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卒業に向けて 2
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唐突に選択権を委ねられてコンラッド様を見上げる。目が合うとにこりと微笑まれて本心で言っているのだとわかった。
「ぼ、僕が選んでいいんですか?」
「あなたに選んでほしいのです。私に似合うと思うものを」
そう言われれば嫌と言えるはずがない。そして数多あるデザイン画の中、たった一つに吸い寄せられるように視線が動いた。
似合う物と言われれば、どんなデザインだって彼には似合うだろう。キラキラ輝くダイヤモンド、鮮やかな色を持つサファイア、ルビー、アメジスト、どれを身に着けても見劣りすることなんてないはずだ。
それでも一つ、選ぶとするならば。
「これを、着けてもらえますか?」
僕が指差したのはトンボのラペルピン。体はブラックスピネル、翅をアンバーでデザインされた物だ。
他の石に比べたら華やかさには欠けるかもしれない。けれどスピネルは細かくカットすればダイヤモンドに引けを取らないくらいにキラキラと輝くし、アンバーの透き通った飴色は翅を表現するのに抜群の素材だと思った。
それと、まあ、一番の理由はその……アレだけど。
「あなたの色ですね」
「……はい」
さらりと指摘されて思わず頬が熱くなる。自分で自分の色を相手に贈るって物凄く恥ずかしいな!あなたは僕のもの、って自分から名札を付けに行くみたいだ。と言うか、僕だけどっちも自分で選んでるじゃないか。
自分から『僕はあなたのものであなたは僕のもの』って、よくよく考えたら物凄く恥ずかしいことを誘導されてる!
「ず、狡いですよ!コンラッド様!」
「ははは、私は今とても嬉しいですが」
「もぉぉぉ!」
羞恥に耐え切れず満足げに笑っているコンラッド様の太腿をバシバシと叩いてしまう。おかしいな、少し前までコンラッド様は僕のこと弟みたいなものだと思っていたはずなのに。押せ押せだったこっちが戸惑うくらい押し返されている気がする。
「ふふふ、あのヴィーが手玉に取られてる。流石はコンラッドだな」
「僕もそうすればよかったー!自分で選んじゃったよ!」
「じゃあ次は私がシャルルのアクセサリーを選ぶよ。アクセサリーと言わず全身私とリンクした衣装をコーディネートさせてくれ」
「本当ですか?!やった、楽しみです!」
向かいではバカップルが僕をダシにキャッキャといちゃついている。恥ずかしいと思っているのは僕だけなのか?これが世間の恋人の当たり前なのか?初恋を拗らせ続けて何もかも未経験の僕にはわからない世界だ。
むう、と唇を尖らせていると頭上から相変わらず楽しげに笑う声がする。
「僕は揶揄われているんでしょうか?」
「そのようなことは決して。私の我儘で困らせてしまいましたな。申し訳ない」
あんまりにも笑うものだから、じっとりと彼を睨み上げる。するとコンラッド様は慌てて首を横に振り、申し訳なさそうに眉を下げて謝罪してきた。
「あなたの想いが形になったものが欲しかったのです。どうかお許しいただけぬか」
僕の手を取り中指に唇が触れる。こんなことされたらこれ以上怒るに怒れない。
トンボのラペルピンは僕の想いを映したものだ。僕の色をした宝石。スピネルは魔除け、アンバーは癒し。トンボは勝利を意味する虫。騎士である彼がその道を全うできるように願う意味がある。
でもそれを言うなら僕だってコンラッド様の想いが形になったものが欲しい。僕が選んだてんとう虫は僕から彼への想いであって、彼の想いではない。やっぱり狡い、とそう思う。
「次は……コンラッド様が選んで贈ってください。そうしてくれたら許します」
「もちろん、喜んで」
わかりやすく拗ねていますよ、という顔をして言うとコンラッド様は嬉しそうに笑って頷いた。それが本当に嬉しそうなものだから僕はうっかり見惚れてしまう。
僕の身に着ける物を選ぶことは彼にとって嬉しいことなのだろうか。僕だって恥ずかしさはあるけれど、僕が選んだものを彼が身に纏ってくれたら嬉しいと思う。うん、これはきっと慣れが必要な分野だな。
僕がもう少しこの関係に慣れてきたら、今度はお互いに相手に似合うと思うものを選んで贈り合うのもいいなと心の中でひっそりと思った。
「ぼ、僕が選んでいいんですか?」
「あなたに選んでほしいのです。私に似合うと思うものを」
そう言われれば嫌と言えるはずがない。そして数多あるデザイン画の中、たった一つに吸い寄せられるように視線が動いた。
似合う物と言われれば、どんなデザインだって彼には似合うだろう。キラキラ輝くダイヤモンド、鮮やかな色を持つサファイア、ルビー、アメジスト、どれを身に着けても見劣りすることなんてないはずだ。
それでも一つ、選ぶとするならば。
「これを、着けてもらえますか?」
僕が指差したのはトンボのラペルピン。体はブラックスピネル、翅をアンバーでデザインされた物だ。
他の石に比べたら華やかさには欠けるかもしれない。けれどスピネルは細かくカットすればダイヤモンドに引けを取らないくらいにキラキラと輝くし、アンバーの透き通った飴色は翅を表現するのに抜群の素材だと思った。
それと、まあ、一番の理由はその……アレだけど。
「あなたの色ですね」
「……はい」
さらりと指摘されて思わず頬が熱くなる。自分で自分の色を相手に贈るって物凄く恥ずかしいな!あなたは僕のもの、って自分から名札を付けに行くみたいだ。と言うか、僕だけどっちも自分で選んでるじゃないか。
自分から『僕はあなたのものであなたは僕のもの』って、よくよく考えたら物凄く恥ずかしいことを誘導されてる!
「ず、狡いですよ!コンラッド様!」
「ははは、私は今とても嬉しいですが」
「もぉぉぉ!」
羞恥に耐え切れず満足げに笑っているコンラッド様の太腿をバシバシと叩いてしまう。おかしいな、少し前までコンラッド様は僕のこと弟みたいなものだと思っていたはずなのに。押せ押せだったこっちが戸惑うくらい押し返されている気がする。
「ふふふ、あのヴィーが手玉に取られてる。流石はコンラッドだな」
「僕もそうすればよかったー!自分で選んじゃったよ!」
「じゃあ次は私がシャルルのアクセサリーを選ぶよ。アクセサリーと言わず全身私とリンクした衣装をコーディネートさせてくれ」
「本当ですか?!やった、楽しみです!」
向かいではバカップルが僕をダシにキャッキャといちゃついている。恥ずかしいと思っているのは僕だけなのか?これが世間の恋人の当たり前なのか?初恋を拗らせ続けて何もかも未経験の僕にはわからない世界だ。
むう、と唇を尖らせていると頭上から相変わらず楽しげに笑う声がする。
「僕は揶揄われているんでしょうか?」
「そのようなことは決して。私の我儘で困らせてしまいましたな。申し訳ない」
あんまりにも笑うものだから、じっとりと彼を睨み上げる。するとコンラッド様は慌てて首を横に振り、申し訳なさそうに眉を下げて謝罪してきた。
「あなたの想いが形になったものが欲しかったのです。どうかお許しいただけぬか」
僕の手を取り中指に唇が触れる。こんなことされたらこれ以上怒るに怒れない。
トンボのラペルピンは僕の想いを映したものだ。僕の色をした宝石。スピネルは魔除け、アンバーは癒し。トンボは勝利を意味する虫。騎士である彼がその道を全うできるように願う意味がある。
でもそれを言うなら僕だってコンラッド様の想いが形になったものが欲しい。僕が選んだてんとう虫は僕から彼への想いであって、彼の想いではない。やっぱり狡い、とそう思う。
「次は……コンラッド様が選んで贈ってください。そうしてくれたら許します」
「もちろん、喜んで」
わかりやすく拗ねていますよ、という顔をして言うとコンラッド様は嬉しそうに笑って頷いた。それが本当に嬉しそうなものだから僕はうっかり見惚れてしまう。
僕の身に着ける物を選ぶことは彼にとって嬉しいことなのだろうか。僕だって恥ずかしさはあるけれど、僕が選んだものを彼が身に纏ってくれたら嬉しいと思う。うん、これはきっと慣れが必要な分野だな。
僕がもう少しこの関係に慣れてきたら、今度はお互いに相手に似合うと思うものを選んで贈り合うのもいいなと心の中でひっそりと思った。
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