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ハリスン公爵令嬢の企み 1
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「いや、殿下に誰とも踊るなと命じられたそうでね。振られてしまったよ」
「然様でございましたか。それは残念でしたね」
「全くだ。滅多にない機会だから楽しみにしていたのにな」
お父様と世間話をしているゼラム公爵様が笑ってそう言う。この方はレッドメインさんのことをとても気に入っておられるらしく、ダンスに誘ったのに断られてしまったらしい。
殿下はファーストダンスのすぐ後にお一人でエイマーズさんの下へ向かい、今は方々から挨拶を受けていてレッドメインさんとは離れている。その間誰とも踊ってはいけないと言われていて、ギリアン伯爵が監視のように横に張り付いていらっしゃった。
私は従兄とダンスを踊った後、ギリアン伯爵にダンスを申し込んだ。正確には従兄が顔見知りだったので彼から私と踊ってほしいと言ってもらったのだけど、監視を理由に断られてしまったの。
信じられない。婚約を申し込んでいるこの私とのダンスを断るなんて!
きっとレッドメインさんが我が儘を言ったのね。殿下以外と踊りたくないと殿下に強請って、ギリアン伯爵を横に付けてもらったのよ。ギリアン伯爵は殿下の御命令には逆らえないし、嫌々傍にいるはずよ。パーティーも満足に楽しめないなんてなんてお可哀そうなのかしら。
「あの方、本当に邪魔だわ……」
軽食を摂っている間もレッドメインさんとギリアン伯爵は共にいる。何かを話しながら小さなサンドイッチやフルーツを食べていて、仲睦まじく映るその姿に私は手にした扇子をギリギリと握りしめた。
腹立たしい。あそこにいるのは何れ婚約者になる私のはずなのに。
イライラしながらも視線を逸らせずにいると、二人の下へ殿下がエイマーズさんを伴ってやってくる。
にこやかに笑って挨拶をするエイマーズさんに一切の表情を削ぎ落した顔つきで答えるレッドメインさん。ギリアン伯爵は微笑んで会釈していらっしゃるわ。ああ素敵!
何を話しているのか聞こえないけれど、レッドメインさんが冷たい顔でエイマーズさんに何かを言っているのはわかる。そして徐々にエイマーズさんの明るい表情が曇っていくことも。
すっかり下を向いてしまったエイマーズさんを見かねて殿下が何かを仰っている。それをレッドメインさんは冷たくあしらい、俯いているエイマーズさんに近寄って耳元で何かを囁いた。するとどうでしょう、弾かれたように顔を上げたエイマーズさんはお三方に深く頭を下げて逃げるようにその場を去ってしまったではありませんか!
「あの方、私にあんな風に言っておいて自分はこんな公の場でエイマーズさんに理不尽に振舞っているじゃない。なんて恥ずかしい方かしら」
「アリス?さっきから一人で何を言っているんだい?」
「あっ、なんでもありませんわお父様!」
独り言が大きすぎたみたいで横にいたお父様に心配されてしまった。ゼラム公爵様ももういらっしゃらないし、ちょっと集中し過ぎたみたい。私は誤魔化すように笑って首を振る。
「ねえお父様?ベッケル侯爵様から婚約のお返事は来たかしら?私早くギリアン伯爵とダンスを踊りたいわ」
「え?ああ、うん。そうだねぇ……そうしてあげたいのは山々なんだけどね……」
「まあ、どうしてそんなに自信なさそうにするの?こちらからお話を持ち掛けているのに断られるはずないじゃありませんの。もっとせっついてくださいまし!」
丁度ここにはベッケル侯爵ご夫妻もいらっしゃっているのだから、いっそこの場で言質を取ってしまえばいいのだわ。そうすれば今すぐにでもあの方からギリアン伯爵を引き離せるし一石二鳥じゃない。
そう思ってその通りのことをお父様に言うのだけれど、それでもお父様は苦笑いをするばかり。どうせベリオール家と縁が繋がってしまうのが嫌なんでしょうけど、娘の幸せのために一肌脱ぐくらいしてもらわないと困るわ。
「もう!じゃあ婚約のお返事はまだいいわ。お茶会!ギリアン伯爵にお茶会にお越しくださるよう話をしてくださいな。二人でゆっくりお話する機会がほしいわ」
「まあ、そのくらいなら」
「決まりね!じゃあ行きましょうお父様!」
渋々といった様子で頷いたお父様の腕に腕を絡めてギリアン伯爵の下へ向かう。隣にまだあの方が居座っているのが気に食わないけど、まあいいわ。目の前でギリアン伯爵を奪い取ってあげましょう。その流れでダンスにも誘えたら最高ね。今は殿下がお傍にいらっしゃるのだから、監視のお役目は必要ないでしょう?
ヴィンセント・ナサニエル・レッドメイン。あなたは男性で、性的指向とは関係なく国の決まりだから第三王子殿下の婚約者になった人。婚約者に選ばれなければどこかのご令嬢と結婚をして、ノリッジ侯爵家を兄上様の後ろで盛り立てていくはずだったのでしょうね。もしかしたら私だってその候補に入っていたかもしれない。
でもなぜかしら。ギリアン伯爵に恋をした時から感じているの。あなたはライバルだって。ギリアン伯爵と結ばれるためにはあなたをどうにかしなければ無理なんだって。
だから私はあなたを全力で排除するわ。
悪く思わないでね?
「然様でございましたか。それは残念でしたね」
「全くだ。滅多にない機会だから楽しみにしていたのにな」
お父様と世間話をしているゼラム公爵様が笑ってそう言う。この方はレッドメインさんのことをとても気に入っておられるらしく、ダンスに誘ったのに断られてしまったらしい。
殿下はファーストダンスのすぐ後にお一人でエイマーズさんの下へ向かい、今は方々から挨拶を受けていてレッドメインさんとは離れている。その間誰とも踊ってはいけないと言われていて、ギリアン伯爵が監視のように横に張り付いていらっしゃった。
私は従兄とダンスを踊った後、ギリアン伯爵にダンスを申し込んだ。正確には従兄が顔見知りだったので彼から私と踊ってほしいと言ってもらったのだけど、監視を理由に断られてしまったの。
信じられない。婚約を申し込んでいるこの私とのダンスを断るなんて!
きっとレッドメインさんが我が儘を言ったのね。殿下以外と踊りたくないと殿下に強請って、ギリアン伯爵を横に付けてもらったのよ。ギリアン伯爵は殿下の御命令には逆らえないし、嫌々傍にいるはずよ。パーティーも満足に楽しめないなんてなんてお可哀そうなのかしら。
「あの方、本当に邪魔だわ……」
軽食を摂っている間もレッドメインさんとギリアン伯爵は共にいる。何かを話しながら小さなサンドイッチやフルーツを食べていて、仲睦まじく映るその姿に私は手にした扇子をギリギリと握りしめた。
腹立たしい。あそこにいるのは何れ婚約者になる私のはずなのに。
イライラしながらも視線を逸らせずにいると、二人の下へ殿下がエイマーズさんを伴ってやってくる。
にこやかに笑って挨拶をするエイマーズさんに一切の表情を削ぎ落した顔つきで答えるレッドメインさん。ギリアン伯爵は微笑んで会釈していらっしゃるわ。ああ素敵!
何を話しているのか聞こえないけれど、レッドメインさんが冷たい顔でエイマーズさんに何かを言っているのはわかる。そして徐々にエイマーズさんの明るい表情が曇っていくことも。
すっかり下を向いてしまったエイマーズさんを見かねて殿下が何かを仰っている。それをレッドメインさんは冷たくあしらい、俯いているエイマーズさんに近寄って耳元で何かを囁いた。するとどうでしょう、弾かれたように顔を上げたエイマーズさんはお三方に深く頭を下げて逃げるようにその場を去ってしまったではありませんか!
「あの方、私にあんな風に言っておいて自分はこんな公の場でエイマーズさんに理不尽に振舞っているじゃない。なんて恥ずかしい方かしら」
「アリス?さっきから一人で何を言っているんだい?」
「あっ、なんでもありませんわお父様!」
独り言が大きすぎたみたいで横にいたお父様に心配されてしまった。ゼラム公爵様ももういらっしゃらないし、ちょっと集中し過ぎたみたい。私は誤魔化すように笑って首を振る。
「ねえお父様?ベッケル侯爵様から婚約のお返事は来たかしら?私早くギリアン伯爵とダンスを踊りたいわ」
「え?ああ、うん。そうだねぇ……そうしてあげたいのは山々なんだけどね……」
「まあ、どうしてそんなに自信なさそうにするの?こちらからお話を持ち掛けているのに断られるはずないじゃありませんの。もっとせっついてくださいまし!」
丁度ここにはベッケル侯爵ご夫妻もいらっしゃっているのだから、いっそこの場で言質を取ってしまえばいいのだわ。そうすれば今すぐにでもあの方からギリアン伯爵を引き離せるし一石二鳥じゃない。
そう思ってその通りのことをお父様に言うのだけれど、それでもお父様は苦笑いをするばかり。どうせベリオール家と縁が繋がってしまうのが嫌なんでしょうけど、娘の幸せのために一肌脱ぐくらいしてもらわないと困るわ。
「もう!じゃあ婚約のお返事はまだいいわ。お茶会!ギリアン伯爵にお茶会にお越しくださるよう話をしてくださいな。二人でゆっくりお話する機会がほしいわ」
「まあ、そのくらいなら」
「決まりね!じゃあ行きましょうお父様!」
渋々といった様子で頷いたお父様の腕に腕を絡めてギリアン伯爵の下へ向かう。隣にまだあの方が居座っているのが気に食わないけど、まあいいわ。目の前でギリアン伯爵を奪い取ってあげましょう。その流れでダンスにも誘えたら最高ね。今は殿下がお傍にいらっしゃるのだから、監視のお役目は必要ないでしょう?
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でもなぜかしら。ギリアン伯爵に恋をした時から感じているの。あなたはライバルだって。ギリアン伯爵と結ばれるためにはあなたをどうにかしなければ無理なんだって。
だから私はあなたを全力で排除するわ。
悪く思わないでね?
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