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卒業に向けて 3
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そうそう、そう言えば。
僕に関する噂に関係するかどうかはよくわからないが、何故かここ最近生徒から呼び出されることが増えた。
初めの頃は噂のこともあるので警戒して、念のため隠れてシャルルについて来てもらっていた。誰に絡まれても口で負ける気はないが、物理で来られると敵わないからな。
呼び出された学院のバラ園。周囲に人気はなく、現れたのは一人の男子生徒。僕は緊張を相手に悟らせないよう、静かに佇んで相手の言葉を待った。
しかし、男子生徒の口から飛び出した僕の全く予想外のことだったのだ。
「ずっと前から好きでした!俺に思い出を下さい!」
「はい?」
そう、告白。そこから先の呼び出しの全てが僕への愛の告白だったのだ。
しかも全員、男。
「私は殿下の婚約者ですので想いを告げられても受け取ることはできません。それに、私は男ですよ?」
「承知の上です。でも僕、どうしてもあなたが忘れられなくて……どうか、レッドメイン様の恋人の一人に加えてください!」
「ええ……?困ります」
恋人の一人にってどういうことだ?いつの間に僕は恋人を何人も抱えてる設定になった。恋人一人作るのに必死になって右往左往していた男だぞ?
どなたかとお間違えではないですかね。
「勝手なこととわかっています。卒業してしまえば声をおかけすることもできなくなると思うと……ただ、お慕いしていましたとお伝えしたくて」
これはわかる。僕もその気持ちはわかるぞ。このパターンは僕に限らず他の生徒でもあることみたいだ。クリスやシャルル、果てはコンラッド様まで呼び出されて告白されているのを知っている。卒業前に想いは叶わずとも伝えてすっきりしたいとかそういう感じのやつだろう。相手がフリーならそれで本当にお付き合いに発展する可能性もあるしな。
しかしわからないのが他のパターンだ。
「同性を侍らして遊び歩いているとお伺いして、それなら私も一度でいいからお相手願いたいと」
「侍らした覚えも遊び歩いた覚えがありませんが?」
これは最悪。今後の家の付き合いも考えるレベル。
恐らく僕が殿下への当てつけに遊び歩いているという噂を真に受けたことによるものだが、噂を真に受ける時点でダメダメのダメだ。しかもお互い遊びのワンナイト希望。僕が一番嫌いなタイプ。
ある意味今後付き合ってはいけない相手を選ぶいい指標になったのかもしれないが、あまりいい気分はしないものだ。僕は迫りくる勘違い野郎を今日も今日とて切り倒し、クリスたちの下へと向かっていた。
気分を害されたのでクリスとコンラッド様に癒されたい。そう思いながらバラ園から出ようと進んでいると、途中の四阿に見知った人影が立っていることに気が付いた。
「コンラッド様と……ハリスン嬢?」
周囲に視線を走らせるが彼女の取り巻きたちはいないようだ。僕のいる場所からではようやく顔がわかるくらいで声は聞こえない。一体何を話しているのだろう。気になるけれど、彼女のいつになく真剣な表情を見てしまうとこれ以上近づくことはできなかった。
頬を赤く染め、切羽詰まった表情で懸命に何事かを訴えているハリスン嬢。一方コンラッド様は彼女の言葉にただ静かに耳を傾けているように見える。
ぐっと制服の胸元を握ってコンラッド様を見上げるハリスン嬢。コンラッド様はしばらく彼女を見つめた後、ゆっくりと首を横に振った。
『申し訳ない』
辛うじて読み取れたその言葉。
ハリスン嬢はその言葉を聞いて顔を両手で覆い、俯いてしまった。頬に光るものが見えたのは見間違いじゃないだろう。
ああ、彼女も彼に想いの全てをぶつけたのだ。
コンラッド様は王族の護衛騎士、ハリスン嬢は貴族令嬢。立場の違う二人は卒業してしまえば顔を合わせることも容易ではない。彼女もまたこれが最後のチャンスだと、彼の愛を乞うたのだ。
そしてその想いが届くことはなかった。
僕は立ち止まってしまったことを少し後悔して、これ以上彼女たちの姿を見ないように四阿に背を向けて立ち去った。
僕に関する噂に関係するかどうかはよくわからないが、何故かここ最近生徒から呼び出されることが増えた。
初めの頃は噂のこともあるので警戒して、念のため隠れてシャルルについて来てもらっていた。誰に絡まれても口で負ける気はないが、物理で来られると敵わないからな。
呼び出された学院のバラ園。周囲に人気はなく、現れたのは一人の男子生徒。僕は緊張を相手に悟らせないよう、静かに佇んで相手の言葉を待った。
しかし、男子生徒の口から飛び出した僕の全く予想外のことだったのだ。
「ずっと前から好きでした!俺に思い出を下さい!」
「はい?」
そう、告白。そこから先の呼び出しの全てが僕への愛の告白だったのだ。
しかも全員、男。
「私は殿下の婚約者ですので想いを告げられても受け取ることはできません。それに、私は男ですよ?」
「承知の上です。でも僕、どうしてもあなたが忘れられなくて……どうか、レッドメイン様の恋人の一人に加えてください!」
「ええ……?困ります」
恋人の一人にってどういうことだ?いつの間に僕は恋人を何人も抱えてる設定になった。恋人一人作るのに必死になって右往左往していた男だぞ?
どなたかとお間違えではないですかね。
「勝手なこととわかっています。卒業してしまえば声をおかけすることもできなくなると思うと……ただ、お慕いしていましたとお伝えしたくて」
これはわかる。僕もその気持ちはわかるぞ。このパターンは僕に限らず他の生徒でもあることみたいだ。クリスやシャルル、果てはコンラッド様まで呼び出されて告白されているのを知っている。卒業前に想いは叶わずとも伝えてすっきりしたいとかそういう感じのやつだろう。相手がフリーならそれで本当にお付き合いに発展する可能性もあるしな。
しかしわからないのが他のパターンだ。
「同性を侍らして遊び歩いているとお伺いして、それなら私も一度でいいからお相手願いたいと」
「侍らした覚えも遊び歩いた覚えがありませんが?」
これは最悪。今後の家の付き合いも考えるレベル。
恐らく僕が殿下への当てつけに遊び歩いているという噂を真に受けたことによるものだが、噂を真に受ける時点でダメダメのダメだ。しかもお互い遊びのワンナイト希望。僕が一番嫌いなタイプ。
ある意味今後付き合ってはいけない相手を選ぶいい指標になったのかもしれないが、あまりいい気分はしないものだ。僕は迫りくる勘違い野郎を今日も今日とて切り倒し、クリスたちの下へと向かっていた。
気分を害されたのでクリスとコンラッド様に癒されたい。そう思いながらバラ園から出ようと進んでいると、途中の四阿に見知った人影が立っていることに気が付いた。
「コンラッド様と……ハリスン嬢?」
周囲に視線を走らせるが彼女の取り巻きたちはいないようだ。僕のいる場所からではようやく顔がわかるくらいで声は聞こえない。一体何を話しているのだろう。気になるけれど、彼女のいつになく真剣な表情を見てしまうとこれ以上近づくことはできなかった。
頬を赤く染め、切羽詰まった表情で懸命に何事かを訴えているハリスン嬢。一方コンラッド様は彼女の言葉にただ静かに耳を傾けているように見える。
ぐっと制服の胸元を握ってコンラッド様を見上げるハリスン嬢。コンラッド様はしばらく彼女を見つめた後、ゆっくりと首を横に振った。
『申し訳ない』
辛うじて読み取れたその言葉。
ハリスン嬢はその言葉を聞いて顔を両手で覆い、俯いてしまった。頬に光るものが見えたのは見間違いじゃないだろう。
ああ、彼女も彼に想いの全てをぶつけたのだ。
コンラッド様は王族の護衛騎士、ハリスン嬢は貴族令嬢。立場の違う二人は卒業してしまえば顔を合わせることも容易ではない。彼女もまたこれが最後のチャンスだと、彼の愛を乞うたのだ。
そしてその想いが届くことはなかった。
僕は立ち止まってしまったことを少し後悔して、これ以上彼女たちの姿を見ないように四阿に背を向けて立ち去った。
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