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アルトリーネの海賊退治・カリブの海は俺の海編
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「ふむふむ。なんかえらい早いことないか。こないだ聖院側で依頼してデータ取ったり回して貰てたばっかりやん。まぁ、あれが出来てるならその方が話が早うなるからな。なんせ10隻くらいはおるんが判明しとるわ、ハバナ造船所を狙う話も出てるみたいやさかい、あまり出陣に手こずるとアレーゼさんが一人でしばくからなと。確かにアレーゼさん一人で解決する話ではあるねんけど、諸方面の貸し借り持ち合いで解決させたい話やから、なるべく我が方の戦力は欲しかったところやねんわ。うん。ちょうどええし、エルトゥールル号ごとこっちに持って来れるならそれで頼むわ」と、なにやらジーナ様が心話してはります。
「うむ。実は痴女皇国の方で監獄国・九鬼水軍の協力も得て建造していた船があんねんけどな、エゲレスのグラスゴーという造船業が盛んな街で、雇用促進を兼ねて造らせてみようと」
「ふむふむ。どないなおふねなのでしょう」
「排水量は1,000tくらいか。原型よりちょっと重い。しかぁし」
「しかし」
「本当ならこの時代から200年くらいは後で作られるはずの帆船なのやが、連邦世界ではイギリスに現船が保存されておってな。で、これの型を取って同じものを作らせておったのや。なんせ高速貨物船としてはめちゃくちゃ優秀な船でな。で、少々の改良で海賊船ごとき10隻や20隻は蹴散らせるような軍用船にも改造可能なように設計書を渡しーの、木材から船体枠から建造資材を提供してな」
「それができたので聖院のほうで海賊退治に使ってみようというわけですか」
「うむ。連邦世界の技術も多々ぶち込んでおってな。ぶっちゃけ下手な海賊船の三倍以上の速さで走れる」
「なんかすごそうなおふねですね」
「とりあえず白エマ黒エマが取りに行ってるから、それを待って追いかける組と、スケアクロウでスペインに行く組に別れるからな」ここは聖院宮22階の会議室兼ブリーフィングルームでございます。
出席者は…。白マリ、白ジーナ、白クリス、白アルト&ダリア、サリー&しほ子、ナディアさん、うちと黒アルト。で、これからスペインのカディス港に行って討伐艦隊を編成する前の打ち合わせです。
「これがニュープロヴィデンス島。連邦世界でいうバハマや。で、グレース・オマリー率いる島流しアイリッシュ海賊が逃亡船員たちと結託して海賊共和国を宣言、イングランド総督が逃げ出した後のナッソー、ひいてはバハマを占領したも同然という訳やね」と、海賊の根城になっている島と、市街地や港湾部の拡大画像を見せて説明していきます。
「何かものすごく悪い予感がするわね…ちょっと待ってね…グレースに賛同して結託している海賊って何人いるのよ!あの島、海賊だらけじゃない!」向こうの構成を調べたらしい白マリが叫びますが、そりゃ海賊共和国を名乗って海賊集めてるんだから、勢い海賊だらけにもなるやろと。
「せやねん…黒マリにも頼んで調べてもろたけど、痴女皇国側では海賊として名を挙げるチャンスに恵まれなかったとか、あるいは一旗挙げる前に捕まったような奴が聖院側では思っきし健在やねんわ…」で、プロンプタを操作して、自称・海賊共和国とやらの幹部連中の名前を挙げていきます。
グレース・オマリー、アン・ボニー、メアリー・リード、フランソワ・ロロネー、ロッシュ・ブラジリアーノ、エドワード・ロー、エドワード・ティーチ、バルバロス・フズール…アイルランド人にブリテン人にフランス人にスペイン人に…。
「あの…時代を超えてえげつない海賊ばかり集めたんですか…? しかもバルバロッサ海賊のハイレディンまで混ざってるじゃないですか!」クリスが顔面蒼白になってます。
「…そのばるばろっさとはどのような海賊なのでしょうか」アルト姉妹が聞いてきます。
「…あのな…それな、鯖挟国が関係してきよんねん…アルトくんらの国元に近い場所の人間で、元は地中海沿岸で海賊行為や奴隷売買で活動していたが、スペインやイタリアに討伐されそうになって、資金や物資援助を代償に自分を鯖挟国に売り込みよってな、鯖挟国の雇われ海賊になりよった。ナディアちゃんにはわかりやすいやろ、海賊が九鬼さんちとか村上さんちみたいな感じで、国主になったり国主に雇われたんや」
「ああ、そいつら、鯖挟国の後ろ盾を得たのですね」
「ところがイタリアやスペインに聖院がついた。で、鯖挟国もちょっとまずいと言う事で傭兵契約を解除したところ、情報が漏れたかして行方不明に。そして南米支部の情報で、カリブ海に現れて国を追われた者同士意気投合して海賊共和国の一員に加わっとるとな。聖院世界ではイスラム教の発生を防いだのが災いして、宗教的な対立もなく仲良く海賊稼業に邁進しとるようや」
「あー、アフリカ諸国の奴隷売買も聖院が止めさせましたからねー」
「加えて、何代目かの金衣様の時代に既にアメリカ大陸全土への伝染病対策が進んでいた上にですね、聖院世界でも痴女化阻止細胞とか色々撒いたやろ…あ、インカやアステカなど南米先住民族の皆様はもちろん、北米大陸のインディアン諸部族もだいたい生き残ってると思ってください。そしてアフリカがダメならばと聖院支部整備の隙をついて奴隷密売や略奪をして糊口を凌いでおると」
「かーさん、誰に説明してんのよ…しかも、ウィリアム・キッドの遺した財宝も資金源らしいじゃない…つまりそれなりの資本と、元戦列艦を含む数十隻の海賊船が敵という状態なわけか…これはちょっと、スケアクロウとあのスピードボート一隻だけじゃ死傷者なしの捕縛は難しいんじゃない?」
「しかも、海賊を全て捕縛しても数千名に上るのは確実やな。それだけの数を恭順させて聖院なり欧州なりに送致して更生させるのは、行き当たりばったりでは出来ん仕事やろ…うち、スペインかイギリスに船を出させる手配はどないなっとん?」白うちが聞いてきます。
「スペインは可能ならヌエストラ・セニョーラ・デ・ラ・サンティシマ号を出してもらえるように交渉中。あの大型艦やったら、仮死状態にしてもうたらかなりの人数が積める。あと、痴女皇国側で建造してた例の高速貨物船プロトタイプ。これが来たら何とかなるやろ」
「カタがつく頃にはテンプレスの改装も終わってるだろうし、あれが使えたらどうにでもなるわね」
「質問があります。連中の武装はどんなものを持っているのでしょう」
「はいサリーちゃん、まず海賊船の武器は大砲です。時代によって違いますが、カルバリン砲という射程は長いんだけど威力はあまりない砲が時代遅れになりつつあって、カノン砲と言って強力だけど砲自体が重いわ射程は短いわという砲がこの時代の軍艦の主力兵器になろうとしています」
「どのくらいの射程があるのでしょう。うちの水軍にある大砲だと、弾が飛ぶ距離は長いものでも二町里くらいですね」と、ナディアちゃんも実戦派だけに気になる様子。
「400m…一町里くらいから三町里くらいかなぁ。で、こんな感じで横腹に何門も大砲を積んで一斉にボカンボカン撃ち込んで相手の乗組員を殺傷するのが主な戦法なんよ」と、連邦世界のネルソン提督が乗っていたHMS ヴィクトリーの画像を見せてあげます。
「こういうお船を何隻も用意して敵味方入り乱れてボカンボカン大砲を撃ち合ったり、あるいは動きが鈍った敵の船に乗り移ってピストルや剣で戦いました。で、この時代のピストルは単発で、威力はそーんなに大きい事はない。むしろ船の上で振り回す事を前提にした短めの海賊刀、カットラスというものや短刀など、複数の武装を持ってることが多かったようやね」と、刀や装飾された単発ピストルだの、それを持って偉そうにしてる黒ひげのおっさんの画像を見せます。
「なんですかこのおっさんは」黒ひげティーチの事を知らない面々が片端から、汚物を見る目で見ているのですが…。
「これは半分わざとやっとるのや。海賊船は基本的に民間船を襲う。で、まずは逆らうと皆殺しにするぞと脅して抵抗の意思を削ぐわけよ。だからいかにも凶悪かつ金持ってるぞという姿をして、船の積荷を差し出させれば助けてやろうと交渉してくるわけよ。大砲とかも持ってるけど、とりあえず一発ぶち込んでビビらせるために使うねん。海賊は積荷を奪ってなんぼやのに、その獲物を沈めたら何してるかわからんやろ?」
「ですです。九鬼でも同じようなものですよ。まず弓矢を射掛けたり鉄砲を撃ち込んで脅しますから」
「まぁ、連中の大砲が届かない距離からドレインして動きを止めさせるのが一番ですかねぇ」
「あと、奴らの拠点のナッソー。最近では海賊稼業で集めた財宝などを売り捌く密輸商が取り締まられているせいで、アフリカなどで盗品を換金したり食料や武器に替えるとか出来なくなって来てるから、かなりのモノがナッソーの街中や連中の根城に溜め込まれとるやろ。その辺の押収も任務に入るからな」
「厄介といえば厄介やなぁ、船員の事情をこれからどんどん改善してやろうと言うのに、こんなんして集まられたらたまったもんとちゃうで、うち」
「従って海賊対策というのはイコール、船員の職住環境改善やら、ひいては船員を含めたこの時代の食事情改善にも繋がってくるわけよ。うちらが冷蔵庫冷凍庫だの浄水器だのを導入したいがために半生体発電機を与えてまで水や食材の保存手段提供に踏み切ったのもこの辺がある訳でねぇ」
「そっちは文明開花さすかどうかでえっらい悩んどる最中やしなぁ」
「半生体発電システムでかなりカバーは出来る。ただ…あれ、奴隷とは別の意味で、大量に人間を必要とするからなぁ。制御に痴女種がおる方がいい機械ではあるし」
「エコと言えばエコにも程があるねんけどなぁ。発電だけに留めたら完全生体機関化出来る訳やし」
「ぶっちゃけ連邦世界の1600年代基準の埋蔵量の半分未満やぞ、石炭も石油も。なもんで文明を進展させるにしても電力の供給源は必須やで」
「その電力の話やねんけどな、今の船舶用機関あるやん。サンティシマ型でどんくらいパワーあんのよ」
「帆船状態の動力補助やからそんなにパワーあらへんぞ。だいたい二万一千キロワット…三万馬力相当を左右に二発、バラストがわりに船底部に装備しとる。実は聖院や痴女宮のスクリュー揚水機をエマ子が入れ替えた際に、ヘリカルクライオスタット型の非回転タービンポンプにしよってんけど、あれの設計流用なのは内緒やっ」
「あー、あの誘導磁場で水自体を推進させるあれか…公試でどこまで出した…」
「内緒じゃ…と言いたいが、20ノット以上の巡航速度は絶対に出せる。サンティシマ型の船型がモロ帆船そのものやし、もともとは戦列艦としての設計を重視しとるから構造的にスリムにしづらいのはわかるんで、その辺はいじらんかったとエマ子も言うとったしな」
「つーことは、グラスゴーのあれやったらもっと出る言う事か…」
「ビビんなよ。公試やってみんとわからんけど、恐らく巡航40、最高60は行くはずや」
「何じゃそれは…この時代の船で出してええ速度ちゃうぞ…」
「えーっと、その単位で言うとどれくらい速いのですか」
「ああ、ナディアちゃんがいたな…三十六町一里換算で20ノットが時速十里。つまり60ノットなら時速三十里、111km/hっちゅうとこか…だいたい一刻ちょいで鳥羽から新那古野港または三河田原港に行く」
「えー、それめちゃくちゃ速くないですか…海の上を行く船ですよ…」
「サリーくん、いいところに気がついたね。ぶっちゃけこの速度を出せる水上船舶というのは多くないのだよ。アークロイヤルやテンプレスだと出せなくもないが、そんな速度を出すならいっそ浮かせて飛ばした方がよほど手っ取り早いのだよはっはっはっはっ」
「絶対に酔うのではないですか…」
「それ以前に一体何を考えてそんなスピード出させるのよ…サンティシマ型の20ノットも大概だと思うけどさ…あれ、この時代の普通の戦列艦の5倍くらいは重いのよ?」
「一等戦列艦のHMS ビクトリーでも3,500トンですよ…機帆船のウォーリアはさすがに1万トンを超えますが…それでも20ノットは出せませんね」
「元々は何をさせる船だったんでしょ」
「しほちゃん、ここにNB出身だが実質イギリス人と言っていい人物がいる。つまり、クリスや。このクリスに、ある習慣を禁じた場合、変なヤクが切れたように人が変わるのや」
「変わりませんよ。イライラはしますけど。はっはっはっ」クリスはその船がもともと、何のために造られたかを知ってるからねぇ。
「うーむ。もしかして…お茶?」
「そそ。その船は連邦世界では、新鮮な茶葉を天竺や中国…中原龍皇国から本国に運ぶために建造されたのだよ。なんせその年に収穫された一番茶の値段がアホみたいに高くてもバンバン売れるから、一日でも一時間でも早くロンドンに着く事を至上命題として設計されていてな、船員は積荷の上に吊ったハンモックの上に寝るわ、船長室も船首に置くわと当時の常識を逸脱した代物やねん」
「更に言うと、あの当時の帆船としてはありえないくらい細身の船体なんですよ。港で岸壁につけたり出港する際には蒸気機関を積んだ曳船が実用化されていた時代なので、出港して帆で走れるまではタグボート任せだったみたいですね」
「うむ。今もロンドン郊外のグリニッジに現船が保存されてるんやけどな、カティサーク号と言うて、当時の紅茶輸送の覇権を賭けて競争していた船やねん」
「うむ。実は痴女皇国の方で監獄国・九鬼水軍の協力も得て建造していた船があんねんけどな、エゲレスのグラスゴーという造船業が盛んな街で、雇用促進を兼ねて造らせてみようと」
「ふむふむ。どないなおふねなのでしょう」
「排水量は1,000tくらいか。原型よりちょっと重い。しかぁし」
「しかし」
「本当ならこの時代から200年くらいは後で作られるはずの帆船なのやが、連邦世界ではイギリスに現船が保存されておってな。で、これの型を取って同じものを作らせておったのや。なんせ高速貨物船としてはめちゃくちゃ優秀な船でな。で、少々の改良で海賊船ごとき10隻や20隻は蹴散らせるような軍用船にも改造可能なように設計書を渡しーの、木材から船体枠から建造資材を提供してな」
「それができたので聖院のほうで海賊退治に使ってみようというわけですか」
「うむ。連邦世界の技術も多々ぶち込んでおってな。ぶっちゃけ下手な海賊船の三倍以上の速さで走れる」
「なんかすごそうなおふねですね」
「とりあえず白エマ黒エマが取りに行ってるから、それを待って追いかける組と、スケアクロウでスペインに行く組に別れるからな」ここは聖院宮22階の会議室兼ブリーフィングルームでございます。
出席者は…。白マリ、白ジーナ、白クリス、白アルト&ダリア、サリー&しほ子、ナディアさん、うちと黒アルト。で、これからスペインのカディス港に行って討伐艦隊を編成する前の打ち合わせです。
「これがニュープロヴィデンス島。連邦世界でいうバハマや。で、グレース・オマリー率いる島流しアイリッシュ海賊が逃亡船員たちと結託して海賊共和国を宣言、イングランド総督が逃げ出した後のナッソー、ひいてはバハマを占領したも同然という訳やね」と、海賊の根城になっている島と、市街地や港湾部の拡大画像を見せて説明していきます。
「何かものすごく悪い予感がするわね…ちょっと待ってね…グレースに賛同して結託している海賊って何人いるのよ!あの島、海賊だらけじゃない!」向こうの構成を調べたらしい白マリが叫びますが、そりゃ海賊共和国を名乗って海賊集めてるんだから、勢い海賊だらけにもなるやろと。
「せやねん…黒マリにも頼んで調べてもろたけど、痴女皇国側では海賊として名を挙げるチャンスに恵まれなかったとか、あるいは一旗挙げる前に捕まったような奴が聖院側では思っきし健在やねんわ…」で、プロンプタを操作して、自称・海賊共和国とやらの幹部連中の名前を挙げていきます。
グレース・オマリー、アン・ボニー、メアリー・リード、フランソワ・ロロネー、ロッシュ・ブラジリアーノ、エドワード・ロー、エドワード・ティーチ、バルバロス・フズール…アイルランド人にブリテン人にフランス人にスペイン人に…。
「あの…時代を超えてえげつない海賊ばかり集めたんですか…? しかもバルバロッサ海賊のハイレディンまで混ざってるじゃないですか!」クリスが顔面蒼白になってます。
「…そのばるばろっさとはどのような海賊なのでしょうか」アルト姉妹が聞いてきます。
「…あのな…それな、鯖挟国が関係してきよんねん…アルトくんらの国元に近い場所の人間で、元は地中海沿岸で海賊行為や奴隷売買で活動していたが、スペインやイタリアに討伐されそうになって、資金や物資援助を代償に自分を鯖挟国に売り込みよってな、鯖挟国の雇われ海賊になりよった。ナディアちゃんにはわかりやすいやろ、海賊が九鬼さんちとか村上さんちみたいな感じで、国主になったり国主に雇われたんや」
「ああ、そいつら、鯖挟国の後ろ盾を得たのですね」
「ところがイタリアやスペインに聖院がついた。で、鯖挟国もちょっとまずいと言う事で傭兵契約を解除したところ、情報が漏れたかして行方不明に。そして南米支部の情報で、カリブ海に現れて国を追われた者同士意気投合して海賊共和国の一員に加わっとるとな。聖院世界ではイスラム教の発生を防いだのが災いして、宗教的な対立もなく仲良く海賊稼業に邁進しとるようや」
「あー、アフリカ諸国の奴隷売買も聖院が止めさせましたからねー」
「加えて、何代目かの金衣様の時代に既にアメリカ大陸全土への伝染病対策が進んでいた上にですね、聖院世界でも痴女化阻止細胞とか色々撒いたやろ…あ、インカやアステカなど南米先住民族の皆様はもちろん、北米大陸のインディアン諸部族もだいたい生き残ってると思ってください。そしてアフリカがダメならばと聖院支部整備の隙をついて奴隷密売や略奪をして糊口を凌いでおると」
「かーさん、誰に説明してんのよ…しかも、ウィリアム・キッドの遺した財宝も資金源らしいじゃない…つまりそれなりの資本と、元戦列艦を含む数十隻の海賊船が敵という状態なわけか…これはちょっと、スケアクロウとあのスピードボート一隻だけじゃ死傷者なしの捕縛は難しいんじゃない?」
「しかも、海賊を全て捕縛しても数千名に上るのは確実やな。それだけの数を恭順させて聖院なり欧州なりに送致して更生させるのは、行き当たりばったりでは出来ん仕事やろ…うち、スペインかイギリスに船を出させる手配はどないなっとん?」白うちが聞いてきます。
「スペインは可能ならヌエストラ・セニョーラ・デ・ラ・サンティシマ号を出してもらえるように交渉中。あの大型艦やったら、仮死状態にしてもうたらかなりの人数が積める。あと、痴女皇国側で建造してた例の高速貨物船プロトタイプ。これが来たら何とかなるやろ」
「カタがつく頃にはテンプレスの改装も終わってるだろうし、あれが使えたらどうにでもなるわね」
「質問があります。連中の武装はどんなものを持っているのでしょう」
「はいサリーちゃん、まず海賊船の武器は大砲です。時代によって違いますが、カルバリン砲という射程は長いんだけど威力はあまりない砲が時代遅れになりつつあって、カノン砲と言って強力だけど砲自体が重いわ射程は短いわという砲がこの時代の軍艦の主力兵器になろうとしています」
「どのくらいの射程があるのでしょう。うちの水軍にある大砲だと、弾が飛ぶ距離は長いものでも二町里くらいですね」と、ナディアちゃんも実戦派だけに気になる様子。
「400m…一町里くらいから三町里くらいかなぁ。で、こんな感じで横腹に何門も大砲を積んで一斉にボカンボカン撃ち込んで相手の乗組員を殺傷するのが主な戦法なんよ」と、連邦世界のネルソン提督が乗っていたHMS ヴィクトリーの画像を見せてあげます。
「こういうお船を何隻も用意して敵味方入り乱れてボカンボカン大砲を撃ち合ったり、あるいは動きが鈍った敵の船に乗り移ってピストルや剣で戦いました。で、この時代のピストルは単発で、威力はそーんなに大きい事はない。むしろ船の上で振り回す事を前提にした短めの海賊刀、カットラスというものや短刀など、複数の武装を持ってることが多かったようやね」と、刀や装飾された単発ピストルだの、それを持って偉そうにしてる黒ひげのおっさんの画像を見せます。
「なんですかこのおっさんは」黒ひげティーチの事を知らない面々が片端から、汚物を見る目で見ているのですが…。
「これは半分わざとやっとるのや。海賊船は基本的に民間船を襲う。で、まずは逆らうと皆殺しにするぞと脅して抵抗の意思を削ぐわけよ。だからいかにも凶悪かつ金持ってるぞという姿をして、船の積荷を差し出させれば助けてやろうと交渉してくるわけよ。大砲とかも持ってるけど、とりあえず一発ぶち込んでビビらせるために使うねん。海賊は積荷を奪ってなんぼやのに、その獲物を沈めたら何してるかわからんやろ?」
「ですです。九鬼でも同じようなものですよ。まず弓矢を射掛けたり鉄砲を撃ち込んで脅しますから」
「まぁ、連中の大砲が届かない距離からドレインして動きを止めさせるのが一番ですかねぇ」
「あと、奴らの拠点のナッソー。最近では海賊稼業で集めた財宝などを売り捌く密輸商が取り締まられているせいで、アフリカなどで盗品を換金したり食料や武器に替えるとか出来なくなって来てるから、かなりのモノがナッソーの街中や連中の根城に溜め込まれとるやろ。その辺の押収も任務に入るからな」
「厄介といえば厄介やなぁ、船員の事情をこれからどんどん改善してやろうと言うのに、こんなんして集まられたらたまったもんとちゃうで、うち」
「従って海賊対策というのはイコール、船員の職住環境改善やら、ひいては船員を含めたこの時代の食事情改善にも繋がってくるわけよ。うちらが冷蔵庫冷凍庫だの浄水器だのを導入したいがために半生体発電機を与えてまで水や食材の保存手段提供に踏み切ったのもこの辺がある訳でねぇ」
「そっちは文明開花さすかどうかでえっらい悩んどる最中やしなぁ」
「半生体発電システムでかなりカバーは出来る。ただ…あれ、奴隷とは別の意味で、大量に人間を必要とするからなぁ。制御に痴女種がおる方がいい機械ではあるし」
「エコと言えばエコにも程があるねんけどなぁ。発電だけに留めたら完全生体機関化出来る訳やし」
「ぶっちゃけ連邦世界の1600年代基準の埋蔵量の半分未満やぞ、石炭も石油も。なもんで文明を進展させるにしても電力の供給源は必須やで」
「その電力の話やねんけどな、今の船舶用機関あるやん。サンティシマ型でどんくらいパワーあんのよ」
「帆船状態の動力補助やからそんなにパワーあらへんぞ。だいたい二万一千キロワット…三万馬力相当を左右に二発、バラストがわりに船底部に装備しとる。実は聖院や痴女宮のスクリュー揚水機をエマ子が入れ替えた際に、ヘリカルクライオスタット型の非回転タービンポンプにしよってんけど、あれの設計流用なのは内緒やっ」
「あー、あの誘導磁場で水自体を推進させるあれか…公試でどこまで出した…」
「内緒じゃ…と言いたいが、20ノット以上の巡航速度は絶対に出せる。サンティシマ型の船型がモロ帆船そのものやし、もともとは戦列艦としての設計を重視しとるから構造的にスリムにしづらいのはわかるんで、その辺はいじらんかったとエマ子も言うとったしな」
「つーことは、グラスゴーのあれやったらもっと出る言う事か…」
「ビビんなよ。公試やってみんとわからんけど、恐らく巡航40、最高60は行くはずや」
「何じゃそれは…この時代の船で出してええ速度ちゃうぞ…」
「えーっと、その単位で言うとどれくらい速いのですか」
「ああ、ナディアちゃんがいたな…三十六町一里換算で20ノットが時速十里。つまり60ノットなら時速三十里、111km/hっちゅうとこか…だいたい一刻ちょいで鳥羽から新那古野港または三河田原港に行く」
「えー、それめちゃくちゃ速くないですか…海の上を行く船ですよ…」
「サリーくん、いいところに気がついたね。ぶっちゃけこの速度を出せる水上船舶というのは多くないのだよ。アークロイヤルやテンプレスだと出せなくもないが、そんな速度を出すならいっそ浮かせて飛ばした方がよほど手っ取り早いのだよはっはっはっはっ」
「絶対に酔うのではないですか…」
「それ以前に一体何を考えてそんなスピード出させるのよ…サンティシマ型の20ノットも大概だと思うけどさ…あれ、この時代の普通の戦列艦の5倍くらいは重いのよ?」
「一等戦列艦のHMS ビクトリーでも3,500トンですよ…機帆船のウォーリアはさすがに1万トンを超えますが…それでも20ノットは出せませんね」
「元々は何をさせる船だったんでしょ」
「しほちゃん、ここにNB出身だが実質イギリス人と言っていい人物がいる。つまり、クリスや。このクリスに、ある習慣を禁じた場合、変なヤクが切れたように人が変わるのや」
「変わりませんよ。イライラはしますけど。はっはっはっ」クリスはその船がもともと、何のために造られたかを知ってるからねぇ。
「うーむ。もしかして…お茶?」
「そそ。その船は連邦世界では、新鮮な茶葉を天竺や中国…中原龍皇国から本国に運ぶために建造されたのだよ。なんせその年に収穫された一番茶の値段がアホみたいに高くてもバンバン売れるから、一日でも一時間でも早くロンドンに着く事を至上命題として設計されていてな、船員は積荷の上に吊ったハンモックの上に寝るわ、船長室も船首に置くわと当時の常識を逸脱した代物やねん」
「更に言うと、あの当時の帆船としてはありえないくらい細身の船体なんですよ。港で岸壁につけたり出港する際には蒸気機関を積んだ曳船が実用化されていた時代なので、出港して帆で走れるまではタグボート任せだったみたいですね」
「うむ。今もロンドン郊外のグリニッジに現船が保存されてるんやけどな、カティサーク号と言うて、当時の紅茶輸送の覇権を賭けて競争していた船やねん」
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