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季節外れのリュシオル
偽りの王女、メイドになる①
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キッチンにある適当な椅子に腰かけてユズリの到着を待っていた私は、そのユズリの叫び声で目を覚ますことになった。どうやら、転寝をしてしまっていたらしい。高価な革張りのソファより、ガタついた椅子の方に居心地良さを覚えるなんて、骨の髄まで庶民的だ。
そんな自分にあきれつつ、ユズリに事の次第を説明しようとした。が、それよりも早く、ユズリが私の両肩を掴んだ。
「このような場所へ来てはいけません!あの、もしかして……もしかしてですが、何かあったのですか?ひょっとして、昨晩の屋敷中に響き渡った家具が倒れた音って……。どうせ、リオンが暴れているのだろうと思っていのですが、あれ?まっ……まさか……主が、主が、ティリアさまの部屋で────」
「ユズリさん、申し訳ありません!」
どうやらユズリも、ケイノフとダーナと同じように、王女の貞操の危機と誤解してしまったらしい。
みるみるうちに彼女の顔が蒼白になってしまう。そんなユズリの言葉を遮って、私は勢い良く頭を下げた。
「はぁ?あっ、いえ、どうなさったのですか?ティリアさま」
ユズリは間の抜けた声を出して首を傾げるが慌てて表情を引き締め、私の手を引きキッチンの外へと連れ出そうとする。けれど、私はつま先に力を入れて、その場に踏みとどまった。
「ティリアさま、どうなさったの───」
「私はティリア王女ではありません。私は王女の身代わりで救い出されただけ。本当は偽者なんです。どうか今まで欺いていたことお許しください!」
ユズリの言葉を遮って私はもう一度深く頭を下げる。
「あら、そうなの……。って、えっ……ええええっ!?」
衝撃の事実に、ユズリは絶叫した。そして、はっと何か恐ろしいことを思い出したかのように見る見るうちに青ざめ、再び私の肩を両手で掴んだ。今度は、肩に指が食い込んでいる。かなり痛い。
「レナザードさまは、そのこと知っているの?」
「はい。昨晩全てをお話しました」
淡々と語る私に、ユズリは何も言わず顔が強張ったままだ。
「…………あの………本当にずっと皆さまを騙していて………申し訳ありません」
しでかしてしまった事の重さを再び実感し、消え入りそうな声でもう一度ユズリに謝罪の言葉を紡ぐ。しかし、ユズリは何も言わない。耐えきれなくなった私は下げた頭を少しだけ持ち上げ、ちらりユズリを盗み見た。
ユズリは腕を組み指を唇にあてたまま、何か考え込んでいるようだった。沈黙で、この場の空気が重くなる。
「ねぇあなた………確認するけど、私に謝るためだけに、ここへ来たの?」
しばらくの沈黙の後、ユズリは静かに口を開いた。その声音は怒りは含んでおらず、ただ素直に疑問を口にしただけのよう。
そのユズリの問いに私は違います、と顔を上げ、夜明けと共に決心したことを口にする。
「私は、ティリア王女ではありません。レナザードさまの大切なお方ではありませんし、もうここで傅かれるものでもありません」
そこで一旦言葉を止めて、息を付いた。
「…………殺して欲しい。そう私はレナザードさまにお願いしました」
眉一つ動かさず私の言葉に耳を傾けていたユズリだが、さずがにその言葉には驚きの表情を見せた。
「でも、レナザードさまは私を殺すことはしませんでした。私を殺せば、王女の居場所がわからなくなる、と」
あのことを思い出すと胸が痛み視界が歪む。乱れる息を落ち着かせようと、今度は大きく深呼吸して再び口を開いた。
「それから一人になって、気付いたんです。私はレナザードさまに殺される価値もないという人間だということを……」
あの時レナザードは私に逃げるなと言ったけれど、今後の処遇については何も言わなかった。それはつまりスラリスに戻った私には何の興味もない、ということ。自分の存在が彼の心の中から完全に消えてしまったのだ。
そして自分で自分を卑下する言葉を吐くのは、やはり辛い。けれど伝えなければならない。昨晩のように、《死》に逃げないと決めたのだ。
「だからもう、偽るのはヤメにしたんです。生きているのなら、ありのままの自分でいたいって思ったんです。それで……もし良かったら、ここでお手伝いしても良いですか?私、ずっとアスラリアのお城でメイドをしてたんです」
「そのことは他の人も知ってるの?」
願いを口にすれば、ユズリに問いで返されてしまった。その問いに、一瞬躊躇するが、すっと顔を上げ、ユズリを見つめる。
「…………いいえ、誰も知りません」
「どうして私に、一番に聞いたの?」
「それはユズリさんがキッチンのメイド長を兼ねているからです」
私がそう答えた瞬間、ユズリがたまらないと言った感じで突然、吹き出した。
察しの良いユズリは、その言葉だけで私が真っ先にここに来た理由を理解してくれたようだ。
そんな自分にあきれつつ、ユズリに事の次第を説明しようとした。が、それよりも早く、ユズリが私の両肩を掴んだ。
「このような場所へ来てはいけません!あの、もしかして……もしかしてですが、何かあったのですか?ひょっとして、昨晩の屋敷中に響き渡った家具が倒れた音って……。どうせ、リオンが暴れているのだろうと思っていのですが、あれ?まっ……まさか……主が、主が、ティリアさまの部屋で────」
「ユズリさん、申し訳ありません!」
どうやらユズリも、ケイノフとダーナと同じように、王女の貞操の危機と誤解してしまったらしい。
みるみるうちに彼女の顔が蒼白になってしまう。そんなユズリの言葉を遮って、私は勢い良く頭を下げた。
「はぁ?あっ、いえ、どうなさったのですか?ティリアさま」
ユズリは間の抜けた声を出して首を傾げるが慌てて表情を引き締め、私の手を引きキッチンの外へと連れ出そうとする。けれど、私はつま先に力を入れて、その場に踏みとどまった。
「ティリアさま、どうなさったの───」
「私はティリア王女ではありません。私は王女の身代わりで救い出されただけ。本当は偽者なんです。どうか今まで欺いていたことお許しください!」
ユズリの言葉を遮って私はもう一度深く頭を下げる。
「あら、そうなの……。って、えっ……ええええっ!?」
衝撃の事実に、ユズリは絶叫した。そして、はっと何か恐ろしいことを思い出したかのように見る見るうちに青ざめ、再び私の肩を両手で掴んだ。今度は、肩に指が食い込んでいる。かなり痛い。
「レナザードさまは、そのこと知っているの?」
「はい。昨晩全てをお話しました」
淡々と語る私に、ユズリは何も言わず顔が強張ったままだ。
「…………あの………本当にずっと皆さまを騙していて………申し訳ありません」
しでかしてしまった事の重さを再び実感し、消え入りそうな声でもう一度ユズリに謝罪の言葉を紡ぐ。しかし、ユズリは何も言わない。耐えきれなくなった私は下げた頭を少しだけ持ち上げ、ちらりユズリを盗み見た。
ユズリは腕を組み指を唇にあてたまま、何か考え込んでいるようだった。沈黙で、この場の空気が重くなる。
「ねぇあなた………確認するけど、私に謝るためだけに、ここへ来たの?」
しばらくの沈黙の後、ユズリは静かに口を開いた。その声音は怒りは含んでおらず、ただ素直に疑問を口にしただけのよう。
そのユズリの問いに私は違います、と顔を上げ、夜明けと共に決心したことを口にする。
「私は、ティリア王女ではありません。レナザードさまの大切なお方ではありませんし、もうここで傅かれるものでもありません」
そこで一旦言葉を止めて、息を付いた。
「…………殺して欲しい。そう私はレナザードさまにお願いしました」
眉一つ動かさず私の言葉に耳を傾けていたユズリだが、さずがにその言葉には驚きの表情を見せた。
「でも、レナザードさまは私を殺すことはしませんでした。私を殺せば、王女の居場所がわからなくなる、と」
あのことを思い出すと胸が痛み視界が歪む。乱れる息を落ち着かせようと、今度は大きく深呼吸して再び口を開いた。
「それから一人になって、気付いたんです。私はレナザードさまに殺される価値もないという人間だということを……」
あの時レナザードは私に逃げるなと言ったけれど、今後の処遇については何も言わなかった。それはつまりスラリスに戻った私には何の興味もない、ということ。自分の存在が彼の心の中から完全に消えてしまったのだ。
そして自分で自分を卑下する言葉を吐くのは、やはり辛い。けれど伝えなければならない。昨晩のように、《死》に逃げないと決めたのだ。
「だからもう、偽るのはヤメにしたんです。生きているのなら、ありのままの自分でいたいって思ったんです。それで……もし良かったら、ここでお手伝いしても良いですか?私、ずっとアスラリアのお城でメイドをしてたんです」
「そのことは他の人も知ってるの?」
願いを口にすれば、ユズリに問いで返されてしまった。その問いに、一瞬躊躇するが、すっと顔を上げ、ユズリを見つめる。
「…………いいえ、誰も知りません」
「どうして私に、一番に聞いたの?」
「それはユズリさんがキッチンのメイド長を兼ねているからです」
私がそう答えた瞬間、ユズリがたまらないと言った感じで突然、吹き出した。
察しの良いユズリは、その言葉だけで私が真っ先にここに来た理由を理解してくれたようだ。
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