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夜会への誘い 2
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とかなんとか主人公がぼやいたからかは知らないが、その数日後に父から我が家で夜会を開く旨を聞かされた。
バラム公爵との事業が好調らしく、広く我が国の社交界にもそれを誇示したいという目的のようだ。
数多くの招待客の中には我が婚約者であるクリストファー殿下を筆頭に、ベッケル侯爵家及びギリアン伯爵、ハリスン公爵家、エイマーズ伯爵家とシャルルのお望み通りの面々の名が連なっている。
もちろん僕は主催者側として参加するし、バラム公爵は賓客の扱いだ。
クリスは招待状が届いたタイミングで僕のために新しい衣装を誂えてくれた。同系色でアラベスク模様の織られたダークブルーのコートとトラウザーに、金糸で縁取りをされたマスタードイエローのウエストコート。クリスの色に被っているような被っていないような微妙な配色で笑ってしまった。
だが両親はクリスの名で屋敷に届いた衣装箱を見て満足げだった。親たちの耳にも届くくらいに学生たちの間で不仲説を流されているのでほっとしたことだろう。
因みにシャルルは。
「お義父様には家にいなさいって言われたんですけど、こんなビックイベント見逃すわけにはいきませんからね!丸め込んで許可取ってきました!」
と、エメラルドグリーンの瞳をらんらんと輝かせて参加を告げてきた。
「丸め込んだってお前……」
「だって、絶対この目で見たいんですもん。最重要人物が一堂に会するビックイベントですよ?!」
だから、ビックイベントって何。この感じ絶対ゲームのことを言ってるよな。修羅場でも起きるんだろうか。シャルルが活き活きし過ぎてこっちは不安になってくるんだけど。
「そうなのか?じゃあシャルルにも衣装を贈らないとな」
「いいんですか?!嬉しい……!」
「ああ、とっておきの衣装を贈るからね」
そう言ってクリスはシャルルにも衣装を誂えたが、そちらはどうしても夜会へ行きたいシャルルが自分で用意したことにしたらしい。賢明な判断だ。
夜会の当日、僕は主催者側に立って招待客たちを出迎える。
ベッケル侯爵、ハリスン公爵、エイマーズ伯爵は夫人と。ハリスン嬢は歳の近い従兄を、シャルルは義妹を伴って我が家へとやってきた。
クリスは僕が主催なので一人だ。ギリアン卿を背後に付けてホールへ入ってくる。
「うわ……」
かっこいい。思わず出そうになった言葉を唇を噛んで押しとどめる。
もちろん優雅に微笑んで招待客たちに手を振っているクリスは麗しい。
黒に金糸で縁取りされたコートとトラウザーに、ボタニカル柄の刺繍が刺されたクリーム色のウエストコート。クラバットに留められたサファイアのブローチ。コートが暗い色なのでハニーブロンドとサファイアブルーの瞳が良く映える。
黒は僕の髪の色だが、ごく一般的な正装に用いられる色でもある。アンバーを使わないことで婚約者っぽさを抑えた衣装になっている。
問題はその後ろだ。後ろに控えているギリアン卿だ。
ギリアン卿は今夜、クリスの護衛任務と招待客両方を兼ねて来ている。
だから普段の略式の騎士服ではなく、今夜の彼は礼装だ。ダークブルーのチュニックに右肩に流れる銀の飾緒、星章、赤いサッシュと大徽章を付けた姿はそうそうお目にかかれるものじゃない。鍛え上げられた肉体にぴったりとフィットする礼装は騎士としての彼の威厳と優美さを余すところなく引き立てていた。
それに短い赤毛も全体にスッキリと後ろに撫でつけられ、凛々しい顔立ちが余す所なく晒されている。
ああ、今ここに画家を呼んで彼の姿を絵に残したい!永久保存したい!
僕のギリアン卿がかっこよすぎる。天才では?
「まあ、ヴィンセントったらクリストファー殿下に見惚れているわ」
「えっ、ええ。そうですね」
隣に立つ母が僕の視線の先に気付いて扇子の奥で楽しげに笑う。すみません、見ているのはその後ろです。とは言えない。
そして最後に入ってくるのはゼラム公爵だ。今日は愛人の一人を連れてきたようで、ゴージャスに宝石やフリルがあしらわれたペールグリーンのドレスを纏った若い女性をエスコートしている。
彼女も十分に美人で若いし、僕のことはすっぱり忘れてほしいなぁ。とひっそりと遠い目をする僕である。
「皆様、ようこそお越しくださいました。今宵は隣国からゼラム公爵閣下、そして我が息子の婚約者であられるクリストファー第三王子殿下をお招きした特別な夜。どうぞ心ゆくまで楽しんでください」
招待客が全員無事揃ったことを確認し、父の挨拶で舞踏会が始まる。
始まりのダンスを踊るのは王子であるクリスと、その婚約者であり主催者の息子でもある僕だ。
「踊っていただけますか?婚約者殿」
「ええ、喜んで」
優雅に差し出された手に微笑んで頷くと、そっと自身の手を重ねホールの中央へ。
きらびやかな衣装を纏った女性が数多くいる中で男同士のファーストダンスはあまりにも目立つ。だがしかし、この十年女性のパートばかりを踊っていた僕には慣れたものだった。
洗練された足運びにスッと伸びた姿勢があればたとえ同性同士であってもダンスは美しく映える。僕たちは小さく笑い合って、始まった音楽に身を委ねた。
バラム公爵との事業が好調らしく、広く我が国の社交界にもそれを誇示したいという目的のようだ。
数多くの招待客の中には我が婚約者であるクリストファー殿下を筆頭に、ベッケル侯爵家及びギリアン伯爵、ハリスン公爵家、エイマーズ伯爵家とシャルルのお望み通りの面々の名が連なっている。
もちろん僕は主催者側として参加するし、バラム公爵は賓客の扱いだ。
クリスは招待状が届いたタイミングで僕のために新しい衣装を誂えてくれた。同系色でアラベスク模様の織られたダークブルーのコートとトラウザーに、金糸で縁取りをされたマスタードイエローのウエストコート。クリスの色に被っているような被っていないような微妙な配色で笑ってしまった。
だが両親はクリスの名で屋敷に届いた衣装箱を見て満足げだった。親たちの耳にも届くくらいに学生たちの間で不仲説を流されているのでほっとしたことだろう。
因みにシャルルは。
「お義父様には家にいなさいって言われたんですけど、こんなビックイベント見逃すわけにはいきませんからね!丸め込んで許可取ってきました!」
と、エメラルドグリーンの瞳をらんらんと輝かせて参加を告げてきた。
「丸め込んだってお前……」
「だって、絶対この目で見たいんですもん。最重要人物が一堂に会するビックイベントですよ?!」
だから、ビックイベントって何。この感じ絶対ゲームのことを言ってるよな。修羅場でも起きるんだろうか。シャルルが活き活きし過ぎてこっちは不安になってくるんだけど。
「そうなのか?じゃあシャルルにも衣装を贈らないとな」
「いいんですか?!嬉しい……!」
「ああ、とっておきの衣装を贈るからね」
そう言ってクリスはシャルルにも衣装を誂えたが、そちらはどうしても夜会へ行きたいシャルルが自分で用意したことにしたらしい。賢明な判断だ。
夜会の当日、僕は主催者側に立って招待客たちを出迎える。
ベッケル侯爵、ハリスン公爵、エイマーズ伯爵は夫人と。ハリスン嬢は歳の近い従兄を、シャルルは義妹を伴って我が家へとやってきた。
クリスは僕が主催なので一人だ。ギリアン卿を背後に付けてホールへ入ってくる。
「うわ……」
かっこいい。思わず出そうになった言葉を唇を噛んで押しとどめる。
もちろん優雅に微笑んで招待客たちに手を振っているクリスは麗しい。
黒に金糸で縁取りされたコートとトラウザーに、ボタニカル柄の刺繍が刺されたクリーム色のウエストコート。クラバットに留められたサファイアのブローチ。コートが暗い色なのでハニーブロンドとサファイアブルーの瞳が良く映える。
黒は僕の髪の色だが、ごく一般的な正装に用いられる色でもある。アンバーを使わないことで婚約者っぽさを抑えた衣装になっている。
問題はその後ろだ。後ろに控えているギリアン卿だ。
ギリアン卿は今夜、クリスの護衛任務と招待客両方を兼ねて来ている。
だから普段の略式の騎士服ではなく、今夜の彼は礼装だ。ダークブルーのチュニックに右肩に流れる銀の飾緒、星章、赤いサッシュと大徽章を付けた姿はそうそうお目にかかれるものじゃない。鍛え上げられた肉体にぴったりとフィットする礼装は騎士としての彼の威厳と優美さを余すところなく引き立てていた。
それに短い赤毛も全体にスッキリと後ろに撫でつけられ、凛々しい顔立ちが余す所なく晒されている。
ああ、今ここに画家を呼んで彼の姿を絵に残したい!永久保存したい!
僕のギリアン卿がかっこよすぎる。天才では?
「まあ、ヴィンセントったらクリストファー殿下に見惚れているわ」
「えっ、ええ。そうですね」
隣に立つ母が僕の視線の先に気付いて扇子の奥で楽しげに笑う。すみません、見ているのはその後ろです。とは言えない。
そして最後に入ってくるのはゼラム公爵だ。今日は愛人の一人を連れてきたようで、ゴージャスに宝石やフリルがあしらわれたペールグリーンのドレスを纏った若い女性をエスコートしている。
彼女も十分に美人で若いし、僕のことはすっぱり忘れてほしいなぁ。とひっそりと遠い目をする僕である。
「皆様、ようこそお越しくださいました。今宵は隣国からゼラム公爵閣下、そして我が息子の婚約者であられるクリストファー第三王子殿下をお招きした特別な夜。どうぞ心ゆくまで楽しんでください」
招待客が全員無事揃ったことを確認し、父の挨拶で舞踏会が始まる。
始まりのダンスを踊るのは王子であるクリスと、その婚約者であり主催者の息子でもある僕だ。
「踊っていただけますか?婚約者殿」
「ええ、喜んで」
優雅に差し出された手に微笑んで頷くと、そっと自身の手を重ねホールの中央へ。
きらびやかな衣装を纏った女性が数多くいる中で男同士のファーストダンスはあまりにも目立つ。だがしかし、この十年女性のパートばかりを踊っていた僕には慣れたものだった。
洗練された足運びにスッと伸びた姿勢があればたとえ同性同士であってもダンスは美しく映える。僕たちは小さく笑い合って、始まった音楽に身を委ねた。
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