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174:ヴェリエルの咆哮

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 「はっ!」

 セレスティアは、メルシャ村の紫水晶と同じように、テル・ホルストの紫水晶の獣を破壊した。真正面から向かったセレスティアは紫水晶の獣の頭部に狙いを定め、一突きにしたのだ。そして紫水晶の獣はひびが入り粉々になって、霧散していった。

 「ふー、メルシャ村のと全く同じだったから、やり易かったわね。」

 カイエルが言っていたように、セレスティアの身体には変化があった。魔力と身体能力が向上するとは聞いてはいたが、それは自身でも自覚することができたのだ。紫水晶に至っては、対峙した瞬間にどこが急所なのか感じることもできたので、それ故セレスティアは急所に狙いを定め一撃の元、葬り去ることができた。
 (本当に凄いわ。これだけ目に見える変化があるなんて・・・確かに『魔王の器』というのは、伊達ではないのね。)
 セレスティアは今までは、そんなに意識はしていなかったが、『魔王の欠片』を持っていることが、より能力を増幅しているのだろうと、何となく感じていたのだ。

 そして対するカイエルは、

 「ははっ、どうするせっかく仕込んでた紫水晶はなくなったぞ!」

 「悔しいけど、そうみたいだね。」

 イリスは珍しく焦っていた。そして今この場をどうやって切り抜ければいいのかを考えていた。
 (飛竜であればどうってことはないが、さすがに『竜の祖』しかも、天雷弓が通用しにくい黒の竜相手では分が悪いな。)
 カイエルが『竜の祖』の中で強度は高いとはいっても、ドラゴンスレイヤーと同等の天雷弓の攻撃をずっと打たれ続ければ、さすがのカイエルにもダメージを受けないわけではない。だがそれはイリスも同じで、だからといって、魔力を練り上げて生成する弓矢を無限に打ち続けることはできない。持久戦になれば、スタミナのあるカイエルに有利になる戦いではあるのは、火を見るよりも明らかであったのだ。

 しかしその時、遠くで竜の咆哮が聞こえた。

 『グゥアアアアアアアアッ』

 「「!!!」」

 カイエルとイリスは咄嗟に間合いを取った。

 「兄貴・・・」

 カイエルにはわかった。竜の咆哮がヴェリエルの声だということが。そして只ならぬ声だという事もわかったのだ。

 「なるほど、あちらにはドラゴンスレイヤーのマスターがいるからねぇ。」

 「・・・それで?」

 「いいのかなぁって思ってね。俺と戦うことを続行するのは構わないけど・・・あちらが手遅れにならなきゃいいけどね?」

 イリスが、暗にこのままではヴェリエルの命が危ないから、自分との戦いを放棄しろという意味を含んでいるのは明白であった。

 「てめぇ、いつもいつも逃げやがって!」

 カイエルはかなりイライラしていた。イリスと対峙するときは毎回逃げられてばかりだからだ。

 「ふふ、勝算のない戦いに労力を削るのは嫌いなんだよ。合理的判断と言って欲しいな。」
 
 「・・・毎回それが通るとは思うなよ?」

 「あれ?まさか姉兄を見殺しにする気、」

 ザッシュ!!!! 
 
 「ぐっ!!!」
 
 イリスは突然、背中にするどい痛みを感じた。慌てて振り向いた先には、

 「イシュタルさんの仇、取らせてもらったわ。」

 セレスティアはイリスがカイエルに気をとられている隙に、背後を剣で切りつけたのだ。

 「はっ・・・まさか騎士とは思えない奇襲だね。騎士ならもっと正々堂々とするものだと思うけど。」

 イリスは切りつけられた肩を抑えながら、痛みに顔を歪ませながらも、セレスティアに言い放った。

 「形勢不利、なはずだけど憎まれ口を言い続けられることだけは、褒めてあげるわ。」

 セレスティアのイリスを見る目は冷たかった。
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