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第六話(レイリアの過去③)

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 「エステルって言ったか、酷なことをいうようだが、お前さんは親元に帰ることはできなさそうだな。」
 
 「・・・」

 ヴァンの言葉に幼いレイリアは静かに泣きながらも黙って頷いた。

 「で、ヴァンデル・ブロームギルドマスター、この事態をどう収拾するんで?」

 ギードは少し茶化すように言ったが、ヴァンもまた不敵な笑みを浮かべ、

 「ふん、まずは状況確認した上でだ・・・と言いたいところだが・・・」

 ヴァンはエステルことレイリアの目線までしゃがむと、

 「エステル、もう少し先にいけば俺の家がある。一緒に来るか?」

 レイリアはその申し出に驚いたが、

 「いっしょに・・・いってもいいの?」
 「当たり前だろー、俺から誘ってるんだから。それにこんな場所に子供を置いて平気な神経は持ち合わせてねぇよ」
 
 そういうとヴァンはレイリアを安心させるためにニカっと笑った。
 レイリアは、貴族であったものの、今まで暮らしていた屋敷では冷遇されて育ってきた。中にはメイドの中で優しい手を差し伸べてくれる者もいたが、継母にそれを知られたら必ず難癖をつけてやめさせれられてきたのを何度もレイリアは見てきた。そして父親は継母のそんな所業を見て見ぬふり。
 だけど、この助けてくれた男達なら、そんなことにならないと、状況は全然違うが、この人達なら大丈夫だと、なぜだか確信がもてたのだ。

 「いっしょにいきたい!」
 「よし!なら着いたらまずは腹ごしらえしねぇとな。」

そして三人は凄惨な現場を後にした。






_____それから、
 森の中にあるヴァンのログハウスのダイニングで食事を終えた後、レイリアは拙いながらも自分の境遇の話をし、継母の依頼で先程の誘拐犯に攫われたこと、そして殺されそうになっていたところを、ヴァンとギードに助けてもらったと話した。

 「うーんやっぱ親元には返せないな。・・・なら俺の娘になるか?」
 「え?」
 「ヴァン、ガチで言ってんのか?」
 
 これにはレイリアもギードも驚いたが、ギードはさらに、

 「娘って・・・どう見ても孫じゃねぇか!」

 というツッコミを言った瞬間、ギードはヴァンに拳骨をくらった。

 「いってぇ!てかよ、俺の方がいいんじゃねぇか?」

 ギードは叩かれた頭を摩りながらも真面目に切り出した。

 「あぁん?何寝言言ってんだ?」
 「いや、だってそうだろ?!俺なら年齢的にも娘ってのは合ってる。」
 「・・・お前には既に家族がいるだろう?」 
 「それはわかってるけどよ!うちのやつは言えばきっと理解してくれる!」
 「まーな。ターニャだったら、そうだろうな。だがな、お前ただでさえ、日頃嫁さんに心配かけてんだから、さらに心労かけるようなこと言ってんな」
 「でもよ!」
 「あーうるせーうるせー」

 ヴァンはレイリアに向き合い、再度聞いた。

 「まーさっき、こいつが言った通りで、俺だとじいさんと孫みたいなもんだ。それでもよければ俺と一緒に暮らさないか?」
 「・・・いっしょに・・・めいわく・・・じゃ・・・?」

 レイリアはうつむき加減に聞いた。

 「俺は独り身、まーつまりは家族がいないわけよ。なんでエステルが俺の家族になってくれたらさみしくなくなるんだけどなー」

 ヴァンはわざと、いじけてるような仕草をした。ギードはそれを見て吹き出しそうになるのを堪えていた。

 「わたしがいっしょにいたらさみしくないの?」
 「あぁ、じじいは寂しくないし、嬉しいな。」
 
 レイリアは、しばらく考えた。
 どのみち今のレイリアには頼るところがない。実際のところ、それは正しくはなくはなかったが、現時点のレイリアにはそれを知るすべはなかった。 
 それに信じてみたかったのだ。会ったばかりの自分を助けてくれたこの男達を。
   
 「いっしょにいて・・いいの?」

 レイリアはおずおずとした様子でヴァンに聞いた。

 「あぁ、むしろじじいがお願いしてんだ。もちろん、それでもエステルが帰りたいっていうなら話は別だけどな・・・」
 「!!さっきのひとたちに、わたしをころそうとしたおうちになんか、かえりたくないよ!!」

 小さなレイリアは、堰を切ったように泣きながら大きな声でそう叫んだ。

 「嫌なことを言っちまってすまねぇな。だがエステル、これからのことを決めるのはお前だ。どうする?」

 「・・・いっしょに、いっしょにくらしたい!」
 
 「よし、わかった!」
 「おぉ急展開だな」

 ギードはおどけつつもホッとしていた。

 「あの・・・あとおねがいが・・あるの」
 「お願い?なんだ言ってみろ」
 「・・・わたしもつよくなりたい!」
 「強く?」
 「うん!わたしも、じっちゃんたちみたいに、じぶんでたたかえるようになりたいの!」

 レイリアは決心していた。強くならなければいけないと。今までのようにやられっぱなしでは自分の身は守れないと。レイリアは自身が変わらなければいけないと、幼いながらに悟ったのだ。

 「「・・・・・」」

 二人共レイリアの申し出には驚きはしたものの、無理はないと思い至っていた。

 「わかった!任せておけ!俺がそんじょそこらのやつには負けねぇぐらいに鍛えてやる!」

 そういうや否やヴァンは女の子の脇を両手で掴み、高い高いをした。レイリアはいきなりなことに目を白黒させていた。レイリアはニカっと笑ったヴァンの笑顔に嬉し泣きをしていた。

 「あ、ありがとう・・・」
 「強くなれよ!!」
 「うん!」 
   
 それを見ていたギードは、この二人なら上手くやっていけるだろうと漠然と感じていた。そして自身もできることは力になろうと決めていた。



 それから、レイリアは、エステル・サー・バルミングの名を捨て、ヴァンデル・ブロームの養子になった。
 名を改めて、レイリア・ブロームとしての人生が始まったのだ。
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