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番外編・吉原よいとこ一度はおいで 5

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リンド…いえ、偽女種4号さんが告げた、女性夜間外出禁止令のからくり暴露心話に驚く女性陣と、深く頷く男性または偽女種をかま陣。

(そうじゃ…りん…4号の見立て通りなのじゃ…)

(そして、元来はけがらわしいとして忌み嫌われる穢多えたや、前科者や牢人どもゆえ、道の真ん中を歩けぬ非人ひにんを救済するための施しでもあるのです…)

そうです。

虎次郎くんの活躍を奇貨きかとして、狂犬病の遠因を作った穢多頭えたがしらを叱る一方、その虎次郎くんの餌を献上させる手段、穢多の方に講じて頂くことで神仏への徳を積む存在であると、穢多の皆様を褒め称える政策を取っている最中なのです…痴女皇国世界の江戸幕府…。

むろん、その裏には江戸を中心に比丘尼国全体で流行の兆しを見せている、西欧風食肉文化に伴う食肉消費量の大幅な増大を見越した「身分制度変更」がまず、視野にあります。

それまでの江戸では、皆さんも教科書で習われたかも知れませんが、士農工商しのうこうしょうの四つの身分の更に下とされる、穢多非人えたひにんが身分階級として存在しました。

そして、穢多非人とされた方は、いわゆる人生ガチャとやらでは最低も最低とされたのです。

しかし、姉やおかみ様はそこをいじくろうとしました。

理由は、先ほど申し上げた畜肉生産や、皮革や骨の工業的利用を行うための労働力確保。

そのためには、穢多を身分階級でなく職業階級として比丘尼国内に認識させる必要があります。

で、穢多職とするためには、そのお仕事を希望する人がいなくてはなりません。

ただ…現状では、穢多になってくださいと言っても、そう簡単にはなり手になってもらえないでしょう。

なぜならば、現状の比丘尼国で穢多の皆様が就業しておられるお仕事、屠殺解体のような血にまみれ生き物の生死に直面する凄惨な作業か、さもなくば糞尿汲み取りのような3K職種と定められています。

特に、あたしの故郷と言えば故郷たるイタリアはもちろん、他の欧米諸国の住民ほどには大型の哺乳類を飼育したり生肉処理し慣れていないか、はたまた、教義では動物の殺害を推奨しない仏教が普及していったせいか、日本では家畜を家畜として処理する現場に抵抗感を持つ人が多いと思うのですよ。

(確かに、お肉は食べるけど、そのお肉にする現場を見るのは嫌だって人はいるわよね…」

(どうぶつあいごうんどうがいきすぎてどうぶつあいごーうんどうになったり、おにくがたべられなくておんなのこがぐれたようなことになるんですよね…)

(なんでもかんでも、行きすぎた過激なことはよくないのです…)

(その割に日常が過激よ…)

(雅美さんの一時期には負けます…)

まぁともかく、穢多身分の方々について。

連邦世界の日本でも存在した、根の深い被差別問題にも繋がる「人の嫌がる仕事しかできない」賎民せんみん階級として様々な制限がかけられていたのです。

せいぜいが、芸事の才能を見出されて河原者かわらものとなるか、非人階級に移って忘八ぼうはちさんになるくらい。

(忘八さんたちって非人身分なのですね…)

(実は甚右衛門と小太郎、そして矢野弾左衛門は二重身分なのですよ…矢野は穢多どもから巻き上げておる冥加金みょうがきんの上がりから税を納めねばならぬ立場なので、侍身分の領主として登録されてもおるのです)

(で、唐剣法からけんぽうの有段者である甚右衛門や、忍び頭の小太郎の二人は住所不定の河原者…すなわち非人身分ですが、同時に侍身分として登録されており、武士の姿と帯刀を許されております。そして此度こたびの穢多身分の神職補助者扱い発布にて、堂々と江戸城に登城するも可能となったのです…ただ、偽女種の姿になってもらう必要はございますがな…)

そう…これ、結構凄いことらしいのです…基本は武士階級またはその家族でないと出入りできないどころか、近づくことさえ困難な江戸城に、堂々と穢多の方が入れるようになったのですよ…。

(うむ…晴れて虎次郎の餌を運ぶ者たちが江戸城に入城出来るようになった際に式典を催したのですが、平安から鎌倉の世の庶服を着用した穢多者に合わせ我らも官服を着て、公家の装いで出迎えたでのございます)

(これは武士の立場ではお前らを受け入れないぞという嫌がらせだと思った者もおったようですが、おかみ様が皆に聞こえるてれぱしーとやらでお説教をなすってくださいまして…穢多の庶服は彼らなりの正装で、御所に河原が何かしらの器物をこしらえて献上する際の精一杯の敬意を示した名残だそうなのです…即ち、余が実際に官職持ちで皇室縁者であることから、穢多は余を皇室と同列に見てくれたのだぞ、とも申しておきましたがな…)

(ええ、上様はそもそも、朝廷より征夷大将軍の任務と、そしての将軍任命に必要な正三位しょうさんみの官位を授かっておられる公家の身分でもあらせられるのですよ)

まぁ、それは…征夷大将軍という位、誰が言い出して誰に与えたかを習っていれば、朝廷と幕府の関係にはすぐ思い至るんじゃないでしょうかねぇ…。

(武士の中にも誤解しておる者が少なくないのが困り物なのですが、我らはあくまでも朝廷から比丘尼国の統治を委託された立場なのですよな…ですから、帝の親族に何かしらを献上するという姿勢で臨んだ穢多は、元は我らは河原人ですよ…という自分達の矜持を示すと同時に、余を皇族にごく近い立場の官人であるとして敬意を払うてくれたのでございます)

(即ち…穢多非人はあくまでも徳川幕府の定めた身分制度でありまして、朝廷の定むる所にある五色の賎民の区分ではむしろ、幕府が申しますところの河原者とほぼ同じ河原人とされるのです)と、若いながらも老中の役職を授かっている松平信綱さんが、朝廷と幕府では被差別階級の区分が違うよ、と教えて下さいます。

(で、河原人なる者共は屠畜ばかりではなく、能楽や歌舞伎に長じ舞台を務めるなど、人も驚き羨む偉業を成し遂げた者もおりましてな…足利幕府の八代将軍たる足利義政公が慈照寺ぎんかくじを建立した際の園庭を造成したのは他ならぬ河原人の出の庭師、善阿弥ぜんあみと伝えられておるのでございます…余も征夷大将軍に任じられ正三位に叙されました時、ついでだからとお誘いを受けて件の庭を拝見観光致す機会に恵まれましたが…)

どうも、痴女皇国世界における家光さんは、幼い頃からいらん子扱いされたり、はたまた病弱で不遇な少年時代を送ったこともあって、不幸な境遇の人と、それを跳ね除けて頭角を表す人物に強く同調する傾向があるようですね。

祖父いえやすが正にそうなのでございますよ…あれこそ正に、長く今川の人質だった訳でしょう…)

(まぁまぁ上様、そしてべらこ様、河原人は能楽の演者奏者でございますが、その歌曲舞踊を帝に献上するはもちろん、神社に奉納する能楽の類を極めるお役目を与えられておりまする)

(えっとねベラちゃん…ちょっと大きめの神社に能舞台があるの、知ってるかな…一番有名なのは奈良県吉野の大峯本宮おおみねほんぐう天河大てんかわだい辨財天社べんざいてんしゃ、通称天河神社ね。おかみ様の娘さんの宗像三女神のひと柱の市寸島いちきしま比売命ひめのみことをお祀りしてる他、江島神社と同じで弁財天の神社として知られてて、戸○純さんや細○晴臣さんも曲を奉納してるはずよ)

(で、そればかりではなく…その能楽や祭礼に用いる太鼓をこしらえておりますのはご存知でしょうや)

(えっと…皮革製品の加工業、穢多の方のお仕事でしたよね)

(左様。即ち、穢多の源流となる河原人は、おかみ様を頂点とする八百万の神に捧げる楽曲にも携わる身分であったのです…その歴史を知る者は、上様がおかみ様の天孫たる皇族に仕える公家の装束で穢多を迎え入れたるは、まさしく河原人と神職、そして皇家や公家の関係を想起するものとして褒めそやしたのでございます…)

(更には孝子が余の正室であろう…言うなれば、朝廷より授かった軍職官職に則って江戸城を築城して政務を行なっておる道理であるから、必要に応じて河原人の系譜たる穢多を招き入れる事に不都合のあろうや、と余も怒りましてな…大人気ないとは思いましたが、武家身分とておかみ様に仕える立場を忘るるに非ず、神事に関わる者共に粗相そそうあらば朝敵の認定を受けるも已むなしと、その者には後で油を絞っておきましたぞ…)

(上様、それは良いのですが、その時に富士のお山から火を噴かせたのはおかみ様、やり過ぎでは…)

(う、うむ…あれは確かにな…まぁ、島原の乱の時に雲仙を怒らせて叛賊に恐れを為させた隙に、あると様が平げて下すった件を持ち出して神通力の恐ろしさを説いて聞かせて事なきを得たが…)

(おばちゃんたちは無茶苦茶しますからね…あたしからも、やりすぎ禁止って言っときます…海綿菓子国ぽるとがると球根詐欺国に代わってイスパニアと飯不味国が比丘尼国の南蛮貿易主担当になってるでしょ、あれも、海綿菓子国で地震騒ぎがあったり、はたまたやらんでもええのに、偽女種病を撒き散らしたどこぞの姉やどこぞの支部長で借金女王のせいでして…)

(無実だ!)

(あのーヘネラル・イエミツ…そこのど助平皇帝陛下の讒言ざんげんはあまり信用なさらないで下さいまし…アタカマルの造船費用、前金で頂けた立場でございますからお国をあまり悪し様に申したくはないのですが、人を疑うことも必要でございましてよ…)

(イザベルさん、借金利率トイチで)

(りそく制限法どころか出資法いはんではないですか!)

(痴女皇国は、あたしが法律なのです…)

(アタカマルの建造、灸場のハバナ造船所なのですよ…進捗状況、わたくしも拝見しておきましょうかしら…)

(なんでアメリゴ・ヴェスプッチ型の建造を灸場で…)

(ジェノヴァもトリエステもガエータもナポリもドックが空いとらんからと、デステ閣下に頼まれたんですわよ…それに、monja país…ビクニ国の貿易指定国、我が南欧支部でしょうし…何よりも英国がアメリゴ・ヴェスプッチを図面通りにこさえて下さるとお思いですか?)

(変態設計を組み込む可能性がありますね…)

どうやら、日本人が細かい所にうるさい民族だと聞きつけたデステおばさま、イザベルさんに厄介な契約案件を押し付けた可能性がありますね…そして、安宅丸とやらは元来は比丘尼国内で幕府の国威発揚目的と、他ならぬフィリピン攻略のために建造しようとしたらしいのですが…。

(もう少し遅かったら、婦人騎士団改め闘牛騎士団と橙騎士団の混成編成の上陸戦隊を編成していたところですよ…むろん、逆に江戸を攻めるためです…)と、橙騎士団長…つまりディードリアーネさんがぷりぷりと怒っています。

で、手打ちの意味もありますが、せっかく大枚はたいて建造した安宅丸が全焼する可能性をお教えして、外洋型帆船構造としては最新鋭のアメリゴ・ヴェスプッチ型の建造を痴女皇国国土局海事部に発注してもらったのです…。

(まぁ、最終的に私どもが受注したのは正解ですわね…何せ、サウサンプトンに頼んだが最後、すね毛が生えた足を何本も生やして上陸する陸上戦艦を建造しかねない国ですわよ…あと、ティアラは私には股を開く程度には聞き分けの良い子ですからねっ、ほーっほっほっほっ)

(ハバナ特産のテキーラで首を洗って待っておくのですよ…?)

(べらこ様、我が国の交易相手、もうちょっとその、普通の国は)

(これでもまともな部類なのです。正直、イタリアも貴国の鉄道時刻…西洋時計の時間を基準にした約束を交わすと、人によっては抜刀するのが日常茶飯事になるかも知れません)

(ああ、西洋暦と時の表示の件ですな…)

(それを使わんと田舎者扱いされるとは、按針やぱーくす氏にお聞きしましたが…)

(申し訳ありません、こればかりは…日本で西欧に適合するための大改革をやった際に摩擦が起きに起きましたから、出来ればそういう摩擦を避けるためにも、幕府の統治のうちに西欧文化の移入を進めたいのです…)

(芋侍国と腕砲国と喜多方山半消失国で薩奸長賊とか薩賊会奸とか未だに言い合っておるとお聞きしましたが)

(薩の文字が必ず入っておるのが何ともはや)

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で、偽女種=穢多身分の男性であり、穢多の男性には偽女種病が発症しやすいと喧伝する事になった一件ですが。

(更には、従来は病によって卑しき陰間かげまの証たる身体と成り果てたと称しておりました偽女種でございますが、おかみ様の下された神託にて、おなごにもてぬ男どものために用意された病であるとされまして…)

(で、他ならぬ偽女種11号、つまり余が偽女種病にかかって偽女種ともなったと)

(そして11号様に近い立場のわし、12号も偽女種病を移された身の上であると…)

なんという苦しい言い訳でなのでしょうか。

これ、雅美さんのシナリオでしょ…。

(まさ…3ごうさんのかんがえなのがまるわかりですね)

(まぁまぁ2号様、で、人によっては痛快な話となるでしょうが、な・ぜ・か・江戸界隈の穢多どもの間で偽女種病が流行ったのですなぁ…)

(そうそう、虎次郎の奇跡の直後でございましたかなぁ…ふ・し・ぎ・な・こ・と・も・あ・る・も・の・で_______________________________)

(なんか、偽女種12号さんの発言の後にものっすごい長い棒が見える気が)

(棒読みも甚だしいですわ…)

(で、上様と老中様が偽女種病にかかったとあっては、よもや偽女種になっただけで、お二方を穢多扱いしてよいものか、更には将軍職や老中職から降ろす話となるのかで揉めたのでございますわよねぇ、大老たち)

(宗茂殿が存命であれば、もう少しまともな詮議が出来たかと思いますが…)

(うむ。宗茂が御伽おとぎとして居れば…)

で、雅美さんからカルタカンペめいた心話が来ます。

立花宗茂たちばなむねしげって言って、島原では鎮圧軍の総大将だった信綱さんの軍師を務めたおじさんがいるのよ。で、この人は関ヶ原では西軍についたんだけど…うん、痴女皇国世界こっちでも元々の運河泥鰌鍋国の国主に復帰してるわね…)

(えー…タヌキさんの敵に回ったのに、処罰されなかったんですか)

(連邦世界ではおサルさんの半島攻略に参加して大戦果を何度も挙げて有名になったのよ…で、武将としての才能が凄くて、何度もタヌキさんに勧誘されてはその時の人間関係があって断ってるのね。最終的には江戸でタヌキさんの親衛隊長を任されたり、家光さんの御伽衆おとぎしゅう…相伴衆とも言って、昔のお話を語って聞かせたり、相談事を聞く役目の側控え…秘書兼相談役に就任してるわ)

なるほど…要は戦国時代の実力者だと。

(それはもう、島原の乱の際にわしに筆頭軍師として付けて頂いたくらいで…晩年は足を悪くしておられて、上様の前に頭巾に杖の姿で現れざるを得なかったのを問答無用で上様が許しておったくらいなのですよ。で、自領にも帰れずに昨年末に江戸でお亡くなりに)

(他の者であれば、余の前に杖と言えど得物を持って現れるは不敬に当たるという扱いがあるのです…しかも病のせいで顔を頭巾で隠す必要があるほど弱っておったにも関わらず、御伽の職を続けてくれたのですが、これまた元来なれば、余の前では互いが官服着用であるなど、着帽が正装の装い以外の時は無礼とされます。ただ、宗茂なら仕方ないと、年寄どもすら苦情を言うて来なんだほどの傑物でして…)

ふむ…どうも家光さん、信頼を寄せていた人が次々に亡くなられたのも、信綱さんべったりのあまりにほもってしまった理由の一つみたいですね。

(そ、それはともかくですな、余と信綱の身体については東照宮の神託という名の、祖父による徳川裁きがございましてな。将軍職や老中職の執務に悪影響が出ないならば、そのまま続けさせるべき。むしろ美しくなり女どもの憧れとなれば将軍家への女中勤めや奥への志望が集まって良きことではと沙汰が)

ああ、大岡越前守様、この時代にはまだ、いらっしゃらないのですよね。

(だから家光さんたちに大岡裁きって言ったって、何のことやらって感じで全く通じないのよ1号ちゃん…)

(あれは貧乏旗本三男の徳田新之助さんの時代ですよね…)

(仮面ヒーローと共演したとか、幼名が本当に新之助だったとか、暴れん坊で倹約家で美人じゃなくても我慢した人とか言っても通じないのよ…)

(なんぼなんでもそこまで言いませんって…)

(何やらうえさ…11号様の孫子まごこの代のお話のようで…)

(いや、余の没後のことなぞ、流石に関われぬぞ…)

(まぁ、それはそうですな。で、家康様のお話では…神託証人として呼びつけられた秀忠様の御前で「これほどに美形のおなごにしか見えぬ二人の有様では、わしでも孫や三十郎に手を出しかねぬ。更には聞けば、穢多の間で流行った病というではないか。わしならばこの巷の状況を鑑み、孫が卑しい穢多の流行り病に罹っておるのではなく、人の嫌がる穢多の仕事を憐れんだ神仏によりて、ちやほやされる姿に変わり果てたる奇跡を起こしたと喧伝するであろうな」と嫌味たーーーーーっぷりに申されまして。ふふふ)

(親父、毛深いからな…)

(秀忠様の当初の国千代様贔屓はさて置き、奥様の方は絶対確実にようきゃもてめんいけめんの国千代様を贔屓しておったと思いまするぞ…)

(まぁ、それに虎次郎の奇跡じゃ。その虎次郎の脱走理由を知っておる祖父いわく「かくもありがたい虎はお虎様じゃろ。で、そのお虎様の好む餌を献上する立場の穢多に偽女種の病が流行っとるならば、餌を献上する穢多に、お虎様を守護する帝釈天の奇跡が起きたとすれば良いじゃろ」とか適当を申したのよ…であるが、確かに祖父様じゃ。穢らわしいはずの穢多を麗しき姿に変えた奇跡が病として起きたならば、逆に穢多を神の加護を受けた立場として崇めるかどうかはともかく、少なくとも奉らねば祟りが恐ろしいという方便も使えるわのぅ)

(まこと、11号様の申されます通り。更には、偽女種になることが穢多の男の証ともなってしまいまするな)

(うむ…偽女種の病が生じぬ弾左衛門を、穢多身分から鞍替えする絶好の機会でもあったしな…)

(ふふふふふ、そして、偽女種となれる甚右衛門と小太郎に、改めて穢多を任すと…)

(ほほほほほ、更には江戸城内どころか、虎次郎が住まう大奥にまでも餌届けや世話の名目で偽女種が入れるようになさりまして…事、ここに至りては偽女種の大奥出入りを咎める声など出ようはずもなく、でございますわね)

(大奥門前にて偽女種改おかまあらためを受けてもらわねばならぬが、それは訪れた偽女種への褒美でもあるからのぅ…)

ええ、偽女種かどうかを検査するために、全部脱がせるそうです…。

(もっとも、偽女種も心得たもの。褌に上着と南蛮さらしだけで来よりますからな)

南蛮晒しというのは、チューブトップブラのことです…そして、偽女種さんや夜鷹さん用に、巻いたサラシに見える製品、マリアンローズのカタログモデルにしやがったのですよ、姉が…。

(ところで、11ごうさまと12ごうさまもおかまになれますよね。おふたりのおかまへんしんはどう、せつめいをつけたのでしょうか)

(は、ある…2号様、ほれ、あの狂犬退治のその場には余や三十郎のみならず、甚右衛門も小太郎もおりましたでしょう。で、帝釈天の奇跡の病、まずは甚右衛門と小太郎の身の上に生じたとしたのですよ。で、余と三十郎を慕う甚右衛門、そして小太郎が病弱な余と、生まれた時から余を支えて参った三十郎にも無病息災長命長寿をと吉原神社にて奇跡を祈った結果、余と三十郎の身の上にも偽女種の病が起きたと…)

(まぁ、すじはとおっておりますよね。じんないさんやこたろうさんともほもっておられたわけですし)

(あ、あたまが…あたまがいとうございます…)

(9号様…11号様はまだしも、のぶ…12号様が偽女種になった時って、正直わたくしよりも美人なのが内心腹立たしうて)

(8号様…わたくし13号も美貌が売りでございましたが、最近は床入りが鬱で)

(しかし1号様カイゼリン3号様フラウ・ドリッテに2号様…weiblicher General、これ…8号様フラウ・アハトでなくとも仮に痴女皇国から配転された女官だと、痴女皇国というより、聖母教会や慈母寺とは偽女種の扱いがまた違うって事で、頭を抱える事態に発展しませんか?)

(4号、それはあまり心配しなくてもいいわよ…比丘尼国への女官研修派遣は中洲泡風呂国行きになるし、あそこのソー○嬢は巫女種だから…)

でまぁ、偽女種の扱いを話しておるあたしたちですが、先ほどの「見た目は偽女種で夜鷹または穢多」っぽい人たちはどこに消えたのか。

ところが。

先ほど3名の夜鷹さんが出て来た木戸がそろーっと開くと、刀をつかんだ寝巻き姿にふんどし一丁の、三十代前半らしいお侍さんらしい方が出て来ました。

で、きょろきょろしておられます。

「もし…そこの巫女様と夜鷹らしき方々…先ほど、わしが出て来た木戸から出た夜鷹3名、どちらに行ったかご存じありませぬか…」

(しー…よたかしなんによれば、このおとのさまやしきまちのなかでは、よたかにはこえをかけずに、どうさでおめこをねだるおきてのはずですよ…)

ええ、アル…2号さんの言う通り。

騒ぐと、警備のくのいちさんではなく、今、あたしたちを引率している建前の武装巫女さんが呼ばれて本式の取り調べになってしまうのです…。

(い、いやその、わしは夜鷹を買いたい訳ではないのです…昨今、奥はもとより側女中どもが四つの鐘の後で密かに出歩いているので、何事かと思いまして…で、見れば、きゃつめらは夜鷹の装束で出ていきよるのを掴みまして…これを誰何するも白ばっくれられては困るので、現場を抑えることにしたのでございます…)

(む…直た…いやさ領主。そなた…先の法度、回覧を回しておったのに見ておらなんだのか?)

(えええええ…そ、そなたは…いえうえさもごごごごっ!)

(いうてはならないのです…あたくしどもはあくまでもばいしゅんふ、よたかなのです…どこのだれかをあきらかにしてはならないのです…かじょうにせんさくしてしまうと、おとのさまでもかいえきおとりつぶしらしいですよ…)

(そ、そうであるぞ…そちがどこの国主かは知ってても金輪際知らんのであるが、余らについても、どこの馬の骨の偽女種で陰間の集団なのじゃ…)

でまぁ、このお兄さんかおじさんかの境目の人ですけどね、誰なんでしょ。

(ほんとうはばらしちゃだめなのですよ…)

(そうよベラちゃ…1号ちゃん、間違っても譜代国主で近江彦根招猫ひこにゃん牛味くいものの噌漬うらみでさくらだもん国三十万石井伊家の三代目国主、井伊直孝いいなおたか様だなんて、口が裂けても言っちゃダメなのよ!)

(なんか、今までのお話の中で歴代最強級に国名がひどいですよ…天の声は滋賀県や彦根市に何か度し難い恨みでもあるのでしょうか…)

(それはともかくまさ…3号様、全力でバラしておられますわよ…それに、どうせならば申しておきますが、牛肉の味噌漬けはまだしも、鮒寿司ふなずしの献上はちょっと…)

(あんな美味なものを…)

(なおた…いやさ領主殿、匿名をよいことに余の本音を申しておくが、そなたのところからの献上品な、味噌漬けだけでよいぞ…台所の毒味が毎回泣いておるのだ…あれ、余にすら腐ってるとしか思えぬのだ…)

(近み…いえ、琵琶湖のほとりの名産なのですが…鯉をお送りしても調理の手間がありますかと思いまして…)

(まぁ、どこの誰かはともかく、この方が遭遇した招き猫伝説が、後の時代の猫のゆるキャラ、あれの発想の元になったのよ…)

(ああ、兜をかぶったあの猫の着ぐるみ…)

でまぁ、その、室見理恵パイセンいわく「なぜか埼玉の球団の象徴たる獅子の絵が描かれたバスや電車がいるあたり」らしいのですが、国名が長いので近江招猫国と省略しておきましょう。

(あそこの球団と、その会社の親会社なんだけどさ、強引な乗っ取り買収と奥さんやお妾さん合計4人いたので有名な創業者の人、近江商人の家の出なのよ…あんまりえげつない商売するから日本刀とか持った人たちに襲われた際にピストル撃って追い返したって逸話がある人…)

(ほら、放火魔のノッブが楽市楽座を安土城下に作って商人を育てたでしょ?…近江の特産品がふなずしや牛肉の味噌漬けなのも、近江商人がよそに売りに行くのに保存性や換金価値の高いものを好んだためなのよ…あまり知られてないかも知れないけど、富山の薬売り並みに全国を回って商売してたのよ、近江商人…)

(で、そんな強引おじさんの次男で、鉄道会社や百貨店やホテルの方じゃなくてスーパーやオサレ大型店グループを引き継いだ人が作家でもあるのよ…そのピストルおじさんがどんだけ人間離れしてたか私小説に書いたくらい、とんでもないおじさんなの…)

まぁ、強引な押し売りめいた人だったのですね。

とりあえず、凶悪凶暴そうな実業家のおじさんはともかくとして、その近江兜猫国の国主様が、なんでお屋敷の女性陣を密かに追跡していたのかと申しますと。

(まぁ、奥様の浮気は不義密通の部類として身分剥奪、非人扱いされてしまうのでしたかしら)

(たな…3号様が申される通り。相手によっては亭主や家にも不行届の追求がある話なのです…)

(猪熊事件とかあったわねぇ…)

(あれは公家であろうが武家であろうが、あれだけの事をやらかしては罰されるでしょう…)

(1号ちゃん…猪熊少将って美形だけど半グレのお公家さんがいてね、宮中で乱交パーティーとか開催するほどの女好きでね…天皇陛下の側室に手を出すことを計略するほどの助平だったの…)

(3号さん…その人、最終的にどうなったんですか…)

(宮中の女性を診ていた歯医者さんともども斬首死罪。ただ、その時の天皇陛下が大激怒してて、ほんとは関わった奴全員死罪にしてまえと怒ったんだけど、実際に取調べを担当したタヌキさんたちがさ、人数多数で全員を死刑にすると朝廷も困ると思うから、首謀者だけにしときましょうよって、やむなく2人以外は流刑なんかに留めたのよ…)

(うえさ…11号様、何か、聞いたことのある話が…)

(なぁのぶつ…12号、徳川家とは、かような醜聞の後始末をする運命なのかのぅ…)

(11号様、お言葉ですが…うちの寺のやらかしよりもっと凄いこと、大奥でしておる気がするのですが)

(ああ、13号…それな、お主なら絶対いつか言うと皆が思ってたから)

(13号ちゃん…もしも同じような事を堂々とやりたいのなら、痴女皇国に来る?なんぼでもできるわよ…)

(おみ…13号、3号様や4号の言う通りであろう…ただ、1号様のお国で頭角を現せるか、よう考えたがよいぞ…)

(なんでしたら、あたくしがいま、ちょっとだけきたえてさしあげましょうか)

(2号さん…殺す気ですか…13号さんって千人卒同等ですよ…)

(というより痴女種で登録されてるわよ…これ、冗談抜きで13号さん、痴女宮での研修対象に入ってしまうんじゃないの?)

で、IFFステータス画面の見方を知らない13号さんに、3号さんが画面を出して教えてあげてますけど…13号さんの顔色がみるみる真っ青になっていってます…。

Miyo Chisenn-in お美代の方 Thousand Suction. 千人卒 Slut Visual 痴女外観 Kunoichi knights, Imperial of Japan court. 八百比丘尼国女性忍者騎士団 Imperial of Japan administrative bureau.Imperial of Temptress. 痴女皇国日本行政支局所属

しかも、パッと見にはわかんないんですけどね、元々痴女皇国の所属だった4号さんはまだしも、13号さんも聖環が痴女皇国または聖院仕様のフル機能バージョンじゃないですか…。

誰よ、女官化処理したの…。

(おみ…13号を犯したのは私ですが、聖環は元々葛飾八幡宮で支給されたはずでございますわ。あの界隈の租税神社はあそこだったかと…)

(多分、アップデートで対応してるわね…ちょっと失礼)と、7号さんの聖環に、ご自身の聖環を重ねるようにしてかざす3号さん。

ぴぴっと音がして、待ち受け画面に御目子マークが出ましたよ…。

これ、実は聖環装着者の簡単な所属確認方法の一つでして、例えばアルトさんの聖環にあたしが聖環を近づけた場合、白い薔薇マークが出たら聖院の方のアルトさん、おめこマークが出たら…ええ、痴女皇国の方のアルトさんなんです…。

そして、おま…7号さんの聖環に、日の丸または稲穂の略号じゃなくて、その卑猥なマークが出たということは…。

(まぁ、7号さんは一夢庵の痴女島別院にいたから研修除外ね)

「えええええ、それは何か不公平という気がいたしますよ…」

で、夜鷹法度だの不義密通取締令だのを領主様に見せていた11号さんと12号さんですが、くだんの領主さん、13号さんの声にぎょっとしておられます。

で、13号さんをまじまじと見つめておられる領主様。

「ぬ…そなた、先代公方の側女中ではないか…そち、確か座敷牢ではなかったか?」

「え…それに私、信綱様のお手つきでは…」

「13号。そなたは増上寺人別改帳においては大奥座敷禁錮の扱いであるな…」

(1号様他、ちじょのお国の方へ…江戸城勤めの徳川姓の者、即ち将軍家の者は上野寛永寺の人別帳となるのです…で、松平姓については増上寺の扱いとなりましてございます)

(12号様も11号様も、もはやどこのどなたかバレバレだけど、まぁ、人別改帳というのは早い話が戸籍台帳の事よ…)

(つまり、13号さんに松平姓を与えるのはまずいって判断よね…)

(というより、13号様は私の配下、くのいち集団の一員ですわよ…)

(えええ…おま…7号様の配下よりは他の奥方の下の方が)

(だから13号、お前はわしの側女中であって、11号様の側女中ではないぞと…お主の奥勤めはあくまでも、くのいち稼業故にわしも許しておるのであって、お主は3号様いわくの見なしこうむいんとやらの立場、一応は公儀で江戸城勤めをさせておるのだから…でなくば、他のまらもちの奥や側女中に奥控えの穢多偽女種小僧ども、片端から不義密通取締令の対象ではないか…)

(というより13号さん、ちんぽ装備をよいことに、側室や正室の方を籠絡しようと考えていましたね…)

(だからお美、いや13号…お主、おm…7号様や1号様2号様3号様のみならず、4号様にも散々言われとっただろ…巫女、わけてもまら持ち巫女は悪だくみを考えても他の巫女職にだだ漏れ筒抜けになるからと…)

(おまつさ、いえ7号様の籠絡なぞ畏れ多き話にございます)

(この面の皮の厚さ、何かで活用できんものか)

(ちなみに13号、そういう見境なしにがめつい女、上様が一番嫌いな部類なのだぞ…お前、やはり1号様の宮殿で半年ばかり修行した方が性根を叩き直されて後々良いのではないか?)

(ええーそんな…ちなみにりんど様…4号様でどうなんですか? りんど様もその伴天連の助平教会でおのこしょうねんを集めて好き放題しておったようにお聞きしましたけどっ)

(あのー、13号さん…しまいにしばきますよ…私は一応は万卒時昇格研修も受けてますし、比丘尼国派遣に当たって能力限定降格措置を受けてますけど、元来なら部局長はともかく部長…そうですね、十万石の国主程度の統治ができる教育課程、一応はこなしているんですよ?)

Lindriahne. (Linne Bernstein) リンドリアーネ Thousand Suction (Limited Hundred Thousand) 千人卒(限定十万卒) Slut Visual 痴女外観 Kunoichi knights, Imperial of Japan court. 八百比丘尼国女性忍者騎士団 Imperial of Japan administrative bureau. Imperial of Temptress. 痴女皇国日本行政支局所属

(逆に言えば、4号さんはカランバカを任される程度には、昇格水準以上の成績を出してたのです…一応は本宮だと、あたしのお部屋付き女官ができる人でしたから)

(11号様と12号様他に申し上げておきますと、4号さんは比丘尼国で言えば天皇陛下や11号様の側女中クラスの教育課程を経て、一万石から二万石程度の領主になっていたのですよ)

(もうちょっとでじゅうまんごくだったのですけどねぇ、ふしまつがなければ…。まぁ、あたくしや1号さんがちょいちょいすればじゅうまんこく状態にもなれるのです)

(なるほど…参考までに、そちらのお国での基準で申されるならば、4号から見て3号様2号様1号様はどんな数字が並ぶのですかな)

(それは見てみたいものが)

(みないほうがいいかもしれませんよ…)

まぁまぁ、という訳で、まさ…3号さんがささっとあたしたちのIFFステータス表示を出してしまいますが。

Masami Tanaka. 田中雅美 Million Suction(Limited Ten million)百万卒(限定億卒) Slut Visual.痴女外観 Purple Rosy knights, Imperial of Temptress. 紫薔薇騎士団 Secretary of the Interior Bureau. 内務局長 Sumerian Goddess of Mercy lineage of holy temple. 原初海洋神族系譜縁者

Altliese Takagi.(Sarelfil Shahbandar)高木アルトリーゼ Billion  Suction (Limited Ten Billion) 十億卒 (限定百億) Slut Visual(ogre mode). 痴女外観 General, Imperial of Temptress. 痴女皇国将軍 Police Department Manager. Imperial of Temptress. 警務局長 Imperial lineage of holy temple. 金衣皇統

Mariabella Borgia  Wordsworth Takagi. 高木マリアヴェッラ(マリアヴェッラ・ボルジア・ワーズワース) Ten billion Suction. 百億卒 Slut Visual. 痴女外観 Empress, Imperial of Temptress. 痴女皇国皇帝 Our Marie 2nd. 聖母

(あの、億って…勘定の桁のおく、ですよね…)

(なんか、まさみさんのひょうじのさいごにいらんもんがついてますね)

(ア…2号くん、なんてこと言うのよ…それ、初代様の子供を産んだせいでついてきた属性らしいのよ…)

(あたくしは聖院のあたくしといちおうはそろえられて百おくそつになりましたが…)

(アル…2号さんが百億卒状態の本気で暴れると、本当に雲仙普賢岳噴火や島原半島とか大隅半島薩摩半島全部消滅どころか、九州くらい簡単に消し飛びますから制限をかけているのですよ…十億卒でも充分に危険なの、あたしが知ってますからね…)

(つまり…本気を出した場合、1号様と2号様は同格…)

(で、あたし3号は、こんなもん渡されてます。これを着用すると1刻限定ですけど、2号くんや1号ちゃんをしばけるようになります)

(ちょ、ちょっと3号さん!それここで着たらだめです!)

ええ、3号さんが黒化白金衣を着用しようとしたので慌てて中止させました。

(何か、一瞬、黒い霧のような瘴気が漂うた気が…)

と、見れば11号さんにあれこれお説教されていた領主様の様子が…。

(ああっ、領主様がお倒れにっ!)

(さ、さすがに井伊家の当主様を治療しないわけには…)

で、あわや黒化白金衣の毒気…懲罰グッズ最強たる黒ブラギ○ス級の瘴気が国主屋敷街に撒き散らされることは避けられたのですが、純粋な人間たる領主様が昏倒してしまったんですよ…。

ほんまにもう。

でまぁ、おうちの方を心話でお呼びして事情をお話ししましたところ。

「うちのお館様がご迷惑を…」となりまして、差し支えなくばお上がり頂きたいとなったので、我々一同、井伊屋敷にお邪魔しております。領主様も、板戸で運ばれてお持ち帰りされていますよ。

で、客間らしい場所で、お茶を淹れてもらっておりますと。

「おや、直滋なおしげ、それに直澄なおすみではないか」

と、現れた少年たち。

「ああ…いえみ…もごごっ、陰間様ですよね…」ええ、お兄さんの方が、弟さんに口を塞がれています。

で、出て来た少年2名も、何と寝巻きの下はまぐわいふんどし…ですよ。

つまりぃ…。

「ああ、ここな直滋と直澄は、余とは申しませぬが、どこぞの公方のほもだちとやらですよ」

えええええっ。どう見ても弟さんの方なんて小学校五年生か、中学校一年生じゃないですか。

その将軍様があたしの目の前にいるかはともかく、なんとか事務所の社長のほも趣味も真っ青のしょたほもとなるのではないでしょうか…。

(1号ちゃん…イタリアと日本じゃ義務教育の学年は違うでしょ…小学校5学年、中学3学年のはずよ…)

(あまり日本と大差ありませんよ…それに、こんな子をほもらせていいのでしょうか…)

(まぁとにかく、話を聞くわよ…)

「でね…その、いで始まるお名前の陰間様と、のでお名前が始まる陰間様ならご存じだと思うのですけど…父は、実のところ突撃志向が強いでしょう…」

「ああ、大坂の陣で先走って損害を出したとは聞いたな…」

「大老役をちゃんと務めてくれていれば良いのですが…」

「うむ…直孝と松平忠明、正直を言えば頭が硬い部類ではあるな…先ほども余と、ここな陰間7号様から、この屋敷の奥や女中が陰間を買う件について、作法通りであらば問題あるまいと、こんこんと説き伏せておったのだ…」

「牝のかほりがいたす陰間を陰間と呼ぶべきか、しかしながらうえさ、いやさ陰間11号様とか申される方には申し訳ないのですが、僕と直澄は父が出奔したのを探すとみて陰間漁りに出ようと思っておったのです、正直…」

「お、お前ら…今度は逆に別の法度に触れるぞ…今は四つ半だろ…五つ半に寝てないとまずいではないか…のぅ、12号…」

「う、11号様…男児が元服前におなご遊び、厳密には取り締まる法度はございませぬ…それを申せば我らも元服前からほも」

「12号、申すな…いや、余が待てというたのは、子供の床入り時刻じゃ。元服前は就寝の時、決まっておったろ…」

「なるほど…確かに、子供が寝つかず…しかも警護が入る国主屋敷街とは申せど、屋敷の外に出て、あまつさへ陰間遊びとは…」

「ええ、実は我らは女中と結託しておりまして」

「で、夜毎に母や遠藤に春光院が偽女種と遊ぶのを父が追いかけますでしょう。そうなると屋敷には家来や女中しかおらぬようになります。そして、僕も直澄も公方様の側小姓当番に入っておりますから、いくら元服の前とは申せど、我ら二人には上様を喜ばせるお役目がございましたのは公然の秘密、夜鷹名目の男あさりをおなごに許されたのに乗じて、屋敷のすぐ側でおなご遊びをしてその道を鍛えさせてくれという内密の申し出、家来や女中も頷いてくれたのです」

「更には、母や側室たちにも家臣や女中が入れ知恵を致しましたので…で、僕らも赤頭巾を入手しまして、夜鷹に身を差し出すことをやっておったのです」

「ついでながら11号とやら様に12号とやら様…これ、他の国主の息子で悪知恵が回ってる奴はしておるはずですよ…その国主屋敷によって雇うておる女中の数は違うと思いますけど、ほれ、女子寺子屋に通わせ南蛮学問やらを学ばせるためもあって、昨今は女中の数も増えておりますでしょう…我らが出歩いた際には、半刻もうろつかぬうちに必ずや夜鷹に誘われる有様ですから」

瞬間、女性陣があわや茶を噴く羽目に。

(まままままませ餓鬼にもほどがぁっ)

(し、しかし8号様、これは3号様いわくのしょた、即ち、稚児を漁るおなごも出ておるのでは…)

(7号様…子供の知恵は恐ろしいものですね…)

(11号様、これ…いかがいたします? この国主屋敷街であるからよいものの、下手をすれば町人街の商家をつけ狙い襲うような凶賊であれば、身代金を狙う誘拐を企てるやも知れませんぞ…)

(あ、12号様…くのいち共は悪漢の悪事の企みを遠くから察しますよ…)

(そ、そうでございましたな…では、あとは餓鬼がはようから色気づくことだけ…)

(12号…思い出すのじゃ…我らとて乳母の世話になった身ぞ…まらをしごかれ、鎮めてもろうたこともあったろう…要は、よその家の乳母に珍宝の面倒を見てもろうたようなものであろ…まぁよい。3号様、ここな兄弟であれば、は出来まするか。余の側小姓団の子ですし、口は女房の財布より固く)

(ふふふふふ…男の家臣の方々や下男に至る男性の目さえなくば)

(まさ、3号様…殿方の精は吸いましてよ…今は屋敷女中とわたくしどもしか起きてはおりませぬ…)

(…にしても11号様、なぜに私に。いえ、ご馳走もご馳走なのですが)

(いや、直滋と直澄を見た3号様のお目が爛々と光っておりましたのでな。あ、これはぴんぽいんととやらだろうな、と。ふふふ。直滋に直澄も喜べ、この3号様は大変に稚児をお好みになられるのだ…どうせおなご遊びのために出て行くつもりだったんであろ?)

(むううう、うえさ、いやさ11号様のご厚情、言葉に尽せませぬ…)

(しかし、身体をほてらせた我が屋敷の女中ども、如何いたしましょうや…女中は僕たちをお手つきすると叱られる立場ですので、夜鷹に扮して穢多や他家の男児と遊んでたのですよ…)

(なるほど、まらが入り用と申すか…)

(11号様、この場におる者、おなごでもまら持ちでしょ?更には11号様も12号様も。差し障りがなくば、お屋敷をお借りしてをめこをさせて頂いては。どうせ我らも視察のついでにあおかもごもご)

(しいいいっ、7号様、それは絶対の禁則事項っ)

(あら…8号様、せっかくですから正室として、この場で11号様の子を孕んでは…更には4号様にも種をつけてしまえば、お家は安泰ではございませんか。なんならば11号様の乳母を長年務めたこの9号も若返らせて頂きましたから身体は大丈夫ですが、やはりお世嗣となりますと、それなりの女性にょしょう相手に子種を仕込む方がよき事かと…)

---------------------------------

いえみつ「でな、直孝…余からすればそち、兄貴とも言える年齢としかさであろう…余の尻を掘ったよしみで忠告しておくが…」

なおたか「な、何でございまするか、よもや井伊家家中のしもかはんしんの乱れをおとがめに」

のぶつな「ちなみに皆の衆、この話での江戸城内衆道ほものなか関係者の年齢をご説明いたしますると、井伊直孝(三十代前半)→松平信綱(二十代後半)→徳川家光(十代後半)→井伊直滋・直澄(淫行禁止確定こうなごしょた)だそうでございます…」

いえみつ「いや、未来とやらが変わる可能性もあるそうであるから詳細は省くが、直滋や直澄を可愛い弟のように思うておる余のよしみで言うがな、お主の子や孫に至っても、徳川家と幕府ある限りは絶対に絶対に絶対に、味噌漬けにしなくとも良いから牛肉の付け届け、間違っても欠かす事なきようにな…」

なおたか「は、はあ…もとよりあれは一種の賄賂として極めて価値あるものだとわしも認識しておりますし、上様を始め、あれを楽しみにしておりますこと、かねてよりこの直孝に聞かされる話のみならず、息子や女房どもからも耳にしてございますので…(そんなドアホ、我が子孫に出て来るんやろか…)」

いえみつ「それが出るから困るらしいのじゃ…重ねて申すけどな、江戸城衆道あつーっ友の会のよしみで十重二十重に念押しするけどな、絶対に絶対にぜーーーーーーったいに、将軍家と親藩には肉の贈呈、欠かすなよ…」

なおたか「上様がそこまで念押しなさるとは…」

まさみ「まだ若い竜鬚菜あすぱらがすを2本も頂戴できたよしみで申しますけど、井伊様、その牛肉の付け届けを怠った件でお家断絶とまでは申しませんけど、没落はしませんけど…」

なおたか「ああ、家禄が減るとか色々あってお家の格が下がるとか、そんなんでございますか」

まさみ「ええ、つぼみの菊を二輪も頂けたよしみで申し上げますけど」

いえみつ(本当に田中様はしょた好きなのですな…)

のぶつな(上様が元服前の竹千代様や、わしが三十郎だった頃の見た目に変われるようにした理由、つくづく分かり申しまする…)

べらこ「ご迷惑をおかけします…」

なおしげ「しかし、僕たちはまだ、まらが育ち切ってないはずなのに…おわぁっ!」

なおすみ「兄様、一体全体どうなさいました…ひょえええええ」

なおしげ「直澄…お前も股倉を見てみよ…」

なおすみ「いや、見なくとも感触でわかりますよ…これ、大人のまらじゃないですか…僕らにはかえって持て余しますって…」

おあき「ふふふふふ…実の子ではないのがかえって好都合…」

まさみ「ちなみに阿喜さんこと阿喜姫様は、踊阿呆酢橘あわおどりすだち国主の蜂須賀家の方で、タヌキさんの紹介で井伊家に嫁いでます。直孝さんとの間にお子様は出来ませんでしたけど、このご縁で蜂須賀家と井伊家の間では何度か、縁組が出来てますよ」

なおすみ「で、僕や兄さんは、それぞれ違う側室から生まれました。通算で5名は側室がいたんですよ、父…」

なおしげ「直澄の他にも何人か弟がいたのですが、早死にしまして…」

なおすみ「ちなみに上様は兄と仲良しで、兄が井伊家の後を継げば百万石を加増してやろうとか恐ろしい事を言われたんですよ…」

なおしげ「で、僕が井伊家を継いだものの、病気で廃嫡…井伊家の長男の立場を降りて出家したのです」

なおすみ「そんなわけで、僕が井伊家の家督を継ぐことになるそうです…しかし、近江彦根兜猫国の周りを含めても百万石って厳しいんじゃ…」

べらこ「百は厳しいですけど…」

まさみ「倍にはできるわよ(チンポネックスのボトルを見せる)」

なおたか「こ、これは噂の肥やし…」

まさみ「米原から大津にかけては冬、雪が積もりますからチンポネックスを使っても二毛作が精一杯でしょうけど、それでも六十万石には増やせますよ」

なおたか「むむ…それに田中様は我が彦根の辺をようご存知のようで…」

まさみ(っていうか新幹線使って東京と大阪の間を頻繁に往復してる人なら、嫌でも近江盆地、特に湖東平野の地形を目にするからね…)

なおすみ(田中様…そのまら容器の肥やし、父に勧めるのって絶対に裏がありますよね…)

なおたか(単純に考えれば禄高が増えて喜ぶべきなのであるが…)

なおしげ(父上…絶対にこれ、井伊家の収入を増やす必要がある何かを申し渡される前振りではないでしょうか…)

なおたか(その可能性はあるな…)

おあき(あなた。私が穢多少年と遊んでおって、あなたが堅物では片手落ちというものです…更には側女中たちにも息抜きは必要なんですよ?)

なおたか(お前らの色遊びの金を稼げと申すのか…)

おあき(それこそ夜鷹法度をもう一度よう読めと上様からまたもお叱りを受ける話ですわ…良いですか、国主屋敷の周りでうろつく穢多の男の子たちから、御目子させてあげたお礼にお金を取るのは夜鷹切手を受けていないのに夜鷹行為をするとしてお咎めを受けるんですよ?)

なおすみ(父上…あれは売春を口実にした稚児遊びなの、僕や兄様でも理解できましたよ…)

なおしげ(つまり、無料で遊べるのです…まぁ、これで菓子やたばこでも買いなさいと、小銭相当を頂くこともありますけど…あくまでも子供のお使いのお駄賃の額ですね)

なおすみ(ちなみに喫煙の光景は出てませんけど、僕たちもたばこを吸おうと思えば吸えるんです。たばこの葉やきせるを買ってくる必要はありますけどね)

なおしげ(農家の子たちはお茶やたばこを浪費するなとか厳しくされてるようですけど、僕らは武家の出ですから…ただ、かぶき者めいたどきゅんとかはんぐれとかいう、ならず者のふるまいを街中でやって子供のうちからきせるをぷかぷかしてたら、絶対確実に大人のお武家様から叩かれますね…)

いえみつ(申し上げておきますると、武家のみならず、この時代の子供らは軒並み、お読みの方が申されるところの体罰が当たり前でござったのです…余も体が弱いっちゅうのに、あの毛深い親父に…)

のぶつな(ええ、上様がまだ竹千代様だった時ですけど、例のスズメのひなを欲しがられて、わしが代わりに簀巻きにされた件が正にそうです。秀忠様は、にくたい言語とやらで周りと会話する部類の公方様だったのです…)

いえみつ(信綱…あの件は本当にすまんかった…)

おあき「うちの子たちは利発で賢いので、あまりぱんぱん叩くことはありませんわね。で、直孝様。石高を増やせ…つまり彦根藩の収入を増やせというのは、わたくしや側女のおこづかいを増やすためでも、側女中の給金を増やせというためでもありませんわよ…あなたご自身のお財布をふくらませてもらう必要があるから、上様も田中様も、そのちんぽ肥やしを我が近江の田に使えと申しておられるんですよ…(ほんまに鈍いな、うちの亭主…)」

まさみ「なぜ、井伊直孝様のおこづかいを増やす必要があるのでしょうか…言っときますけど、阿喜姫さんは鬼嫁でもメシマズ嫁でもないんですよ。むしろ、旦那さんご自身のために強く推奨してるんです…」

べらこ「ヒントを言っときますと、高齢化したご夫婦で、奥様の方が旦那さんの性欲についていけずに「外で女遊びしてきていいから」と風俗や愛人を許可することがあります。意外とあるんですよ…」

あると「べらこへいかのお話のかいせつは、次回につづくのです…おたのしみに…」
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