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ライバルは金髪縦ロール 2

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 というか、さっきから随分と好き勝手言ってくれるな。何度となくあったこととはいえ相も変わらず非常識だ。
 ちらと彼女の後ろに立っている取り巻きたちに視線を移すと、あからさまに逸らす者と忙しく僕とハリスン嬢の顔色を窺っている者がいる。どこで止めに入るかタイミングを見ているというところか。入学時からやることにちっとも進歩の見えない我が儘令嬢の取り巻きは大変だな。ご愁傷様。

「なるほど、あなたが下らない噂を碌に調べもせずに信じ込む浅はかな方だと言うことはよくよくわかりました」
「何ですって?」

 うっすらと口元に笑みを浮かべてそう返せば気色ばんで声を荒げるハリスン嬢。
 僕とギリアン卿が人前で抱き合っていたと『聞いた』僕がシャルルを虐めていると『聞いた』。彼女の訴えは伝聞ばかりで実がない。人から聞いた話を自分に都合がいいからと鵜呑みにしていては、いつか足元を掬われるぞ?

「私と殿下の関係は至って良好です。先だっての外出も殿下から許可をいただいた外出でありましたし、私が不義理を働いたと咎められる謂れは何一つありませんよ」

 彼女は僕が狼狽するところが見たいのだろうがそう簡単に思い通りにはしてやらない。逆に貼り付けた貴族的微笑みで彼女を見下ろし、穏やかに諭すように言葉を口にする。

「それに、ギリアン卿の婚約者ならまだしも、あなたはまだ卿の何でもないのでしょう?何の権利もないあなたが卿の人付き合いに口を出すことが一体何を意味するか、お考えになった方がよろしいのではないですか?」

 殊更にっこりと笑ってやれば彼女から言葉を喉に詰まらせたような呻き声が一瞬聞こえた。おやはしたない。図星を突かれて何も言えないと言うことかな?
 近いうちにということは、まだ打診の段階であろう。その段階で婚約者面して他者を牽制するのは相手の心証を悪くすると考えなかったのだろうか。考えなかったのだろうな。

「お、お父様にベッケル侯爵家へ打診していただいているのよ。断れるはずがないじゃない。もう決まったようなものよ!」
「然様でございますか。それでも、私なら結ばれてもいない婚約をさも決まったかのような口ぶりで吹聴するなんてはしたないマネとてもではないができません。ハリスン様は余程神経が頑強でいらっしゃるのですね」
「レ、レッドメイン様!どうかその辺りで……」
「ハリスン様も、怒りを治めてくださいまし。これ以上は騒ぎになってしまいますわ」

 耐えかねた取り巻き立ちが慌てて僕とハリスン嬢を宥めにかかってきた。煽りに煽ったお陰かハリスン嬢の顔は真っ赤だ。頭に血が昇りすぎて今にも倒れそう。
 売られた喧嘩は十分買ったので今日はこのくらいでいいだろう。いい話も聞いたし僕は形ばかりの謝罪を口にしてその場を去ることにした。そろそろ次の講義に遅れそうだしな。

「失礼、口が過ぎました。無事にギリアン卿とのご婚約が成った折には是非お祝いを贈らせてください。ハリスン様」

 最後にもう一言だけ嫌味を言って彼女たちを置いて教室を出る。廊下を歩いていると背後から感情に任せて大声をあげているのが聞こえてきて、僕は『悪役令息』らしく人知れずいやらしい笑みを浮かべたのだった。
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