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【現在】居候、ときどき助手編

14.初仕事、リベンジさせて頂きます!

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 私のファーストキスはお仕置きで終わった。ちなみに毒消しを飲んだ時の口移しは、救助行為だからノーカンだ。だってそうしないと、あまりにも私のファーストキスが可哀想すぎる。
 まぁ……お仕置きも口移しも私のヘマからきたものだから、今更文句は言えないし、しかも相手はどちらもデュアだった。

 あれ?ってことは、もしかしたらデュアは、ある意味、キスの被害者なのかもしれない。今頃【こっちだって誰がお前なんかと】って思ってるかもしれない。大変、申し訳ないことをしてしまった。

 ───こっそりカミングアウトすると、実は私、デュアからのキスが嫌ではなかった。でもこのことは、私の胸の内に秘めておこう。

 さて、お仕置きを頂戴した私は、それから一週間は、部屋から一歩も出るなと言い渡された。そっちの方がよっぽど折檻だよと、私は異議アリと叫んだけれど、2秒で却下されてしまった。 

 ふて腐れる私にデュアは、あの薬は毒消しを呑んでも時間差で症状が再発する場合があるらしいと教えてくれた。そう言われたら、おいそれと外に出るのは危ないことぐらいわかる。街中で突然ぶっ倒れる自分を想像したら目も当てられない。
 
 けれど、元気なのに部屋から出るなと言われたら、それはもう軟禁状態で苦痛でしかない。

 屋敷の中なら倒れてもすぐに気付いて貰えるから、ロゼ爺にお手伝いを申し出たけれど、丁寧に断られてしまった。にっこりと【独りのほうがはかどります】と笑顔で拒絶するロゼ爺は、心なしか凄味がきいていてちょっぴり怖かった。

 ちなみにデュアにもお手伝いを申し出てみたけれど【邪魔だ】の一言で、一蹴されてしまった。

 名ばかりの助手生活が続いて、大変居心地が悪い私だったけど、実は名誉挽回の為に、策をめぐらす時間に費やしていたりもした。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そして、一週間後。

 薬の副作用もないと判断され、やっと私は軟禁状態から解放されたのだ。本当に長かった。さて、初仕事のリベンジと行きましょう。


「デュア、もう一度、潜入捜査に行きたいと思います」

 きっちり踵をそろえて敬礼のポーズを取ってみる。
 ここはデュアの執務室で、眼前には黙々と書類をさばくデュアが机に腰かけている。 

「アホか、もうあの件はいい」

 デュアは書類から目を離さず、面倒くさそうに口を開いた。せめてこちらを向いて言ってほしい。 
 ただ、人間は慣れる生き物だ。これぐらいの辛辣な言葉でめげる私ではない。
 
「大丈夫!今度こそ任せて」

 ドヤ顔を決めて、デュオを見上げたら。思いっきりため息をつかれた。

「こんな信用できない任せてを聞いたのは始めてだ」

 初体験、良かったね!いやいや、そうじゃない。
 
「ちゃんと策を練ったんだから、せめてそれぐらい聞いてクダサイ」

 デュアに聞いてもらえないと話が始まらない。私の労した時間が泡となる。不本意だけど、ここは下手に出てみた。
 まぁ……最後の敬語が片言になってしまったのは、私がまだまだ感情を隠せない子供だったからだ。
 
 でも、私の低姿勢が功をなしたのか、デュアはやっとこちらを向いてくれた。けれど訳の分からない事を口にした。

「ああ、そうか」
「まだ何も言ってないよ」

 こてんと首を倒す私だが、デュアはそんな私に構わず書類を置いて席を立った。

「つまり、な」

 そこで一旦言葉を区切って私と向かい合う。ついと伸ばされたデュアの細い指が私の顎を絡めとる。

「お前は、俺にキスをねだっているわけか」
「何でそうなるの!?」

 顎にかかったデュアの指を払いのけて、力いっぱい叫ぶ。けれどデュアは意地悪い笑みを浮かべて、言葉を続ける。

「どうせ、お前が考えた策なんてたかが知れてる。失敗するのが目に見えているのに、リベンジだ策だと騒ぐのは、キスをねだってると考えるのが妥当だろ?」
「全然、妥当じゃないよ。失敬な!!」

 憤慨する私にとは反対にデュアは、はいはいと適当な返事をする。あーまた、あしらわれた。腹が立つ。

 今回は別に意固地になって、仕事をしたいと喚いているわけではない。ちゃんとした理由があるのだ。実は私を誘拐した悪党の一人に見覚えがあったのだ。あ、額に傷が無い方ね。 
 
 ただそれに気付いたのが、誘拐未遂事件から3日後の私が部屋で軟禁状態の時だったので、とてもあやふやな記憶だったりもする。【多分、きっと、恐らく】といった曖昧な表現を全部合わせてもまだ曖昧なくらいの曖昧さなのだ。だから、もう一度確認してみたいと思っている。
 
 もしかしたら私の記憶が誘拐犯の逮捕につながる可能性がある。ぶっちゃけほんの少しでも役に立ちたい。デュアの屋敷に居候して、はや1ケ月。皿洗いの一つもさせてもらえない、このごく潰し状態から何とか脱却したいのだ。

 と、いうことで、仕切り直しに咳払いを一つして口を開く。

「キスのことは一旦置いといて。あのねデュア、あの誘拐犯、そのままにはできないでしょ?あの人たち誘拐の常習犯だよ」
「……まぁそうなるな」

 顎に手を置いて頷くデュアに、私も一緒になってうんうんと頷く。

「でも、デュアはあの人たちに顔を見られちゃったでしょ?」
「記憶が飛ぶぐらい強く殴っておいたから、忘れてるかもしれないな」

 そんな物騒な返しはやめてください!
 軌道修正をするために私は再び咳ばらいをして、本題に入る。

「デュアは顔を知られている可能性がある。でも、誘拐犯をそのままにはしておけない。事態は急を要する。と、いうことで───」
 
 私は両手を突きだして、デュアを見上げた。

「ねぇデュア。服貸して」
 
 意味が分からないと言いたげに、眉を寄せるデュアにもう一度、わかりやすく説明をする。

「変装するの。だから、デュアの服貸して!私、男の子になって、もう一度、潜入してくる」
「は!?」

 目を丸くするデュアに私は考えた策を伝えることにした。
 
「だから、誘拐犯はもうわかってるんじゃん。だったら私が売られてきた男の子っていう風にすれば潜入捜査できるよ。ロゼ爺も手伝ってくれるって」

 ねっ、と傍らにいるロゼ爺に目で訴える。

「僭越ながら、孫を売り払う鬼畜な祖父を演じさせていただきとうございます」

 慇懃無礼に頭を下げるロゼ爺に、デュアは苦虫を百匹ぐらい噛みつぶしたような表情を浮かべた。

「お前まで、スイの肩を持つのか」

 そしてしばらく、デュアはそのまま動かなかった。でも、しぶしぶ観念してくれたみたいで────

「ロゼフ、子供服を用意しろ」
 
 苦虫を今度は500匹ぐらい噛み潰した顔で、いやいやそう言ってくれた。まさに苦渋の決断だったようだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「じゃーん!どうだ」

 別室でロゼ爺が用意してくれた子供服に着替えて、戻ってくるとデュアの前でドヤ顔を決めてみた。

 背中まである髪は帽子で隠せば、あっという間に男の子に早変わり。私、変装の素質があるかもしれない。
 さぁどうだと、腕を組む私に、デュアはぷっと吹き出してこう言った。

「貧相な胸で胸で良かったな。どこからどう見ても、男にしかみえない」
「……デュア、白髪見つけた!」

 引きつったデュアの顔をみて、ほくそ笑む。引っかかった。乙女に向かって、胸イジリは万死に値するのだ。これぐらいは甘んじて受けててもらいましょう。

 でも、あからさまにショックを受けるデュアに罪悪感がこみあげる。白髪ネタは、もしかして三十路前の男性には禁忌だったのかもしれない。

「ごめん、嘘だよ」

 貧乳をからかった、ちょっとした意趣返しのつもりだったのだ。だから、本当にごめんデュア。そんな刺し殺しそうな物騒な目で私を見ないでください。
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