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★君と私の初対面【準備編】②
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────お茶会当日
「いよいよ今日だな」
秋晴れの空を見あげ、そう一人呟いた。と同時に傍らで控えていた執事のクラウドが微かな笑い声を立てた。
「坊ちゃま、あまりそう神経を尖らせては、婚約者様も緊張されてしまいます。肩の力を抜いて下さいな」
声のする方に視線を移せば、クラウドは苦笑を浮かべながら、私を窘めてくれる。確かに自分は今までにないほど緊張している。
「そうだな、私がしっかりしなければな」
肩の力を抜く為に軽く咳払いをしながら、目を閉じる。
本当に長い道のりだった。女性陣に気付かれず、今日この日を迎えることができたのは奇跡としか言いようがない。
「クラウド、礼を言う。本当にありがとう」
壮年の執事は、目に深い皺を刻みながら、ゆっくりと首を左右に振った。
「とんでもございません。全て、坊ちゃまの努力の結果でございます。───・・・さて、坊ちゃま、本日のタイは何色に致しましょう?」
クラウドの手には既に、数本のタイがある。どれも選りすぐりの品々だ。その中で私は迷わす赤を選んだ。これは私にとって勝負色である。クラウドは、それを選ぶことを見越していたのだろう。一つ頷くと、私の首に回し、丁寧に結んだ。
「良くお似合いでございます。奥方様、お嬢様達につきましは、先程出発したのを確認致しました。旦那様も買い物の為の軍資金を唸るほど用意して頂けましたし、ご帰宅は間違いなく日暮れになりましょう。何の心配もございません、もちろん如何なるトラブルにも対応できるよう策を練っております。どうか坊ちゃまは、このお茶会のことだけ専念下さい」
クラウドの言葉に、私は陰の功労者である父に感謝の念を送りつつ深く頷いた。今日ほどクラウドの存在を心強く感じたことはない。
再び窓に視線を移す。私の祈りが届いたのだろう、今日は爽やかな晴天だ。さんさんと輝く太陽が私を鼓舞してくれる。今日の私は一味違う、そう何も怖くはない。
そして先日、フリーディアに送った恋文の内容を思い出してみる。
親睦を深め、これから先のことについて、二人で語り合いたい───我ながら、素晴らしい言葉だ。
そう、お互い対面するのは初めてなのだ。フリーディアもきっと今日を心待ちにしているに違いない。ニヤつきそうになる口元を慌てて引き締める。
「さっ、坊ちゃま、お時間が迫ってきて来ています。フリーディア様をお迎えに向かいましょう」
「ああ、そうだな」
クラウドに促され、私は窓から離れソファに投げ出していた上着に袖を通す。少し襟を引き、体になじませる。
その一連の動作を見守っていたクラウドは、頃合いを計り扉を開けた。そしてこう言った。
「とにかく落ち着いて、普段のお坊ちゃまでお過ごし下さい。女性をリードするためには、まずはご自身が落ち着いて行動することが何より重要なことでございます」
「確かにその通りだ、胸に刻んでおこう」
凶暴な女性陣と公爵夫人の座を狙うあざとい女性ばかりに囲まれ、下僕のように尽くすことと、そつなくかわすことが体に刻まれてしまっていた。だが、今日は違う。自分が選んだ婚約者との初めてのお茶会なのだ。形式だけのお茶会など断じて願い下げだ。
飾らない自分をさらけ出し同じ時間を共有し、そしてお互いの理解を深めていく。それこそが正に究極のお茶会と言わず何と言おう。
そして私は勝負タイとクラウドの助言を胸に、お茶会という名の、フリーディアとの初対面に向かったのであった。
「いよいよ今日だな」
秋晴れの空を見あげ、そう一人呟いた。と同時に傍らで控えていた執事のクラウドが微かな笑い声を立てた。
「坊ちゃま、あまりそう神経を尖らせては、婚約者様も緊張されてしまいます。肩の力を抜いて下さいな」
声のする方に視線を移せば、クラウドは苦笑を浮かべながら、私を窘めてくれる。確かに自分は今までにないほど緊張している。
「そうだな、私がしっかりしなければな」
肩の力を抜く為に軽く咳払いをしながら、目を閉じる。
本当に長い道のりだった。女性陣に気付かれず、今日この日を迎えることができたのは奇跡としか言いようがない。
「クラウド、礼を言う。本当にありがとう」
壮年の執事は、目に深い皺を刻みながら、ゆっくりと首を左右に振った。
「とんでもございません。全て、坊ちゃまの努力の結果でございます。───・・・さて、坊ちゃま、本日のタイは何色に致しましょう?」
クラウドの手には既に、数本のタイがある。どれも選りすぐりの品々だ。その中で私は迷わす赤を選んだ。これは私にとって勝負色である。クラウドは、それを選ぶことを見越していたのだろう。一つ頷くと、私の首に回し、丁寧に結んだ。
「良くお似合いでございます。奥方様、お嬢様達につきましは、先程出発したのを確認致しました。旦那様も買い物の為の軍資金を唸るほど用意して頂けましたし、ご帰宅は間違いなく日暮れになりましょう。何の心配もございません、もちろん如何なるトラブルにも対応できるよう策を練っております。どうか坊ちゃまは、このお茶会のことだけ専念下さい」
クラウドの言葉に、私は陰の功労者である父に感謝の念を送りつつ深く頷いた。今日ほどクラウドの存在を心強く感じたことはない。
再び窓に視線を移す。私の祈りが届いたのだろう、今日は爽やかな晴天だ。さんさんと輝く太陽が私を鼓舞してくれる。今日の私は一味違う、そう何も怖くはない。
そして先日、フリーディアに送った恋文の内容を思い出してみる。
親睦を深め、これから先のことについて、二人で語り合いたい───我ながら、素晴らしい言葉だ。
そう、お互い対面するのは初めてなのだ。フリーディアもきっと今日を心待ちにしているに違いない。ニヤつきそうになる口元を慌てて引き締める。
「さっ、坊ちゃま、お時間が迫ってきて来ています。フリーディア様をお迎えに向かいましょう」
「ああ、そうだな」
クラウドに促され、私は窓から離れソファに投げ出していた上着に袖を通す。少し襟を引き、体になじませる。
その一連の動作を見守っていたクラウドは、頃合いを計り扉を開けた。そしてこう言った。
「とにかく落ち着いて、普段のお坊ちゃまでお過ごし下さい。女性をリードするためには、まずはご自身が落ち着いて行動することが何より重要なことでございます」
「確かにその通りだ、胸に刻んでおこう」
凶暴な女性陣と公爵夫人の座を狙うあざとい女性ばかりに囲まれ、下僕のように尽くすことと、そつなくかわすことが体に刻まれてしまっていた。だが、今日は違う。自分が選んだ婚約者との初めてのお茶会なのだ。形式だけのお茶会など断じて願い下げだ。
飾らない自分をさらけ出し同じ時間を共有し、そしてお互いの理解を深めていく。それこそが正に究極のお茶会と言わず何と言おう。
そして私は勝負タイとクラウドの助言を胸に、お茶会という名の、フリーディアとの初対面に向かったのであった。
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