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新しい関係 1
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夜会でギリアン卿から期待の持てる返事を貰って真顔で舞い上がっていたら、ハリスン嬢の登場で急降下した。相手は父親を伴っていたのでギリアン卿は断り切れずにお茶会へ行くことを了承してしまったのだ。
勿論僕は目の前でそんな約束を交わされて不機嫌になったし、死んだ魚の目をしていると勝ち誇ったような顔でハリスン嬢に笑われた。めちゃくちゃムカつく。
「まあまあ、お茶会に出たからって何かが起きるわけでもないから。落ち着いて」
「ぐぬぬ……!」
顔に出さずとも察したクリスに宥められ、彼女たちが立ち去った後にギリアン卿にも謝罪されては何か言えるはずもなく。僕は渋々、本当に渋々ハリスン嬢のお茶会に行くことを認めた。
だが僕の気持ちも察してほしい。彼女はギリアン卿を狙っているのだ。二人きりのお茶会など実質見合いみたいなもの。お茶会の当日なんか落ち着かなさ過ぎて無理矢理シャルルの家に押しかけたくらいだ。
「心配しなくても大丈夫ですって。誰とも踊らせたくない、とか言う人が舌の根も乾かないうちに他の女に行くはずないですよ。それともヴィンセント様にはギリアン卿がそんな人に見えてるんですか?」
「は?そんなわけないだろ」
「じゃあ大丈夫ですよ。自信持ってください!」
ね、と可愛く首を傾げて笑う姿は客観的に見れば大変可愛らしいものなのだろう。そんな主人公の笑顔も僕の荒んだ心を癒すには至らず、エイマーズ家のお茶菓子を無心に食べて日が傾いてきた頃にようやく帰路についた。
「心配ないのはわかってるけど心配だ……これはもうどうしようもない」
頭ではわかっていても気持ちがついていかないこともある。まして僕とギリアン卿はお付き合いしているとも言い切れない微妙な関係。外圧や横槍で否応なしに離れなければいけなくなることだって可能性としてはあるのだ。
僕は屋敷に戻ってからも一頻り自室でウロウロし続け、これはもう寝るに限ると安眠効果のあるハーブティーを一気飲みしてベッドへ入った。
その日の夢は満面の笑みのシャルルと沢山の人間サイズのぬいぐるみが僕を囲んでぐるぐる回る夢だった。
悪夢だ。
おかしな夢を見たせいかギリアン卿とハリスン嬢との茶会への不安は少し落ち着いた。むしろ夢見が悪すぎて気分が悪い。
しかし登校すると運良く朝からギリアン卿の顔が見られてすっかり治った。クリスとギリアン卿の二人から詳しくは放課後報告すると言われて、それも素直に受け入れられた。現金なものだと自分でも思う。
教室へと向かう途中、ハリスン嬢と目が合うと彼女は『まだ負けてはいませんわよ!』と僕を指差して叫んだのでそう言うことなのだろう。うん、安心した。これは大丈夫だな。
途端に肩の力が抜けて、リラックスした状態で講義を受けることができた。
そしてやってきた放課後。
学院内で僕とギリアン卿が二人になるには少しの小細工が必要だ。クリスと共に三人で貴賓室へ入り、後からシャルルがやってきてクリスだけを連れ去っていく。『少し待っていてくれ』と言われれば僕たちはここで待つより他なく、そこで多少の世間話をするのはおかしなことではない訳で。
三人掛けのソファに二人仲良く並んで座り、ちらと横目で様子を窺って僕の方から本題を切り出した。
「それで、昨日のお茶会は如何でしたか?若い女性と二人っきりで、楽しい時間を過ごせました?」
「ハリスン公爵への義理は果たしたかと。その様子では、妬かせてしまいましたかな?」
「意地の悪い訊き方をしますね」
「それはレッドメイン殿もでありましょう」
お互い視線を交わした後、噴き出すように笑い出す。
確かに僕の言い方は嫌味っぽかったかな。想いが通じたと思った直後に目の前で約束するのを見てしまったのだ。このくらいの文句は許してもらいたい。
「目の前で誘われたことがそれなりにショックだったのです。想う方が他の方と見合いをしたとあっては心穏やかにいられるはずがありません」
ぷい、と頬を膨らませてそっぽを向けばまだ楽しげにクスクスと笑う声がする。
「ふふ、あまりお可愛らしいことをされますな。抱きしめてしまいそうだ」
「だっ?!」
あまりのことにおかしな声が出た。慌ててギリアン卿の顔を見上げると、彼は愉快そうに笑っている。揶揄われたと気づき僕は再び唇を尖らせた。
それをギリアン卿は愛おしげな笑みを浮かべて見つめている。前はこれを兄弟のような愛だと思っていたけれど、今は少し違う。
今はきっと、僕と似た気持ちのはず。そのことに気付いてじんわりと頬に熱が籠った。
勿論僕は目の前でそんな約束を交わされて不機嫌になったし、死んだ魚の目をしていると勝ち誇ったような顔でハリスン嬢に笑われた。めちゃくちゃムカつく。
「まあまあ、お茶会に出たからって何かが起きるわけでもないから。落ち着いて」
「ぐぬぬ……!」
顔に出さずとも察したクリスに宥められ、彼女たちが立ち去った後にギリアン卿にも謝罪されては何か言えるはずもなく。僕は渋々、本当に渋々ハリスン嬢のお茶会に行くことを認めた。
だが僕の気持ちも察してほしい。彼女はギリアン卿を狙っているのだ。二人きりのお茶会など実質見合いみたいなもの。お茶会の当日なんか落ち着かなさ過ぎて無理矢理シャルルの家に押しかけたくらいだ。
「心配しなくても大丈夫ですって。誰とも踊らせたくない、とか言う人が舌の根も乾かないうちに他の女に行くはずないですよ。それともヴィンセント様にはギリアン卿がそんな人に見えてるんですか?」
「は?そんなわけないだろ」
「じゃあ大丈夫ですよ。自信持ってください!」
ね、と可愛く首を傾げて笑う姿は客観的に見れば大変可愛らしいものなのだろう。そんな主人公の笑顔も僕の荒んだ心を癒すには至らず、エイマーズ家のお茶菓子を無心に食べて日が傾いてきた頃にようやく帰路についた。
「心配ないのはわかってるけど心配だ……これはもうどうしようもない」
頭ではわかっていても気持ちがついていかないこともある。まして僕とギリアン卿はお付き合いしているとも言い切れない微妙な関係。外圧や横槍で否応なしに離れなければいけなくなることだって可能性としてはあるのだ。
僕は屋敷に戻ってからも一頻り自室でウロウロし続け、これはもう寝るに限ると安眠効果のあるハーブティーを一気飲みしてベッドへ入った。
その日の夢は満面の笑みのシャルルと沢山の人間サイズのぬいぐるみが僕を囲んでぐるぐる回る夢だった。
悪夢だ。
おかしな夢を見たせいかギリアン卿とハリスン嬢との茶会への不安は少し落ち着いた。むしろ夢見が悪すぎて気分が悪い。
しかし登校すると運良く朝からギリアン卿の顔が見られてすっかり治った。クリスとギリアン卿の二人から詳しくは放課後報告すると言われて、それも素直に受け入れられた。現金なものだと自分でも思う。
教室へと向かう途中、ハリスン嬢と目が合うと彼女は『まだ負けてはいませんわよ!』と僕を指差して叫んだのでそう言うことなのだろう。うん、安心した。これは大丈夫だな。
途端に肩の力が抜けて、リラックスした状態で講義を受けることができた。
そしてやってきた放課後。
学院内で僕とギリアン卿が二人になるには少しの小細工が必要だ。クリスと共に三人で貴賓室へ入り、後からシャルルがやってきてクリスだけを連れ去っていく。『少し待っていてくれ』と言われれば僕たちはここで待つより他なく、そこで多少の世間話をするのはおかしなことではない訳で。
三人掛けのソファに二人仲良く並んで座り、ちらと横目で様子を窺って僕の方から本題を切り出した。
「それで、昨日のお茶会は如何でしたか?若い女性と二人っきりで、楽しい時間を過ごせました?」
「ハリスン公爵への義理は果たしたかと。その様子では、妬かせてしまいましたかな?」
「意地の悪い訊き方をしますね」
「それはレッドメイン殿もでありましょう」
お互い視線を交わした後、噴き出すように笑い出す。
確かに僕の言い方は嫌味っぽかったかな。想いが通じたと思った直後に目の前で約束するのを見てしまったのだ。このくらいの文句は許してもらいたい。
「目の前で誘われたことがそれなりにショックだったのです。想う方が他の方と見合いをしたとあっては心穏やかにいられるはずがありません」
ぷい、と頬を膨らませてそっぽを向けばまだ楽しげにクスクスと笑う声がする。
「ふふ、あまりお可愛らしいことをされますな。抱きしめてしまいそうだ」
「だっ?!」
あまりのことにおかしな声が出た。慌ててギリアン卿の顔を見上げると、彼は愉快そうに笑っている。揶揄われたと気づき僕は再び唇を尖らせた。
それをギリアン卿は愛おしげな笑みを浮かべて見つめている。前はこれを兄弟のような愛だと思っていたけれど、今は少し違う。
今はきっと、僕と似た気持ちのはず。そのことに気付いてじんわりと頬に熱が籠った。
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