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アルフォンスには本来やるべき仕事があるのだ。それを俺と言う正体不明の人間の登場で邪魔してしまっている。
「そうか……殿下もシグルドさんも俺のせいで仕事できてませんよね。すみません」
仕事が滞るのはよくない。上から降りてこない決裁待ちの案件は全体の業務を停滞させる。
申し訳ない気持ちで頭を下げると、アルフォンスは気にするなと首を横に振った。
「大丈夫だ。今の最優先は女神の御使いであるお前を保護すること。流石にシグルドも異論はあるまい」
「ええ、それに関しては私も同意します。女神の使いの出現は国に災いが訪れる兆候のようなもの。後回しにはできません」
そう言われて今度はぐっと息を詰まらせた。
国に災いが訪れる。
過去にあったというドラゴンの災いと異界人はどんな経緯を辿ったのだろう。ゲームのようにこの国の人々と共に戦場へ向かったのだろうか。
俺はただの一般人だ。ゲームのように武器を持って戦えるわけでも、魔法が使えるわけでもない。さっき一市民として暮らすのも厳しいとか言われたし、はっきり言ってこの顔以外は雑魚レベルだろう。
本当に俺は女神に呼ばれた冒険者として、何かなすべきことがあるのだろうか。
黙り込んでしまった俺を見て二人は何やら無言で視線を交わす。呆れているのだろうか。ノリが悪くてすまないが、実際俺は流されてここにいるだけだ。変に期待をされても困るんだ。
「まだ何もわからないうちからあれこれ言われても困るよな。今後のことについてはまた時間を取って話をしよう。俺は今からお前のことを陛下に報告してくるから、何かあったらシグルドかマルクスに遠慮なく相談してくれ」
何も言えないでいる俺に対してもアルフォンスは気遣うように優しげに笑う。立ち上がった彼に肩を少し強めに叩かれて、元気づけようとしてくれているのだと察した。
推し、優しい。こんな状況だろうとこの優しさを無下にすることなど俺にはできない。俺はアルフォンスを見上げ、精いっぱいの笑顔を見せた。
「はい、ありがとうございます」
「シグルド、頼むぞ」
「承知いたしました」
俺の返事に力強く頷いた後、シグルドに声をかけてアルフォンスは応接室を出ていく。そうして俺は再びシグルドと二人きりになった。
落ちる沈黙。
「オークラ殿」
「は、はい!」
何を話せばいいかわからずに黙り込んでいると、シグルドの方から声をかけられてビクッと肩が跳ねる。拘束と尋問が記憶に新しすぎてまだ恐怖心が残っているみたいだ。
そんな俺の態度にシグルドは気を悪くするでもなく、むしろ少し申し訳なさそうに苦く笑った。
「そう怯えないでください。もうあなたに危害を加えるようなことは致しません。今後本格的に学んでいただくことにはなるでしょうが、差し当たって今この国、この世界について何か聞きたいことはありますか?」
「聞きたいこと、ですか」
「はい。私にわかることでしたら何でもお答えします」
そう言ってシグルドは先程までアルフォンスが座っていたソファに腰かける。再び二人きりで向かい合う状況になったが、シグルドの表情は打って変わって柔らかいものだった。
聞きたいことと言われれば山ほどあるが、わからないことだらけで具体的に言葉にするのは難しい。俺は口元に手を当てて明後日の方向に視線を向けながら考える。
聞きたいこと……聞きたいこと……うーん。頭を捻る。
「ええと、じゃあ……さっき俺を拘束したやつみたいに、この世界には魔法?があるんですか?」
LoDでは魔法の力を持った鉱石を専用のスロットにセットしてさえいればどんな魔法でもMPに応じて使用できた。その辺はこの世界ではどうなっているのだろうか。ふと思いついて尋ねると、シグルドは頷いた。
「ええ、ありますよ。主にドラゴンの生息域で採掘される魔鉱石という自然エネルギーを凝縮した鉱石を使えば、基本的に誰でも使用することが可能です」
「魔鉱石……」
「これです」
軍服の袖を捲り腕輪を見せるシグルド。念珠のように丸い石が沢山連なっているが、これが全てその魔鉱石ということだろうか。俺は思わず身を乗り出して腕輪をまじまじと見つめた。
「そうか……殿下もシグルドさんも俺のせいで仕事できてませんよね。すみません」
仕事が滞るのはよくない。上から降りてこない決裁待ちの案件は全体の業務を停滞させる。
申し訳ない気持ちで頭を下げると、アルフォンスは気にするなと首を横に振った。
「大丈夫だ。今の最優先は女神の御使いであるお前を保護すること。流石にシグルドも異論はあるまい」
「ええ、それに関しては私も同意します。女神の使いの出現は国に災いが訪れる兆候のようなもの。後回しにはできません」
そう言われて今度はぐっと息を詰まらせた。
国に災いが訪れる。
過去にあったというドラゴンの災いと異界人はどんな経緯を辿ったのだろう。ゲームのようにこの国の人々と共に戦場へ向かったのだろうか。
俺はただの一般人だ。ゲームのように武器を持って戦えるわけでも、魔法が使えるわけでもない。さっき一市民として暮らすのも厳しいとか言われたし、はっきり言ってこの顔以外は雑魚レベルだろう。
本当に俺は女神に呼ばれた冒険者として、何かなすべきことがあるのだろうか。
黙り込んでしまった俺を見て二人は何やら無言で視線を交わす。呆れているのだろうか。ノリが悪くてすまないが、実際俺は流されてここにいるだけだ。変に期待をされても困るんだ。
「まだ何もわからないうちからあれこれ言われても困るよな。今後のことについてはまた時間を取って話をしよう。俺は今からお前のことを陛下に報告してくるから、何かあったらシグルドかマルクスに遠慮なく相談してくれ」
何も言えないでいる俺に対してもアルフォンスは気遣うように優しげに笑う。立ち上がった彼に肩を少し強めに叩かれて、元気づけようとしてくれているのだと察した。
推し、優しい。こんな状況だろうとこの優しさを無下にすることなど俺にはできない。俺はアルフォンスを見上げ、精いっぱいの笑顔を見せた。
「はい、ありがとうございます」
「シグルド、頼むぞ」
「承知いたしました」
俺の返事に力強く頷いた後、シグルドに声をかけてアルフォンスは応接室を出ていく。そうして俺は再びシグルドと二人きりになった。
落ちる沈黙。
「オークラ殿」
「は、はい!」
何を話せばいいかわからずに黙り込んでいると、シグルドの方から声をかけられてビクッと肩が跳ねる。拘束と尋問が記憶に新しすぎてまだ恐怖心が残っているみたいだ。
そんな俺の態度にシグルドは気を悪くするでもなく、むしろ少し申し訳なさそうに苦く笑った。
「そう怯えないでください。もうあなたに危害を加えるようなことは致しません。今後本格的に学んでいただくことにはなるでしょうが、差し当たって今この国、この世界について何か聞きたいことはありますか?」
「聞きたいこと、ですか」
「はい。私にわかることでしたら何でもお答えします」
そう言ってシグルドは先程までアルフォンスが座っていたソファに腰かける。再び二人きりで向かい合う状況になったが、シグルドの表情は打って変わって柔らかいものだった。
聞きたいことと言われれば山ほどあるが、わからないことだらけで具体的に言葉にするのは難しい。俺は口元に手を当てて明後日の方向に視線を向けながら考える。
聞きたいこと……聞きたいこと……うーん。頭を捻る。
「ええと、じゃあ……さっき俺を拘束したやつみたいに、この世界には魔法?があるんですか?」
LoDでは魔法の力を持った鉱石を専用のスロットにセットしてさえいればどんな魔法でもMPに応じて使用できた。その辺はこの世界ではどうなっているのだろうか。ふと思いついて尋ねると、シグルドは頷いた。
「ええ、ありますよ。主にドラゴンの生息域で採掘される魔鉱石という自然エネルギーを凝縮した鉱石を使えば、基本的に誰でも使用することが可能です」
「魔鉱石……」
「これです」
軍服の袖を捲り腕輪を見せるシグルド。念珠のように丸い石が沢山連なっているが、これが全てその魔鉱石ということだろうか。俺は思わず身を乗り出して腕輪をまじまじと見つめた。
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