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お隣さんの秘密

8.西崎家のロイヤルストーリー②

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 フランスの作家は言った【恋人を選ぶ……なんてウソ。いきなりわが身に降りかかってくるものだ】と。

 そしてその言葉通り、隆兄ちゃんのおじいちゃんには、恋が降りかかってきた。そしておばあちゃんの身には焼夷弾が振ってきた。

 ───まぁ、恋に時間差があるのは、よくあること。

 さて、無理やりおばあちゃんこと、敏子さんを異世界に連れ込んでしまった隆兄ちゃんのおじいちゃんは、それからどうしたかと言うと、いきなり求婚したそうだ。

 いや、いや、いや、いや、いや。じいちゃん、踏み飛ばしすぎるだろっ。

 初恋になるまでに11年、初恋というか不毛な片思いに3年以上費やした私としては、全力でツッコミを入れさせていただきたい。

 当然のことながら、敏子さんもすぐには頷くことはしなかった。
 でも、あっさりとフラれて落ち込んだおじいちゃんだけど、さすが一国の王様。頭の出来は悪くなかった。戦争が終わるまでという条件で敏子さんに留まるよう懇願したらしい。

 そして、敏子さんはそれを承諾した。そこから王様の権力と財力でコミュ障をごまかしつつ、猛アピールが始まった。そして、幸か不幸か(?)家臣たちも王様の恋を一心に応援してしまったのだ。

 外堀を埋められるとはまさにそのこと。でもって、敏子さんは、めでたく王妃様になったそうだ。

 王様の血の滲むような努力と家臣達のアシストのかいあって、と言いたいところだけど、隆兄ちゃん曰く『母さんから聞いた話だけど、ばあちゃん異世界婚をした決め手は、じいちゃんがペットに泣きながら相談するのを見て絆された』からだそうだ。

 やまとなでしこの心を動かしたのは、一人の男性の情けない後姿だったのだ。
 大国を自由にできる権力とあらゆる贅沢を許される程の財力は無用の長物だったらしい。敏子さん、かっこいい。

 腹を決めた敏子さんは、それからあっという間に異世界になじんで、めでたく王様と結婚したとのこと。婚儀の時は国中から花が舞うほど祝福を浴びたらしい。ただ『コミュ障の王様と結婚してくれてありがとう』のお祝いモードだったらしい。王様のコミュ障レベルはかなりのものだったことが想像できた。

 それから程なくして、隆兄ちゃんのお母さんことおばさんが誕生した。ただ残念なことに、敏子さんはあまり丈夫な身体じゃなく、おばさんが10歳の誕生日を迎える直前に亡くなってしまったらしい。

 ちなみに、おばさんには一応、日本の戸籍があった。残念ながら私生児扱いをされてしまったが日本の学校にも通えるということで、小・中・高校と平和に学生生活を謳歌して、そして短大へと進学したらしい。
 そして、持ち前の美貌と聡明さで一流企業へと就職して、上司であったおじさんと恋に落ちたそうだ。

『えー!?まさかのオフィスラブ!?やだー、月9の展開、ロマンあるね!』

 再び悶絶する私に、隆兄ちゃんはあっさりと頷いた。

『敏腕営業マンと女性アシスタントのあるあるだ』

 隆兄ちゃん、もう一度言うけど情緒がなさ過ぎるよ!!

 ちなみにプロポーズはおじさんから。そしておばさんは条件付きでOKを出した。その条件とは【異世界で王様をやること】だった。戸惑うことなく、すんなり承諾したおじさんは、本当に男気あふれる人だ。
 
 ということで西崎家の婿養子になったおじさんは、持ち前のビジネススキルをフル活用してあっという間に、王位を継いでしまったらしい。異世界人のお后様を娶るより、異世界人が王様をやるほうが何百倍も大変だし反感もあったと思う。
 そんなしがらみとか苦労を乗り越えて、隆兄ちゃんは誕生したのだ。おじさん、おばさん本当にありがとう!

 ちなみにこの家に引越したのは、おじさんの王様業が忙しくなってきたので、通勤(?)に便利な庭に池がある家を探した結果だそうだ。

 それまでは、手頃な池に飛び込んで異世界を行き来していたらしい。お風呂の水では残念ながら、移動はできなかったそうだ。カルキの成分が多すぎたのかもしれない。

 それにしても、おじさんは異世界に行くのに、そこら辺の池に飛び込まないといけなかったなんで大変だったと思う。下手をしたら不審者だ。絶対、職務質問されるレベルだ。
 それを隆兄ちゃんに言ったら【母さんの方が大変だったよ。俺を連れて池に飛び込もうとして、心中と間違われることがかなりあった】と答えてくれた。

 世知辛い世の中なのか、親切な世の中なのか、判定は微妙なところである。

 そんなこんなで、西崎家は田澤家のお隣さんとなり、今に至るのである。いい物件が見つかってよかったね。




□□□


 気付けば、時計は21時を過ぎていた。
 そんなこんなの西崎家のロイヤルストーリーを聞いていたら、いつもよりちょっと長居をしてしまった。明日から連休とはいえ、そろそろお暇する時間だ。

「さて、じゃ私、帰るね」
 
 よいしょと立ち上がって、隆兄ちゃんを見つめる。
 もしかしてゲームのお誘いがあるかもしれないな。あったら嬉しいな。新作一緒にやりたいな。

「しっかり勉強しろよ」

 残念……今日はゲームのお誘いはなさそうです。
 でも、テスト勉強はリアルにやらなければならない。私の学力では補習を受ける受けないかは、毎回綱渡りなのだ。

「……はーい」

 テンションが落ちたまま台所にいるおばさんにも声をかけて、外に出る。西崎家の玄関を開ければ5歩で自宅に到着だ。でも、隆兄ちゃんの国は一歩で行けた。最短だと思っていたのにちょっと悔しい。

 振り返ると、まだ隆兄ちゃんが見送ってくれていた。
 いつも私が玄関の扉を閉めるまで見守ってくれるのだ。たかだか5歩で犯罪に巻き込まれるなんてあるわけないけど、こういうところは昔から心配性なので、少し照れ臭い。

「おやすみ、隆兄ちゃん」
「ああ、おやすみ」

 軽く手を振って、玄関を開ける。

 まさかこの数時間後に、隆兄ちゃんと再び異世界に行くなんて想像すらしてなかった。
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