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観劇デート 3
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演目は架空の国が舞台。
主人公はある大陸の、ある小さな国の王子様。物語は王子と美しい平民の少女との恋物語だ。
幼い頃の夏の日の思い出。避暑地で出会った平民の少女との忘れられない初恋。もう二度と彼女に会うことはない。そう思っていた王子の下へ運命の悪戯が。なんと彼女はさる子爵家の庶子であることが発覚し、王子の通う貴族の学院に編入してきたのだ。
王子は彼女と再会し、徐々に惹かれ合っていく。しかしそれは貴族たちにとっては歓迎されないものだった。
王子には公爵家の令嬢という婚約者がいて、その令嬢が自身の立場を奪おうとする厚顔無恥な少女を虐めた。平民上がりと誹り、己の取り巻きを使って嫌がらせや少女に身に覚えのない黒い噂をでっち上げて尊厳を傷つけた。
少女は令嬢たちからの激しい虐めを耐え忍んでいたが、ある時階段から突き落とされて大怪我を負ったことで事態は王子の知るところとなる。
王子は憤った。たとえ婚約者の座を奪われることを恐れていたのだとしても、人を貶め人命を危ぶませて良いものではない。しかも調べてみればその黒い噂は令嬢自身の悪事であるという。自らの悪事を少女に被せようとしたのだ。
令嬢は未来の王妃に相応しくないと言い切られ、王子との婚約を破棄されてしまった。
王子は彼女に辛い目に合わせてしまったことを詫びた。そしてその上で、王位を捨ててでも一緒になりたいと告げる。
少女はその言葉に胸を打たれ、自身もどんな苦労も厭わないから共にいたいと告げた。
想いを通じ合わせた二人は、幸福な口づけを交わした。
それが第一部。
物語にはよくある身分差婚だ。この舞台は二部構成で二部からは主役が変わる。主役となるのはそう、婚約を破棄された公爵令嬢だ。
「驚きました。まさか後半からサスペンスになるなんて」
「ええ、これは一度観てみろと皆が言う理由がわかります」
観劇が終わり、近くにあるレストランで一息ついたところで僕たちは先程の演目についての話に花を咲かせた。
前半の王子と元平民の少女との王道ラブストーリーから一転、後半の公爵令嬢のストーリーは令嬢を陥れた犯人を捜して断罪をし返すというサスペンス込みのラブストーリーだったのだ。
婚約を破棄された公爵令嬢は訴えた。侮蔑の言葉を投げかけたことは認めるが私物の破損や暴力を加えたことはないと。悪事に関しても令嬢には身に覚えがなかった。令嬢もまた婚約者の座を狙う他の貴族たちに陥れられたのだ。
真犯人の目的は王子の恋人である少女を害して排除すること。そして婚約者の令嬢にその罪と真犯人が用意したいくつもの罪を擦り付け、婚約者の座から追い落とすこと。
最終的に真犯人が空座となった婚約者の座を掠め取る。そういう算段だったのだろう。令嬢は自身の無実を晴らすために立ち上がり、王子の側近であった幼馴染の男がそれを手伝ってくれた。
協力し合う中でお互いを意識し始める二人。真実に近づくにつれ、焦った犯人により令嬢は事故を装って殺害されそうになる。それを幼馴染の男が助けたことで犯人を特定するに至り、王子と少女を含めた大勢の観客の前で己の無実を証明し盛大な『ざまぁ』をしたのだ。
「思い返せば前半にも不自然な動きをする人物がおりましたな。あれが伏線だったのかと気づいた時には見事なものだと感心致した」
「そうなんですよ!ギリアン卿もお気づきになりましたか。あれには本当に驚きました」
同じものを観て感想を伝え合うのは楽しい。ギリアン卿は演劇にさほど興味がないようだったので、こんな風に語り合う日が来るなんて思ってもみなかった。
楽しくて楽しくて、笑顔が零れどんどん口が滑らかになっていく。
「己の無実を証明した時の彼女の歌、とても素晴らしかった……少女の登場で自分を見失いかけたこと、それでも立ち上がり誇りある自分を証明するのだという気概が伝わってきて、何度でも観返したくなる名シーンです」
針の筵であった舞台の真ん中で堂々と己を歌い上げるシーン。彼女の強さがスポットライトより眩しく見えた。
「後は最後の夜の庭での告白シーンですね。想いを伝えあってから月明かりの下二人きりで踊るワルツが何とも幻想的で美しかった……」
「ああ、印象的なシーンでしたな」
無実を証明し、今までの非礼を詫びて少女に頭を下げた令嬢は晴れやかな表情を見せる。その目の前に跪いて愛を乞う幼馴染の男とのシーンも格別だった。王子の婚約者だからと胸に秘め続けた恋心を開放して令嬢への思いの丈をぶつける幼馴染。その熱い想いに心を揺さぶられ、令嬢もまたその愛に応えるのだ。
「きっと彼女は世界に名を轟かすような女優になるでしょうね。今から楽しみです」
調子に乗ってあれやこれやと語り続けて最後にそう纏める。そうして熱の上がった頬を手で仰ぎながら改めてギリアン卿を見て僕はハッとした。見上げたギリアン卿は頬杖を突いて静かに微笑んでいる。そこでようやく僕は己の失態に気付いたのだ。
主人公はある大陸の、ある小さな国の王子様。物語は王子と美しい平民の少女との恋物語だ。
幼い頃の夏の日の思い出。避暑地で出会った平民の少女との忘れられない初恋。もう二度と彼女に会うことはない。そう思っていた王子の下へ運命の悪戯が。なんと彼女はさる子爵家の庶子であることが発覚し、王子の通う貴族の学院に編入してきたのだ。
王子は彼女と再会し、徐々に惹かれ合っていく。しかしそれは貴族たちにとっては歓迎されないものだった。
王子には公爵家の令嬢という婚約者がいて、その令嬢が自身の立場を奪おうとする厚顔無恥な少女を虐めた。平民上がりと誹り、己の取り巻きを使って嫌がらせや少女に身に覚えのない黒い噂をでっち上げて尊厳を傷つけた。
少女は令嬢たちからの激しい虐めを耐え忍んでいたが、ある時階段から突き落とされて大怪我を負ったことで事態は王子の知るところとなる。
王子は憤った。たとえ婚約者の座を奪われることを恐れていたのだとしても、人を貶め人命を危ぶませて良いものではない。しかも調べてみればその黒い噂は令嬢自身の悪事であるという。自らの悪事を少女に被せようとしたのだ。
令嬢は未来の王妃に相応しくないと言い切られ、王子との婚約を破棄されてしまった。
王子は彼女に辛い目に合わせてしまったことを詫びた。そしてその上で、王位を捨ててでも一緒になりたいと告げる。
少女はその言葉に胸を打たれ、自身もどんな苦労も厭わないから共にいたいと告げた。
想いを通じ合わせた二人は、幸福な口づけを交わした。
それが第一部。
物語にはよくある身分差婚だ。この舞台は二部構成で二部からは主役が変わる。主役となるのはそう、婚約を破棄された公爵令嬢だ。
「驚きました。まさか後半からサスペンスになるなんて」
「ええ、これは一度観てみろと皆が言う理由がわかります」
観劇が終わり、近くにあるレストランで一息ついたところで僕たちは先程の演目についての話に花を咲かせた。
前半の王子と元平民の少女との王道ラブストーリーから一転、後半の公爵令嬢のストーリーは令嬢を陥れた犯人を捜して断罪をし返すというサスペンス込みのラブストーリーだったのだ。
婚約を破棄された公爵令嬢は訴えた。侮蔑の言葉を投げかけたことは認めるが私物の破損や暴力を加えたことはないと。悪事に関しても令嬢には身に覚えがなかった。令嬢もまた婚約者の座を狙う他の貴族たちに陥れられたのだ。
真犯人の目的は王子の恋人である少女を害して排除すること。そして婚約者の令嬢にその罪と真犯人が用意したいくつもの罪を擦り付け、婚約者の座から追い落とすこと。
最終的に真犯人が空座となった婚約者の座を掠め取る。そういう算段だったのだろう。令嬢は自身の無実を晴らすために立ち上がり、王子の側近であった幼馴染の男がそれを手伝ってくれた。
協力し合う中でお互いを意識し始める二人。真実に近づくにつれ、焦った犯人により令嬢は事故を装って殺害されそうになる。それを幼馴染の男が助けたことで犯人を特定するに至り、王子と少女を含めた大勢の観客の前で己の無実を証明し盛大な『ざまぁ』をしたのだ。
「思い返せば前半にも不自然な動きをする人物がおりましたな。あれが伏線だったのかと気づいた時には見事なものだと感心致した」
「そうなんですよ!ギリアン卿もお気づきになりましたか。あれには本当に驚きました」
同じものを観て感想を伝え合うのは楽しい。ギリアン卿は演劇にさほど興味がないようだったので、こんな風に語り合う日が来るなんて思ってもみなかった。
楽しくて楽しくて、笑顔が零れどんどん口が滑らかになっていく。
「己の無実を証明した時の彼女の歌、とても素晴らしかった……少女の登場で自分を見失いかけたこと、それでも立ち上がり誇りある自分を証明するのだという気概が伝わってきて、何度でも観返したくなる名シーンです」
針の筵であった舞台の真ん中で堂々と己を歌い上げるシーン。彼女の強さがスポットライトより眩しく見えた。
「後は最後の夜の庭での告白シーンですね。想いを伝えあってから月明かりの下二人きりで踊るワルツが何とも幻想的で美しかった……」
「ああ、印象的なシーンでしたな」
無実を証明し、今までの非礼を詫びて少女に頭を下げた令嬢は晴れやかな表情を見せる。その目の前に跪いて愛を乞う幼馴染の男とのシーンも格別だった。王子の婚約者だからと胸に秘め続けた恋心を開放して令嬢への思いの丈をぶつける幼馴染。その熱い想いに心を揺さぶられ、令嬢もまたその愛に応えるのだ。
「きっと彼女は世界に名を轟かすような女優になるでしょうね。今から楽しみです」
調子に乗ってあれやこれやと語り続けて最後にそう纏める。そうして熱の上がった頬を手で仰ぎながら改めてギリアン卿を見て僕はハッとした。見上げたギリアン卿は頬杖を突いて静かに微笑んでいる。そこでようやく僕は己の失態に気付いたのだ。
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