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第五十五話
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「はい、ここから南にある森の奥に、ルネ湖と呼ばれる湖があります。そこにある洞窟に昔、竜と精霊が住んでいた、と言われているのですよ。ですから湖の傍にある洞窟の前には竜と精霊を祀る祠があるのです。それもあって我らの間では、竜の加護で平和に暮らせていると自負していたのですが・・・」
「もしかして、その祠に何か異常があったんですか?」
レイリアは思ったことを聞いたら、
「正直なところ、あったのではないか、と思っています。」
いまいち、要領を得ない村人の話し方にレイリアとアレクは疑問に思った。
「確証ではなくて?」
「いえ、祠に異常があるのは確実です。目視していますから。ただそこまでは近づけないのです。」
「あ、そっか。魔獣がいるからですね?」
レイリアの言葉に村人一同はコクコクと頷いた。
「仰る通りです。祠に異常があることまでは遠目でもわかりますが、実際のところどこがどうなっているかはわかりません。近づけないので、我々も困っているのです。」
「それはいつごろから、そうなっていたんですか?」
「気付いたのは、そちらに依頼をさせていただいたあとすぐです。先ほど言った通り、ホーンライナース以外での異常を認知してからくらいで、ほぼ同時期かと・・・・」
レイリアはしばし考えこみ、アレクが代わりに質問をした。
「すみません、村に伝わる『竜の伝説』を差し支えなければ詳しく教えてもらえますか?」
「あぁ、もちろんですとも。といっても、大した話ではないんですが・・・・・」
ブリュネ村に伝わる、竜の伝説はこうだった。
昔々、どこから来たのかわからないが、傷ついた竜がこの地に降り立った。そして湖で傷ついた羽を癒していると、どこからともなく精霊が現れた。その精霊は、湖に住む精霊で名をルネと言った。
「偉大なドラゴン様、どうされました。」
「すまない、ここは既に其方が主であったのだな。だが私は今は傷ついていて、ここまでしか飛べなかった。すまぬが、この地で休息することを許していただけないであろうか?」
「何を仰いますか。偉大なドラゴン様。どうか傷が治るまで、この地に留まりください。わたくしも、はやく傷が云えるように、微力ながら祈りを捧げたく思います。」
ルネは精霊で祈りには魔力が込められる。それは治癒の力が備わったものだった。竜は膨大な力を持つゆえに人間の治癒魔法では雀の涙ほどの効力だが、精霊の祈りはその比ではない。
そうして、傷を癒すためにこの地に留まっていたドラゴンは、精霊と交流するうちに、次第に打ち解けていった。ドラゴンと精霊、それは種族を超えて愛し合うようになったのだ。
「ルネ、其方と一緒にいると、心が休まる。ここを離れたくな程に。」
「ドラゴン様、わたくしも同じ思いでございます。どうかわたくしの傍に、ずっと一緒に傍にいていただけませんか?」
「ルネが望むならそうしよう。」
ルネは湖から離れられない精霊だった。そんな精霊の願いを、竜は了承した。竜自身も愛する精霊のルネと離れたくなかったからだ。
竜はやがて傷が癒えたが、約束通り精霊ルネの留まるその地にそのまま共生していた。竜と精霊は穏やかな時間を共にして、幸せに暮らしていた。
だが、そんな幸せな時間も、やがて終わりが来てしまったのだ。
「もしかして、その祠に何か異常があったんですか?」
レイリアは思ったことを聞いたら、
「正直なところ、あったのではないか、と思っています。」
いまいち、要領を得ない村人の話し方にレイリアとアレクは疑問に思った。
「確証ではなくて?」
「いえ、祠に異常があるのは確実です。目視していますから。ただそこまでは近づけないのです。」
「あ、そっか。魔獣がいるからですね?」
レイリアの言葉に村人一同はコクコクと頷いた。
「仰る通りです。祠に異常があることまでは遠目でもわかりますが、実際のところどこがどうなっているかはわかりません。近づけないので、我々も困っているのです。」
「それはいつごろから、そうなっていたんですか?」
「気付いたのは、そちらに依頼をさせていただいたあとすぐです。先ほど言った通り、ホーンライナース以外での異常を認知してからくらいで、ほぼ同時期かと・・・・」
レイリアはしばし考えこみ、アレクが代わりに質問をした。
「すみません、村に伝わる『竜の伝説』を差し支えなければ詳しく教えてもらえますか?」
「あぁ、もちろんですとも。といっても、大した話ではないんですが・・・・・」
ブリュネ村に伝わる、竜の伝説はこうだった。
昔々、どこから来たのかわからないが、傷ついた竜がこの地に降り立った。そして湖で傷ついた羽を癒していると、どこからともなく精霊が現れた。その精霊は、湖に住む精霊で名をルネと言った。
「偉大なドラゴン様、どうされました。」
「すまない、ここは既に其方が主であったのだな。だが私は今は傷ついていて、ここまでしか飛べなかった。すまぬが、この地で休息することを許していただけないであろうか?」
「何を仰いますか。偉大なドラゴン様。どうか傷が治るまで、この地に留まりください。わたくしも、はやく傷が云えるように、微力ながら祈りを捧げたく思います。」
ルネは精霊で祈りには魔力が込められる。それは治癒の力が備わったものだった。竜は膨大な力を持つゆえに人間の治癒魔法では雀の涙ほどの効力だが、精霊の祈りはその比ではない。
そうして、傷を癒すためにこの地に留まっていたドラゴンは、精霊と交流するうちに、次第に打ち解けていった。ドラゴンと精霊、それは種族を超えて愛し合うようになったのだ。
「ルネ、其方と一緒にいると、心が休まる。ここを離れたくな程に。」
「ドラゴン様、わたくしも同じ思いでございます。どうかわたくしの傍に、ずっと一緒に傍にいていただけませんか?」
「ルネが望むならそうしよう。」
ルネは湖から離れられない精霊だった。そんな精霊の願いを、竜は了承した。竜自身も愛する精霊のルネと離れたくなかったからだ。
竜はやがて傷が癒えたが、約束通り精霊ルネの留まるその地にそのまま共生していた。竜と精霊は穏やかな時間を共にして、幸せに暮らしていた。
だが、そんな幸せな時間も、やがて終わりが来てしまったのだ。
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