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悪役令息は悪役令息のヤケに巻き込まれる
新婚旅行という名の 5
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僕たちは翌日の昼前までゆっくり体を休めて、午後からル・ノルジューの港町を観光した。
港には大きな船だけでなく小型の帆船も沢山あって、この辺りの富裕層は自前の帆船でクルーズや釣りを楽しむのが嗜みなんだそう。レンタルできる帆船もあり、そちらは平民の若い子たちに人気だそうだ。
護衛やら観光ガイドやらをぞろぞろと引き連れて僕たちは港町をそぞろ歩く。大所帯の移動で規制線が張られ、市場も貸し切り状態になってしまって申し訳ないが、クリスとシャルルは王族なので大目に見てもらいたい。
「うちの国にも港はあるけど、ここは建築様式が違うからかな、また違った趣があるね。明るくていい眺めだ」
「船の上から見た時にも思いましたが、港のすぐ傍が山なので建物が段々に連なって見えて迫力がありますね」
海からの風を気持ちよさそうに浴びながら港の様子を眺めているクリスに僕も頷く。平地にできた港だった我が母国とは違い、この港は海と山に挟まれた独特の地形をしている。
「山から町を見下ろすのもすっごい眺めがいいんですって!時間あるし見に行きません?」
「いいね、私も見てみたいな。どう?ヴィー、コンラッド」
「山からということは、登山でありますか?」
「……登山?登るのですか?今から?あの山を?」
山の中腹あたりを指差しているシャルルにコンラッド様が問いかける。その言葉に僕の表情は凍りつき、貴族らしからぬ狼狽えた声を漏らしてしまった。
ようやく船移動の疲労が癒えたというのに、今から登山?!冗談じゃない。絶対登りきる前に死んでしまう。だがクリスもシャルルも乗り気だ。シャルル、お前別に鍛えているわけでもないのに何でそんなに元気なんだ?
「展望台までの道は整備されていますから馬車を出せますよ。手配いたしますか?」
「そ、そうなんですか?」
「馬車があるんですね!やった!よろしくお願いします!」
明らかに動揺している僕を見てガイドが労わるように優しく微笑んでくれる。馬車が出ているならいけそうだ。手を叩いて喜んでいるシャルルの横でホッと安堵の息を吐いた。
そのままガイドがさっと目配せすると部下の一人が集団から離れていく。馬車の手配と先触れを出しに行くのだろう。
「お心遣いありがとうございます。スケジュールを外れてしまいますが、問題はないでしょうか?」
「本日はル・ノルジュー全域に殿下方がご訪問される可能性があると触れを出しておりますので、問題ございません。どこも皆様のご訪問を心待ちにしておりますよ」
「そうですか。それなら安心しました」
夕食の時間まで街を散策するというゆったり且つざっくりとしたスケジュールはこちらの希望に臨機応変に対応するためだったのだようだ。あっという間にオルコット伯の馬車が到着し、希望通り僕たち四人は馬車に揺られて山の中腹にある展望台までスムーズに送り届けられた。
展望台の職員に笑顔で迎えられ、早速オープンデッキになっている展望台へ足を運ぶ。土産屋とレストランが併設された建物を抜け、階段を登った先に見えたその景色は目を見張るような美しさだった。
「うわー!いい眺め!」
「わ、これは来た甲斐があったな。絶景だ」
「凄い……綺麗だな」
眼下に広がるのは徐々に青々とした木々の生い茂る山肌から街へと変わっていく風景。ジオラマのように小さな街には小さな人影や馬車がのんびりと動いていて、そこに人々の息遣いを感じる。その先は大海原が広がり、太陽の光を反射してきらきらと水面が光っている。その波間を縫うように進む小船がぽつぽつと。どこまでも広がっていく青い海と港町の端から端まで見渡せる素晴らしいの一言だった。
「あっちの方がマグダレート王国ですかね?」
「いや、方角的にはもう少し北です。この方角かと」
「うーん、流石にこれだけ離れてたら陸地は見えないか」
「そりゃそうだろう。僕たち五日も船に揺られてきたんだぞ」
護衛やガイドに少しだけ離れてもらい、和気藹々と展望台から見える景色を種に話に花を咲かせる。学生の頃から親しい友人のいなかった僕はなんだか新鮮だ。シャルルは『なんだか修学旅行みたい!』とはしゃいでいた。修学旅行はよくわからないが、何となく似たような気持ちになっているんじゃないかと思った。
一頻り展望台からの景色を楽しんでから再び馬車に揺られて街へと戻る。戻った頃にはもう日が傾いていて、僕たちは馬車から海へ沈む夕日を見ながらオルコット邸へと戻った。この日もまた趣向を凝らした夕餉をご馳走になり、港町ル・ノルジュー最後の夜は更けていく。
「明日からはまた移動です。ゆっくり体を休められよ」
「はい、コンラッド様も」
「おやすみ、ヴィンセント殿」
「おやすみなさい」
僕たちは同じベッドに身を横たえ、おやすみのキスをして眠りにつく。
明日は朝から馬車での移動だ。
目指す先は王都リリーノーベル。シャルルの実の両親であり、フランジーヌ国王ヘンリー陛下との対面である。
港には大きな船だけでなく小型の帆船も沢山あって、この辺りの富裕層は自前の帆船でクルーズや釣りを楽しむのが嗜みなんだそう。レンタルできる帆船もあり、そちらは平民の若い子たちに人気だそうだ。
護衛やら観光ガイドやらをぞろぞろと引き連れて僕たちは港町をそぞろ歩く。大所帯の移動で規制線が張られ、市場も貸し切り状態になってしまって申し訳ないが、クリスとシャルルは王族なので大目に見てもらいたい。
「うちの国にも港はあるけど、ここは建築様式が違うからかな、また違った趣があるね。明るくていい眺めだ」
「船の上から見た時にも思いましたが、港のすぐ傍が山なので建物が段々に連なって見えて迫力がありますね」
海からの風を気持ちよさそうに浴びながら港の様子を眺めているクリスに僕も頷く。平地にできた港だった我が母国とは違い、この港は海と山に挟まれた独特の地形をしている。
「山から町を見下ろすのもすっごい眺めがいいんですって!時間あるし見に行きません?」
「いいね、私も見てみたいな。どう?ヴィー、コンラッド」
「山からということは、登山でありますか?」
「……登山?登るのですか?今から?あの山を?」
山の中腹あたりを指差しているシャルルにコンラッド様が問いかける。その言葉に僕の表情は凍りつき、貴族らしからぬ狼狽えた声を漏らしてしまった。
ようやく船移動の疲労が癒えたというのに、今から登山?!冗談じゃない。絶対登りきる前に死んでしまう。だがクリスもシャルルも乗り気だ。シャルル、お前別に鍛えているわけでもないのに何でそんなに元気なんだ?
「展望台までの道は整備されていますから馬車を出せますよ。手配いたしますか?」
「そ、そうなんですか?」
「馬車があるんですね!やった!よろしくお願いします!」
明らかに動揺している僕を見てガイドが労わるように優しく微笑んでくれる。馬車が出ているならいけそうだ。手を叩いて喜んでいるシャルルの横でホッと安堵の息を吐いた。
そのままガイドがさっと目配せすると部下の一人が集団から離れていく。馬車の手配と先触れを出しに行くのだろう。
「お心遣いありがとうございます。スケジュールを外れてしまいますが、問題はないでしょうか?」
「本日はル・ノルジュー全域に殿下方がご訪問される可能性があると触れを出しておりますので、問題ございません。どこも皆様のご訪問を心待ちにしておりますよ」
「そうですか。それなら安心しました」
夕食の時間まで街を散策するというゆったり且つざっくりとしたスケジュールはこちらの希望に臨機応変に対応するためだったのだようだ。あっという間にオルコット伯の馬車が到着し、希望通り僕たち四人は馬車に揺られて山の中腹にある展望台までスムーズに送り届けられた。
展望台の職員に笑顔で迎えられ、早速オープンデッキになっている展望台へ足を運ぶ。土産屋とレストランが併設された建物を抜け、階段を登った先に見えたその景色は目を見張るような美しさだった。
「うわー!いい眺め!」
「わ、これは来た甲斐があったな。絶景だ」
「凄い……綺麗だな」
眼下に広がるのは徐々に青々とした木々の生い茂る山肌から街へと変わっていく風景。ジオラマのように小さな街には小さな人影や馬車がのんびりと動いていて、そこに人々の息遣いを感じる。その先は大海原が広がり、太陽の光を反射してきらきらと水面が光っている。その波間を縫うように進む小船がぽつぽつと。どこまでも広がっていく青い海と港町の端から端まで見渡せる素晴らしいの一言だった。
「あっちの方がマグダレート王国ですかね?」
「いや、方角的にはもう少し北です。この方角かと」
「うーん、流石にこれだけ離れてたら陸地は見えないか」
「そりゃそうだろう。僕たち五日も船に揺られてきたんだぞ」
護衛やガイドに少しだけ離れてもらい、和気藹々と展望台から見える景色を種に話に花を咲かせる。学生の頃から親しい友人のいなかった僕はなんだか新鮮だ。シャルルは『なんだか修学旅行みたい!』とはしゃいでいた。修学旅行はよくわからないが、何となく似たような気持ちになっているんじゃないかと思った。
一頻り展望台からの景色を楽しんでから再び馬車に揺られて街へと戻る。戻った頃にはもう日が傾いていて、僕たちは馬車から海へ沈む夕日を見ながらオルコット邸へと戻った。この日もまた趣向を凝らした夕餉をご馳走になり、港町ル・ノルジュー最後の夜は更けていく。
「明日からはまた移動です。ゆっくり体を休められよ」
「はい、コンラッド様も」
「おやすみ、ヴィンセント殿」
「おやすみなさい」
僕たちは同じベッドに身を横たえ、おやすみのキスをして眠りにつく。
明日は朝から馬車での移動だ。
目指す先は王都リリーノーベル。シャルルの実の両親であり、フランジーヌ国王ヘンリー陛下との対面である。
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