上 下
27 / 27

私と彼のお見舞い【心構え編】②

しおりを挟む
 悲鳴と共に飛び起きた私の視界には、ティリカが目を丸くしてこちらを見ている。ただすぐに驚きを通り越して、3歩後ろに下がってしまった。そして、怯えた様子で私に声をかけた。

「フ、フリーディア様、大丈夫ですか?」
「………え、ええ」

 大丈夫と聞かれれば、すぐさま大丈夫だと返してしまう自分にほとほと嫌になる。

うなされていましたが、何か悪い夢でも見たのですか?」
「……………………」

 悪い夢なんてものじゃない。過去最大級の悪夢だった。詳細を口にすることすら、おぞましく私は無言で察して欲しいというアピールを前面に出す。そしてできれば一人になりたいという空気も付け加える。

 けれど、そんな私の心情に気付かないのか、あえての無視なのかわからないが、ティリカは【ああ、驚いた】と、わざとらしく胸をさすりながら呑気に口を開いた。

「もう、心配しましたよ。風邪なんていつぶりでしょうね」
「え?風邪?」
「え!?覚えてないんですか?フリーディア様、昨日、お屋敷に戻られた後すぐ、ぶっ倒れたじゃないですか」
「私が倒れた!?」
「そうですよ。もう大騒ぎだったんですから。まぁお医者のお見立てでは、ただの風邪だそうですので、2~3日寝てれば回復するそうですよ」
「そ、そうだったのね」

 確かに、ダブルデートの帰り道、ルディロークの馬車の中、喉が痛かったし悪寒もした。てっきりあの症状はルディロークの奇怪な行動のせいだと思ったけれど、ただ単に風邪を引いていただけだったのだ。

 ひとまず現状を理解することができてほっとする。けれど、ティリカはやっと落ち着きを取り戻した私にこう言った。

「あ、そうそう。あと、1時間後に、ルディローク様がお見舞いにみえるそうですよ」



 悪夢、再び。



 いや、気を落とすのはまだ早い。今更だが私は熱がある。そう、風邪をひいている、いわゆる病の身だ。そしてそれを自覚した途端、頭痛、悪寒、喉の痛み等々、身体が不調を訴えている。耳鳴りまでしている状況だ。

 ということで、あっけらかんとのたまってくれたティリカに、何ですと!?と詰め寄る前に、まずは耳鳴りが激しい自分の耳を疑うことにした。

「ごめんなさい、ティリカ。私、ちょっと熱で朦朧としてて、良く聞き取れなかったけれど、もう一度言ってくれる?」
「え?ですから、1時間後にお見舞いにみえるそうですよ」

 幻聴を期待していたが、ものの見事にティリカは裏切ってくれた。けれど、まだ認められない私は悪あがきと分かりつつ、質問を重ねてしまった。

「誰が来るの?」
「ですから、ルディローク様が、ですよ」
「使いの者ではなくて?」
「嫌ですねー、ルディローク様、本人に決まってるじゃないですか」
「……………そう」

 ティリカは真顔で、ことごとく私の期待を打ち砕いていく。いっそこれも悪夢の続きであることを祈ってしまう。

「あれ?もしかして、フリーディア様、恥ずかしいんですか?」
「え?」

 ティリカの意味ありげな視線の意味が分からない。と、いうか、今、私は恥ずかしいなどという可愛らしい表現など程遠い、動揺と混乱で発狂寸前だ。

 呆然としたまま動けない私に、ティリカはしたり顔で頷いた。

「確かに寝間着じゃ、貧乳ごまかせないですもんね。でも大丈夫です。キスした仲なんですから、もう誤魔化さなくても大丈夫ですよー」

 さらりと貧乳を指摘されたことと、さらりとキスを目撃されたこと。今、私はどちらについて、感情を動かせば良いのかわからない。

 立ちくらみを起こしてベッドに崩れ落ちた私に、ティリカは両手を叩いて嬉しそうに声を上げた。

「さぁ、フリーディア様、準備しましょう。今日は、男性が持つ【庇護欲心】を刺激するチャンスです!」

 気合の入りまくった眼差しでこちらを見るティリカの目には、私の体調を気遣う様子は微塵もない。あるのは、僅かなチャンスを無駄にするなという激励だけだ。

 思わず引きつった笑みを浮かべた私に、更にティリアは追い打ちをかける。 

「フリーディア様は無駄に丈夫ですからね。こんなチャンス滅多にないですよ。しっかり病弱なところをアピールして、俺が守らないとって思わせましょう。これ、結構、使えますよ」

 可憐なウィンクまで頂戴してしまったけれど、一つ言いたいことがある。

 お見舞いされる側に何の準備が必要だというのだ。必要なのは、未だに不可解な行動ばかりするルディロークと向き合う心構えだけだ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

にゃ
2019.10.08 にゃ

一気に読んでしまいました~!
更新楽しみにしています(*^^*)

解除
涼翔
2019.05.30 涼翔

連載中「これは未来に続く婚約破棄」からきました。
そちらの作品もヒロインキャラがとても魅力的で毎度更新楽しみにしておりますが、
こちらも不憫ヒロインに胃薬を、つい差し入れたくなる愛着を感じますw
現在更新止まっているようですが、今後のお互いのすれ違いがいつ正されるのか?とか、
まったく反省の色もなかったカロリーナの「ぎゃふん」はあるの?とか、
同じく不憫キャラのカイはきっとこのまま流されていくのだろうな~とか、
まだまだ続きを楽しめそうなので、いつか読めるだろうと楽しみにお気に入りして待っておきます。
是非ヒーローがヘタレるだけでないとこも見せてくださいw

茂栖 もす
2019.05.30 茂栖 もす

涼翔 さま

この度はコメントありがとうございました(*‘ω‘ *)

トラウマのほうの更新が止まってしまっていて、申し訳ありません(o*。_。)oペコッ

このままフェードアウトする予定はなく、現在進行形で時間を見つけて、ちまちま書き進めています(`・ω・´)ゞ

更新は再開する予定ですので、もう少々お待ちくださいm(_ _"m)

さて、余談ではありますが、古い作品なのに、こうしてコメントをいただけるのは本当に嬉しいかったです!

不憫なヒロインもきっと喜んでいると思いますヾ(≧▽≦)ノ

最後は『随分遠回りしたなぁ~。やっとハッピーエンドかいっ』っと言ってもらえるようなお話にしたいと思っていますので、お暇な時にでも覗いてみてくださいm(_ _"m)

それでは、また再開した際にお会いできれば幸いです。
この度は本当に、コメントありがとうございました!!

解除
ルナ
2018.12.18 ルナ

フリーディア
フローディア
クローディア
ヒロインの名前が増えてます。

茂栖 もす
2018.12.19 茂栖 もす

ルナさま

この度はご指摘ありがとうございました。

フリーディア
フローディア
クローディア

……いっぱいヒロインがいますね(;^ω^)

さて、ただいま修正完了しました(`・ω・´)ゞ
次回からはこのようなことがないよう気を付けます。

解除

あなたにおすすめの小説

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

殿下は地味令嬢に弱いようなので、婚約者の私は退散することにします

カレイ
恋愛
 王太子を婚約者に持つ公爵令嬢レベッカ・ドルセーヌは学園の裏庭に呼び出されていた。呼び出したのは地味令嬢と言われている侯爵令嬢クロエ。ビクビクと体を震わせながらクロエは大声で言った。 「こ、婚約者様なら、ア、アラン様にもっと親切にしてあげてください!アラン様は繊細なお方なんですぅ。それが出来ないのなら、アラン様とは別れてくださいっ」 「分かりました、別れます」  だって王太子も「この子は義母義姉に虐められているから優しくしてあげて」の一点張りだ。だったらいっそのこと、王太子が彼女を幸せにしてあげれば良いのだ。  王太子はその後レベッカを失いながらもクロエを守ろうと尽力する。しかし私なんかと言って努力しないクロエに、次第に違和感を覚え始めて…… ※の時は視点が変わります。

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは
恋愛
父の後妻と腹違いの妹のせいで、肩身の狭い生活を強いられているアメリー。 美人の妹に惚れている婚約者からも、早々に婚約破棄を宣言されてしまう。 そんな中、国で一番の魔法学校から妹にスカウトが来た。彼女には特別な魔法の才能があるのだとか。 妹を心配した周囲の命令で、魔法に無縁のアメリーまで学校へ裏口入学させられる。 後ろめたい、お金がない、才能もない三重苦。 だが、学校の魔力測定で、アメリーの中に眠っていた膨大な量の魔力が目覚め……!?   不思議な魔法都市で、新しい仲間と新しい人生を始めます! チートな力を持て余しつつ、マイペースな魔法都市スローライフ♪ 書籍になりました。好評発売中です♪

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。