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夏の仮装肝試し祭り!・11
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しかし、彼ら茸島原住民の話を聞くだに、腑に落ちない事も。
という訳で、更に記憶やら当時の状況を調査した方が良さそうです。
もっとも、それは雅美さんに頼るまでもありません。
オリューレさんに探って頂きましょう。
(そうですね…これはあたしの考えですけど、過去にお化けが実際に出没していた場合を想定します。そして、更にはあの幽霊さんと同じくらいに動きが早かった場合、絶対に原住民は襲われ死者が出ていたと思います。なのに襲われかけただけで済んでいるというのが、あたしには納得がいかないんですよね)
要は、幽霊話が広まり過ぎたせいで、何でもかんでも幽霊のせい妖怪のせいになってんじゃないのですか。
あたしはこれを言いたい訳ですよ。
そんな訳で事後調査をして頂いた訳ですが、やはりと申しますか、実際に殺されたり負傷した人はいなかったようです。
そして、幽霊以外の何かと間違えて驚いたりするのはまだ良い方でしょう。
最悪の場合、幽霊の噂を聞きつけて日頃の仲が悪い人を襲った挙句、幽霊のせいにして罪をなすりつける人が出て来る可能性も考えられると思うのです。
何せ、茸島を航空偵察した時点ではっきりしていますが、灯火らしい灯火技術を持っていないか、燃料節約のためか夜は集落の明かりはほぼ落とされて真っ暗な状態です。
で、あたしとしては、こうした原始的な居住環境をカイゼンすることで過剰にお化けに怯える事なく暮らして頂ければ、平穏な日々が戻るのではないかと考えています。
しかし、住民の皆さんの知能水準や民度を鑑みますと、迷信や自然現象に臆する事なく生活しろと言っても厳しいかも知れません。
そうなると、文明や文化を教える教育者や、はたまた治安維持のための警察力なり軍隊なりを派遣すること、普通の為政者ならば考えると思うのです。
ですが、茸島の北からここまでは遠いと言えば遠い距離。果たしてどうしたものか。
(聖母教会建設には、ちょうど良い口実ですよ…)と、族長さんとお話をしているオリューレさんから密かなサインが来ます。
よもやまさか、オリューレさんが誰かに頼んで幽霊のお芝居を打った自作自演…まぁ、それならばそれで事前に報告があれば良いのですけどねぇっ。
何せ、根回し抜きに勝手な事をした結果、茸島に島流しに遭っているのですから。
(話をして承認が得られない件だってあるではないですか!うううううぅっ陛下のわからずやっ)
いい年して何言ってんですか。痴女皇国のアルトさんですか貴女はっ。
(それ、本人が聞いたら激怒すると思いますから言いませんが、侮辱としては最大級ではないでしょうか…)
それはともかくとしてオリューレさん。ここに教会を作るとして、建材やら水の便やら何やら、大丈夫なのでしょうか。
欧州であれば諸国はもとより町や村、地方領主や貴族の独自協力を得る事も出来ましたし、痴女皇国支部とお付き合いのある国や商人でも、先の事を考えられる国は今や、聖母教会建設に意欲的になっています。
僅か数十キロの鉄道を作ってみせただけで、頭の良い人はその価値に気付いてくれましたし。
ですが、そもそもの民度や文明程度からして欧州や比丘尼国はもとより、比較的貿易が盛んな東南アジア諸国に比べて辛いところがある茸島、そして南洋王国です。
恐らく、我々だけで建設を進めねばなりません。
いくら族長や住民の皆様が女官や騎士の常駐を切望していても、ほぼゼロから全てを築く話になりかねません。
(確かに、陛下の懸念はごもっともです。しかし…初代様)
(マリアヴェッラ…南洋王国の首都のある島、あそこにぱんち様由来の、大きなお寺の遺跡があるのを知っておりまして? がっこうの授業でも、もしかすると教えておるほどのものでしょう)
…あああああ! ボロブドゥール遺跡!
(初代様、ですがあれは確かに規模こそ巨大ではありますけど、茸島から更に離れたジャワ島の中部に存在する建築物群ですよ…)
(さすがは雅美さんですわね。ですが…あれに近いものがこの辺にあるか、出来たとすればどうなりますか?)
(ま、まさか初代様、ウブド王宮をこの時代に…)
それ何ですか。
(ベラちゃーん…まぁいいわ、要はオランダによるインドネシア植民地化と相前後して、バリにあった王朝の一つが建てたのがサレン・アグレン宮殿。別名ウブド王宮と言って、ヒンドゥー様式の宮殿なのよ…)
(ほっほほほほほほ。つまりですねぇ、今、そうした建物がいせきとして発見されればどうなりますか? こりゃしめたと我々が占領してしまえばよろしい。あとは聖母教会助祭としての教育を受けた女官を何名か常駐させれば良いのですわ。規模は…痴女島の警備部、いわゆるこうばん程度で充分でしょう)
はぁ。
しかし、そんな遺跡をどうやって作るんですか。
(ベラちゃん。ウブド王宮、実はあまり大きくないのよ。下手をすると日本の大名屋敷より小さいかも知れないわよ…)
ええー。しかし、小さいと言っても…。
(後で検索で見てみなさい。まぁ、邸宅として見れば立派だけど、これが王宮と言われると…下手をするとフランスのオテル・ド・マリニーより小さいのよ…)
うーむ、ただ、建設をどうするんですか。あたし、娘を説き伏せるにも限度があるって思ってますからね。
ただでも人間をやめるお酒や煙草に手を出してやさぐれているエマ助に、これ以上無理をさせるとどんなグレ方をされるかと思いますとねぇ。
一応はあれの母親だって自覚、あるにはあるのですよ?
(まぁまぁ、エマちゃんには何とかして頭を下げましょう。あたしも付き合うわよ…)
とりあえず、あたしもプレハブか何かで融通が効かないか考えてみましょう。
(ジーナや。ベラ子。緊急で必要やったらスケアクロウ用の指揮官ユニットと簡易発電モジュール運び込みなさい。それか、マリ公に連絡してキャンピングカー手配さし。海老原さんのツテ頼ったら、24時間以内にブツは手に入るはずや。テンプレス・セキュリティの当座預金から1千万円くらいすぐ動かせるやろ?)
その発想はありませんでした…。
(あと野戦用浄水設備と簡易発電モジュールはテンプレス2世の倉庫に在庫あるから。警備員の配置はオリューレさんやディードリアーネさんと話し合って決めなさい。差し当たり二人くらいでええから行かしたら、あの町くらいの規模の治安は平常にできるはずや。エマ子に寺作れ宮殿作れ云々の話はうちから流しといたるから、今すぐ相談せんでええようにまずは応急手配をしなさい。ええな)
ひえー…かーさま、話が早いですね…。
(あほ。あんたも軍籍あるんやったら、災害派遣時の支援マニュアルくらい目ぇ通しとかんかいな…)
(まーまージーナちゃん、まさかこんな形で茸島に手を入れるなんて想定外だしさ。それより多分、精気発電機が2セットくらい追加発注になると思うわね。最悪、茸島行政支局のデンパサール移築くらいは想定しておいていいかも知れないとあたしは考えてるから)
しかし、大規模な人事異動やら諸々がまたぞろ発生しそうですね…。
(まー、これまた最悪は聖院学院の生徒を促成栽培して玉突きで必要な女官の数を揃える方向で行くわよ。千人卒を作れば聖母教会か慈母寺…比丘尼国で試行開始した尼寺制度の管理者に任命できるしね。で、茸島の村落から幽霊騒動の報償に娘さん達を尼寺に預からせてくれって話で人を補充してもいい訳だし)
雅美さんも仕事が早い部類なのが助かります。
ただ…無理やり出家させるのって、どうなんですか。
(ああ、恩を売るだけじゃなしに、人に知識を与え助けてるのは女官時代からやってる訳でしょう。で、今度からは自分達の中から自分達を助けるための尼さん候補を出してくれって風に持ちかけるのよ。ちなみに慈母寺というのは、パンチさんが行き倒れかけた際に酪乳を与えて助けた婦人の故事由来だそうよ。読者の皆様は聖母教会の仏教版と思ってね)
だそうです。
まぁ、パンチさんが了承しているなら、あたしは文句を言いません。福祉を売りにしている分には良い事だと思いますし。
(一応言っとくけど…慈母観音とかいう仏様をでっち上げいえもといパンチさん監修で、その婦人が仏様になったストーリーを玄奘さんが作って本尊にしてるのは言っとくわよ、ベラちゃん…)
悪い予感がします。
仏様のモデルとは。
(もちろんベラちゃん。あんたの母乳効果に目をつけたパンチさんの発案よっ)
あのー、肖像権とか、そういうの…。
(あんたさ、仮にも聖母教の総本山の痴女皇国の皇帝の地位についててさ、そんなもんあるとか思ってんの? ただ…変ないじられ方したら、それは不敬だって事で取り締まればいいんじゃないかな)
と、例のお墓の件をいまだに根に持ってそうな答えが返って来ました。
ちなみに雅美さんご自身のお墓だというのに、行こうとなさいません。自分のお墓なんだから自分で面倒見てくださいよっ。
(足が向く訳ないじゃない!)わがまま言いますね。
全く、素直に言うことを聞いてくれないのも困りものです。
…まぁ、雅美さんがお墓参りするかはともかく、お仕事をまとめては下さいます。
オリューレさんと二人して、今後の支援方針やら何やらを族長さんに伝達。
そして、あたしを呼びまして、側に控えてくれます。
(我らが君主であり痴女皇国の二代目皇帝であらせられるマリアヴェッラ陛下にございます。族長。皆様のお困りの件は皇帝陛下にお伝えさせて頂く事でなるべく早期に解決されるでしょう。ただし…代償として、賢い娘たちを数名、我らの下へ遣わす件はご了承願いますよ)
ああ、これが言っておられた女官候補の少女をよこして下さいという件でしょう。
(族長、ご安心下さい。我々は奴隷を欲しているのではありません。我々が女性を優れた女官や僧侶や神官として鍛え育て、より多くの人々を救う力とするべく聖院の時代から励んでいたのはご存知かと。今般のお願いもまた、この茸島をより人々が住みやすく暮らしやすい島にして行く為の処置の一環です。ご無理を申しますが、よろしくお願い致します)
と、初代様の演技指導のもと、族長の手を取って心話で伝えます。
ええ、めちゃくちゃ感激されました。
むしろ、我らの中からそのような者を出せるのは誇りと思ってくれています。
これはこの方々の文明レベルを考えますと、出来過ぎた考えにも思うのですけど。
(そりゃあもちろん、円滑に事を運ぶために多少の詭弁は。この茸島から巣立った女官が戻って来た暁には、生まれ育った故郷に便宜を図るもやぶさかではないだろうとか吹き込んでおります。…陛下、正直に言えば、迂闊な事を言い出すと人さらいに思われますのでね…)と、オリューレさんから裏事情の連絡が入ります。
で、初代様からも教えて頂きましたが、この茸島の人々はある意味、完全に純朴素朴ではないようです。
(人を差し出せと言っても、下手をすれば売るから金や食料をくれと言う程度のがめつさはありますよ。交易で訪れた他の部族民族との摩擦折衝の結果ですね。これは茸島との交易や間接統治に関与した金衣の方々からもお聞きしています。ただ…今の段階では彼らの要求をうまくいなしながら、幽霊騒ぎをうまく使って我々に服従せねば生活や生命をたちどころに脅かされるという風に持って行くべきでしょう。清廉潔白でないのは、陛下もこの者たちの思考を読めばすぐお分かりになりますかと)
なるほど…であれば、さっきの幽霊さんの挙動も、かえって我々が交渉を有利に進める助けとなるでしょう。
あんな素早い動きの上に、問答無用で人を襲おうとしていた挙動は族長たちにも恐ろしさが伝わっています。
そして、その化け物を一瞬で殴り倒して縛ってしまったアルトさんの強さも理解されています。
あとは、そうした庇護を受けたければ、因業で強欲な思考をやめさせるような指導があれば…なるほど、それで宗教施設ですか。
(そういうことですわ。ですから、我々女官を神の使いとして認識させるように、歴代金衣は何かしらの手を茸島や南洋王国など周辺国に対して打ってきたのですよ。雅美さんがよくお調べのようですけど、文字を持って出来事をきろくする事すら怪しい者たちばかりですからねぇ、このかいわいは)
ふむふむ。
つまり何ですか、ここら辺りの方々、世代交代したりした際には都度、聖院から人をやるとかして再契約とか交渉やり直しとかが当たり前だったと…。
(もちろんですことよ。ですから、この者達が平穏無事に暮らせる理由、いったい全体だれのおかげであるかという事をときどき教えるひつようがあったわけですわよ、マリアヴェッラ…)
あぁ…何となく、幽霊騒ぎや他の諸々の背景が読めて来ました。ヘタをすると、これ…抑え込んでいたはずの地震や津波、噴火や台風すらうまく使って聖院の価値を教え込むような…言ってみれば自作自演めいた事すらなさっていた可能性もあるのではと。
しかし、となりますとオリューレさんへの負担、今はともかくこれからは大きなものになるかも知れませんね。
最終的には茸島住人、ある意味で罪人化してでも効率的な統治を図る必要もあるでしょう。しかし、そのシステマが育つまでは…北欧や東欧、更にはストラスブールやバーデン=バーデン同様にあたし達が人をよこして統治する、言ってみれば持ち出しの図式、またしても展開する羽目になりそうな。
(へーか。あたくしが何のために茸島分校を開いているのかと。まずは女官や騎士による間接統治でしょう。そのための少年性奴隷の育成や少女達への女官教育でしてよ。そして…界隈への干渉はもとより、スカウトというのですか…地元民の女官登用、聖院時代はまぁ、割と普通にやってはいた話です。目立たないように、ですけど)
なるほど、ある程度の統治に必要な素地は出来ていると。
(聖院の掟を定めたたちばで言うのも何ですが、変に南洋王国を作らせずに、聖院の女官が直に統治した方がよろしかったかもしれませんわねぇ)
ともあれ、族長さん、せっかく聖環を預かっている立場です。あらためて茸島を担当するのはオリューレさんであり、困る事や相談があれば彼女に告げなさいと伝え、実際に呼び出してもらって手順を確認させます。
そして、密かにエマちゃんがこっそりと乱暴ルギーニの荷室に忍ばせた袋をいくつか、アルトさんから皆様に引き渡してもらいます。
(中身は塩ですよ。この方々、塩田の技術すら未熟なので…)
ひええええ。
塩田、手間暇はかかりますけど海辺に平たい土地さえあれば可能なのでは…稲藁とか手に入るはずですしね。
まぁともかく、どうにでも調達できる我々ならまだしも、この時代の欧州と同様に貴重品らしい塩、調理に使うなり交易に用いるなりして活用願えれば。
そして貴重な塩だというのは伝わっているらしく、頑丈そうな帆布の袋は彼らが持って来た荷車に若い男性陣が積み込み、一礼すると集落の方に運んで行かれます。
そして、我々の方には荷車…よく見たら聖院の罪人工場謹製って焼印が入ってるものから降ろされた木の幹や枝が。
(香木ですよ。欧州やアルトさんの昔の実家の辺りに持ち込む商人が高く買います)と、オリューレさんから注釈が入ります。
なるほど…この方々では地下資源やら、高く買えるものを作るのも難しいと…。とりあえず、この方々にとってはひと財産ではあるのでしょう。有り難く頂戴しておきます。
(金玉高原の村にはコーヒー豆とやらを作らせております。そこと編笠民兵国くらいしか、この界隈で豆の木が育たないらしく…)
(ベラちゃん。キンタマーニコーヒーやベトナムコーヒーの事よ。交易品として鯖挟国が高く買うのよ…)
あー! トルココーヒーやアラビアコーヒーのお豆の由来ですか。
(アフリカからも入ってるけどね。ボルジア猊下の指導で、眠気覚ましに良いとして英国と仲が悪い国に流行させてんのよ…)はいはい。うちの叔父やルクレツィア母様の実家、これと砂糖については教皇庁御用商人免状を出してもらって引き受けてますね、流通。
おかげで母様経由であたしにも賄賂もとい上貢金がげふんげふん。
(あーベラちゃんが私腹を肥やしてるー)
(まさみさーん。雅美さんの方が賄賂額は多いはずですよ? あたしの分はルクレツィア母様にお願いして、外交部の活動資金扱いでデステ叔母様主催の楽祭基金に回してもらってますからね。イタリア支部経由でちゃんと還元してますよっ)
これも少しややこしい話ですが、聖母教会の歩く御神体めいたあたしに寄せられる喜捨や、はたまたさっき話に出たような賄賂や心付けの類、実はデステ叔母様に渡してます。
で、叔母様は芸術基金として画家彫刻家作曲家他の活動支援金に使っておられます。
というのも、この時代ですから絵の具一つ楽器ひとつを取っても高価な代物です。
そこで連邦世界のイタリアとは少し方針を変え、芸術家は大学に属し王侯貴族が何か芸術品を欲した場合は大学に依頼せよとしています。
そして、国や聖母教会から得た芸術支援金によって暮らす奨学生または芸術学芸能学の教務員として、有望な芸術家を募っているようですね。
(貧しい画家志望が犬と一緒に凍え死ぬとか、自分の耳を切って友人の画家に押し付けないようにする措置だとマリアリーゼ陛下のお達しです。中抜きどころかイタリア政府からも基金に拠出していますよ、シニョーラ…)と、いくらイタリアでも賄賂を着服どころかアートのために持ち出してますよとデステ叔母様が怒っています。
そして、痴女皇国からも学術支援金を出してるんですよねぇ…。
あと、この件でお分かりの通り、ルクレツィア母様…お話に出て来ないだけで、仕事してます。割と。結構。ちゃんと。
(マリアヴェッラ…娘としてあたくしにバカンツァを過ごさせる気、ありませんの?)
あのー母様、碧海島保養所、きっちりお使いなのはバレてます。それとバーデン=バーデンも茸島保養所も伊香保も使っておられますよねっ。
(一晩や二晩泊まるくらいで遊んだとは申しません!)
(イザベルです。ルクレツィア外務局長、この間はイビサで一週間近く男漁りを。わたくしも誘われましたが、一泊二泊がせいぜいですわよ!)
と、働いてんのかサボってんのかよくわからない南欧支部長様が密告してますけど。
ちなみにアルハンブラ宮殿、南欧支部の避暑地兼離宮として使ってますよ。この夏は叔父が枢機卿連中と一緒に夏季慰労として女っ気抜きの酒盛りに使っていたはずです。
(マリアヴェッラ…お前の姉上に苦情を言いたいのだがな。あのな、カテリーナどころか私の正妻と娘までローマに呼ばれてみろ…私が心休まる訳がないじゃないか! カテリーナだけでも大変なのだぞ! )
ええ、わかっております。
しかし、奥さんと娘さん、長年ほったらかして何やってんですか。これはおじさまが悪いでしょ…あたしもそう判断したからこそ、姉が企画した拉致作戦を承認したのですよ?
(避暑を楽しんだ者をあぶり出そうとするマリアヴェッラにさもしいものを感じますわね、雅美さん)
(ベラちゃん。盆休みはあげるから…)
(雅美さん。墓所の迎え盆の行事、あたしが親族名代です…)
ええ、聖母教会の本拠地の痴女皇国の痴女宮で、何が悲しくて盆の行事を迎えるのでしょうか。しかもあたしは聖母で皇帝。
…逃げられる訳、ないじゃないですか!
(送り盆はあたしがやってあげるから…)ああそうか、雅美さん…一応は初代様とくっついた事になってますので皇族扱い。とは言え血縁じゃありませんし、第一、厳密に言えば自分自身が初盆を迎える立場ですよね…。
(マリアヴェッラ。雅美さんでも構わないと皆が言っております。心置きなく、くりす様とお過ごしなさいな)
(まぁアレはもはや陛下の公務ですしねぇ…)
(あれを公務と言えるのか思いっ切り突っ込み入れたいんだけどねぇ)
(クリス・ワーズワースの女の好みの制御は出来れば避けたいんだけど…)
(私とは公務じゃないんですか!)
えーと、みんな同情するのか、それともけなすのか。
あと瞳さん。精気授受が発生するのであれば公務です。
それが痴女皇国の掟です。
瞳さん、それとですね。
そのためにゼアラさんをつけているのです。建前としてゼアラさんが直接、あたしに渡すと例の能力の障害が邪魔をしかねないから、瞳さんの介在でワンクッション置く建前なのです。いいですねっ。
(な、なるほど…詭弁という気もしますが、とりあえず納得しました…)
(なんかベラちゃんの下心バッキバキに入ってるわよね、これ)
ええですやん!
まぁ、族長のご一行に見送られて、我々は茸島の北側に戻る事にします。
そして、あたしと瞳さんとゼアラさんは↓の展開になるんですけどね。けどね。
https://novel18.syosetu.com/n0112gz/137/
そんな訳で、おじさまや瞳さんとの結婚式みたいな事になった後の、痴女宮のあたしのお部屋。
(この間はすみませんでした…ついつい…)
(いえいえ、実際に被害がなかった訳ですし、本当なら怒るところですけど、実は幽霊さんが暴れて下さったおかげで、我々の進めている件が上手くいったのも事実なので不問にさせて頂きます。で、今後はもしも人を襲いたくなった場合、条件反射でやるのではなく、あたしに連絡が欲しいのですよ…)
と、幽霊さん相手にお説教もとい演技指導をしております。
何分にも、幽霊さんには役者として重要重大な役目を果たして頂かなくてはなりません。
普通なら人を襲うような妖怪やお化け、問答無用で退治するところですが、お化けになった経緯もあります。
更には似たような境遇の過去を持つハリティリーネ福祉部長からも強い擁護の嘆願を貰っていますし、我々としても悪霊退散のお祭りのための参加をお願いしているのですから、責任を持って成仏までお付き合いさせて頂きますよ。
(ありがとうございます、しかし…正直、本当に驚いておられましたよ、あの方々…)
(それはそうですよ。幽霊さんのような立場の方には普通の人間ならば驚いて当たり前なんです。ただ…弱い上にエサになるからと言って無闇に襲うということで、当時の幽霊さんは討伐の対象になってしまったのです。ちょうどよい機会と思って、我々にご協力を頂ければ血の代わりもお渡ししますし、重ねて申し上げますが、責任持って成仏させて差し上げます)
そこに、ファインテック茸島支社の社長秘書のヨシムラさんとクリスおじさまが。
見ればスクルド先生、赤い十字が書かれた白い保冷ボックスを肩から提げておられます。
「んもぅ、重いわよこれ…で、これを幽霊に飲ませて大丈夫なの?」
「それを今から試すのですよ」とりあえず保冷ボックスを受け取って床に置きます。
もう形といい大きさといい、緊急用の輸血運搬ケースまんまですが、中身も言わでもがな。
おじさまが開けたケースの中から取り出したパックの口を開封し、ストローを差し込んで幽霊さんに渡します。
「ふむふむ、これを吸うのですか…」と、半透明のパックの中に入った赤い液体を恐る恐る飲まれてますけど、お味はどうでしょうか。
「あまり新鮮味はありませんが、悪くはありませんね」と言いながら、数秒で中身を干してしまわれます。
ええ、人工血液製剤です。
実はこれ、ファインテックの医療産業部の製品でして、痴女種細胞や鬼種細胞の構成技術を流用した血液型不問タイプの液剤なのですよ…そして、ボンベイ・ブラッドにすら対応して輸血対象者の正常血液を「コピー」して変質する特性があります。
そして元々の鬼細胞の機能を流用して、事故や事件で負傷した輸血対象者の自己治療…細胞賦活すら可能にする代物なのですが、今回は幽霊さん向けという事で血液と同じ効果を発揮する程度に性能を落とされています。
加えてですね。
この鬼細胞、実は地下の国土局設備部長様ご提供の、特別仕様です。
(ふっふっふっふっふっ、うちの身体を舐めたようかいと同じ事になりまんねや。つまり、うちの家来になってまいますねん。これで勝手に暴れたり悪さはさしまへんで…)
という訳で、更に記憶やら当時の状況を調査した方が良さそうです。
もっとも、それは雅美さんに頼るまでもありません。
オリューレさんに探って頂きましょう。
(そうですね…これはあたしの考えですけど、過去にお化けが実際に出没していた場合を想定します。そして、更にはあの幽霊さんと同じくらいに動きが早かった場合、絶対に原住民は襲われ死者が出ていたと思います。なのに襲われかけただけで済んでいるというのが、あたしには納得がいかないんですよね)
要は、幽霊話が広まり過ぎたせいで、何でもかんでも幽霊のせい妖怪のせいになってんじゃないのですか。
あたしはこれを言いたい訳ですよ。
そんな訳で事後調査をして頂いた訳ですが、やはりと申しますか、実際に殺されたり負傷した人はいなかったようです。
そして、幽霊以外の何かと間違えて驚いたりするのはまだ良い方でしょう。
最悪の場合、幽霊の噂を聞きつけて日頃の仲が悪い人を襲った挙句、幽霊のせいにして罪をなすりつける人が出て来る可能性も考えられると思うのです。
何せ、茸島を航空偵察した時点ではっきりしていますが、灯火らしい灯火技術を持っていないか、燃料節約のためか夜は集落の明かりはほぼ落とされて真っ暗な状態です。
で、あたしとしては、こうした原始的な居住環境をカイゼンすることで過剰にお化けに怯える事なく暮らして頂ければ、平穏な日々が戻るのではないかと考えています。
しかし、住民の皆さんの知能水準や民度を鑑みますと、迷信や自然現象に臆する事なく生活しろと言っても厳しいかも知れません。
そうなると、文明や文化を教える教育者や、はたまた治安維持のための警察力なり軍隊なりを派遣すること、普通の為政者ならば考えると思うのです。
ですが、茸島の北からここまでは遠いと言えば遠い距離。果たしてどうしたものか。
(聖母教会建設には、ちょうど良い口実ですよ…)と、族長さんとお話をしているオリューレさんから密かなサインが来ます。
よもやまさか、オリューレさんが誰かに頼んで幽霊のお芝居を打った自作自演…まぁ、それならばそれで事前に報告があれば良いのですけどねぇっ。
何せ、根回し抜きに勝手な事をした結果、茸島に島流しに遭っているのですから。
(話をして承認が得られない件だってあるではないですか!うううううぅっ陛下のわからずやっ)
いい年して何言ってんですか。痴女皇国のアルトさんですか貴女はっ。
(それ、本人が聞いたら激怒すると思いますから言いませんが、侮辱としては最大級ではないでしょうか…)
それはともかくとしてオリューレさん。ここに教会を作るとして、建材やら水の便やら何やら、大丈夫なのでしょうか。
欧州であれば諸国はもとより町や村、地方領主や貴族の独自協力を得る事も出来ましたし、痴女皇国支部とお付き合いのある国や商人でも、先の事を考えられる国は今や、聖母教会建設に意欲的になっています。
僅か数十キロの鉄道を作ってみせただけで、頭の良い人はその価値に気付いてくれましたし。
ですが、そもそもの民度や文明程度からして欧州や比丘尼国はもとより、比較的貿易が盛んな東南アジア諸国に比べて辛いところがある茸島、そして南洋王国です。
恐らく、我々だけで建設を進めねばなりません。
いくら族長や住民の皆様が女官や騎士の常駐を切望していても、ほぼゼロから全てを築く話になりかねません。
(確かに、陛下の懸念はごもっともです。しかし…初代様)
(マリアヴェッラ…南洋王国の首都のある島、あそこにぱんち様由来の、大きなお寺の遺跡があるのを知っておりまして? がっこうの授業でも、もしかすると教えておるほどのものでしょう)
…あああああ! ボロブドゥール遺跡!
(初代様、ですがあれは確かに規模こそ巨大ではありますけど、茸島から更に離れたジャワ島の中部に存在する建築物群ですよ…)
(さすがは雅美さんですわね。ですが…あれに近いものがこの辺にあるか、出来たとすればどうなりますか?)
(ま、まさか初代様、ウブド王宮をこの時代に…)
それ何ですか。
(ベラちゃーん…まぁいいわ、要はオランダによるインドネシア植民地化と相前後して、バリにあった王朝の一つが建てたのがサレン・アグレン宮殿。別名ウブド王宮と言って、ヒンドゥー様式の宮殿なのよ…)
(ほっほほほほほほ。つまりですねぇ、今、そうした建物がいせきとして発見されればどうなりますか? こりゃしめたと我々が占領してしまえばよろしい。あとは聖母教会助祭としての教育を受けた女官を何名か常駐させれば良いのですわ。規模は…痴女島の警備部、いわゆるこうばん程度で充分でしょう)
はぁ。
しかし、そんな遺跡をどうやって作るんですか。
(ベラちゃん。ウブド王宮、実はあまり大きくないのよ。下手をすると日本の大名屋敷より小さいかも知れないわよ…)
ええー。しかし、小さいと言っても…。
(後で検索で見てみなさい。まぁ、邸宅として見れば立派だけど、これが王宮と言われると…下手をするとフランスのオテル・ド・マリニーより小さいのよ…)
うーむ、ただ、建設をどうするんですか。あたし、娘を説き伏せるにも限度があるって思ってますからね。
ただでも人間をやめるお酒や煙草に手を出してやさぐれているエマ助に、これ以上無理をさせるとどんなグレ方をされるかと思いますとねぇ。
一応はあれの母親だって自覚、あるにはあるのですよ?
(まぁまぁ、エマちゃんには何とかして頭を下げましょう。あたしも付き合うわよ…)
とりあえず、あたしもプレハブか何かで融通が効かないか考えてみましょう。
(ジーナや。ベラ子。緊急で必要やったらスケアクロウ用の指揮官ユニットと簡易発電モジュール運び込みなさい。それか、マリ公に連絡してキャンピングカー手配さし。海老原さんのツテ頼ったら、24時間以内にブツは手に入るはずや。テンプレス・セキュリティの当座預金から1千万円くらいすぐ動かせるやろ?)
その発想はありませんでした…。
(あと野戦用浄水設備と簡易発電モジュールはテンプレス2世の倉庫に在庫あるから。警備員の配置はオリューレさんやディードリアーネさんと話し合って決めなさい。差し当たり二人くらいでええから行かしたら、あの町くらいの規模の治安は平常にできるはずや。エマ子に寺作れ宮殿作れ云々の話はうちから流しといたるから、今すぐ相談せんでええようにまずは応急手配をしなさい。ええな)
ひえー…かーさま、話が早いですね…。
(あほ。あんたも軍籍あるんやったら、災害派遣時の支援マニュアルくらい目ぇ通しとかんかいな…)
(まーまージーナちゃん、まさかこんな形で茸島に手を入れるなんて想定外だしさ。それより多分、精気発電機が2セットくらい追加発注になると思うわね。最悪、茸島行政支局のデンパサール移築くらいは想定しておいていいかも知れないとあたしは考えてるから)
しかし、大規模な人事異動やら諸々がまたぞろ発生しそうですね…。
(まー、これまた最悪は聖院学院の生徒を促成栽培して玉突きで必要な女官の数を揃える方向で行くわよ。千人卒を作れば聖母教会か慈母寺…比丘尼国で試行開始した尼寺制度の管理者に任命できるしね。で、茸島の村落から幽霊騒動の報償に娘さん達を尼寺に預からせてくれって話で人を補充してもいい訳だし)
雅美さんも仕事が早い部類なのが助かります。
ただ…無理やり出家させるのって、どうなんですか。
(ああ、恩を売るだけじゃなしに、人に知識を与え助けてるのは女官時代からやってる訳でしょう。で、今度からは自分達の中から自分達を助けるための尼さん候補を出してくれって風に持ちかけるのよ。ちなみに慈母寺というのは、パンチさんが行き倒れかけた際に酪乳を与えて助けた婦人の故事由来だそうよ。読者の皆様は聖母教会の仏教版と思ってね)
だそうです。
まぁ、パンチさんが了承しているなら、あたしは文句を言いません。福祉を売りにしている分には良い事だと思いますし。
(一応言っとくけど…慈母観音とかいう仏様をでっち上げいえもといパンチさん監修で、その婦人が仏様になったストーリーを玄奘さんが作って本尊にしてるのは言っとくわよ、ベラちゃん…)
悪い予感がします。
仏様のモデルとは。
(もちろんベラちゃん。あんたの母乳効果に目をつけたパンチさんの発案よっ)
あのー、肖像権とか、そういうの…。
(あんたさ、仮にも聖母教の総本山の痴女皇国の皇帝の地位についててさ、そんなもんあるとか思ってんの? ただ…変ないじられ方したら、それは不敬だって事で取り締まればいいんじゃないかな)
と、例のお墓の件をいまだに根に持ってそうな答えが返って来ました。
ちなみに雅美さんご自身のお墓だというのに、行こうとなさいません。自分のお墓なんだから自分で面倒見てくださいよっ。
(足が向く訳ないじゃない!)わがまま言いますね。
全く、素直に言うことを聞いてくれないのも困りものです。
…まぁ、雅美さんがお墓参りするかはともかく、お仕事をまとめては下さいます。
オリューレさんと二人して、今後の支援方針やら何やらを族長さんに伝達。
そして、あたしを呼びまして、側に控えてくれます。
(我らが君主であり痴女皇国の二代目皇帝であらせられるマリアヴェッラ陛下にございます。族長。皆様のお困りの件は皇帝陛下にお伝えさせて頂く事でなるべく早期に解決されるでしょう。ただし…代償として、賢い娘たちを数名、我らの下へ遣わす件はご了承願いますよ)
ああ、これが言っておられた女官候補の少女をよこして下さいという件でしょう。
(族長、ご安心下さい。我々は奴隷を欲しているのではありません。我々が女性を優れた女官や僧侶や神官として鍛え育て、より多くの人々を救う力とするべく聖院の時代から励んでいたのはご存知かと。今般のお願いもまた、この茸島をより人々が住みやすく暮らしやすい島にして行く為の処置の一環です。ご無理を申しますが、よろしくお願い致します)
と、初代様の演技指導のもと、族長の手を取って心話で伝えます。
ええ、めちゃくちゃ感激されました。
むしろ、我らの中からそのような者を出せるのは誇りと思ってくれています。
これはこの方々の文明レベルを考えますと、出来過ぎた考えにも思うのですけど。
(そりゃあもちろん、円滑に事を運ぶために多少の詭弁は。この茸島から巣立った女官が戻って来た暁には、生まれ育った故郷に便宜を図るもやぶさかではないだろうとか吹き込んでおります。…陛下、正直に言えば、迂闊な事を言い出すと人さらいに思われますのでね…)と、オリューレさんから裏事情の連絡が入ります。
で、初代様からも教えて頂きましたが、この茸島の人々はある意味、完全に純朴素朴ではないようです。
(人を差し出せと言っても、下手をすれば売るから金や食料をくれと言う程度のがめつさはありますよ。交易で訪れた他の部族民族との摩擦折衝の結果ですね。これは茸島との交易や間接統治に関与した金衣の方々からもお聞きしています。ただ…今の段階では彼らの要求をうまくいなしながら、幽霊騒ぎをうまく使って我々に服従せねば生活や生命をたちどころに脅かされるという風に持って行くべきでしょう。清廉潔白でないのは、陛下もこの者たちの思考を読めばすぐお分かりになりますかと)
なるほど…であれば、さっきの幽霊さんの挙動も、かえって我々が交渉を有利に進める助けとなるでしょう。
あんな素早い動きの上に、問答無用で人を襲おうとしていた挙動は族長たちにも恐ろしさが伝わっています。
そして、その化け物を一瞬で殴り倒して縛ってしまったアルトさんの強さも理解されています。
あとは、そうした庇護を受けたければ、因業で強欲な思考をやめさせるような指導があれば…なるほど、それで宗教施設ですか。
(そういうことですわ。ですから、我々女官を神の使いとして認識させるように、歴代金衣は何かしらの手を茸島や南洋王国など周辺国に対して打ってきたのですよ。雅美さんがよくお調べのようですけど、文字を持って出来事をきろくする事すら怪しい者たちばかりですからねぇ、このかいわいは)
ふむふむ。
つまり何ですか、ここら辺りの方々、世代交代したりした際には都度、聖院から人をやるとかして再契約とか交渉やり直しとかが当たり前だったと…。
(もちろんですことよ。ですから、この者達が平穏無事に暮らせる理由、いったい全体だれのおかげであるかという事をときどき教えるひつようがあったわけですわよ、マリアヴェッラ…)
あぁ…何となく、幽霊騒ぎや他の諸々の背景が読めて来ました。ヘタをすると、これ…抑え込んでいたはずの地震や津波、噴火や台風すらうまく使って聖院の価値を教え込むような…言ってみれば自作自演めいた事すらなさっていた可能性もあるのではと。
しかし、となりますとオリューレさんへの負担、今はともかくこれからは大きなものになるかも知れませんね。
最終的には茸島住人、ある意味で罪人化してでも効率的な統治を図る必要もあるでしょう。しかし、そのシステマが育つまでは…北欧や東欧、更にはストラスブールやバーデン=バーデン同様にあたし達が人をよこして統治する、言ってみれば持ち出しの図式、またしても展開する羽目になりそうな。
(へーか。あたくしが何のために茸島分校を開いているのかと。まずは女官や騎士による間接統治でしょう。そのための少年性奴隷の育成や少女達への女官教育でしてよ。そして…界隈への干渉はもとより、スカウトというのですか…地元民の女官登用、聖院時代はまぁ、割と普通にやってはいた話です。目立たないように、ですけど)
なるほど、ある程度の統治に必要な素地は出来ていると。
(聖院の掟を定めたたちばで言うのも何ですが、変に南洋王国を作らせずに、聖院の女官が直に統治した方がよろしかったかもしれませんわねぇ)
ともあれ、族長さん、せっかく聖環を預かっている立場です。あらためて茸島を担当するのはオリューレさんであり、困る事や相談があれば彼女に告げなさいと伝え、実際に呼び出してもらって手順を確認させます。
そして、密かにエマちゃんがこっそりと乱暴ルギーニの荷室に忍ばせた袋をいくつか、アルトさんから皆様に引き渡してもらいます。
(中身は塩ですよ。この方々、塩田の技術すら未熟なので…)
ひええええ。
塩田、手間暇はかかりますけど海辺に平たい土地さえあれば可能なのでは…稲藁とか手に入るはずですしね。
まぁともかく、どうにでも調達できる我々ならまだしも、この時代の欧州と同様に貴重品らしい塩、調理に使うなり交易に用いるなりして活用願えれば。
そして貴重な塩だというのは伝わっているらしく、頑丈そうな帆布の袋は彼らが持って来た荷車に若い男性陣が積み込み、一礼すると集落の方に運んで行かれます。
そして、我々の方には荷車…よく見たら聖院の罪人工場謹製って焼印が入ってるものから降ろされた木の幹や枝が。
(香木ですよ。欧州やアルトさんの昔の実家の辺りに持ち込む商人が高く買います)と、オリューレさんから注釈が入ります。
なるほど…この方々では地下資源やら、高く買えるものを作るのも難しいと…。とりあえず、この方々にとってはひと財産ではあるのでしょう。有り難く頂戴しておきます。
(金玉高原の村にはコーヒー豆とやらを作らせております。そこと編笠民兵国くらいしか、この界隈で豆の木が育たないらしく…)
(ベラちゃん。キンタマーニコーヒーやベトナムコーヒーの事よ。交易品として鯖挟国が高く買うのよ…)
あー! トルココーヒーやアラビアコーヒーのお豆の由来ですか。
(アフリカからも入ってるけどね。ボルジア猊下の指導で、眠気覚ましに良いとして英国と仲が悪い国に流行させてんのよ…)はいはい。うちの叔父やルクレツィア母様の実家、これと砂糖については教皇庁御用商人免状を出してもらって引き受けてますね、流通。
おかげで母様経由であたしにも賄賂もとい上貢金がげふんげふん。
(あーベラちゃんが私腹を肥やしてるー)
(まさみさーん。雅美さんの方が賄賂額は多いはずですよ? あたしの分はルクレツィア母様にお願いして、外交部の活動資金扱いでデステ叔母様主催の楽祭基金に回してもらってますからね。イタリア支部経由でちゃんと還元してますよっ)
これも少しややこしい話ですが、聖母教会の歩く御神体めいたあたしに寄せられる喜捨や、はたまたさっき話に出たような賄賂や心付けの類、実はデステ叔母様に渡してます。
で、叔母様は芸術基金として画家彫刻家作曲家他の活動支援金に使っておられます。
というのも、この時代ですから絵の具一つ楽器ひとつを取っても高価な代物です。
そこで連邦世界のイタリアとは少し方針を変え、芸術家は大学に属し王侯貴族が何か芸術品を欲した場合は大学に依頼せよとしています。
そして、国や聖母教会から得た芸術支援金によって暮らす奨学生または芸術学芸能学の教務員として、有望な芸術家を募っているようですね。
(貧しい画家志望が犬と一緒に凍え死ぬとか、自分の耳を切って友人の画家に押し付けないようにする措置だとマリアリーゼ陛下のお達しです。中抜きどころかイタリア政府からも基金に拠出していますよ、シニョーラ…)と、いくらイタリアでも賄賂を着服どころかアートのために持ち出してますよとデステ叔母様が怒っています。
そして、痴女皇国からも学術支援金を出してるんですよねぇ…。
あと、この件でお分かりの通り、ルクレツィア母様…お話に出て来ないだけで、仕事してます。割と。結構。ちゃんと。
(マリアヴェッラ…娘としてあたくしにバカンツァを過ごさせる気、ありませんの?)
あのー母様、碧海島保養所、きっちりお使いなのはバレてます。それとバーデン=バーデンも茸島保養所も伊香保も使っておられますよねっ。
(一晩や二晩泊まるくらいで遊んだとは申しません!)
(イザベルです。ルクレツィア外務局長、この間はイビサで一週間近く男漁りを。わたくしも誘われましたが、一泊二泊がせいぜいですわよ!)
と、働いてんのかサボってんのかよくわからない南欧支部長様が密告してますけど。
ちなみにアルハンブラ宮殿、南欧支部の避暑地兼離宮として使ってますよ。この夏は叔父が枢機卿連中と一緒に夏季慰労として女っ気抜きの酒盛りに使っていたはずです。
(マリアヴェッラ…お前の姉上に苦情を言いたいのだがな。あのな、カテリーナどころか私の正妻と娘までローマに呼ばれてみろ…私が心休まる訳がないじゃないか! カテリーナだけでも大変なのだぞ! )
ええ、わかっております。
しかし、奥さんと娘さん、長年ほったらかして何やってんですか。これはおじさまが悪いでしょ…あたしもそう判断したからこそ、姉が企画した拉致作戦を承認したのですよ?
(避暑を楽しんだ者をあぶり出そうとするマリアヴェッラにさもしいものを感じますわね、雅美さん)
(ベラちゃん。盆休みはあげるから…)
(雅美さん。墓所の迎え盆の行事、あたしが親族名代です…)
ええ、聖母教会の本拠地の痴女皇国の痴女宮で、何が悲しくて盆の行事を迎えるのでしょうか。しかもあたしは聖母で皇帝。
…逃げられる訳、ないじゃないですか!
(送り盆はあたしがやってあげるから…)ああそうか、雅美さん…一応は初代様とくっついた事になってますので皇族扱い。とは言え血縁じゃありませんし、第一、厳密に言えば自分自身が初盆を迎える立場ですよね…。
(マリアヴェッラ。雅美さんでも構わないと皆が言っております。心置きなく、くりす様とお過ごしなさいな)
(まぁアレはもはや陛下の公務ですしねぇ…)
(あれを公務と言えるのか思いっ切り突っ込み入れたいんだけどねぇ)
(クリス・ワーズワースの女の好みの制御は出来れば避けたいんだけど…)
(私とは公務じゃないんですか!)
えーと、みんな同情するのか、それともけなすのか。
あと瞳さん。精気授受が発生するのであれば公務です。
それが痴女皇国の掟です。
瞳さん、それとですね。
そのためにゼアラさんをつけているのです。建前としてゼアラさんが直接、あたしに渡すと例の能力の障害が邪魔をしかねないから、瞳さんの介在でワンクッション置く建前なのです。いいですねっ。
(な、なるほど…詭弁という気もしますが、とりあえず納得しました…)
(なんかベラちゃんの下心バッキバキに入ってるわよね、これ)
ええですやん!
まぁ、族長のご一行に見送られて、我々は茸島の北側に戻る事にします。
そして、あたしと瞳さんとゼアラさんは↓の展開になるんですけどね。けどね。
https://novel18.syosetu.com/n0112gz/137/
そんな訳で、おじさまや瞳さんとの結婚式みたいな事になった後の、痴女宮のあたしのお部屋。
(この間はすみませんでした…ついつい…)
(いえいえ、実際に被害がなかった訳ですし、本当なら怒るところですけど、実は幽霊さんが暴れて下さったおかげで、我々の進めている件が上手くいったのも事実なので不問にさせて頂きます。で、今後はもしも人を襲いたくなった場合、条件反射でやるのではなく、あたしに連絡が欲しいのですよ…)
と、幽霊さん相手にお説教もとい演技指導をしております。
何分にも、幽霊さんには役者として重要重大な役目を果たして頂かなくてはなりません。
普通なら人を襲うような妖怪やお化け、問答無用で退治するところですが、お化けになった経緯もあります。
更には似たような境遇の過去を持つハリティリーネ福祉部長からも強い擁護の嘆願を貰っていますし、我々としても悪霊退散のお祭りのための参加をお願いしているのですから、責任を持って成仏までお付き合いさせて頂きますよ。
(ありがとうございます、しかし…正直、本当に驚いておられましたよ、あの方々…)
(それはそうですよ。幽霊さんのような立場の方には普通の人間ならば驚いて当たり前なんです。ただ…弱い上にエサになるからと言って無闇に襲うということで、当時の幽霊さんは討伐の対象になってしまったのです。ちょうどよい機会と思って、我々にご協力を頂ければ血の代わりもお渡ししますし、重ねて申し上げますが、責任持って成仏させて差し上げます)
そこに、ファインテック茸島支社の社長秘書のヨシムラさんとクリスおじさまが。
見ればスクルド先生、赤い十字が書かれた白い保冷ボックスを肩から提げておられます。
「んもぅ、重いわよこれ…で、これを幽霊に飲ませて大丈夫なの?」
「それを今から試すのですよ」とりあえず保冷ボックスを受け取って床に置きます。
もう形といい大きさといい、緊急用の輸血運搬ケースまんまですが、中身も言わでもがな。
おじさまが開けたケースの中から取り出したパックの口を開封し、ストローを差し込んで幽霊さんに渡します。
「ふむふむ、これを吸うのですか…」と、半透明のパックの中に入った赤い液体を恐る恐る飲まれてますけど、お味はどうでしょうか。
「あまり新鮮味はありませんが、悪くはありませんね」と言いながら、数秒で中身を干してしまわれます。
ええ、人工血液製剤です。
実はこれ、ファインテックの医療産業部の製品でして、痴女種細胞や鬼種細胞の構成技術を流用した血液型不問タイプの液剤なのですよ…そして、ボンベイ・ブラッドにすら対応して輸血対象者の正常血液を「コピー」して変質する特性があります。
そして元々の鬼細胞の機能を流用して、事故や事件で負傷した輸血対象者の自己治療…細胞賦活すら可能にする代物なのですが、今回は幽霊さん向けという事で血液と同じ効果を発揮する程度に性能を落とされています。
加えてですね。
この鬼細胞、実は地下の国土局設備部長様ご提供の、特別仕様です。
(ふっふっふっふっふっ、うちの身体を舐めたようかいと同じ事になりまんねや。つまり、うちの家来になってまいますねん。これで勝手に暴れたり悪さはさしまへんで…)
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