて、表沙汰に処理できないことを秘密裏で片づけるもの。まぁ……簡単に言えば、王様公認の暗殺者ってわけだ」
「……王様公認で?」
「ああ」

 拳銃を玩びながら、デュアは淡々と教えてくれた。
 でもデュアが暗殺者たっだというのは知っていたから、そこはなるほどと素直に受け入れることができた。ただ、疑問が一つある。

「じゃ、カザード小隊長を殺したのも?」
「その一環だった」
「でも、何で拳銃で撃たなかったの?」
「そこに気付いたか。意外だな」
 
 ちょっと待って、デュア。そんなにあからさまに驚いた顔をしなくてもいいじゃん。濡れタオルを頬に押し付けながら、私はデュアを思いっきり睨む。けれど、デュアは目を細めるだけだった。デュアの今日イチの笑顔がコレなんて、ちょっと腑に落ちない。

 それにしても、どうやらデュアは、私の頭が相当残念だというふうに思っていたようだ。憤慨は……しないけど、これだけは言わせて欲しい。馬鹿には馬鹿の動物的な直感ってのがあるのだっと。

 でも、それを口にすると脱線してしまいそうなので、ぐっと飲み込み、代わりに本題に添った疑問を口にした。

「あの時、カザート小隊長を撃たなかったのはわざとってことなの?」 
「ああ、そうだ。あれは見せしめに殺した」
「!?」

 何の抵抗もなく殺すという単語を使うデュアに、背筋が冷たくなり思わず息を呑む。そんな私をちらりとデュア見るが、そのことには何も触れずに言葉を続けた。

「ガザード小隊長は、反逆組織の一員だった。しかもかなりの上位のな。だから敢えて剣で殺したんだ。朝になり、惨状を通行人に発見させ、小隊長が何者かに殺害されたという噂を町中に流す必要があったんだ」
「……そっか」

 カザード小隊長が反逆組織だと知ってショックを隠せない。戦争中、ずっとライ隊長を支えていたのに。カザート小隊長は、何を選び何を捨てたのだろう。でも、彼はもうこの世にいない。だから彼が手にしたかったものは、誰にもわからない。虚しさだけが胸ににしこりとなって残る。

「反逆組織のこと、聞いてもいい?」
「……今は話せない。ただ、後で必ず話す」
「うん、わかった」

 今は話せないということは、つまり今まさに真相を追及している真っ只中なのだろう。なら、私が気付いた額に傷がある男達についても話しておくべきだ。

「デュア、あのね。あの覆面達……闇市場で───」
「ああ、知っている。それも含めて、後で話す」
「……うん、わかった」


 デュアのその言葉だけで、あの覆面の男達とカザート小隊長とが繋がりがあったことがわかった。でも詳しくは教えてもらえない。曖昧なままでいることは落ち着かない。けれどデュアの言葉を信じて、私はこれ以上このことについて問うことは諦める。

 さてさて、そろそろ私の質問は核心に迫ろうとしているが、その前に───。

「ところでさ、デュアは、戦争中も暗殺者だったの?」

 という少々狡い問い掛けをしてしまった。

「いや違……─────ちっ、お前そういう聞き方は可愛くないぞ」

 あ、カマかけたのばれましたか。
 ごまかすように、へへっと笑ったら、デュアも笑ってくれた。但し、苦笑いだったけど。でも、無視されたり誤魔化されたりするよりは、全然嬉しい。だから、私は直球でデュアに聞いてみた。

「デュア、助けに来てくれた時、私のことミドリって言ったよね」
「…………………………」

 黙秘権を行使しているデュアだが、思いっきりしまったと顔に出ている。それ、意味ないと思うよ。ということで、口元を抑えたまま黙りこくるデュアにもう一度、問いかける。

「説明してくれる?デュア。どうして、私の本当の名前を知っているの?」
「…………………………」

 沈黙、再び。貝のように口を閉ざしたデュアに、私は口を開いてくれるのを辛抱強く待つ。
 それからしばらくして、デュアはぎこちなく口を開いた。 

「───……何言ってんだ、お前?」
「いやいやいやいや。デュア……誤魔化そうとしてるけど、無理があるよ」
「……」

 目を泳がせながらあらぬ方を向くデュアに、さすがに私も呆れてしまう。っていうか、デュア、私が言うのも何だけど、ごまかすのめちゃくちゃ下手過ぎない!?
 思わず苦笑が零れてしまった私に、デュアはギロリと睨みつける。そして、ああ、とか、ううっ、とか言葉にならないうめき声を吐いた後、ぼそぼそと何かを呟いた。


「…………の……に、決まってるだろ……」

 デュアの言葉は小さすぎて、一番大事なところが聞こえない。え、何々とテーブルに手を付いて身を乗り出した私耳朶に、大音量の叫び声が鳴り響いた。

「お前のことを覚えてるからに決まってるだろ!」
「そうなんですか!?」

 飛び上がらんばかりに驚いた私は、とりあえず同じ音量で返事をする。すると、ほぼ逆ギレ状態になっているデュアが目をむいて叫んだ。

「それしかないだろっ」
「それもそうですっ」

 ん?なんで覚えてるの??
 その新たな疑問は、そのまま勢いで口にしてしまった。

「何で覚えてるの?」
「…………」

 黙秘、再び。
 でもデュアの表情を見たら、言えない理由は何となくわかった。それは、私には言えないし、言いたくないことなのだろう。だから私は、遭えて自分から口にした。

「……私のせいなんでしょ?」

 その言葉に、デュアの眉がピクリとはねた。
 たったそれだけの仕草だったけど、それだけで理解してしまう。デュアは戦争が終わってから、暗殺者になったのだ。原因は私にあったのだ。

「ごめん、私がデュアに面倒事を押し付けてしまったんだよね」
「…………」

 うなだれる私に、デュアは、否定も肯定もしない。でも、何も言わないのは、肯定という意味なのだ。

 本当はついさっき叫びながら、頭の隅で気付いしまっていた。
 日本に帰る前に私は、いきなり聖女の存在が消えたら、どうなるんだろうっていう不安を抱えていた。でも、誰かが何とかしてくれるって、心のどこかでどこかで思っていた。私なんかが考えてもどうすることもできないって端から他力本願だったのだ。───私はズルくて、卑怯だった。そして、逃げた私の後始末のせいで、デュアが暗殺者という道を選ばざるを得なかったのだ。

「どうして一緒に忘れてくれなかったの!?」

 気付いたらそう叫んでしまっていた。でも、爆発した感情は抑えきれない。

「なんでデュアが、そんなことしないといけないの!?全部忘れちゃえば良かったじゃんっ」
 
 誰も覚えていない私なんかの為に、デュアが暗殺者になる必要なんてないのだ。もし仮に誰かが暗殺者にならないといけないのなら、それは多分、私なのだ。私が途中で放り出してしまったのだから。

 けれど、デュアはそこで初めて怒りの感情を見せた。藤色の瞳を濃くして、地を這うような声でこう言った。

「ふざけたことを言うな。俺が嫌だったんだ」
「なんで!?」

 吐き捨てるように呟いたデュアの言葉に、咄嗟に私はその意味を問うてしまう。私のその問いにデュアは、お前いい加減にしろよと呻いてこう言った。 

「俺が、お前のことを忘れたくなかったんだ!」
「どうして!?」
「好きだからに決まってるだろっ」
「!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ────衝撃の告白だった。
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