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私と彼のお友達【再会編】②
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カロリーナの屋敷に到着して、すぐ自室に連れ込まれた私は、いきなりカロリーナから望んでもいない祝辞を頂戴した。
「とりあえず、婚約おめでとう!」
「あ……、ありがとう」
まったくもっておめでたくない話だが、引き攣りながらも何とかお礼の言葉を口にする。
とはいえ未だに、カロリーナとの友情が復活したことも、なぜカロリーナが私の訳あり婚約を知っているのかもわからない私は、むやみな会話ができない状態だ。藪を突いて蛇を出すことだけは何としても避けたい。
そんな私の動揺を無視してカロリーナは再び口を開いた。
「まぁ……あんなことがあったから、フリーディアはもう一生結婚しないと思ってたけど、婚約できて良かったじゃん」
───ん?【あんなこと】と言葉を濁さないといけないことがあったのは、カロリーナも一緒のような気がするけど……。
「私、心配してたんだよね~。家同士の繋がりだからっていっても、フリーディア、あんなヤツと結婚しても絶対に幸せになれないって思ってたんだ」
───んん?【あんなヤツ】と駆け落ちしようとしたのは、カロリーナのようだった気がするけど……。
どうしよう。カロリーナが壊れた。
「やっぱり、親友なんだから、二人とも幸せな結婚したいじゃん。私だけそうなるのも、アレだし……。本当に良かったぁ~」
───あぁ、合点がいった。カロリーナは、新しい恋人ができたのだ。そして、多分、その婚約者がカロリーナに私が婚約したのを伝えたのだろう。全く余分なことをしてくれたものだ。
でも、カロリーナに新しい恋人ができたのは、素直に嬉しい。口には出せないけど、私だって、あんなことがあって、カロリーナは、一生結婚しないのではないかと気に病んでいたのだ。
やっと腑に落ちた私は、カロリーナに心からのお祝いの言葉を伝えた。
「カロリーナ、婚約したのね。おめでとう」
瞬間、カロリーナの目の色が変わった。
───後悔先に立たず。私は、カロリーナの惚気スイッチを押してしまったのだ。ああ、これは凡ミス、身から出た錆だ。これから始まる苦痛の時間を甘んじて受けよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「でね、彼たらぁ~私の過去のことも、知っているのに【今の君が好きだから、気にしない】なんて言ってくれてぇ~、包容力ありすぎっ」
「うん、そうなんだ」
「でね、でね、彼たらぁ~ところ構わず【私のこと、可愛い】って言っちゃって、超~恥ずかしいのぉ~、外ではそんな恥ずかしいこと言わないでっていってるのに【これでも我慢してる】なんて言っちゃって、もう二人っきりになったら、フリーディアに言えないくらいスゴイこと言ってくれるんだぁ」
「うん、そうなんだ」
「でね、でね、でねぇ~、私、髪の色、茶色で気にしてたんだけど、彼たら【チョコレートみたいで、食べたくなる】なんて言っちゃって、キャッ……あ、本当にはやってないからね」
「うん、そうなんだ」
────………くそどうでもいい。こうなったのは、自分の責任とはいえ、いくら何でも、辛すぎる。横で控えているティリカに助けを求めたが、すっと視線を逸らされてしまったら。3秒あとに、私だけに聞こえる声で【お芝居観たかったです】と言われた。その瞬間、この部屋には、私の味方は誰もいないということを悟った。
それにしても、あと何時間、拘束されるのであろう。ゼラルドの一件がある前は、しょっちゅうお互いの家でお泊り会をしていたが、今日もそのパターンなのだろうか。夜通し惚気話を聞かされるのは、拷問に等しい。多分、あと2時間位聞かされたら、私は吐く。
体よく暇いとまを告げたい私であったが、カロリーナの怒涛のような惚気話に、割って入るタイミングがつかめない。必死に相槌を打ちながら、タイミングを計っていた私であったが────
「あ!ごめぇ~ん、もうこんな時間っ」
良かった。カロリーナは、ようやく私の顔色の悪さに気づいてくれたみたいだ。何だかんだ言っても、腐っても幼なじみ。私の体調の悪さに気づいてくれたみたい。と思ってたけど……。
「今日ね、お父さまが、彼をディナーに呼んでたんだっ」
あー、そうですか。
「と、いうことで、フリーディア、悪いけど私も準備しないといけないんだ」
「うん、私もそろそろ帰るね」
散々振り回しておいて、それはないだろうと思いつつも、この期を逃すわけにはいかない。私は、すぐさま席を立つ。
扉の前で振り返って、別れの挨拶をしようとしたが、その前にカロリーナがとんでもないことを口にした。
「近い内に、私と彼と、フリーディアとフリーディアの彼とで4人で会おうよ」
「……あーちょっと、すぐ返答できない。本人に確認しないと───」
「あ!いいや、今日、どうせ彼、ウチに来るからその時に、4人で会う段取りつけとく言っとくね。じゃあ!気をつけて帰ってね~」
ちょっと待ってと言う前に、私はカロリーナの自室から追い出されてしまった。木枯らし再び。
一日に二回も木枯らしに吹かれた私は、くらりと眩暈を起こした。だが、意識が遠のく寸前で、現実に引き留めてくれたのは、カロリーナの侍女の声だった。
「申し訳ありません。カロリーナ様は、只今、浮かれた世界に行かれておりまして……何卒、ご容赦ください」
丁寧に一礼する侍女の顔には、ごまかすことができないほど疲労感が出ていた。彼女はきっと毎日毎晩、浮かれた世界の住人になったカロリーナの相手をしているのだろう。心中を察しします。
侍女の苦労を鑑かんがみれば、たった数時間で音を上げた私は、軟弱者だった。こんな苦労人に不平不満など、言えるわけない。私は、侍女に労りの眼差しだけを送り、カロリーナの屋敷を後にした。
───帰宅中の馬車の中。
「────……疲れた」
そう呟いた私にティリカが一言。
「フリーディア様、窓を見てください」
ああ、確かに夕陽がキレイだ。目に染みる。馬車の窓から眺める夕陽が今日一番私を癒してくれる。
さすがにティリカも、疲労困憊の私に、お芝居を観れなかった不満を言うのは酷だと気付いてくれたのだろう。無言でアメを差し出してくれた。
心身共に疲れ果てた私は、ティリカから貰ったアメを舐めながら、帰途につくのであった。
あ、そういえば、カロリーナの婚約者の名前、聞き忘れてしまった。まぁ、さしたる問題ではない───ことを願いたい。
「とりあえず、婚約おめでとう!」
「あ……、ありがとう」
まったくもっておめでたくない話だが、引き攣りながらも何とかお礼の言葉を口にする。
とはいえ未だに、カロリーナとの友情が復活したことも、なぜカロリーナが私の訳あり婚約を知っているのかもわからない私は、むやみな会話ができない状態だ。藪を突いて蛇を出すことだけは何としても避けたい。
そんな私の動揺を無視してカロリーナは再び口を開いた。
「まぁ……あんなことがあったから、フリーディアはもう一生結婚しないと思ってたけど、婚約できて良かったじゃん」
───ん?【あんなこと】と言葉を濁さないといけないことがあったのは、カロリーナも一緒のような気がするけど……。
「私、心配してたんだよね~。家同士の繋がりだからっていっても、フリーディア、あんなヤツと結婚しても絶対に幸せになれないって思ってたんだ」
───んん?【あんなヤツ】と駆け落ちしようとしたのは、カロリーナのようだった気がするけど……。
どうしよう。カロリーナが壊れた。
「やっぱり、親友なんだから、二人とも幸せな結婚したいじゃん。私だけそうなるのも、アレだし……。本当に良かったぁ~」
───あぁ、合点がいった。カロリーナは、新しい恋人ができたのだ。そして、多分、その婚約者がカロリーナに私が婚約したのを伝えたのだろう。全く余分なことをしてくれたものだ。
でも、カロリーナに新しい恋人ができたのは、素直に嬉しい。口には出せないけど、私だって、あんなことがあって、カロリーナは、一生結婚しないのではないかと気に病んでいたのだ。
やっと腑に落ちた私は、カロリーナに心からのお祝いの言葉を伝えた。
「カロリーナ、婚約したのね。おめでとう」
瞬間、カロリーナの目の色が変わった。
───後悔先に立たず。私は、カロリーナの惚気スイッチを押してしまったのだ。ああ、これは凡ミス、身から出た錆だ。これから始まる苦痛の時間を甘んじて受けよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「でね、彼たらぁ~私の過去のことも、知っているのに【今の君が好きだから、気にしない】なんて言ってくれてぇ~、包容力ありすぎっ」
「うん、そうなんだ」
「でね、でね、彼たらぁ~ところ構わず【私のこと、可愛い】って言っちゃって、超~恥ずかしいのぉ~、外ではそんな恥ずかしいこと言わないでっていってるのに【これでも我慢してる】なんて言っちゃって、もう二人っきりになったら、フリーディアに言えないくらいスゴイこと言ってくれるんだぁ」
「うん、そうなんだ」
「でね、でね、でねぇ~、私、髪の色、茶色で気にしてたんだけど、彼たら【チョコレートみたいで、食べたくなる】なんて言っちゃって、キャッ……あ、本当にはやってないからね」
「うん、そうなんだ」
────………くそどうでもいい。こうなったのは、自分の責任とはいえ、いくら何でも、辛すぎる。横で控えているティリカに助けを求めたが、すっと視線を逸らされてしまったら。3秒あとに、私だけに聞こえる声で【お芝居観たかったです】と言われた。その瞬間、この部屋には、私の味方は誰もいないということを悟った。
それにしても、あと何時間、拘束されるのであろう。ゼラルドの一件がある前は、しょっちゅうお互いの家でお泊り会をしていたが、今日もそのパターンなのだろうか。夜通し惚気話を聞かされるのは、拷問に等しい。多分、あと2時間位聞かされたら、私は吐く。
体よく暇いとまを告げたい私であったが、カロリーナの怒涛のような惚気話に、割って入るタイミングがつかめない。必死に相槌を打ちながら、タイミングを計っていた私であったが────
「あ!ごめぇ~ん、もうこんな時間っ」
良かった。カロリーナは、ようやく私の顔色の悪さに気づいてくれたみたいだ。何だかんだ言っても、腐っても幼なじみ。私の体調の悪さに気づいてくれたみたい。と思ってたけど……。
「今日ね、お父さまが、彼をディナーに呼んでたんだっ」
あー、そうですか。
「と、いうことで、フリーディア、悪いけど私も準備しないといけないんだ」
「うん、私もそろそろ帰るね」
散々振り回しておいて、それはないだろうと思いつつも、この期を逃すわけにはいかない。私は、すぐさま席を立つ。
扉の前で振り返って、別れの挨拶をしようとしたが、その前にカロリーナがとんでもないことを口にした。
「近い内に、私と彼と、フリーディアとフリーディアの彼とで4人で会おうよ」
「……あーちょっと、すぐ返答できない。本人に確認しないと───」
「あ!いいや、今日、どうせ彼、ウチに来るからその時に、4人で会う段取りつけとく言っとくね。じゃあ!気をつけて帰ってね~」
ちょっと待ってと言う前に、私はカロリーナの自室から追い出されてしまった。木枯らし再び。
一日に二回も木枯らしに吹かれた私は、くらりと眩暈を起こした。だが、意識が遠のく寸前で、現実に引き留めてくれたのは、カロリーナの侍女の声だった。
「申し訳ありません。カロリーナ様は、只今、浮かれた世界に行かれておりまして……何卒、ご容赦ください」
丁寧に一礼する侍女の顔には、ごまかすことができないほど疲労感が出ていた。彼女はきっと毎日毎晩、浮かれた世界の住人になったカロリーナの相手をしているのだろう。心中を察しします。
侍女の苦労を鑑かんがみれば、たった数時間で音を上げた私は、軟弱者だった。こんな苦労人に不平不満など、言えるわけない。私は、侍女に労りの眼差しだけを送り、カロリーナの屋敷を後にした。
───帰宅中の馬車の中。
「────……疲れた」
そう呟いた私にティリカが一言。
「フリーディア様、窓を見てください」
ああ、確かに夕陽がキレイだ。目に染みる。馬車の窓から眺める夕陽が今日一番私を癒してくれる。
さすがにティリカも、疲労困憊の私に、お芝居を観れなかった不満を言うのは酷だと気付いてくれたのだろう。無言でアメを差し出してくれた。
心身共に疲れ果てた私は、ティリカから貰ったアメを舐めながら、帰途につくのであった。
あ、そういえば、カロリーナの婚約者の名前、聞き忘れてしまった。まぁ、さしたる問題ではない───ことを願いたい。
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