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第四十五話(アレクの過去⑤)
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「調子はどうだ、アレク?」
「叔父上!」
その日は、ラムレスがアレクに派遣している剣術指南役とアレクが鍛錬をしているところに、ラムレスが顔をだした。アレクは鍛錬が楽しくてしょうがないといった様子で、剣術が楽しいとラムレスに話していた。ラムレスが剣術講師にアレクの様子を聞くと、剣術講師も嬉しそうに語りだした。
「なかなか筋がよろしいですよ。何よりご本人もやる気に満ちていますからね、教え買いがあります。」
「そうか、短い間ではあるが、俺がここにいる間は惜しみなく教えてやってくれ。」
「はっ!」
『・・・・このまま連れ出せるのが一番いいんだがな・・・』
アレクがこの地にいる限り、ヨゼフィーネは執拗に嫌がらせをやめることはない。またそれを知っていても何もしない自分の兄にラムレスは歯がゆい思いをしていた。
『ベアトリス妃が亡くなったことには同情はするが、それをアレクのせいにするのは我が兄ながら全く理解ができん・・・裏を返せば、それほど彼女を愛していたのかもしれないが・・・』
外交官をしている自分が、アレクを連れ出したかったが、それについてはバルダザールから断られていた。確かにまだ幼い王子が外国に連れ回すことは不自然だ。せめてあともう少し大きくなれば、留学と称して連れ出せるとラムレスは考えていた。
『アレク・・・あと数年耐えてくれ。そうしたら俺が必ず・・・』
だが、そんなラムレスの思いも虚しく、事は動き出してしまった。
ラムレスが、また外交官としてリンデルベルク帝国から、渡航してしばらくのこと、それは起こった。
ラムレスは渡航の際に、置き土産として、剣術指南役をそのままアレクのお目付け役として、兼務することが決まった。これにはアレクは大いに喜んだ。
「先生がずっと側にいてくれるの?!」
「はい。引き続き剣術を頑張りましょうね。」
アレクは剣術指南役のステファン・バローを「先生」と呼び慕っていた。そして秘かにラムレスはステファンにお目付け役と称して護衛を依頼していたのだ。自分が不在になれば、きっとヨゼフィーネはまたアレクに嫌がらせをするに決まっていると。その為の防波堤として、ステファンに託したのだ。
「今は、嫌がらせというレベルだけで済ませられるが、それ以上踏み込んでくる可能性がある。アレクについててやってほしい。」
「はっ!命に代えましても!」
『まだ十(とう)にもなっていない子供に対してなんという・・・第二夫人、王位継承権のことがあるかもしれないとはいえ・・・アレク様は私がなんとしてもお守りしなければ!』
ステファンもまたアレクを不憫に思い、ラムレスの命令に真摯に応えようと決意していた。ステファンは、元々は平民であったが、自身の剣術の腕だけでのし上がった、一代限りの騎士爵の身分を持つ貴族だ。一代限りとはいえ、その腕が認められた名誉爵であった。その腕を買われ、ラムレスからの信頼も厚い人物だったのだ。
「たぁ!!!」
「右脇が甘いですよ!」
「あぁ!!」
真っ直ぐに打ち込みに行ったアレクに対し、ステファンは隙だらけのアレクの右脇を狙って打ち込んできた。
「いたっ!!」
「もう少し相手の動きをよく見て!」
「くっ・・・は、はい!!」
ステファンがアレクについて、十ヶ月が過ぎようとしていた。その間、不気味なほどヨゼフィーネの嫌がらせはなかった。
『諦めたのか、それとも嵐の前の静けさか・・・』
前者であればいいと思っていたが、楽観するのは危険だとステファンは気を抜くことはなかった。
そう思っていた矢先、ヨゼフィーネ第二夫人が仕掛けてきた。
「叔父上!」
その日は、ラムレスがアレクに派遣している剣術指南役とアレクが鍛錬をしているところに、ラムレスが顔をだした。アレクは鍛錬が楽しくてしょうがないといった様子で、剣術が楽しいとラムレスに話していた。ラムレスが剣術講師にアレクの様子を聞くと、剣術講師も嬉しそうに語りだした。
「なかなか筋がよろしいですよ。何よりご本人もやる気に満ちていますからね、教え買いがあります。」
「そうか、短い間ではあるが、俺がここにいる間は惜しみなく教えてやってくれ。」
「はっ!」
『・・・・このまま連れ出せるのが一番いいんだがな・・・』
アレクがこの地にいる限り、ヨゼフィーネは執拗に嫌がらせをやめることはない。またそれを知っていても何もしない自分の兄にラムレスは歯がゆい思いをしていた。
『ベアトリス妃が亡くなったことには同情はするが、それをアレクのせいにするのは我が兄ながら全く理解ができん・・・裏を返せば、それほど彼女を愛していたのかもしれないが・・・』
外交官をしている自分が、アレクを連れ出したかったが、それについてはバルダザールから断られていた。確かにまだ幼い王子が外国に連れ回すことは不自然だ。せめてあともう少し大きくなれば、留学と称して連れ出せるとラムレスは考えていた。
『アレク・・・あと数年耐えてくれ。そうしたら俺が必ず・・・』
だが、そんなラムレスの思いも虚しく、事は動き出してしまった。
ラムレスが、また外交官としてリンデルベルク帝国から、渡航してしばらくのこと、それは起こった。
ラムレスは渡航の際に、置き土産として、剣術指南役をそのままアレクのお目付け役として、兼務することが決まった。これにはアレクは大いに喜んだ。
「先生がずっと側にいてくれるの?!」
「はい。引き続き剣術を頑張りましょうね。」
アレクは剣術指南役のステファン・バローを「先生」と呼び慕っていた。そして秘かにラムレスはステファンにお目付け役と称して護衛を依頼していたのだ。自分が不在になれば、きっとヨゼフィーネはまたアレクに嫌がらせをするに決まっていると。その為の防波堤として、ステファンに託したのだ。
「今は、嫌がらせというレベルだけで済ませられるが、それ以上踏み込んでくる可能性がある。アレクについててやってほしい。」
「はっ!命に代えましても!」
『まだ十(とう)にもなっていない子供に対してなんという・・・第二夫人、王位継承権のことがあるかもしれないとはいえ・・・アレク様は私がなんとしてもお守りしなければ!』
ステファンもまたアレクを不憫に思い、ラムレスの命令に真摯に応えようと決意していた。ステファンは、元々は平民であったが、自身の剣術の腕だけでのし上がった、一代限りの騎士爵の身分を持つ貴族だ。一代限りとはいえ、その腕が認められた名誉爵であった。その腕を買われ、ラムレスからの信頼も厚い人物だったのだ。
「たぁ!!!」
「右脇が甘いですよ!」
「あぁ!!」
真っ直ぐに打ち込みに行ったアレクに対し、ステファンは隙だらけのアレクの右脇を狙って打ち込んできた。
「いたっ!!」
「もう少し相手の動きをよく見て!」
「くっ・・・は、はい!!」
ステファンがアレクについて、十ヶ月が過ぎようとしていた。その間、不気味なほどヨゼフィーネの嫌がらせはなかった。
『諦めたのか、それとも嵐の前の静けさか・・・』
前者であればいいと思っていたが、楽観するのは危険だとステファンは気を抜くことはなかった。
そう思っていた矢先、ヨゼフィーネ第二夫人が仕掛けてきた。
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