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欧州女形演芸場ものがたり -l'Okama -・10
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さてさて、夜のベルサイユ宮殿。
実はパパンやママンがここのあるじだった時と、今現在のわたくしテレーズとその弟や妹たちが暮らしておる時とでは、昼や夜の食事の時間がかなり違っておったのです。
そして、わたしら子供と、父母の食事…特に夕食は厳然と分けられておった記憶があるのです、時間も、場所も…。
で、うちのパパンたるルイ16世。
はっきり申し上げて見た目通りの食欲の人、ですた。
ええ、お祖父様や曽祖父さまも大概な大食漢だったそうですがね。
あ、ついでに申し上げときますけどね、うちの母親たるアントワネットですけど、実のところはあまり贅沢しとらんかったのですよっ。
それに、タレーラン夫人だったドロテア同様、フランス流の宮廷生活や貴族との付き合いに疲れておりましてね。
基本的には極力、小トレアノン宮に引きこもっておったのです。
で、現在でこそ痴女皇国の手によってベルサイユ宮殿はパリ市内の中心部に移築されておりますが、元々のベルサイユはパリから離れた広大な庭園の中に建っておったのです。
そして、その庭園敷地に建つ小トレアノン宮の近くに、うちの母親が管理する野菜畑や果物畑がありました。
更には、牛や豚や羊に鶏に兎など、ある程度の食材、すぐ調達できるように飼われておったのです。
これ、うちの母自身も面倒見てましてね。
一応はある程度の自給自足、しとったんですよ。
さて、爆食な大食漢だったかはともかく食通ではあったタレーランですが、ヴェロニク様いわく、痴女皇国世界のタレーランと連邦世界のタレーランの拠点となった居宅にはいささかの違いがあるようなのですよ。
こちらでは、都々逸国生まれのドロテアにはいささかに厳しい場所に、タレーランの屋敷がありました。
タレーランの葬式を出したメダイ聖母奇跡聖堂の近所に、新興貴族の邸宅が集中している場所があるのです。
(当時のフランス貴族、痴女皇国世界でも多くがル・マレに住んでいたようですね)
つまり、ルーブル宮の東側であるル・マレと呼ばれておる一帯。
ところが、このル・マレの一帯に貴族の邸宅が集中したせいで場所が足らんとかいう話になりまして。
そこで、法服貴族を中心とした近年の新興貴族たちはもちろん、それまでの居宅が狭いとか例のトイレ問題で困っていた連中が、廃兵院から東の森を切り開いて新たな宅地を造成させたんですが、その中にタレーランの居宅もあったのです。
それが、フォーブル・サンジェルマン…サンジェルマン通りに面した一帯というわけです。
ベルサイユ宮殿(移築後)
⬜︎⬜︎ ルーブル宮 この辺が
エリゼ宮→⬜︎ ⬜︎ ル・マレ地区
=============セーヌ川
この辺り一帯が
廃兵院 フォーブール・サンジェルマン
⬜︎
ただ、そこも貴族の近所付き合いがあって、巻き込まれたドロテア夫人にしてみれば、かなり肩が凝る窮屈な暮らし向きだったようなのです。
ですが、ヴェロニク様いわく、連邦世界での貴族社会がもっと窮屈だったこともあって、そっちのタレーランが英国大使としてロンドンに赴任した時は大いに喜んでおったようですね…。
それと、ヴェロニク様やリヴィエラ様が「あそこまで行かんでええ」と喜んでおられた、前回でちらりと名前が出たヴァランセ城なる城ですが。
「時の皇帝であったナポレオン1世はこの城をタレーランに与え、外交の拠点としたのです。つまり、カレーム氏の手になる美食を他国の外交官に振る舞う饗宴の場として使わせ、フランス外交を有利に運ばせようとしていたのですよ」
ただ、このヴァランセ城、パリ市街からはおもっくそ離れた場所にあります。
鉄の道ならばともかく、馬車で行けば朝パリを出て夕方に着く頃合いの距離なのです。
<i907135|38087>
ですから、ヴァランセでタレーランの葬式を出さんでも良かった痴女皇国世界では、行く手間が省けただけでも大助かりだったようです。
んでまぁ、ベルサイユでの食事の時間。
夕食と言いながら、早い時でも21時から始まってたようなのです。
そして酒も振る舞われますし、料理も大人向け。
そんな訳で私ら子供、パパンやママンより遥かに早く食事を済ませて就寝となっておったのです。
ですが、父母亡きあとは私らが矢面に立たねばなりません。
そんな訳でやむを得ず、わしもソフィーも大人になって晩餐や夜会に出とるのです。
むろん、大人になるのを無理からに早められたと言えばフラメンシアも同じ。
で、今回のタレーランの葬儀。
フランス王国の国葬扱いです。
そして、今からの夜会はその葬儀に参列した各国の大使やら公使やら、外交官の慰労晩餐会の後で行われます。
これは、マルハレータ殿下がカレーム氏に連絡して王立料理アカデミー所属の料理人を動員することで調理人を用立てて頂けました。
問題は、その後の夜会。
しかし、タレーランの葬儀、いかにいけすかない助平な裏切り狸であったとしても、建前は国葬ですので一応は格式あるものにしようという演出が企画されました。
具体的には、シャルロット大司教やオクタヴィアーナ枢機卿だけでなく、罰姦の教皇猊下と副教皇猊下、そして聖母聖下が列席されたのです。
(連邦世界だとバチカン教皇は聖下なのですが、痴女皇国であればあたしが最高位者らしいので…)
つまり、ベラ子陛下、ご臨席。
これも、フランスへの介入機会を窺う連中への釘刺しの一環のようです。
んでまぁ、罰姦のお偉方だけではなく、ルクレツィア支部長もお越しだった訳ですよ。
で、実のところはこの方々、罰姦としてだけではなく、イタリア支部関係者としてお越しです。
つまり、ベネチアやミラノ、そしてフィレンツェにローマの金融業界に顔が利くボルジア商会の方々、というのが本当の参加理由なのです…。
(なるほど、テレーズ殿下もよくお考えになるものだ)
(確かに、父もおばさま方もボルジア商会関係者)
(ルイーサちゃん…ルクレツィア母様はまだしも、あたしまでおばちゃん扱い…せめてベラ子ねーさまで)
(マリアヴェッラ。あなたの母としてわたくしは色々申したいのですけどねぇっ)
ええ、表面上はにこやかでも、裏ではイタリア人特有と申し上げますべきか、うるさい応酬が始まっております。
で、ベラ子陛下は実のところ、聖母としてだけではなく、痴女皇国皇帝並びに聖母記念銀行の頭取としてお越しなのです。
お分かりでしょうか。
つまり、タレーラン・ペリゴール家の当主が死亡して云々の機会に乗じた詐欺師まがいがいれば、その連中をイタリア組を囲む輪の中に無理からにでも引き込み、あまつさえ逆詐欺まがいに嵌めようという魂胆なのです。
ですので、メディチ家やパッツィ家といった銀行系資産家の関係者も連れて来られておいで。
メディチ家の養女扱いのオクタヴィアーナ…オクタヴィア枢機卿がお越しなのも「しんどい」貴族や商人にその辺の話をして、旨みがあるようならば乗っ取…いえいえいえ、援助のお話をするためであるとか。
(ふぉふぉふぉふぉふぉ、おぜぜをかすめ取る話をしに来た人からおぜぜを掠め取るのがほんまもんの詐欺というものなのですぅっ)
(ベラちゃんそれ黒詐欺って言わない?)
(晩餐のコースメニューをぱくぱく食べていた人物には言われとうないのです。たのきちは聖母記念銀行本店支配人なのですから融資申請書を取り交わすことに尽力しやがるのですぅ…)
(一人10枚とか金融屋のノルマじゃないんだから…)
ええ、タノキチ財務部長、明らかにドレスを着慣れない所作ですけど、とりあえずはお越しなのです。
(それよりテレーズ殿下、ドロテア公爵に接近しようとする人には注意を払ってくださいね…やはり詐欺まがいの接触を企んでいる人物、あたしが感知できただけでも20人は下りませんよ…)
ええ、この夜会、晩餐会こそ参加者が限られておりましたが、その後の追悼夜会とやらには服装チェックを通過できた者はベルサイユの門を通してよし、の許可を出すことにしたのです。
つまり、夜会向けの服装さえ仕立てて来れるならば、身分を問わずに入れております。
ただ、武器持ちはその場で門番の聖女騎士団騎士が誰何しておりますし、目的が露骨に不穏ならば門のはるか前から察知できますね、騎士なら…。
ええ、金持ちの誘拐や暗殺などを考える者が万一にでも現れた場合は、即座に捕縛する体制が用意周到に組まれております。
それに、金持ちが集まるということで物乞いや寄附を無心しようとする者も、ちょっと待ちなさいとやられることになっております。
(乞食や物乞いの部類はフランス国土からはほぼ、一掃されましたし…)
(どうしても融資をという場合は、たのきちに開かせている財務局員の相談窓口に連れて行くようにお願いします…)
ええ、本当に真剣に助けて欲しいと懇願できる機会を得ようとした者については「助けてと言った者は助ける。ただし代償は要求する」という聖院規範に基づいて話を聞くそうです。
(門前に騎士を大量配置するようにお願いしたのはその辺もあるのです…アルトさん、よろしくお願いするのです…)
(へいっへいかっおまかせをっ)
(アルトさん…なんで手空きの黒薔薇騎士、パリに引っ張って行くんですかと思えばこれですかいな…)
(いそがしいと思うたからなのです、ダリア…)
ええ、やたらと色気のあるこわもてお姉さんといった風情の、特徴ある騎士服に身を包んだ方が数名…え。
(ほっほほほ、ばれちゃあ仕方ありませんね…)
(アフロの金髪は目立つのよ…)
ええ、銀色の短髪の、一見すると小柄な騎士様と、同じくらいの身長で金色の巻き髪を長めに伸ばした黒薔薇騎士…じゃなくてアフロディーネ女官長じゃないですか!
つまり、今、このベルサイユに結構な数の本宮幹部、お越しになっとらんでしょうか。
更には、アルト閣下をたしなめておられたはずのダリアリーゼ統括騎士団長様までもが。
(なんか、うちがおった時とはえっらい違うありさまになっとるんですなぁ…)
(だりあもぺるせちゃんもなにをしとるのですか…あたくしにしごとをおしつけて!)
(おだまり痴女宮あたくし。ダリアとペルセちゃんはフランスでさくせんの可能性があるでしょう…そのときにそなえて今のパリをみせておいたほうがいいとおもうのですよ…)
(あふろちゃんまできてるではないですか!)
(私はベラ子先生に呼ばれてまして…ベルナルディーゼ局長からも、ちゃんと出張許可もらってます…)
(痴女皇国の方のアルトさん…私なんか晩餐会にまともに参加させてもらえないのに臨時の融資相談窓口なんですよ…せめてベルサイユの中だけでも見て帰らないと元が取れませんよ…連邦世界だとベルサイユ宮殿、中を見せてもらうにもお金を取られるんですよ?)
(うそをおこき…末席でちゃんと食べていたのを見ておるのです…)
(マドモアゼル田野瀬、私どもに連絡を頂ければ専用の案内役つきで…)
(普段は見せておらぬ1階などもご覧頂けるようにしますから…)
(わかる?ベラちゃん…このフランス共和国の方々の優しさが人の温情っていうものなのよ…?)
(わかったからたのきちは融資の審査を仕切るのです…はっきり言いますが、詐欺師まがいも結構来てますよ…たのきちならわかるでしょ…)
でぇえええええ。
(ふふふふふ、テレーズ殿下、ご安心を…それに、まりり…マリアリーゼ上皇も知っての上で、敢えて詐欺師まがいも門を通してもらってるんですよ…)
(どう言うことなのでしょうか。普通ならばそんな身の程知らずは速攻で捕縛では…)
(ふっふふふふふ、詐欺師にも色々あるじゃないですか…例えば、詐欺の理由が誰かに脅さていれたり自分に不利な借金を抱えたとか、あるいは融資を得たいけど失敗した時に負債を背負うのが嫌だから盗んだ金でやりたいとか、あるいは単に遊んで暮らすお金が欲しいだけとか)
なるほど。
その、詐欺に至る理由までを調べた上で、罪を問うに値するかどうかをお決めになると…。
で、そいつらについてですが、一旦は本当に困った者たちと同様に扱って天幕を張った中で行われている臨時の相談窓口に案内しておるようです。
(ふむふむ、昨今は貴族のお客も減って子供の養育費に困っておると…なるほど。ユール・ベルナールさん…あなたと4人の娘さんたちの今後については少し、違う担当者がお話をすることになります。テレーズ殿下、ちょっとこの職業・高級娼婦であるジュディト=ジュリー・ベルナールさんについて、遊撃騎兵隊入りを含めて相談に乗ってあげて頂けませんでしょうか…)
実はパパンやママンがここのあるじだった時と、今現在のわたくしテレーズとその弟や妹たちが暮らしておる時とでは、昼や夜の食事の時間がかなり違っておったのです。
そして、わたしら子供と、父母の食事…特に夕食は厳然と分けられておった記憶があるのです、時間も、場所も…。
で、うちのパパンたるルイ16世。
はっきり申し上げて見た目通りの食欲の人、ですた。
ええ、お祖父様や曽祖父さまも大概な大食漢だったそうですがね。
あ、ついでに申し上げときますけどね、うちの母親たるアントワネットですけど、実のところはあまり贅沢しとらんかったのですよっ。
それに、タレーラン夫人だったドロテア同様、フランス流の宮廷生活や貴族との付き合いに疲れておりましてね。
基本的には極力、小トレアノン宮に引きこもっておったのです。
で、現在でこそ痴女皇国の手によってベルサイユ宮殿はパリ市内の中心部に移築されておりますが、元々のベルサイユはパリから離れた広大な庭園の中に建っておったのです。
そして、その庭園敷地に建つ小トレアノン宮の近くに、うちの母親が管理する野菜畑や果物畑がありました。
更には、牛や豚や羊に鶏に兎など、ある程度の食材、すぐ調達できるように飼われておったのです。
これ、うちの母自身も面倒見てましてね。
一応はある程度の自給自足、しとったんですよ。
さて、爆食な大食漢だったかはともかく食通ではあったタレーランですが、ヴェロニク様いわく、痴女皇国世界のタレーランと連邦世界のタレーランの拠点となった居宅にはいささかの違いがあるようなのですよ。
こちらでは、都々逸国生まれのドロテアにはいささかに厳しい場所に、タレーランの屋敷がありました。
タレーランの葬式を出したメダイ聖母奇跡聖堂の近所に、新興貴族の邸宅が集中している場所があるのです。
(当時のフランス貴族、痴女皇国世界でも多くがル・マレに住んでいたようですね)
つまり、ルーブル宮の東側であるル・マレと呼ばれておる一帯。
ところが、このル・マレの一帯に貴族の邸宅が集中したせいで場所が足らんとかいう話になりまして。
そこで、法服貴族を中心とした近年の新興貴族たちはもちろん、それまでの居宅が狭いとか例のトイレ問題で困っていた連中が、廃兵院から東の森を切り開いて新たな宅地を造成させたんですが、その中にタレーランの居宅もあったのです。
それが、フォーブル・サンジェルマン…サンジェルマン通りに面した一帯というわけです。
ベルサイユ宮殿(移築後)
⬜︎⬜︎ ルーブル宮 この辺が
エリゼ宮→⬜︎ ⬜︎ ル・マレ地区
=============セーヌ川
この辺り一帯が
廃兵院 フォーブール・サンジェルマン
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ただ、そこも貴族の近所付き合いがあって、巻き込まれたドロテア夫人にしてみれば、かなり肩が凝る窮屈な暮らし向きだったようなのです。
ですが、ヴェロニク様いわく、連邦世界での貴族社会がもっと窮屈だったこともあって、そっちのタレーランが英国大使としてロンドンに赴任した時は大いに喜んでおったようですね…。
それと、ヴェロニク様やリヴィエラ様が「あそこまで行かんでええ」と喜んでおられた、前回でちらりと名前が出たヴァランセ城なる城ですが。
「時の皇帝であったナポレオン1世はこの城をタレーランに与え、外交の拠点としたのです。つまり、カレーム氏の手になる美食を他国の外交官に振る舞う饗宴の場として使わせ、フランス外交を有利に運ばせようとしていたのですよ」
ただ、このヴァランセ城、パリ市街からはおもっくそ離れた場所にあります。
鉄の道ならばともかく、馬車で行けば朝パリを出て夕方に着く頃合いの距離なのです。
<i907135|38087>
ですから、ヴァランセでタレーランの葬式を出さんでも良かった痴女皇国世界では、行く手間が省けただけでも大助かりだったようです。
んでまぁ、ベルサイユでの食事の時間。
夕食と言いながら、早い時でも21時から始まってたようなのです。
そして酒も振る舞われますし、料理も大人向け。
そんな訳で私ら子供、パパンやママンより遥かに早く食事を済ませて就寝となっておったのです。
ですが、父母亡きあとは私らが矢面に立たねばなりません。
そんな訳でやむを得ず、わしもソフィーも大人になって晩餐や夜会に出とるのです。
むろん、大人になるのを無理からに早められたと言えばフラメンシアも同じ。
で、今回のタレーランの葬儀。
フランス王国の国葬扱いです。
そして、今からの夜会はその葬儀に参列した各国の大使やら公使やら、外交官の慰労晩餐会の後で行われます。
これは、マルハレータ殿下がカレーム氏に連絡して王立料理アカデミー所属の料理人を動員することで調理人を用立てて頂けました。
問題は、その後の夜会。
しかし、タレーランの葬儀、いかにいけすかない助平な裏切り狸であったとしても、建前は国葬ですので一応は格式あるものにしようという演出が企画されました。
具体的には、シャルロット大司教やオクタヴィアーナ枢機卿だけでなく、罰姦の教皇猊下と副教皇猊下、そして聖母聖下が列席されたのです。
(連邦世界だとバチカン教皇は聖下なのですが、痴女皇国であればあたしが最高位者らしいので…)
つまり、ベラ子陛下、ご臨席。
これも、フランスへの介入機会を窺う連中への釘刺しの一環のようです。
んでまぁ、罰姦のお偉方だけではなく、ルクレツィア支部長もお越しだった訳ですよ。
で、実のところはこの方々、罰姦としてだけではなく、イタリア支部関係者としてお越しです。
つまり、ベネチアやミラノ、そしてフィレンツェにローマの金融業界に顔が利くボルジア商会の方々、というのが本当の参加理由なのです…。
(なるほど、テレーズ殿下もよくお考えになるものだ)
(確かに、父もおばさま方もボルジア商会関係者)
(ルイーサちゃん…ルクレツィア母様はまだしも、あたしまでおばちゃん扱い…せめてベラ子ねーさまで)
(マリアヴェッラ。あなたの母としてわたくしは色々申したいのですけどねぇっ)
ええ、表面上はにこやかでも、裏ではイタリア人特有と申し上げますべきか、うるさい応酬が始まっております。
で、ベラ子陛下は実のところ、聖母としてだけではなく、痴女皇国皇帝並びに聖母記念銀行の頭取としてお越しなのです。
お分かりでしょうか。
つまり、タレーラン・ペリゴール家の当主が死亡して云々の機会に乗じた詐欺師まがいがいれば、その連中をイタリア組を囲む輪の中に無理からにでも引き込み、あまつさえ逆詐欺まがいに嵌めようという魂胆なのです。
ですので、メディチ家やパッツィ家といった銀行系資産家の関係者も連れて来られておいで。
メディチ家の養女扱いのオクタヴィアーナ…オクタヴィア枢機卿がお越しなのも「しんどい」貴族や商人にその辺の話をして、旨みがあるようならば乗っ取…いえいえいえ、援助のお話をするためであるとか。
(ふぉふぉふぉふぉふぉ、おぜぜをかすめ取る話をしに来た人からおぜぜを掠め取るのがほんまもんの詐欺というものなのですぅっ)
(ベラちゃんそれ黒詐欺って言わない?)
(晩餐のコースメニューをぱくぱく食べていた人物には言われとうないのです。たのきちは聖母記念銀行本店支配人なのですから融資申請書を取り交わすことに尽力しやがるのですぅ…)
(一人10枚とか金融屋のノルマじゃないんだから…)
ええ、タノキチ財務部長、明らかにドレスを着慣れない所作ですけど、とりあえずはお越しなのです。
(それよりテレーズ殿下、ドロテア公爵に接近しようとする人には注意を払ってくださいね…やはり詐欺まがいの接触を企んでいる人物、あたしが感知できただけでも20人は下りませんよ…)
ええ、この夜会、晩餐会こそ参加者が限られておりましたが、その後の追悼夜会とやらには服装チェックを通過できた者はベルサイユの門を通してよし、の許可を出すことにしたのです。
つまり、夜会向けの服装さえ仕立てて来れるならば、身分を問わずに入れております。
ただ、武器持ちはその場で門番の聖女騎士団騎士が誰何しておりますし、目的が露骨に不穏ならば門のはるか前から察知できますね、騎士なら…。
ええ、金持ちの誘拐や暗殺などを考える者が万一にでも現れた場合は、即座に捕縛する体制が用意周到に組まれております。
それに、金持ちが集まるということで物乞いや寄附を無心しようとする者も、ちょっと待ちなさいとやられることになっております。
(乞食や物乞いの部類はフランス国土からはほぼ、一掃されましたし…)
(どうしても融資をという場合は、たのきちに開かせている財務局員の相談窓口に連れて行くようにお願いします…)
ええ、本当に真剣に助けて欲しいと懇願できる機会を得ようとした者については「助けてと言った者は助ける。ただし代償は要求する」という聖院規範に基づいて話を聞くそうです。
(門前に騎士を大量配置するようにお願いしたのはその辺もあるのです…アルトさん、よろしくお願いするのです…)
(へいっへいかっおまかせをっ)
(アルトさん…なんで手空きの黒薔薇騎士、パリに引っ張って行くんですかと思えばこれですかいな…)
(いそがしいと思うたからなのです、ダリア…)
ええ、やたらと色気のあるこわもてお姉さんといった風情の、特徴ある騎士服に身を包んだ方が数名…え。
(ほっほほほ、ばれちゃあ仕方ありませんね…)
(アフロの金髪は目立つのよ…)
ええ、銀色の短髪の、一見すると小柄な騎士様と、同じくらいの身長で金色の巻き髪を長めに伸ばした黒薔薇騎士…じゃなくてアフロディーネ女官長じゃないですか!
つまり、今、このベルサイユに結構な数の本宮幹部、お越しになっとらんでしょうか。
更には、アルト閣下をたしなめておられたはずのダリアリーゼ統括騎士団長様までもが。
(なんか、うちがおった時とはえっらい違うありさまになっとるんですなぁ…)
(だりあもぺるせちゃんもなにをしとるのですか…あたくしにしごとをおしつけて!)
(おだまり痴女宮あたくし。ダリアとペルセちゃんはフランスでさくせんの可能性があるでしょう…そのときにそなえて今のパリをみせておいたほうがいいとおもうのですよ…)
(あふろちゃんまできてるではないですか!)
(私はベラ子先生に呼ばれてまして…ベルナルディーゼ局長からも、ちゃんと出張許可もらってます…)
(痴女皇国の方のアルトさん…私なんか晩餐会にまともに参加させてもらえないのに臨時の融資相談窓口なんですよ…せめてベルサイユの中だけでも見て帰らないと元が取れませんよ…連邦世界だとベルサイユ宮殿、中を見せてもらうにもお金を取られるんですよ?)
(うそをおこき…末席でちゃんと食べていたのを見ておるのです…)
(マドモアゼル田野瀬、私どもに連絡を頂ければ専用の案内役つきで…)
(普段は見せておらぬ1階などもご覧頂けるようにしますから…)
(わかる?ベラちゃん…このフランス共和国の方々の優しさが人の温情っていうものなのよ…?)
(わかったからたのきちは融資の審査を仕切るのです…はっきり言いますが、詐欺師まがいも結構来てますよ…たのきちならわかるでしょ…)
でぇえええええ。
(ふふふふふ、テレーズ殿下、ご安心を…それに、まりり…マリアリーゼ上皇も知っての上で、敢えて詐欺師まがいも門を通してもらってるんですよ…)
(どう言うことなのでしょうか。普通ならばそんな身の程知らずは速攻で捕縛では…)
(ふっふふふふふ、詐欺師にも色々あるじゃないですか…例えば、詐欺の理由が誰かに脅さていれたり自分に不利な借金を抱えたとか、あるいは融資を得たいけど失敗した時に負債を背負うのが嫌だから盗んだ金でやりたいとか、あるいは単に遊んで暮らすお金が欲しいだけとか)
なるほど。
その、詐欺に至る理由までを調べた上で、罪を問うに値するかどうかをお決めになると…。
で、そいつらについてですが、一旦は本当に困った者たちと同様に扱って天幕を張った中で行われている臨時の相談窓口に案内しておるようです。
(ふむふむ、昨今は貴族のお客も減って子供の養育費に困っておると…なるほど。ユール・ベルナールさん…あなたと4人の娘さんたちの今後については少し、違う担当者がお話をすることになります。テレーズ殿下、ちょっとこの職業・高級娼婦であるジュディト=ジュリー・ベルナールさんについて、遊撃騎兵隊入りを含めて相談に乗ってあげて頂けませんでしょうか…)
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