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運命の分岐

再び現れたあなたの予言

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「良ぃーい?マリモ、絶対についてきちゃ駄目よ。ここから動かないでね。返事は?」
「………」
「お願い。すぐに戻ってくるから。あっという間に戻ってくるから。ね?」
「………」
「木の実、お土産で持ってくるから。……多分だけれど」
「………」
「………マリモ、縛って良い?」
「きゅっー」
「しっ、声が大きいっ。とにかく、大人しくしといてね。お願いだから。あと、皆にはうまいこと誤魔化しといて。頼んだからねっ」
「きゅーうぅー」

 ──キィー……パタン。
 
 最終的にマリモに無茶振りをかました私は、そぉっと部屋を出る。次いで抜き足差し足で廊下を渡ると、そのまま外に出た。

 夜目が利くようになって本当に良かった。

 以前の私だったら、ランタン無しでは夜道を歩くことすらままならなかったから。

 ついでに言うとかなりの怖がりのくせに心霊番組が大好きときたもんだ。

 そして、なぜ今!?という時に限って井戸から這い出てくる女の人とか、パンツいっちょの青白い顔をした男の子とか、来るきっと来ちゃうよね的なノリで諸々の映像を思い出してしまうのだ。

 ……と言ってる傍から思い出して身体をぶるりと震わす。

 でも宿屋に戻ることはしない。この計画は、雨天決行。雪が降ろうが、槍が降ろうが、お化けが出ようが中止は有り得ない。

 じゃあ森で出くわしたイモムシ魔物がいても?なんてことは聞かないで。もちろん中止はないよ。……う、うん。会いたくはないけれど。

 そして、うっかりあの時のどキツイ配色のイモムシを思い出して、今度はガチの鳥肌が立つ。

「……ぅうー……きしょっ……」

 ポツリと呟きながら、二の腕をなだめるように、さすさすと手のひらでこする。

 それでも足は止めることはしない。

 それから村をぬけて、暁の洞窟に続く一本道に出る。

 ちなみにこの間に2回自警団の関所があったけれど『ちょっと下見してきますわ。なにせ、下っ端なもんで。へへへ』と言ったらすんなり通してくれた。

 ついでに『お嬢ちゃんも大変だなぁ、ほら、持っていけ』と、パンと焼き菓子までいただいてしまった。村長はちょっとどうよ?と思うけれど、自警団の皆さんはとっても良い人だ。

 頂いたお菓子とパンをポケットにしまい込みながら歩いていたら洞窟の入り口が視界に入り込む。すかさず私は、ずっと小脇に抱えていたローブを羽織り、軽く両手で頬を叩く。気合入魂なのだ。

 さて、そろそろお気付きの人もいるかと思う。私が夕食時に考えた完璧なプランが何かということを。

 ───そうです。私は一人で、暁の洞窟に行きます。そんでもって、さっさと魔界への鍵を取ってきます。

 もちろんこの洞窟の中に魔物がいるのは知っている。

 だから去るモノは追わず、来るモノは徹底的に氷漬けにしていく作戦なのだ。というか、今の私には、その魔法しか使えない。けれど、やれる。カッコ良くはないけれど。

 まぁ、すちゃっとカッコ良く攻略できるのはゲームやラノベの世界だけ。現実にカッコ良さなんて求めてはいけない。生きてなんぼの世界なのだ。

 だから、コソ泥のように宿を抜け出し、その後、戻ってからお説教を死ぬほど受けようとも構わない。

 だって、お説教をどれだけ受けても命は取られることは無いだろうから。

 そして皆が生きているのを目にしたら、私はきっと何時間でも、何日だって、喜んでお説教を受けれる……多分。

 と、そんなことを考えつつ第一歩を踏み出した途端、私の行く手を阻むように、黒と赤のド派手な衣装が飛び込んできた。

 それが誰かは言わずもがな。

 ………そして、私のテンションがだだ下がりしたのは、言うまでもない。




「また、あなたですかぁー」

 うんざりした表情を隠さずそう言えば、ディグドレードは苦笑を浮かべた。

【つれないですねぇ、お嬢さん。もう少しこう……なんていうか、はにかんでくれるとか、もじもじしてくれたりとかはないんですかねぇ】
「………」

 んなもん誰がするか、馬鹿。

 などと答える必要はないと判断した私は無視を選ぶ。無視はイジメだと学校で教わったけれど、魔族相手にイジメ云々など気にしなくて良いだろう。

 それに、もう一人の私から魔力を引き継いだ時に、ディグドレードのことも何となく伝わってきた。

 とても危険人物。でも、この人は一日も早く私達が魔界に来ることを願っている。だから、こうして人間界で顔を突き合わせることがあっても、絶対に危害を加えたりしない……らしい。

 ただディグドレードが、どうしてそんなに急いでいるのかなんてわからない。そして、気まぐれで姿を現す理由もわからない。

 そんな謎多き魔王の側近は、私の無礼な態度に、ただくすりと笑いを零すだけ。

 でも、私が歩みを進めれば、再び行く手を遮るように前に立ち憚る。うざい。

【おやおや、気が強い所は同じなんですね。まぁ見る限り、どうやら、わたくしのことについて、多少なりとも知識を持ってくれたようで大変嬉しいです。説明する手間が省けましたから。なにしろ、わたくし二度手間ほど嫌いなものはないんですよ】

 有り余る生を持っているというのに、2~3分で終わる説明をケチるなんて随分短気なようだ。

 もちろんこれも口には出さない。ただただ、とにかく消えて欲しい。

 そう思いながらも私は、結局自分自身が迂回することを選ぶ。けれど、大回りしてディグドレードから離れたと思った途端、後ろからテクテクついて来やがった。

【お一人で洞窟を攻略するのは、なかなか名案ですね。でも、上手くいきますかねぇ。───………おおっと、そんなに睨まないでください。わたくしこれでも妙齢のお嬢さんに嫌われたくはありませんから】

 なら、さっさと消えろ。

 振り返った私は、その思いをしっかり込めて、渾身の力で再び睨みつける。

 我ながら魔力も増えたけれど、目力だって相当強くなったと自負している。だから、もうこの辺りで消えてくれるだろう。

 そう思ったけれど、それは私の考えが甘かった。

 ディグドレードは最後に、これっぽっちも望んでいない予言という名のミサイルを投下してくれた。

【では最後にこれだけはお伝えしておきます。私もリベリオと同じく、時空を渡れるものの独りですから。───………あなたは、結局、あの魔物と対峙することになるでしょう。どうぞ気を付けて。そして、運が良かったら、また会いましょう】

 最悪の予言だ。ちっと舌打ちをしてしまう。

 そうすればディグドレードは、困ったように肩を竦め、ひらりと消えていった。

 ……言い逃げかよ。

 まったく、もって嫌な奴。でも、魔界のエリートなら、人を嫌な気持ちにさせる言動など、息するようにできるのだろう。本当に公害のような奴だ。

 でも今はあんな奴に気持ちを向けている場合ではない。私は、仕切り直しに今度は、軽く跳ねて気合いを入れ直す。



 そして再び一歩踏み出した瞬間───……背後から私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
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