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新たなる協力者 2

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 昔からクリスは恋に正直で一途だった。初恋の家庭教師に大きくなったら結婚してくれと自分で作った花束を渡して言ったり、お忍びで街に出た時平民の少女に一目ぼれして毎日その子の家のパンを買いに王宮を抜けだしたことがある。
 『どうしよう、君というものがありながら私は!』とか言いながら僕に恋の相談をしてくるのだから始末に負えない。
 流石に学園に入学してからは自覚が出てきたのかそんな振舞いはなくなったが、卒業間際にシャルルに恋をし婚約解消という特大の爆弾を落としてきたのだった。

 クリスとシャルルの距離が近づいていても、忠告だけでしばらく様子を見ていたのはこういう過去の経験による。結局は婚約者の僕を選ぶのだから、今回もそうだと思っていたのだ。
 結果はまあご覧の通りである。

「殿下の恋?」
「あっ、待ってくれシャルル!昔のことだよ?今は君を愛しているし、この先もずっと君だけだ」

 過去のことを掘り返してシャルルがショックを受けると思ったのだろう。慌ててシャルルの手を握ったクリスが弁解している。上手い具合に窓から陽光が差し込み、見目麗しい二人が熱い眼差しで見つめ合っている姿はそれはそれは絵になる光景だ。僕が無関係の人間だったら感嘆の息でも吐いていたことだろう。
 見えているものは同じでも、立場が違うと受け取る形は変わるものだ。

 今僕は死んだ魚のような目をしてそれを見ている。

「嬉しいです、殿下……!」
「シャルル……!」
「僕の前で惚気るのは止めてもらおうか」
「あいたっ」

 正面に座っているクリスの脛を軽く蹴る。痛くもないくせに哀れっぽい声を出すんじゃない。ほらシャルルに心配されて顔がやに下がっている。美形が台無しだぞ王子様。

「邪魔するだけなら帰ってくれないか?」

 苛立ちを押さえつつにっこり笑えばピッと二人の背筋が伸びる。誰を前にしていちゃついていたかをちゃんと思い出したらしい。
 二人ともお忘れかもしれないが、僕はまだクリスの婚約者様だぞ。

「すまない、そんなつもりはなかった。ちゃんと話をしよう」
「ごめんなさい。後でやります」
「宜しい。話を続けるぞ」

 こちらの話を聞く体制になったので改めて作戦会議を始めることにする。
 まず確認しておきたいのはシャルルが何を目的にクリスをこちら側へ引き込んだかということだ。味方が多い方がいいのは確かだが、人数が増えたのなら方向性を全員が把握していないとおかしなことになる。
 僕の問いにシャルルは頷くと早速会議の指揮をとり始めた。

「実は、殿下は次の作戦に重要な役割を担っていただきたいのです。今回はそのために参加していただきました」
「重要な役割?」
「はい。殿下のお力添えがあればとっても助かります!」
「王族の力が必要ということかな?私にできることなら何でもするよ。遠慮なく言ってくれ」

 曖昧に思えるシャルルの言葉に疑うことなく了承を告げるクリス。僕のためを思ってくれているのはわかるが、そう簡単に何でもするとか言わない方がいいと思う。僕は一度釘を刺そうとシャルルの言葉を遮った。

「シャルル、クリスにあまりおかしな真似は」
「大丈夫です!難しいことでも妙なことでもありません。ヴィンセント様を王宮に招いていただきたいだけなんです」
「王宮へ?それは構わないが……」

 確かにそれはクリスにしかできないことだな。いくら婚約者とはいえ、招かれない限りは王宮へ上がることはできない。
 しかしそれが一体何に繋がるのか。クリスは不思議そうに首を傾げている。

 作戦、つまりはイベントが王宮であるのか。クリスはシャルルの前世云々に関しては知らないようなのでノートは出せないが、あのノートに書かれていた次のイベントは確か……

「次は鍛錬中のギリアン卿に手作りお菓子を差し入れして好感度大アップ!作戦です!」

 ぴん、と人差し指を立てて言うシャルル。彼はいつものごとく自信満々で言っているが、一部聞き捨てならない言葉があって僕は目を剥いた。ちょっと待て、そんなこと書いてなかったぞ?!

「手作り?!」
「はい、手作りがポイントです!」

 聞き間違いじゃなかった。
 ノートにも『鍛錬中に差し入れ』とはあったが、手作りとは書いてなかった。嘘だろう?僕は侯爵家の息子だぞ。お菓子なんか作れるわけないじゃないか。

「ヴィー、料理したことある?」
「あるわけないだろ……!」

 無茶振りだ!
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