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番外編

シャルル・エイマーズの独白 2

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 そう、僕が生まれ変わったのは前世でプレイした恋愛シュミレーションゲームの世界だった。

 滅茶苦茶やり込んだゲームだったけど、気付かないのも無理ないと思う。だってシャルルの幼少期のエピソードは『フランジーヌ王国直系の王族。激化する跡目争いから退くためにマグダレート王国へ亡命』という設定のみ。デフォルトネームはシャルルだったけど好きに名前を変えられたし、そもそも性別だって任意で変更できたからね。主人公はどんなプレイヤーにも対応するようにわざと色んなことをふわふわにしてあるものだ。

「でもそれがわかったからって、僕にできることなんてないんだよなぁ……僕まだ七歳だし」
「シャルル君、どうかしたかい?」
「あっ!ごめんなさい。何でもありません!えっと……お義父さま」

 エイマーズ伯爵家の人たちは優しかった。国家規模の特大の厄介者を受け入れて、養子にまでしてくれたんだ。お義父様とお義母様には感謝してもしたりない。
 明日の命を心配しなくてもいい日々、安全にご飯を食べられる日々。外で遊んでも誰も止めに来なくて、新しい兄妹と一緒に遊べる。これがどれだけ僕の心を救ってくれただろう。自由に伸び伸び暮らせることに心底安堵したんだ。

 父さんたちには無事エイマーズ伯爵家に着いたという知らせ以外は送っていない。何がきっかけで生存を知られるかわからないから、連絡を取ってはいけないと言われたんだ。
 父さんから手紙が届くのはフランジーヌでの僕の安全が保証できてから。それまでは完全に縁を切ると言われていた。

「寂しいけど仕方ないよね。僕のためなのに、僕がわがまま言っちゃダメだもん」

 家族のためにも、僕はこの場所で元気に育たなくちゃいけない。例え二度と戻ることが叶わなかったとしても。

 そう、ここが本当にゲームの世界なら十八歳までは確実に迎えは来ない。
 それにゲームの中じゃ僕の出自が明かされるのはクリストファー殿下ルートだけ。それ以外では僕は最後まで伯爵家の養子で終わる。出自が明かされるのも殿下と結婚するために確固たる地位が必要だからで、どのルートを辿っても結婚したら僕はこの国の人間になる。

「つまり、ゲーム通りなら僕はフランジーヌには帰れない……」

 でも、それでいいのかもしれない。戻っても僕が争いの火種にならないとは限らない。だったらもう、他人になってしまった方がいいんじゃないか。待ち受ける未来を知ったら、いつの間にかそう考えるようになっていた。

 でも、僕って十六歳で王立の貴族学院に編入するんだよね?それまでは領地の近くにある地方の貴族学院で勉強してた。授業料が安くて、下位貴族やお金のない貴族の次男や三男が行く学校。
 僕はエイマーズ家では三男だし、この家は伯爵家だけど決して裕福ではない。地方の学院に行かせてもらえるだけでも十分なのに、何があって王立へ?その辺ゲームじゃ設定ガバガバだったからわかんないんだよね。
 王立の学院に行かなきゃゲームは始まらない。始まらない可能性もある?それともいわゆる『強制力』ってやつが働いちゃうのかな。

「うーん、わかんないなぁ……僕このまま流れに身を任せてていいのかな」
「何唸ってんだ?腹でも痛いのか?」
「違うよー!明日から学校に通うんだと思ったらドキドキしちゃって!」
「なんだ、そんなことか。普段通りにしてれば大丈夫だよ。お前はみんなから好かれる奴だからな」

 学校が不安だと誤魔化せば義兄さんが励ましてくれる。二番目の義兄さんは五つ年上で兄さんと同い年。だからかな、全然似てないのに少し兄さんを思い出す。

 今日も手紙は来ないまま、僕は十四歳になり、地方の貴族学院に入学した。

 転機がやってきたのはやはり十六歳の時。フランジーヌの父さんから手紙が届いたのだ。

「シャルル様、ようやく……!これでようやくご家族とお会いになれますよ……!」
「本当?本当にもう大丈夫なの?父さんも母さんも兄さんも、みんな元気でいる?」
「勿論です!皆様シャルル様のお帰りを首を長くして待ち望んでおられますよ!」

 感涙に咽び泣く乳母。彼女はずっと僕のそばにいてくれたから、彼女もまた手紙が届くのを切望していたのだろう。

 手紙には懐かしい父さんの文字。
 僕を殺害しようとした証拠を十分に集めた父さんはダリア様を幽閉。その父である公爵は蟄居を命じられて引退し、息子に爵位を譲ったそうだ。
 もう僕の命を脅かす者はいない。帰っておいでと書かれている。

 でも、でもね。

「エレナ……ごめん。僕まだここにいるよ。僕はまだ帰れない」
「なっ、何を仰るのです?!」
「だって、このまま僕が帰ったら兄さんはどうなるの?産みの母と祖父が異母弟を殺そうとしたという事実は……兄さんと僕で派閥を作ることにならない?」
「それは……」

 否定できないだろう。最大派閥であった公爵家が力を削がれた今、僕を担ぎ上げようとする貴族たちは必ずいる。

「帰りたくないわけじゃない……会いたいよ。でも、今はまだその時じゃないと思うんだ」

 兄さんが王太子として確固たる地盤を築くまで僕は帰れない。
 僕は自分が争いの火種にはもうなりたくないんだ。

「そうだ!僕、この国で伴侶を見つけるよ!その上でこの国に帰属すれば僕が生きてるって公表しても後継者争いは生まれないし、両国の友好を結ぶことができるよね?」
「シャルル様、でもそれではあなたは」
「いいよ、そんなこと」

 不安そうに見つめてくる乳母に笑って首を横に振る。だってこれが一番平和な道だと思うもん。どこで暮らしたって僕らが家族なのは変わらないし、伴侶を見つけて両国の架け橋になれたら最高じゃない?
 その時にようやく、僕はフランジーヌの家族に笑って会える気がするんだ。

 で、その意思をみんなに伝えたら猛反発された。まあそれは想定内。僕の意思は固く、結局は家族が折れることになったのだ。
 その代わりに付けられた条件は王立貴族学院へ行くこと。費用は秘密のルートで父さんが出してくれるらしい。

「お前の夢を叶えるなら、高位貴族を伴侶に迎えるべきだ。ここじゃその夢は叶えられないよ」
「そうね。それに両国の架け橋となるなら、より多くのものを学ぶべきだわ」
「お義父様、お義母様……うん、わかった。僕頑張ってくるよ!」

 そうして僕は結局、ゲームの流れ通りに王立貴族学院に編入することになったのだった。
 でもフランジーヌの家族と手紙でやりとりできるようになったから僕は超前向き。やってやるーって感じだ。

「それにしても、本当にゲームのスタート地点に立っちゃったな。あっ!ならもしかして、クリストファー殿下に会えるかもしれないの?凄い!生の推しが見られるかも!」

 そう、ここでようやく僕は気づいた。ゲームが始まるというのはどういうことか。
 
 前世の推しに、会えるということなのだ。

 悩み多き人生だったので考えないようにしていたが、悩みの元凶が解決して僕の心には余裕が生まれていた。これはまたとないチャンスでは?

「攻略とかはひとまず置いといて、あの尊いお顔を拝見したい……!よーし、燃えてきたー!」

 それが運命の出会いになるとも知らず、僕は意気揚々と推しを拝むために王立貴族学院の門を潜ったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「っていうのが僕の半生ですね!波瀾万丈!」
「いや、思った以上に重いんだが……」



END
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