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悪役令息は悪役令息のヤケに巻き込まれる
ドミニク・バローという男 1
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その後コンラッド様は流行りのケーキショップと文房具屋に寄って、僕にまた新しい栞を買ってくれた。僕は滑らかな手触りの木彫りの栞を胸に抱いて、すっかりご機嫌で王宮へと戻ったのだった。
そして。
「ドミニク・バローはね、カップルクラッシャーなんです。ゲーム続編での悪役令息で、あの手この手で主人公を誘惑して攻略対象たちとの好感度を下げる役どころなんですよ」
「……は?続編?」
「はい、続編。あるんですよ実は」
軽く身なりを整えた僕はシャルルの部屋を訪れ、あの時の言葉の真意を問うと返ってきたのがこれだった。
ゲーム。またゲーム。三年前のアレで終わったんじゃなかったのか?!まだ何かあるって言うのか?!
「ゲームのヴィンセントは主人公と殿下を奪い合って虐める悪役でしたけど、続編の悪役であるドミニクは逆。主人公を甘い言葉で誘惑して自分に靡かせては好感度の高い攻略対象にそれをわざと目撃させて、相手の好感度を下げる厄介な奴なんです」
「うわ……」
「あんな爽やか好青年みたいな顔をしていますけど、仲のいいカップルを別れさせることが趣味のクソ野郎です」
「えぇ……」
シャルルの言葉にすでに引いている僕に後ろに控えていた侍女のマリアンヌが真顔で捕捉してくる。なんと彼女、その続編のゲームの主人公らしい。昨日ここでの世話をしてくれる使用人たちとの顔合わせをして、お互いに前世の記憶があることに気が付いたのだそうだ。
本当に前世なんてものがあるのか……シャルルの妄想じゃなかったんだな……
「それは現実の彼、ドミニク・バローにも当てはまるのですか?」
「はい。あまり女性関係でいい話は聞きません。泣かされてきた女性は数多いとか。ゲームでも現実でも最低男です」
心底嫌そうに顔を歪めてマリアンヌは答える。
聞けば針の穴を通すような確率でドミニク・バローと結ばれるハッピーエンドもあるが、大抵は彼を選んでも遊ばれるだけ遊ばれて手ひどく捨てられるバッドエンドが待ち受けているらしい。生々しい。僕のバッドエンドよりよっぽど現実味があって生々しいぞそのルート。
「それでも顔がいいし、悪い男って妙な魅力があるものでしょう?そんな人だとわかっていても結構人気があるんです」
「ゲームでもファン多かったんですよね~。かくいう僕もドミニクを攻略するために全キャラの非表示の好感度グラフを計測して何度リトライしたことか!ゲーマーたるものルートがあるならクリアしないと気が済まないですからね!」
なるほど。ロクな奴じゃないとわかっていても抗い難い魅力があるのか。確かに主役よりも人気の悪役や希代の女誑し、モテ男というのは演劇や物語にもいる。彼もそう言うタイプなのだろう。
しかし久しぶりにシャルルの言うことがさっぱりわからんな。何を言っているんだこいつは。僕が胡乱な目つきでシャルルを見ていると、急にこほん、とわざとらしく咳払いをして真面目な顔を取り繕って話し始めた。
「続編に僕たちはほぼ関わりがないんですけど、彼がゲーム内でのドミニク・バローの性格そのままだとしたら絡んでくる可能性はゼロじゃないと思います。警戒するに越したことはないかなと」
「彼が僕とコンラッド様の仲を割こうとするって?国外から王族に追従して来た貴族を?図書館の司書が?」
いくら有名なカップルクラッシャーと言えど、下手を打てば自分の身が危ないようなことをするだろうか。シャルルの言葉を訝しんでいると、マリアンヌが代わりに首を横に振る。
「いえ、そこまでする気はないと思います。ただあの人は仲のいいカップルに水を差して、旅行中に気まずい空気や険悪なムードになれば面白いと思っているんですよ」
「最悪じゃないか」
「うーわ性質悪い!」
マリアンヌの言葉に僕だけじゃなくシャルルまで引いている。シャルルの中でもその行いはゲームなら許されても現実では許されないらしい。
だからだろうか、シャルルは整った細い眉をへなりと下げて僕を見つめた。
「僕ってば最近前世のことあんまり思い出せなくなってきてて、マリアンヌの顔を見るまで続編のことなんてすっかり忘れてたんですよね。だからドミニク・バローのこと思い出したのもギリギリで。もう少し早く思い出してれば他の人に案内を頼めたのに……」
「ああ、いや、気にするな。何か特別害があったわけじゃないから……」
「そうですかぁ?」
しょぼんと肩を落とすシャルルに慌ててフォローを入れる。ちょっと距離が近いなとは思ったけど、然程実害はなかった。それどころかアレでコンラッド様が妬いてくれたので差し引きゼロだ。むしろプラスだ。
そのことをちょっと話したらシャルルは一転目をキラキラさせ、詳しい話をねだってキャーキャー言っていた。他人のそう言う話聞いて何が楽しいんだろう……不思議だ。
そして。
「ドミニク・バローはね、カップルクラッシャーなんです。ゲーム続編での悪役令息で、あの手この手で主人公を誘惑して攻略対象たちとの好感度を下げる役どころなんですよ」
「……は?続編?」
「はい、続編。あるんですよ実は」
軽く身なりを整えた僕はシャルルの部屋を訪れ、あの時の言葉の真意を問うと返ってきたのがこれだった。
ゲーム。またゲーム。三年前のアレで終わったんじゃなかったのか?!まだ何かあるって言うのか?!
「ゲームのヴィンセントは主人公と殿下を奪い合って虐める悪役でしたけど、続編の悪役であるドミニクは逆。主人公を甘い言葉で誘惑して自分に靡かせては好感度の高い攻略対象にそれをわざと目撃させて、相手の好感度を下げる厄介な奴なんです」
「うわ……」
「あんな爽やか好青年みたいな顔をしていますけど、仲のいいカップルを別れさせることが趣味のクソ野郎です」
「えぇ……」
シャルルの言葉にすでに引いている僕に後ろに控えていた侍女のマリアンヌが真顔で捕捉してくる。なんと彼女、その続編のゲームの主人公らしい。昨日ここでの世話をしてくれる使用人たちとの顔合わせをして、お互いに前世の記憶があることに気が付いたのだそうだ。
本当に前世なんてものがあるのか……シャルルの妄想じゃなかったんだな……
「それは現実の彼、ドミニク・バローにも当てはまるのですか?」
「はい。あまり女性関係でいい話は聞きません。泣かされてきた女性は数多いとか。ゲームでも現実でも最低男です」
心底嫌そうに顔を歪めてマリアンヌは答える。
聞けば針の穴を通すような確率でドミニク・バローと結ばれるハッピーエンドもあるが、大抵は彼を選んでも遊ばれるだけ遊ばれて手ひどく捨てられるバッドエンドが待ち受けているらしい。生々しい。僕のバッドエンドよりよっぽど現実味があって生々しいぞそのルート。
「それでも顔がいいし、悪い男って妙な魅力があるものでしょう?そんな人だとわかっていても結構人気があるんです」
「ゲームでもファン多かったんですよね~。かくいう僕もドミニクを攻略するために全キャラの非表示の好感度グラフを計測して何度リトライしたことか!ゲーマーたるものルートがあるならクリアしないと気が済まないですからね!」
なるほど。ロクな奴じゃないとわかっていても抗い難い魅力があるのか。確かに主役よりも人気の悪役や希代の女誑し、モテ男というのは演劇や物語にもいる。彼もそう言うタイプなのだろう。
しかし久しぶりにシャルルの言うことがさっぱりわからんな。何を言っているんだこいつは。僕が胡乱な目つきでシャルルを見ていると、急にこほん、とわざとらしく咳払いをして真面目な顔を取り繕って話し始めた。
「続編に僕たちはほぼ関わりがないんですけど、彼がゲーム内でのドミニク・バローの性格そのままだとしたら絡んでくる可能性はゼロじゃないと思います。警戒するに越したことはないかなと」
「彼が僕とコンラッド様の仲を割こうとするって?国外から王族に追従して来た貴族を?図書館の司書が?」
いくら有名なカップルクラッシャーと言えど、下手を打てば自分の身が危ないようなことをするだろうか。シャルルの言葉を訝しんでいると、マリアンヌが代わりに首を横に振る。
「いえ、そこまでする気はないと思います。ただあの人は仲のいいカップルに水を差して、旅行中に気まずい空気や険悪なムードになれば面白いと思っているんですよ」
「最悪じゃないか」
「うーわ性質悪い!」
マリアンヌの言葉に僕だけじゃなくシャルルまで引いている。シャルルの中でもその行いはゲームなら許されても現実では許されないらしい。
だからだろうか、シャルルは整った細い眉をへなりと下げて僕を見つめた。
「僕ってば最近前世のことあんまり思い出せなくなってきてて、マリアンヌの顔を見るまで続編のことなんてすっかり忘れてたんですよね。だからドミニク・バローのこと思い出したのもギリギリで。もう少し早く思い出してれば他の人に案内を頼めたのに……」
「ああ、いや、気にするな。何か特別害があったわけじゃないから……」
「そうですかぁ?」
しょぼんと肩を落とすシャルルに慌ててフォローを入れる。ちょっと距離が近いなとは思ったけど、然程実害はなかった。それどころかアレでコンラッド様が妬いてくれたので差し引きゼロだ。むしろプラスだ。
そのことをちょっと話したらシャルルは一転目をキラキラさせ、詳しい話をねだってキャーキャー言っていた。他人のそう言う話聞いて何が楽しいんだろう……不思議だ。
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