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お隣さんの秘密
9.再び異世界訪問
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隆兄ちゃんに見送られて、自宅に戻った私は、まずはしっかり戸締まりを確認する。次いで、ゆっくりお風呂に入る。
いつもより長風呂だったのは、色々考えることがあったからだと察してほしい。それから夜食という名の、隆兄ちゃんが異世界から持って帰ってくれたお菓子とコーヒーを盆に乗せて2階の自室に移動する。
「……あ」
ドアを開けた途端に固まってしまった。部屋の一角に恋愛マニュアル本が積み重なっていた。
……すっかり忘れていた。昨晩、気持ちを切り替えようと、本棚を占領していた不必要になったマニュアル本を取り出してそのままにしてしまっていたのだ。
背表紙が黄ばんだものから真新しいものまで、長い片思い歴を痛感させる数々の恋愛マニュアル本を見て、私は再び複雑な気持ちになる。
昨日の私は腹をくくって、この本を全部棄てようと決意した。でも、そのすぐ翌日、隆兄ちゃんのコスプレ疑惑はシロだと知ってしまったのだ。ちょっぴり泣きながら本棚からマニュアル本を引き抜く私にどんまいと言ってあげたい。
さて、この本をどうしようか。もう一度本棚に戻すか、要らないと捨ててしまうのか。
そこまで考えるけど、それ以上は思考が停止する───まぁいいや、とりあえず勉強でもするか。
古紙回収日より、テストの日程の方が若干早いという理由でテスト勉強を選んでみた。人はそれを問題の先送りという。
とりあえず、机に腰掛けて、のろのろと教科書とノートを取り出す。まずは、一番苦手な数学だ。多分すぐギブアップすると思うけど。
明日は休みだから夜更かしできるのに、こんな貴重な時間を勉強に費やさないといけないなんて世知辛い世の中だ。窓を開けて隆兄ちゃんにゲームを誘いたいけど、今日は誘っても勉強しろと言われてぴしゃりと窓を閉められるだろう。
と思いつつ、往生際の悪い私はいつもの習慣で窓を開けておく。
───カリカリと、問題を解いていくけれど、すぐに手が止まってしまう。
勉強が進まないのは、今日の出来事を思い出して集中できないのが8割、苦手な数学だからはかどらないというのが2割だ。
あと突然だけど、今日、一つ身をもって学んだことがある。それは、キャパを超えた衝撃と驚きは、時間差でやって来ると、いうこと。
シャープペンを置いて、コーヒーを一口。それから、お菓子も一口。柑橘系っぽいドライフルーツを砂糖で塗したお菓子を食べて、目を丸くする。何これ、めっちゃ美味しい。こんなお菓子始めてだ。……まぁ、そりゃあ食べたことなくて当然だよね、これ異世界のお菓子だもんと一人ツッコミをする。そして今更ながら、はたと気付く。
そうだ本当の夢のような国に行ってしまったのだ。電車で行ける夢の国でもなく、ネットのゲームの世界でもない、本当の異世界に。リアルに真っ白のなお城の中を歩いたのだ。そして、王冠を被った王様と王子さまをここ目で見てしまったのだ。
じわじわと嬉しさが込み上げる。でも、一番嬉しかったのは───
「……隆兄ちゃん、厨二病じゃなくって良かったぁ」
腐っても初恋の相手だ。一生で一度の代わりのきかない相手が厨二病だからって黒歴史として抹消しなくても良いのだ。嬉しい。というかホッとしている。
でも、本当に嬉しいのは、隆兄ちゃんの秘密を一番に教えてもらったこと。あの時、勇気を出して聞いてみて本当に良かった。好きとか嫌いとかそういう恋愛感情の前に、隆兄ちゃんに一番近い存在は私でありたいって思ってる。それはこれからも、絶対に変わらない気持ちだ。
シャープペンでくるくる円を書いて、にやけた顔をごまかす。ちなみに広げたばっかりの数字のノートには公式はより落書きの方が多い。まぁ、そんなこと今日はさしたる問題ではない。この喜びを今噛み締めなくて、いつ噛み締めるというのだ。
でもすぐ、ふわぁっとあくびが出て、時計を見る。いつの間にか日にちが変わっていた。
ゲームだったらまだまだ元気だけど、勉強となると途端に眠くなる自分が情けない。そして、私は自分にとことん甘い性格なのだ。
「……寝よっかな」
鮮度ぴちぴちのこの状態でこのまま寝たら、もしかしてまた王子様スタイルの隆兄ちゃんに会えるかもしれない。その時はちゃんと素直にカッコイイと言おう。と、無意識にノートを閉じたその時──
「水樹、起きてるか!?」
隆兄ちゃんの叫び声と、私の部屋に誰かが飛び込んできたのはほぼ同時だった。
「りゅ、隆兄ちゃん!?……って、またコスプレしてるの?」
目を剥いて叫ぶ私だったが、隆兄ちゃんの姿を見て噴き出すのを必死で堪える。あれ?夢でカッコイイって言う予定だったよね、私。駄目だ、本人を前にしたら、どうしても見慣れたスウェット姿とのギャップで笑ってしまう。
隆兄ちゃんはというと、そんな私の複雑な心境など察することなく、あからさまにむっとしている。でも、机に広げたままの教科書とノートを見て目を丸くした。
「何だお前、ちゃんと勉強してたのか」
「してたよ!当たり前じゃん」
まったくもって失礼だ。ただ落書きだらけのノートを閉じておいて内心良かった良かったと、ほっと胸を撫で下ろす。
「じゃ、後で勉強みてやるから、ちょっと付き合ってくれ」
「はぁ?……って、隆兄ちゃんどこ行くの。うわぁ」
目を丸くする私に、隆兄ちゃんは行きながら話すと、私を担ぎあげた。
「面倒だから、こっから行くぞ」
そう言って、私を担いだまま隆兄ちゃんは、窓を超えて、西崎家の隆兄ちゃんの部屋へと移動する。
窓を超えた時点でお姫様抱っこに切り替えてくれたのは、一応の気遣いなのだろうか。ちょっと前まで、隆兄ちゃんにお姫様抱っこされたら死んでも良いなんて思っていたけれど、なんか違う。こんなシチュエーションじゃない。
私は釈然としない気持ちを抱えた抱え、隆兄ちゃんはそんな私を抱えて、あっという間に1階にかけ降りる。そして向かった先は、予想通り、西崎家の池だった。
「本当にすまない、水樹。後でチョコ買ってやるかなら」
「ゴディバ一択でお願い!」
「……おう」
隆兄ちゃんの微妙な間が気になったけど、それについて問い詰める時間はなかった。あっという間に、再び私は異世界にお邪魔することになったのだ。───またしても裸足で。
いつもより長風呂だったのは、色々考えることがあったからだと察してほしい。それから夜食という名の、隆兄ちゃんが異世界から持って帰ってくれたお菓子とコーヒーを盆に乗せて2階の自室に移動する。
「……あ」
ドアを開けた途端に固まってしまった。部屋の一角に恋愛マニュアル本が積み重なっていた。
……すっかり忘れていた。昨晩、気持ちを切り替えようと、本棚を占領していた不必要になったマニュアル本を取り出してそのままにしてしまっていたのだ。
背表紙が黄ばんだものから真新しいものまで、長い片思い歴を痛感させる数々の恋愛マニュアル本を見て、私は再び複雑な気持ちになる。
昨日の私は腹をくくって、この本を全部棄てようと決意した。でも、そのすぐ翌日、隆兄ちゃんのコスプレ疑惑はシロだと知ってしまったのだ。ちょっぴり泣きながら本棚からマニュアル本を引き抜く私にどんまいと言ってあげたい。
さて、この本をどうしようか。もう一度本棚に戻すか、要らないと捨ててしまうのか。
そこまで考えるけど、それ以上は思考が停止する───まぁいいや、とりあえず勉強でもするか。
古紙回収日より、テストの日程の方が若干早いという理由でテスト勉強を選んでみた。人はそれを問題の先送りという。
とりあえず、机に腰掛けて、のろのろと教科書とノートを取り出す。まずは、一番苦手な数学だ。多分すぐギブアップすると思うけど。
明日は休みだから夜更かしできるのに、こんな貴重な時間を勉強に費やさないといけないなんて世知辛い世の中だ。窓を開けて隆兄ちゃんにゲームを誘いたいけど、今日は誘っても勉強しろと言われてぴしゃりと窓を閉められるだろう。
と思いつつ、往生際の悪い私はいつもの習慣で窓を開けておく。
───カリカリと、問題を解いていくけれど、すぐに手が止まってしまう。
勉強が進まないのは、今日の出来事を思い出して集中できないのが8割、苦手な数学だからはかどらないというのが2割だ。
あと突然だけど、今日、一つ身をもって学んだことがある。それは、キャパを超えた衝撃と驚きは、時間差でやって来ると、いうこと。
シャープペンを置いて、コーヒーを一口。それから、お菓子も一口。柑橘系っぽいドライフルーツを砂糖で塗したお菓子を食べて、目を丸くする。何これ、めっちゃ美味しい。こんなお菓子始めてだ。……まぁ、そりゃあ食べたことなくて当然だよね、これ異世界のお菓子だもんと一人ツッコミをする。そして今更ながら、はたと気付く。
そうだ本当の夢のような国に行ってしまったのだ。電車で行ける夢の国でもなく、ネットのゲームの世界でもない、本当の異世界に。リアルに真っ白のなお城の中を歩いたのだ。そして、王冠を被った王様と王子さまをここ目で見てしまったのだ。
じわじわと嬉しさが込み上げる。でも、一番嬉しかったのは───
「……隆兄ちゃん、厨二病じゃなくって良かったぁ」
腐っても初恋の相手だ。一生で一度の代わりのきかない相手が厨二病だからって黒歴史として抹消しなくても良いのだ。嬉しい。というかホッとしている。
でも、本当に嬉しいのは、隆兄ちゃんの秘密を一番に教えてもらったこと。あの時、勇気を出して聞いてみて本当に良かった。好きとか嫌いとかそういう恋愛感情の前に、隆兄ちゃんに一番近い存在は私でありたいって思ってる。それはこれからも、絶対に変わらない気持ちだ。
シャープペンでくるくる円を書いて、にやけた顔をごまかす。ちなみに広げたばっかりの数字のノートには公式はより落書きの方が多い。まぁ、そんなこと今日はさしたる問題ではない。この喜びを今噛み締めなくて、いつ噛み締めるというのだ。
でもすぐ、ふわぁっとあくびが出て、時計を見る。いつの間にか日にちが変わっていた。
ゲームだったらまだまだ元気だけど、勉強となると途端に眠くなる自分が情けない。そして、私は自分にとことん甘い性格なのだ。
「……寝よっかな」
鮮度ぴちぴちのこの状態でこのまま寝たら、もしかしてまた王子様スタイルの隆兄ちゃんに会えるかもしれない。その時はちゃんと素直にカッコイイと言おう。と、無意識にノートを閉じたその時──
「水樹、起きてるか!?」
隆兄ちゃんの叫び声と、私の部屋に誰かが飛び込んできたのはほぼ同時だった。
「りゅ、隆兄ちゃん!?……って、またコスプレしてるの?」
目を剥いて叫ぶ私だったが、隆兄ちゃんの姿を見て噴き出すのを必死で堪える。あれ?夢でカッコイイって言う予定だったよね、私。駄目だ、本人を前にしたら、どうしても見慣れたスウェット姿とのギャップで笑ってしまう。
隆兄ちゃんはというと、そんな私の複雑な心境など察することなく、あからさまにむっとしている。でも、机に広げたままの教科書とノートを見て目を丸くした。
「何だお前、ちゃんと勉強してたのか」
「してたよ!当たり前じゃん」
まったくもって失礼だ。ただ落書きだらけのノートを閉じておいて内心良かった良かったと、ほっと胸を撫で下ろす。
「じゃ、後で勉強みてやるから、ちょっと付き合ってくれ」
「はぁ?……って、隆兄ちゃんどこ行くの。うわぁ」
目を丸くする私に、隆兄ちゃんは行きながら話すと、私を担ぎあげた。
「面倒だから、こっから行くぞ」
そう言って、私を担いだまま隆兄ちゃんは、窓を超えて、西崎家の隆兄ちゃんの部屋へと移動する。
窓を超えた時点でお姫様抱っこに切り替えてくれたのは、一応の気遣いなのだろうか。ちょっと前まで、隆兄ちゃんにお姫様抱っこされたら死んでも良いなんて思っていたけれど、なんか違う。こんなシチュエーションじゃない。
私は釈然としない気持ちを抱えた抱え、隆兄ちゃんはそんな私を抱えて、あっという間に1階にかけ降りる。そして向かった先は、予想通り、西崎家の池だった。
「本当にすまない、水樹。後でチョコ買ってやるかなら」
「ゴディバ一択でお願い!」
「……おう」
隆兄ちゃんの微妙な間が気になったけど、それについて問い詰める時間はなかった。あっという間に、再び私は異世界にお邪魔することになったのだ。───またしても裸足で。
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