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十六夜に願うのは
★性懲りもなく2回目も!?(ケイノフ・ダーナ目線)
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突然だが、レナザードを始めこの屋敷の住人は異形の者ではある。けれども、流浪の民ではない。
彼らには生まれ育った土地もあるし、今もなお帰る領地があり、そこで生活している人々もいる。ただこの領地は少々訳アリで、どの国にも属していない。言い換えればどの国からも政治的な干渉を受けることがない土地なのだ。
しかしながら、この領地で生活する人々は近隣との関りを避けては生きていけない。食料に関しては、家畜や畑を耕すことで何とか補うことはできる。だが糸や布、砂糖やお茶などといった日常に関する細々としたものは、商人を呼びよせるか、こちらから近くの町に足を向けなければならない。ということで、必然的に貨幣が必要となる。
ならどうやって安定した領地を維持する為の資金を得るかと言えば、それは所謂、闇稼業と呼ばれるものを請け負っている。血生臭い仕事や表沙汰にできないことを内々で処理する依頼をこなして、資金を得ているということなのだ。
国家機密も扱う案件もあるため、実入りは莫大なものになる。そしてその案件のほとんどをレナザードを筆頭にケイノフとダーナがこなしているのが現状なのだ。
さてさてそんな働き者のレナザードがスラリスと朝食を取っている頃、ケイノフとダーナは屋敷の裏山にいた。それは、いつまでたっても進展が見られない二人に気を利かした、というのもあるけれど、もう一つとある事情があったからなのだ。
ちなみにこれ以降は、昨晩レナザードと共に裏稼業を終えた二人の会話でもある。
「なぁケイノフ、俺さ、昨日とんでもないものを目にしたんだよ」
黙々と前方を歩くケイノフに向かい、ダーナは伺うように声をかけた。
「……とんでもないものとは何ですか?」
心の底からめんどくさそうに口を開いたケイノフに、ダーナは凹むことなくこう言った。
「主がさ、人間に斬られたんだ」
大事件である───色々な意味で。
まず自分の主が何者かに斬りつけられたことを、とんでもない事という軽い言葉で済ますことではないし、誰かに斬られるなんてそう滅多にないことだ。そして、ダーナは人間と言った。それは彼らが異形の者であるから。そう、見た目は人となんら変わらないレナザード達だが、人を凌駕する遥かに強い力を持っている。
そのレナザードが、仕事の最中に自分の不注意で怪我を負ったのだ。これは正に前代未聞の大事件なのである。そして、説明が遅れたが、ケイノフとダーナはそんな主の為に薬草を採取する為、この裏山へと足を運んだのだった。
「………私もその場に居たんですから、いちいち言わなくても覚えていますよ」
「そっか、そうだよな。いや、なんかさ、一晩経ってもしかして、アレは俺の見間違いじゃないかって思えてきてさ」
歯切れの悪いダーナの発言に、ケイノフはイラつきを隠すことなく口を開いた。
「………見間違いも何も、こうして私達は主の為に薬草を摘みに来てるんですから。間違いないですよ」
黙々と薬草を採取しながら、ケイノフは淡々とそう答えた。
「だよな」
それでも納得しない様子のダーナに、ケイノフはいい加減黙れと睨みつける。そんな視線を受けてもダーナの口は閉じることはなかった。
「どうかしちゃったのか?俺らの主は………」
「どうかしちゃったんでしょう、私達の主は」
ダーナは不安げな様子の口調だが、反対にケイノフははっきりと言い切った。
「強いて言うなら、恋煩いにでもなってるんですよ。主のことは、ほっとけばいいです、ダーナ。もうすぐ約束の2ヶ月です。否が応でも答えが出るんですから」
投げやりの口調でケイノフはそう締めくくると、これ以上話しかけるな、という空気を必要以上に醸し出した。
そんなケイノフに話しかけるのは自殺行為である。そんなわけでダーナは、答えは求めずぽつりと呟いた。
「…………そうは言うけど、大事だぞ」
なにせ目に見える怪我ならケイノフの煎じ薬と、元々持っている治癒力で治すことができる。けれど、恋煩いは【不治の病】とも言われていて、ケイノフの医学をもってしても手の打ちようがないのだから。
武闘派のダーナは頭の中で推測したり物事を組み立てたりするのが些か苦手だ。そんなオロオロとするダーナを無視して、ケイノフは黙々と薬草を採取している。
それからしばらくして、ケイノフは薬草を採取し終えた。そして二人は、ついでにスラリスへのお土産にと、季節の果実を両手いっぱいになるくらい捥いでから屋敷の門をくぐった。
しかしもうすぐ屋敷の目の前というところで、スラリスの悲痛な叫び声が聞こえてきたのだ。聴力とて人並み以上の彼らは、その声の出処がすぐにわかった。………レナザードの部屋からだ。
「ええ!?」
「はぁ!?」
二人は同時に声を上げた。次いでのろのろとお互いの顔を見合わせる。
「…………確認しますが屋敷には主とスラリス、二人ですよね?」
「…………ああ」
ケイノフの問いにダーナは硬い表情のまま、小さく頷いた。そして二人は同時に、ちょっと前にも、同じようなことがあったのを思い出した。その時は確か────。
「…………………………」
「…………………………」
数拍の間の後、二人はスラリスへのお土産を投げ出し、レナザードの部屋へと駆け出していった。
レナザードの怪我に驚いてスラリスが悲鳴を上げたことを知らない二人は、走りながら心の中で【性懲りもなく、またかよ】と同じことを考えてしまっていた。
彼らには生まれ育った土地もあるし、今もなお帰る領地があり、そこで生活している人々もいる。ただこの領地は少々訳アリで、どの国にも属していない。言い換えればどの国からも政治的な干渉を受けることがない土地なのだ。
しかしながら、この領地で生活する人々は近隣との関りを避けては生きていけない。食料に関しては、家畜や畑を耕すことで何とか補うことはできる。だが糸や布、砂糖やお茶などといった日常に関する細々としたものは、商人を呼びよせるか、こちらから近くの町に足を向けなければならない。ということで、必然的に貨幣が必要となる。
ならどうやって安定した領地を維持する為の資金を得るかと言えば、それは所謂、闇稼業と呼ばれるものを請け負っている。血生臭い仕事や表沙汰にできないことを内々で処理する依頼をこなして、資金を得ているということなのだ。
国家機密も扱う案件もあるため、実入りは莫大なものになる。そしてその案件のほとんどをレナザードを筆頭にケイノフとダーナがこなしているのが現状なのだ。
さてさてそんな働き者のレナザードがスラリスと朝食を取っている頃、ケイノフとダーナは屋敷の裏山にいた。それは、いつまでたっても進展が見られない二人に気を利かした、というのもあるけれど、もう一つとある事情があったからなのだ。
ちなみにこれ以降は、昨晩レナザードと共に裏稼業を終えた二人の会話でもある。
「なぁケイノフ、俺さ、昨日とんでもないものを目にしたんだよ」
黙々と前方を歩くケイノフに向かい、ダーナは伺うように声をかけた。
「……とんでもないものとは何ですか?」
心の底からめんどくさそうに口を開いたケイノフに、ダーナは凹むことなくこう言った。
「主がさ、人間に斬られたんだ」
大事件である───色々な意味で。
まず自分の主が何者かに斬りつけられたことを、とんでもない事という軽い言葉で済ますことではないし、誰かに斬られるなんてそう滅多にないことだ。そして、ダーナは人間と言った。それは彼らが異形の者であるから。そう、見た目は人となんら変わらないレナザード達だが、人を凌駕する遥かに強い力を持っている。
そのレナザードが、仕事の最中に自分の不注意で怪我を負ったのだ。これは正に前代未聞の大事件なのである。そして、説明が遅れたが、ケイノフとダーナはそんな主の為に薬草を採取する為、この裏山へと足を運んだのだった。
「………私もその場に居たんですから、いちいち言わなくても覚えていますよ」
「そっか、そうだよな。いや、なんかさ、一晩経ってもしかして、アレは俺の見間違いじゃないかって思えてきてさ」
歯切れの悪いダーナの発言に、ケイノフはイラつきを隠すことなく口を開いた。
「………見間違いも何も、こうして私達は主の為に薬草を摘みに来てるんですから。間違いないですよ」
黙々と薬草を採取しながら、ケイノフは淡々とそう答えた。
「だよな」
それでも納得しない様子のダーナに、ケイノフはいい加減黙れと睨みつける。そんな視線を受けてもダーナの口は閉じることはなかった。
「どうかしちゃったのか?俺らの主は………」
「どうかしちゃったんでしょう、私達の主は」
ダーナは不安げな様子の口調だが、反対にケイノフははっきりと言い切った。
「強いて言うなら、恋煩いにでもなってるんですよ。主のことは、ほっとけばいいです、ダーナ。もうすぐ約束の2ヶ月です。否が応でも答えが出るんですから」
投げやりの口調でケイノフはそう締めくくると、これ以上話しかけるな、という空気を必要以上に醸し出した。
そんなケイノフに話しかけるのは自殺行為である。そんなわけでダーナは、答えは求めずぽつりと呟いた。
「…………そうは言うけど、大事だぞ」
なにせ目に見える怪我ならケイノフの煎じ薬と、元々持っている治癒力で治すことができる。けれど、恋煩いは【不治の病】とも言われていて、ケイノフの医学をもってしても手の打ちようがないのだから。
武闘派のダーナは頭の中で推測したり物事を組み立てたりするのが些か苦手だ。そんなオロオロとするダーナを無視して、ケイノフは黙々と薬草を採取している。
それからしばらくして、ケイノフは薬草を採取し終えた。そして二人は、ついでにスラリスへのお土産にと、季節の果実を両手いっぱいになるくらい捥いでから屋敷の門をくぐった。
しかしもうすぐ屋敷の目の前というところで、スラリスの悲痛な叫び声が聞こえてきたのだ。聴力とて人並み以上の彼らは、その声の出処がすぐにわかった。………レナザードの部屋からだ。
「ええ!?」
「はぁ!?」
二人は同時に声を上げた。次いでのろのろとお互いの顔を見合わせる。
「…………確認しますが屋敷には主とスラリス、二人ですよね?」
「…………ああ」
ケイノフの問いにダーナは硬い表情のまま、小さく頷いた。そして二人は同時に、ちょっと前にも、同じようなことがあったのを思い出した。その時は確か────。
「…………………………」
「…………………………」
数拍の間の後、二人はスラリスへのお土産を投げ出し、レナザードの部屋へと駆け出していった。
レナザードの怪我に驚いてスラリスが悲鳴を上げたことを知らない二人は、走りながら心の中で【性懲りもなく、またかよ】と同じことを考えてしまっていた。
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